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【ゆか誕】精霊の宿りし隔絶の淵 ー前編ー 【短編】
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【ゆか誕】精霊の宿りし隔絶の淵 ー前編ー 【短編】

2013-12-22 00:00
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お久しぶりです。そーやです。



nami(親方P)さんの、「精霊の宿りし隔絶の淵」から物語を紡がさせていただきました。二部構成です。よろしければご覧くださいませ。

後編→【ar418767


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紫がかった夜空の下、数多の星を見上げることができる断崖の淵。 そこは大陸とは隔絶された地である。 そこでは白装飾の、白い布で目を隠した少女が、今日も琵琶のような弦楽器を爪弾きながら歌を唄う。たちまち周辺から精霊が現れ、数多の光が彼女を包む。やがて雨が降り、光跡と混じって雨は七色の光の粒のように、しとしと、しとしと落ちていく。だが彼女にはその中からは「音」しか認識できない。目隠しを外せば精霊の形だけは視認できるのだが、結局は盲目同然なのである。幼い頃から今に至るまで、彼女は毎日同じ歌を唄う。

人間では意味を解せない(精霊の)言葉で紡がれる歌詞。楽器の弾き方。メロディー。彼女にはそれが全てだ。彼女に与えられた使命であり、存在意義であった。

その少女はある不安を抱えていた。将来にまで末広がり、自身の行動に対する、不安。果たしてここから唄う自分の歌は、本当に精霊のためになっているのだろうか?

いつの日か、義務、使命だと言われ、教わった此の歌。うんざりしようにも、うんざりすることを知らない彼女は、今日も明日も明後日も、歌い続ける。


水はしとしと落ちていく、光は空へと還っていく。



ある東の大陸の果てに、男子が一人、家の中で8年間も住んでいた。父が亡くなり相続し、改築に改築を重ねたこの家はいたたまれない姿に成り果てた。

18歳になった彼は、大冒険を望みはじめた。自身の価値観を根底から揺るがす、大冒険を望みはじめた。それは無論、この家から、この大陸から離れることであるが、「行き先」が分からなかった。目的地がなければ大冒険とは言えない。目的地なく浮浪するのは理想の冒険ではない。彼はやきもきした。船はある。食料も確保した。ただ目的が、ただ目的地がなかった。思い立ってから経つこと1年、ずっと立ち止まり続けていた。春は春へと還り、旅立った鳥はまた戻ってきた。

それから少し経った夏のある夜に、大きな嵐がやってきた。これまでにないほど大型で、吹き暴れる強風に木々はことごとくへし折られ、もちろん青年の家にも被害は及んだ。

外からのあまりの大きさの轟音に耳をふさぐしかなかった彼は、窓ガラスを突き破って飛び込んできた、暴風に運ばれた木にぶつかって、気を失ったのである。





青年が次に目を覚ました時に広がった光景は、家の一部だった木材と、今まで愛用してきた皿の破片と、砕かれた写真立てが散らばり、あらゆるものがそれまでの形を失った。

これから先の生活……と考えることをやめてしまいたかった。しばらく眠っていたかった。一晩で生活の窮地に立たされたこのあっけなさは、現実離れしているが現実逃避してしまいたかった。旅すらまともに出来ない自分は……と自己嫌悪にさえ追い詰められそうになる。

とりあえず眠ってしまって、スッキリしてから考えようと目を閉じた。



歌が聞こえてきた。夢の中だろうか、と思いながら青年は目を覚ます。夢ではないようだ。

目覚めた目には沈む夕日が入ってきた。同じく、どこからともなくやってきた光の粒と共に、歌声がやってきた。歌詞は分からなかったが、胸が高まった。これはいったい……なんだ?やはり、夢なのだろうか。とても美しいと全身が感じた。ラジオ越しから流れてくる俗な歌より、神秘的で、謎めいていて、何より綺麗だった。近くもないが遠くも感じず、東の海の果てからそれらは流れてきた。これが夢でないなら、いったい誰の、どんな歌なんだ。もっと知りたい、間近で聞いてみたい。彼は、この瞬間、この歌を目的地と決めた。彼は立ち上がり、深呼吸して、高らかに叫んだ。

「やー、ついに行くべき標を見つけたぞ!なんて綺麗な声だ、綺麗なメロディーだ!僕はあなたに逢うためにここにいたのだ!いざ行こう!東の蒼き海原へ!」

彼にはさらに驚くべき出来事が待ち構えていた。あの嵐の中、船は破壊されていなかったのである。父が生きていた時に使っていた漁船であり、頑丈に作ってあったのが功を奏したのか、とにかく準備に時間はかからなかった。

安全な地下”だった”場所に貯めておいた食料と必要物資を詰め込んで、澄んだ青空の下、出発した。青年は舵をとりながら、意気揚々と吼えた。錆びついてきた船に「ウィンディー号」なんて皮肉じみた名前までつけて、さぞ嬉しい事であったろう。


夜になり、ばらばらになった我が家だったものに別れを告げ、船に乗り込んだ。もはや後悔することはない。何もしないでのたれ死ぬよりはたいぶマシである。

エンジンをかけ、いよいよ大陸から離れていく。一瞬自分の父の姿が思い浮かんだ。

「父さん……」

彼は小さな声でつぶやいたあと、勢いよく声を張った。

「やー!やー!進め!進むのだウィンディー号!あの歌目指して直進するのだ!」

「ウィンディー号」はエンジンをますます奮い立たせ、どんどん、どんどん陸地から離れて、離れて、やがて青年は周りを見回した。少し眉が下がりかけたが、これからの行方には胸を踊らすだけだった。


初日は眠気を感じることなく、夜を眠ることなく海上を進んでいった。やがて日が登り、自分の眠気にようやく気がついたが、その時、目の前に現れたものに目を奪われた。

巨大な太陽が眼前に広がったのだ。これまでいた家の日の出の方角は、高い針葉樹に覆われて、しかと見ることができないうえに、そもそも彼は遅起きであった。彼はギラギラ輝く巨大な太陽に息を飲んだ。障害物のないこの海から見回した空は、闇が紅、オレンジに徐々に侵され、黒が薄紫に、そして空が七色であるように見ることができた。

一日の始まりの様相を見た青年は、自分の冒険の始まりの安泰と捉えた。これから未知の目的地に向かって未知の航路を進んでいく。その始まりにこの朝日はとても相応しいものになった。


ところが、毎晩あの歌が聞こえてくるのにもかかわらず、その大きさは全く変わらず、距離が近づく気配が一向になかった。それどころか出て行った大陸を最後に、陸は見当たらず、ついに旅は3か月目に入ろうとしていた。食料、燃料は残りわずかで、彼の体力も衰弱しつつあった。それでも日の入りの時に聞こえてくるあの歌で、生きる気力を持ちこたえていた。

だが、寒さを感じ始めた秋の夜、あの時のような大嵐が彼の船を襲うことになった……。


少女は、窓が風に叩かれて、さらに轟音が鳴り響いて聞こえてくることから今晩は嵐がやってきていることを理解した。家はかなり頑丈なロッジであるから、壊れる心配はないのだが、煩いことには変わりはない。今日は精霊たちも、いつもの精神力を保っていられるかどうか心配ではあった。

いつから自分はここで、精霊たちを送っているんだっけ……。

誰かにその役目を言われ、ずっと言われたことを行ってきた。儀式をすれば必ず光は現れて、雨が降った。“誰”に“いつ”役目を言われたかは分からない。

行動に「意味」はあるに違いない。対象の問題である。精霊たちには重要なのかもしれないが、私にとっては何になるというのか?精霊たちのささやきは聴けるが、私にその意味は分からない。精霊にとってはこの儀式は本当に「よいこと」なのか?もしかしたらあの囁きは、私に対する非難なのではないか……?ここで私が逃げ出したら、いったいここはどうなってしまうのか……?予測できないことばかりである、彼女は所詮人間である。

無意味かもしれない彼女は、明日も明後日も歌い続けるしかないのだ。

今日は特別、外がうるさいことだけだった。


「困ったなあ、また嵐か……」

荒れ狂う波に船は縦横無尽に揺れに揺れ、青年は振り回されるばかりであった。以前よりひどいな、と彼はつぶやき、舵に必死になって捕まっている。

大きな波が前方から押し迫まり、青年は暴れる船からとうとう投げ出され、海の底へと落ちていく。バシャンと水面に叩きつけられ、底の闇が自分を引きずり込もうと脅しているようであった。無理に暴れては溺れてしまう。昔観た映画で学んだことをいかし、そのまま浮上して、浮かんでいた流木に掴まった。

船がひっくりかえって、やがて波に呑まれて消えて行った。闇は自分を採れなかった腹いせに船を沈めようと目論んだというのか。また嵐によって大事な物を奪い取られてしまった。背水の陣といっても周りは水だらけでどうしようもない。彼は、疲れも相まって、どうにでもなれと開き直ってそのまま目を閉じていった……。





「え……と、ここは……?」

青年は目を覚ました。服はずぶぬれで、自分は流木に捕まり、どこか知らない土地の浜辺に流れ着いてきたことを察した。自分の頭の上に大量のカモメが飛び回っていた。やがて鳴き声のやかましさで意識は完全に戻り、とりあえず立ち上がった。カモメはまだウルサイ。太陽の位置から今の時間はだいたい午後3時ちょうどか半だろうと推測したが、空は薄紫色をしていてなんだか不気味であった。またよく視ると、昼であるのにそれでは有り得ない状態であることに気が付いた。

「どうして星があるんだろう……」

薄紫の空に浮かぶ光り輝く点、点、点……。ここはいったいどういうところだろうか。

とりあえず青年は歩き出した。すると頭の上にカモメが乗っかり、なんと青年に話しかけてきたのだ。

「よう、あんたも災難だな」

青年はひどく驚き、返事をした。

「君、しゃべれるんだ」

「あぁ、ここはお前の知らなさそうな所だ。まさか喋れるとは驚いたか」

「ここは、どこだい?」

「ここは霊峰だ。人間がやって来るとこじゃあないな。流されてきたのなら仕方ない」

前方には、木々が茂った山が見える。周辺にも、民家は一目見て無さそうだった。

「ここには人はいないのかい?」

「一人よく見かける。どうやら目が見えないらしいが、あ、ほら、あそこの崖の上で座っている奴だよ」

カモメがくちばしで指し示す方に、小さいながら確かに人影が見えた。

「で、ここにはよからぬ噂があるぜ、気をつけな」

「噂?」

「ここに立ち入ると、生きて帰れないってはなしさ」

「……はぁ。で、僕はどうすればいい?」

「とりあえず、あいつに会いに行けばいいさ。何もしないでのたれ死ぬよりだいぶマシだ」

カモメの言う通り、崖の上の人に会ってみることにした。

「善はいそげと言うし、僕は早速行くよ。ありがとう」



少女は、今日はいつもみたいな、何事もない日ではないことを予感した。カモメたちの鳴き声がいつにもまして煩かったのである。きっといつもより数も多く、今日はなにか特別な光景が広がっていることだろうが、どうせ見ることできない。が、どうしても気になったので外に出てみることにした。ロッジは山の中腹に位置しているが、十分ここから麓までの音が聞こえる(目が見えていたら見渡せる)くらい場所はよい。

崖に座り、耳をよく澄ます。風のざわめきと共に遠くの麓でカモメの声が聞こえた。おそらく砂浜付近だろう。どうやら話をしていたようだが、よく聞くことはできなかった。なんせカモメはおしゃべりなものだから、いつもみたいな(カモメの中の)世間話だろうと見越し、時刻は午後3時半頃だと彼女は感じた。まだ時間があるので、のどかな風に当たりながら、ここで昼寝をするのもたまには悪くないと思い、少し離れたところにある芝生の上に寝そべって目を閉じた。



山の中腹あたりにいた人を尋ねようと青年は山を登った。道が出来ていることから、もしかしたらその人はここに住んでいるのかもしれないと考えた。眼が見えないなら尚更だ。

案外簡単に登れたのだが、いかんせん喉が渇いた。湧水でもあるかどうか……と青年は周りをよく見わたした。すると目の前の芝生に、一人の少女が寝そべっていた。

白装束に、紫の髪をしていた。もみあげが長くリボンで結んでいて、後ろはけっこう短く整えられていた。どこか大人びた雰囲気を感じ、さらに、白い布で目隠しをしていた。

山の上に芝生が生い茂った場所があるということは、彼女はここで生活をしているのだろうか。それにしても……変わった人だなと思った。

すると彼女は目を覚ましたのか、起き上がってごしごしと目隠しを上に目をこすった。そのまま立ち上がり、どこかへと行こうとした。

青年は、とりあえずここの情報が欲しいので、話しかけてみることにした。

「あの……こんにちは」

突然話しかけたからか、彼女は肩をびくっと震わせこちらを向いた。

「あなた……カモメ?」

「……いや、僕は人間だよ」

すると、彼女は少し固まった後、困惑の色を見せた。

「人間……!?どうして、ここに……?」

「さっきのカモメも言ってたけど、ここに人が来るのは珍しいことなの?」

「珍しい……。はい、そうですね……」

思わぬ来訪に、少女は戸惑いを隠せなかった。姿はもちろん見れないし、人間と接するのははじめてのことだった。青年は、驚かせたことの申し訳なさか、質問するのをためらってしまった。少しの沈黙の後、少女がなんとか口を開いた。

「あの……ここで話をするより……」

少女はひとまず、青年を自分の住む家にとりあえず連れて行くことにした。


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後編→【ar418767

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あの曲の内容が文章となって読めるなんて思わなかったです!
とても面白いです!
82ヶ月前
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