俺の妹は前科6犯-1.俺の妹と前科者クラブ
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

俺の妹は前科6犯-1.俺の妹と前科者クラブ

2013-06-25 14:59
    「ところでお兄様の名前は財部(たからべ)一真、わたくしの名前は財部ひよりと申します。今後ともよろしくお願いいたしますわ」
    「誰に言ってるんだおまえ」
    「いえ。なんとなく」
    「なんとなくで虚空に話しかける妹はやだなあ……」
    「失敬な。ただ単に、名字が同一だと提示することによって、妹分とかではなくちゃんとした妹としてのポジションを確保しておきたかっただけですわ」
    「だから誰視点でのポジションだよ」
     まあ、そんなのはどうでもいいのだが。
    「つうか、いくら親が海外だからって俺が毎回毎回保護者として呼び出されてるってのはどんなもんなんだ?」
    「どうかお気になさらず。もう18歳なのに大学にもいかず、かといって定職にも就かずにぶらぶらしていらっしゃる暇人のお兄様が社会に貢献する数少ないチャンスですわよ」
    「人聞き悪いこと言うなよ! 会社はクビになっただけだよ!」
     というか、そこを容赦なくえぐるか……恐ろしい妹だ。
    「で、さっき先生に平謝りした際に、おまえの部活動をちょっと見張っててくれないかと言われたんだが、どこで集まってるんだおまえ?」
    「部活動……前科者クラブですの?」
    「ああ」
     なんで教師が見張らないんだとは思ったが、口には出さなかった。たぶん教師も怖いんだろうな。つうか誰だって近づきたくねえよ、前科者クラブ。
    「まあ、よろしいですけれど……クラブと言っても同好会ですから、部室などは与えられておりませんわよ?」
    「あ、そうなんだ」
    「ええ。ですから空いた部室を適当に乗っ取っておりますの」
    「おい待て犯罪者」
    「失敬ですわね。乗っ取ってからいままで当局には一回も注意されておりませんわよ」
    「それはそれで問題だが、注意されてないからいいってことにはならねえよ」
    「うふふ、部室の前にずらりと並べた木刀がよほど効いたのかしら」
    「ひどい話だな!」
     ていうか、スケバンとかそういうのと思われてるぞおまえ。絶対。
    「つうか、そのクラブは他にどのくらいの人間がいるんだ?」
    「え。ああ、10人くらいおりますわよ。一応」
    「けっこう多いな! 嫌だけど!」
    「まあそのうち6人は本格的に塀の向こう側へ行ってしまわれましたので、いまアクティブなのは4人ですけど」
    「もっと嫌だ!」
     どうなってんだこの中学。
     俺がいたころはもうちょっと治安よかったような気がするんだが……
    「さて。着きましたわ」
     言っているうちに着いたらしい。入り口付近の傘立てに立てられた無数の木刀はこの際無視することにする。
    「入っていいか?」
    「どうぞどうぞ。わたくしが許可致しますわ」
    「じゃ、おじゃまします、と……」
     がらがらがら。と俺は扉を開ける。
     がらがらがらぴしゃん。と閉じた。
    「よし、帰るぞ」
    「お待ちなさい」
     がしっ。俺の肩を妹がつかんだ。
    「離せ! あんなやばい雰囲気の場所に入れるか!」
    「そうやって1人先に帰ったひとから殺されるんですわよ」
    「なんの話だ!?」
    「いいから来なさい。わたくしは入ってよいとは言いましたが帰ってよいとは一言も言ってませんわよ」
    「なんでおまえが命令……まあいいや。わかったわかった。入るよ」
     言って、俺は再び扉をがらがらがら、と開ける。
     そこには、
    「おー。なんかひよりのお兄ちゃんって感じのひとがいるにゃん……」
    「…………」
    「…………」
     3人の女の子がいた。
     ……まあ、女の子だろう、多分。外見的には少なくとも女の子だ。
     1人は巫女装束で1人は軍服で、最後の1人はネコミミつきだけど。
    「ええと……コスプレ同好会だっけ? ここ」
    「そういう別名もあるにゃん」
    「そのキャラ疲れない?」
    「大きなお世話だにゃん。これはこの前やったゲームで最下位だったからそうしてるだけにゃん」
    「なんのゲーム?」
    「ディプロマシーにゃん」
    「無駄に本格派だな!」
     よく見たらロッカーの上にでっけえボードゲームの箱が置いてある。それも複数。
    「ひとつ前のフンタでは圧勝できたので油断して罰ゲームの申し出を飲んだわたしが間違ってたにゃん……」
    「なんでそんな陰謀ゲーばかり……」
    「いや。この前六本木行ったらバナナリパブリックって店があってびっくりしたのにゃん。それで懐かしくなって子供の頃に親とやってたフンタを持ち込んでみたにゃん」
    「親とフンタかぁ……絶対やりたくねーなぁ……」
     ちなみにフンタというのは、陰謀渦巻くバナナ共和国を舞台としたODAの奪い合い的な雰囲気の漂う素敵陰謀系ボードゲームである。
     当然ながらゲームの主軸は化かし合いで、性格悪くないと勝てない。
    「で、ここがいわゆる前科者クラブという奴なわけか……」
    「その名前は御法度にゃん。ちゃんと世を忍ぶ仮の名前で呼ぶにゃん。BL同好会と」
    「それは世を忍べる名前なのか……?」
    「なにかと勘違いされてる気がするから言っておくけど、BLとはブラザーライクの略にゃん。つまりお兄ちゃんみたいな人が好きな少年少女が集まる同好会だにゃん」
    「うちの妹はブラック・ラビリンスってエロゲの名前と言ってたんだが」
    「あんな和姦いちゃラブゲーはお呼びじゃないにゃん」
    「和姦だとダメなのか!?」
    「ファンタジーRPGならぜったい触手エロがあると思って必死でコンプしたわたしの純情と8800円+消費税を返して! 返してにゃん!」
    「きっちりプレイしてんじゃねーか! あと断じてそれは純情じゃない!」
     あとそれはメーカーに言ってくれ。
    「つーか、中学生がエロゲとかするんじゃねえよ。教育に悪い」
    「じゃあお兄ちゃんはしなかったにゃん?」
    「…………」
     俺は目を逸らした。
    「ふ……勝ったにゃん」
    「うるせえ。つうかアレか。おまえも前科者なの?」
    「失敬だにゃん。わたしはちょっとおじさんからお小遣いもらっただけにゃん」
    「一番最悪なパターンだよそれ!?」
    「ふふん、安心するにゃん。ちゃんと金だけもらっといてとんずらしたにゃん。だから処女厨のお兄ちゃんもちゃんと攻略対象だにゃん」
    「処女厨はたぶん性格の時点で引くと思うなー……それ」
    「ちなみに当然ながら、友達の兄であるお兄ちゃんはわたしのどストライクにゃん。ひよりちゃんから寝取る気満々にゃん」
    「いや、妹から寝取るとは普通言わなくね?」
    「なにを言うにゃん。最近ではエロゲでも妹が他の男とくっつくのを寝取られと表現するのが主流だにゃん。立場を逆転させれば今回のケースはどんぴしゃだにゃん」
    「そんな特殊な業界の話は知らねえよ」
    「そんなわけでちょっとホテルまで行こうかにゃん、お兄ちゃん」
    「嫌だよ。つーか名前すら知らない相手とホテル行く女は論外」
    「名前知られたら足がつくにゃん」
    「その発想が嫌だっつってんだよ!」
     つうか誰か止めろこのエセ猫娘。
    「……ちょっとうるさい」
     言ったのは、巫女装束を着た女の子だった。
     パソコンに向かって、ものすごい速度でカタカタカタとキーボードを打っている。
    「なにやってんだ?」
     俺の問いかけに、彼女はちら、とこちらを見て、
    「見てみればわかる」
     と言った。
     その通りだと思ったので、横まで行って画面を見る。
    「これ……小説か?」
    「そうよ」
    「……BLじゃないよね?」
    「失敬ね。私の小説は王道な異世界召喚ものファンタジーよ」
    「そ、そうなのか。よかった」
    「ええ。魔法の才能がかけらもなくて馬鹿にされている貴族の令嬢が、召喚術の試験で間違って日本人である主人公を召喚してしまう……という筋書きなのだけど」
    「…………めちゃくちゃどっかで聞いたことある筋書きなんだけど」
    「ただし主人公は47歳バツイチ子持ちで声の出演は中田譲治さんよ」
    「渋かっこいいな!?」
     やばい。一周回って読みたくなってきた。
    「つうかおまえも前科者なの?」
    「ええ……ちょっと、足がついてしまって」
    「なにやったんだ?」
    「クラッキングによる金融システムの改ざん」
    「ガチの犯罪者じゃねえか!」
     本格派ってレベルじゃねえぞ。
    「大丈夫よ。幸い、司法の上層部と取引できる程度の材料は揃ってたもの。念には念を入れて用意した結果ね」
    「……うわあ」
    「まあ、おかげで10億ばかり利益が吹っ飛んだのは痛かったけどね。教育料として支払ったことにしておくわ」
    「高くついたな……」
    「? そう? たかだか口座残高の10%よ?」
    「大物すぎる!」
    「スイス銀行便利よね。フンタであれだけ重要なポジションなのも納得だわ」
    「いや、フンタで預けるのならともかく、リアルで使ってる人間は初めて見たがな……」
    「そうなの? 私の知り合いの暗殺者もよく使ってるけど」
    「もう嫌だこの話題……」
     どんどん世界観が壊れていく。助けて。
    「ふ……暗殺とくればあたしの出番よね」
     ふぁさっ、という感じで金髪をなびかせて歩いてきたのは、外国人留学生みたいな感じの女の子である。ちなみに、なまりは特にない。
    「軍事や兵器についてはあたしは超詳しいわよ。なんでも聞きなさい」
    「そ、そうなのか」
    「……ヘッケラー&コッホが実は正しい読みじゃないって知らなかったくせに」
    「うっ!?」
     犯罪巫女の言葉に、彼女は慌てた。
    「ヘッケラー……ええと、なんだっけ?」
    「銃器の会社よ」
    「ふうん。で、間違ってるの?」
    「ヘッケラーは英語読みでコッホはドイツ語読み。ウィキペディアにもそう書いてある」
    「そうなのか……まあ、たしかに混じっちゃうとちょっとなあ」
    「い、いいじゃない! そのくらいただのケアレスミスよ!」
    「AK-47を「えーけーよんじゅうなな」と呼んでたりもしたわね。どっかのアイドルグループみたいに」
    「うぐっ」
    「正解は?」
    「「あーかー」と普通は読むわね。ロシア製だし」
    「うわああああん! なによう、いいじゃないそのくらい!」
     取り乱す金髪。……ああ。なるほど。こういうキャラか。
    「ちなみにおまえの前科は?」
    「え、ええと、モデルガンを冗談で警官に向けたんだけど……」
    「いちばんみみっちいな……」
    「う、うるさいわね! いいじゃないのべつに!」
    「いや、まあ人間としては間違った方向じゃないから、べつにいいとは思うんだけど」
     むしろそれ以外が終わりすぎてると言えなくもない。
    「まあ彼女の補導歴は他にもありますけどにゃん」
    「こ、こら、ばらすな!」
    「ん、他はなにをしたんだ?」
    「十徳ナイフをカバンに持ってて銃刀法違反でしょっぴかれたりー。あとは……」
    「わーわーわー!」
     わたわた慌てる金髪。よかった。こいつは小物だ。
    「ふ……どうですのお兄様。我が前科者クラブは」
    「ああ。終わってるな。いろいろ」
     少なくとも教育上は近寄っちゃいけない場所というのはよくわかった。
    「ていうか、なんで女だけなわけ?」
    「男どもは揃って他校とのしばき合い――じゃなくて交流試合に出た結果、こうなりました」
    「…………」
     ああ。みんな塀の中ってそういう……
    「さて、次はあなたの番よ」
     唐突に犯罪巫女が言った。
    「なにが?」
    「自己紹介。私たちだけにさせるというのは、ちょっといただけないわ」
    「ああ、そういうことね。
     俺は財部一真。名字見りゃわかると思うが、ひよりの兄だ」
    「前科はどういう経緯だにゃん?」
    「勝手に人を前科持ちにするなよ!?」
     つーか、おまえらと一緒にするな。
    「ちなみにひよりちゃんは義妹だにゃん? それとも実妹だにゃん?」
    「実妹だよ! なんだその義妹って!」
    「知らないのにゃん? 昔はソフ倫の審査厳しかったから、義妹にしないとえっちできなかったにゃん」
    「興味ねえよ! へんな業界の常識を押しつけるな!」
    「まあいまは実妹でも普通に通るけどにゃん。というか、ヒロイン全員実妹というゲームもそれなりの量あったはずだにゃん」
    「滅びてしまえエロゲ業界!」
    「いやまあ、でもヒロイン全員が実の娘ってゲームよりはましだと思わないかにゃん?」
    「いいよもうエロゲの話は!」
    「なるほど。では実物の話をするとして、いつごろひよりちゃんを収穫するご予定かにゃん?」
    「収穫ってなんだよ! ねえよそんな予定!」
    「ちなみに日本の伝統だと14歳くらいというのが定説だにゃん。いまが食べ頃だにゃん」
    「その数字はどこから出てきたんだ……?」
    「源氏物語の紫の上だにゃん」
    「意外と由緒正しい!」
    「おほほ。ご安心くださいませお兄様。わたくしは凡百の妹キャラと違ってお兄様のことはマジでアウトオブ眼中です」
    「うるさいよ知ってるよ気持ち悪い!」
     つうか俺の方がアウトオブ眼中である。マジで。
    「というわけでお兄ちゃん。つれないひよりちゃんは放っておいてホテルでお金いっぱいくれないかにゃん?」
    「悪いが俺は昔から年上のほうが好きなんだ」
    「日本人なのにロリ好きじゃないのは非国民だにゃん」
    「なんで!?」
    「や、でも実際なんかそういう圧力感じないかにゃん? 小学生は最高だぜとか、言わないとなんかまわりから浮いちゃう的な」
    「あー、なんかわかんなくはないけど……」
     でも非国民は言い過ぎだろう。
    「ていうか実際ちょっと聞きたいにゃん。年上のどこらへんが具体的に好みだにゃん?」
    「どこ……って、表情が多いだろ、基本的に年上のほうが」
    「む。そうなのかにゃ?」
    「俺はそう思うんだが」
     表情豊かな子供、というのは幻想だというのが俺の持論である。
     基本的に表情というのは相手に与える印象をコントロールするために後天的に獲得する物で、子供はそれを意図して作れない。
    「むう……でもその説だと、お兄ちゃんは10年後には年下でもいいやって言ってそうな気がするにゃん」
    「あー。まあ20超えてればいいかなって気もしてるからあながち間違いでもないな」
    「ということは10年経ったら晴れてロリコンだにゃん!」
    「ロリコン……なのか? それ?」
     俺の知ってるロリコンと違う。
    「なるほど。ではひよりの収穫時期の話に戻ると6年後ということに」
    「ならねえよ! なんでこんなん収穫せにゃならんのじゃ気色悪い!」
     つうかその話に戻るな。
     と、犯罪巫女がそこで口を開いた。
    「なんなら私を収穫してもよいわよ。ブラザーライクだし」
    「え、ブラザーライクって口からでまかせじゃねえの?」
    「いや、出所自体はのぞみのでまかせだけど、でも考えてみればこの4人は全員年上好みだし、案外的を射ている表現かも」
    「のぞみってそこのエセ猫?」
    「その覚え方で行くと罰ゲーム明けにはわたしが認識できなくなってるにゃん」
    「ちなみに私がどう覚えられているかにも興味があるわね」
    「え、犯罪巫女?」
    「なんで私が巫女なのよ」
    「犯罪には反論しないのな……いや。だって巫女装束着てるじゃん。学校なのに制服も着てないし」
    「家のしきたりだって言ったら普通に通ったわよ巫女装束」
    「そ、そうなのか」
    「ええ。よくあんな口から出任せが通ったものだわ」
    「…………」
     ひどい話である。
    「ちなみにその猫は御前崎のぞみで、私が遠矢のりこよ。覚えておくといいわ」
    「ああ、わかった」
    「ちょ、あたしは!? あたしの名前は!?」
    「あ、そういえば聞き忘れてた。これはどんなふうに認識してたのかしら?」
    「え? 金髪」
    「軍服には反応なしかよ!」
    「だってどうせそれもエセだろ?」
    「うるさいよ! ていうかあたしにも聞けよ! なんでこの服着てるのかって!」
    「家のしきたりじゃないの?」
    「ちげーよ! どういうしきたりだよ!」
    「じゃあしきたりでもなくそんな服着て恥ずかしくないの?」
    「いきなりすげえこと聞くなあんた! もうちょっとマイルドに聞けないの!?」
    「ああ、ごめん。つい本音が」
    「ぐぬぬ……と、とにかく! あたしは転入生だから着る服がないって言ったら好きな服着てていいよって言われたからこうして着てるだけなんだからね! 勘違いしないでよね!」
    「いや勘違いって……まあいいや。じゃあな金髪」
    「名前を聞けーっ!」
    「だってどうせおまえアルシンド桜とかそのへんの名前だろ?」
    「なんで往年のサッカー選手みたいになってんだコラ! あたしの名前は――」
    「お兄様。その名では次からタイトルが『俺の妹は落ち武者ヘアー』に変更されかねません。ご留意を」
    「ああそっか。わりぃ」
    「無視すんなー!」
    「ごめんごめん。で、桜。なに?」
    「桜じゃねえよ!」
     むきーと暴れる金髪。
    「おっと。もうこんな時間か。俺もうバイトだわ。じゃあな」
    「いってらっしゃいませ、お兄様」
    「いつでも来るにゃん」
    「じゃあね」
    「ちょ、ちょっと! あたしの名前を――」
     がらがらがらぴしゃん。扉が閉じた。
    「さ、帰るか」
     まあ、かなりハードな環境だったけど、妹がこれ以上の非行に走る要因はないだろう。濃すぎるから。
     とはいえ、このまま手をこまねいてまた留置場にいくのもごめんなのだが……
    (それはまた、バイトが終わり次第だな)
     考えながら、俺はその場を後にした。
    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。