ユーザーブロマガは2021年10月7日(予定)をもちましてサービスを終了します

【ゆか誕】精霊の宿りし隔絶の淵 ー後編ー 【短編】
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

【ゆか誕】精霊の宿りし隔絶の淵 ー後編ー 【短編】

2013-12-22 15:00
  • 1




nami(親方P)さんの、「精霊の宿りし隔絶の淵」から物語を描きました。曲をお聴きになりながら読んでいただけると幸いです

前編→【ar417746

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

暖炉からぱちぱち音がする。肌寒い外とはうってかわってロッジの中は暖かかった。

「飲み物とか……いりますか?」

と少女は訊いておきながら、奥の方へとはけて行った。

青年はテーブルのそばの椅子に座った。
辺りを見渡すと、床はまだ綺麗だが天井の方になるほど埃がくすぶっている。家具の上にある置物は整頓されてきれいに配置されてあるが、年季の入ったものに見えた。

ふと壁掛けカレンダーに目がいった。流されてからどれだけの月日が経ったのか気になったのである。だがそのカレンダーは18年前の冬の月で止まっていた。その他には、ある1日の欄に赤い丸が囲ってあり、内側に“誕”と書かれているだけである。少女は目を隠していたのであえて目を見えるようにしていないのには、なにか理由があるのだろうか、と思案する。

と、少女が戻ってきた。少し手が震えているような気がした。

「目隠し……してるけど、平気?」

「……大丈夫です。元々私は目が見えません。それにこの方が落ち着きます」

「……一見、千里眼の持ち主か、ゴーゴンの類かな、と思ったけど」

「えーと、それはなんでしょうか……?」

「ごめん、なんでもない」

少女は温かいお茶をテーブルの真ん中にひとつ置いた。青年はそれをいただいた。

「……あなたは、どうしてここに?」

「東の大陸の果てから、船でひたすら東へ向かってたんだけど、嵐に遭って……」

「それで、この島に?」

「島?島だって?」

「ここは特殊なんだけど……一応、西の大陸の果ての近くには位置してるの……そこから、少し南なんですけど……」

「西の果て……そうか、僕は大陸の果てから果てまで移動してきたんだ……」

青年の記憶では、大陸の一番東端から一番西端までというのは、陸路でも海路でも距離は一緒であるはずだったので、大変な長旅であった事実に驚いた。

「僕は実質、大陸を横断していたんだね……まあ、流された結果だけどさ」

青年は気になったことをもうひとつ訊いた。

「ここは”特殊”ってどういうことかな。噂にしてもそうだし、ここの空はなんだか不気味で、カモメも言葉を用いて話かけてきたり……ここはいったいどういうところ?」

「え?噂ってなんですか?」

「カモメが言ってたんだ。ここに立ち寄ると生きては帰れないって」

「……それは、ここの周辺の海で嵐に遭いやすいからだと思います」

「もう遅いってわけか……」

「ここはですね……精霊が宿る場所です。動物、植物、金属、石、いろいろなものに宿っていた精霊さん達が、器としていたものが亡くなって、光の粒となって普通は空へと還っていくのだけれど、「悲しみ」や「願い」を背負った精霊さんは彷徨って、彷徨って、自然とここに辿り着くと言われています」

「……精霊は所謂“霊”の存在だってことだから、ここは僕みたいな“生きている”人間の寄れるところじゃないんだね。普段は人間はやってくることはできない……」

「私の知る限りでは、ここに漂着した人はいたらしいんですけど、その後の消息は不明です。私がここに来る前のことですから……」

「君はどうしてここに住んでいるの?君は人間に見えるけど……何者なの?」

少女は窓を向き、ひとつ咳払いをして答えた。夕日がテーブルを照っている。

「私は……巫女です。ここにやってきた精霊さん達を、在るべき場所に還すのが私の仕事……今からその儀式をします。せっかくなのであなたもついてきてください」



少女は家の裏側の、うっそうとした森の中へと入っていった。青年はついていく。風が木をざわつかせる音や、鳥のさえずりがちらほら聞こえる以外はなにも聞こえない。違和感を感じていた青年はあることに気付く。

「ここっていろんな種類の木があるんだね……」

タイガに生えていそうな針葉樹や、南国で見れるようなヤシやバナナの木もあり、実も実っていた。

「ここは、様々な植物がその地に生を宿すことができます。植物は精霊さんたちにとって休息所のようなものです。その地域に相性が良い木に精霊さんが、儀式を待って、しばらく宿っているのです」

少女は説明する。しかしそれも「聞かされた」話であり、本当かどうかは分からない。少女は精霊の形を見ることはできるが、目隠しはそれを防ぐ。儀式を行う時のみ目隠しを外してもよい。それが決まりだということも「聞かされた」話である。それを破る勇気はなかった。災いを呼ぶから、と、これも「聞かされた」話ではあるが。

がさがさと草木を避けながら進んでいくと、青年は、少しの小さな光が飛び回っていることに気付いた。

「光だ……」

「それが精霊さんです」

彼女は答える。

「精霊さんたちはたしかな存在、形を成すことはできず、小さな光のようなものです。色は多様ですが、大きい物を見ることはないですね……」

昼の時にも星のように点が広がっていたのは、もしかしたら精霊たちだったのかもしれないと青年は思った。きっとこの島に移動中の精霊か、空にも漂っていたのだろう。ここに集まる理由はなんなのであろうか。北の国から南の国まで、この島に精霊がわざわざ集まる理由はなんだろうか?おそらく儀式に理由はある、と青年は思案した。




辿り着いたのは目の前に小さな断崖が広がる淵であった。小さな川が崖と崖の間の小さな隙間から流れ、ここはやけにしんとしていた。

「ここは……?」

「ここにはこの島の神様が宿っていると言われています。ここで私は儀式を行います。夕日はまだ沈んでいませんね……」

見ると、確かに夕日はまだ空に浮かんでいた。もう少しお話しますね、と言って少女は語りはじめた。

「精霊さん達は、宿っている動物や植物が死んでしまうと、その存在も消えてしまうのですが……強い『悲しみ』や『願い』を持っていると、その存在を消すまいと、小さな光になってこの世に残ってしまいます。私が送れば精霊さんたちは空に還り、雨を流していきます。精霊さん達にとって在るべき場所に還すのが、私の使命です……」

「精霊たちは、この世界にいてはいけない……ということ?」

「そうかもしれません……ただ……」

少し口ごもり、また語る。

「分からないのです。精霊さんたちを還すことが、本当によいことなのか、私の行為は精霊にとって悪いものであるのか。精霊さんたちの言葉は分からないから、本当のところは分かることはありません。私は、分からないから歌い続けるしかないのです」

「歌……?」

「それが方法です。私が精霊さんたちを送る方法です」

自信がなさそうに話す。青年は少女のことを知るはずもない。どういう境遇でここに暮らしているのかも分からず、少女自身は自分の行動が正しいと分からずにずっと暮らしていたという。どういう心情かは想像ができるはずもない。

ただ、人間である自分に、彼女の歌う歌を聴くことはできる。それしか自分にできることはないと青年は思った。だからこう言った。

「君の歌を聴きたい。少なくとも、人間である僕に評価させてほしい」

彼女は、えっ、と驚いた後、少し笑って

「はい」

と答えた。


少女は、持ち運んでいた袋から、四弦の楽器を取り出した。

「これは……琵琶?」

「……名前は分かりませんが、たぶんそうでしょう。しばらく歌った後に弾きます」

彼女は大きく息を吸った。その音が淵に広がり渡る。自分は歌を目指した。もしかしたらこの人が、自分の目指していた歌の持ち主かもしれないという期待は少なからずあったが、それよりも彼女の歌を真摯に耳を傾けようという心境が勝っていた。しばしの静寂、少女は歌を歌った。



全身の鳥肌が立った。

それは、自分がこれまで聞いた歌だった。自分が旅をするきっかけになった歌だった。夕日が沈むころに聞こえてくる歌だった。衰弱していく自分を励ましているかのように聞こえてくる歌だった。自分が目指すべき場所だった。

「目的地は……ここだったんだ……君だったんだ……!」

歌詞は聞き取れない。だがそれは実に美しい。コンサートホールで歌ったのなら観客はみな奇跡どころじゃないと驚き、拍手どころじゃ表現できないほどの尊敬の念が勝り、茫然さのみ残るだろう。彼女は目隠しを外し、弦楽器を弾きはじめた。やがて精霊たちが木々から姿を現し、彼女の周りを包み始める。その様相は目を奪われた。自分がそばに寄り添いたくなるような、温かさをそこに感じた。もっと近くで聴こうと、少し近づいた。歩く足も、あっけにとられて力が抜けてしまったのか、うまく前に進めない。

やがて精霊たちは上空へと一本の光の柱のように連なっていった。やがて雨が降った。しとしとと降るような雨だった。少女の物寂しそうな表情が見えた。あまりの光景や歌の美しさに、ただただ立ちすくむしかなかった。力が抜けていく、だが、心が満たされていく感じがした。満たされすぎて収めることができないほどだった。

そうして、やがて自分の異変に気付いた。

彼女は演奏を終え、ふりかえって、青年の“形”を見てしまった。

青年は自分の体の様子を見て、全てを察した。少女の口は驚きによってわなわな震えていたのと対象に、青年の口は堅く閉ざされ、いたって冷静なように見えた。

たまらず、少女は青年に尋ねた。


「あなた……精霊なの……!?」


青年はふっと笑みをこぼし、ため息交じりに答えた。

「この様子だとそうみたいだね。僕も今まで気づかなかったよ」

自分の体が光となって大気に溶け込もうとしているのに気づき、彼は、自身が精霊自体になってしまったことを、これまでの少女の話も相まって推測できた。

「僕はある嵐の夜の後に歌を聞いたんだ。それからその声の主に遭いに行くために旅に出た。それは君だったんだ。君に逢うためにここに流されたのかもしれない」

「私の歌が、聞こえてたの?」

「そう。だから僕はここに来た。精霊になってまで、ここに来たんだ」

青年の目からは光の粒が、少女の目からは大粒の涙が、それぞれの頬を伝う。消えゆきそうな光の手が少女の手をぎゅっと握る。

「歌声がとても美しかったんだ。父を亡くし、ずっと一人で退屈な日々を過ごし、挙句に嵐で家を失った時に、君の歌が心の支えになった。是非会いたい。間近で聴きたい。やっと叶った大冒険を終わらせたくないという思いと、歌への強い思いが、僕を人間の形の精霊に変えた……と思うんだ。でもさすがにしつこかったかな……ははは……」

少女は静かに笑い、涙ぐんで答えた。

「私は不安だったんです……。このままずっと一人で、こんなことを続けていく自信はなかったんです……。でもあなたのおかげで、精霊さん達は私の歌を聞いてくれていること、そして私は役目をしっかり果たしているんだって分かることが出来ました……!」

「あなたに遭えてよかった。君の歌が大陸の果てまで届いたんだ。僕は光の一部となって、あなたの歌に送られます。どうか、これからも、歌い続けて……」

光はいまにも青年の姿から離れて行き、空へと昇ろうとしている。やがて握った手も光となって形を崩した。もう少しで全部還ってしまわん時、青年は言った。

「君の家のカレンダーのおかげで、また君に遭おうって思えた。もし行けるのならば、またここにやってきてもいいかな?なんだかできる気がしてさ」

優しい笑みを彼は浮かべる。

「……はい」

青年は、光の塊から、粒子が散り散りになって、空に還っていった。たくさんの雨が降った。感動の涙だった。


涙をぬぐって、少女は歌をもう一度歌い始めた。今度は彼のために、彼を空に還すために。空からはまた光がこぼれ、雨が降り、少女はそれにまぎれて涙を流したのであった。






ある冬の夕暮れ。変わらず少女は歌を歌う。

今日はいつにもまして精霊の数が多いと感じた。歌っても精霊が減っていく様子もない。目隠しを外し、辺りを見回してみると、なんと上から雨ではなく、光が、精霊たちが降っていたのだ。

「どういう……こと?」

はちきれないばかりの光は彼女の周りのこの淵を包み込み、あたり一面の木々、岩、川、空、すべてに光が覆いかぶさった。この淵の光景を全て精霊が織りなし、少女はその光景すべてを見ることができた。今まで精霊しか見えなかった彼女への、精霊たちからのプレゼントだった。

「これが、私のいた場所。ここが、私の歌っていた場所。崖、ヤシの木、空……私はちゃんとここにいるんだ……」

思わぬ精霊たちからのプレゼントに、少女の目から雫が垂れる。

すると目の前に、人の形をした、見覚えのある精霊が現れた。声が聞こえる。


「今日は君の誕生日だよ、“僕たち”にも言わせてほしい、おめでとう。」


彼は花束のような形をしたものを抱えていた。精霊たちは、彼女に白のポインセチアを用意したのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき⇒【ar419202


広告
×
後編の流れもとても良いです!
ほろりときました……ぐっじょぶです!
82ヶ月前
コメントを書く
コメントをするには、
ログインして下さい。