俺の妹は前科6犯-2.世界は狙われている! たぶん。
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俺の妹は前科6犯-2.世界は狙われている! たぶん。

2013-07-02 03:34

    「で、なんでおまえがここにいるの?」
    「おまえじゃないにゃん。御前崎だにゃん」
    「うまいこと言ったつもりか」
     ジト目で言った俺に、にゃははと不敵に笑うエセ猫――御前崎のぞみ。
     ここは俺のバイト先であるコンビニのレジである。
    「つうか客がいないときだからいいものの、客が来たらおまえちゃんとどけよ?」
    「本気でいないにゃん。これでコンビニの経営立ち行くのかにゃん?」
    「ちょっと特殊だからな、この店舗」
    「特殊……エロいにゃん」
    「なんでだ!?」
    「つまり客が店内に入り次第万引きの嫌疑をかけて奥に連れ込んでにゃんにゃんげへげへと……」
    「男の客のほうが多いが、それやって俺になんの得があるの?」
    「そこはほら、ストレートにBLだにゃん」
    「ないない」
     ちなみにこの店に客がいない大きな理由は、この店のメイン顧客層が近くの大学の生徒達だからである。
     大学と駅の間にある商店街の、微妙な位置にあるコンビニとなれば、昼時を除いて客はほとんど入らない。夕方のシフトはかなり暇だ。
    「つうかおまえ、学校外でも罰ゲーム継続してんの?」
    「くせにしないととっさにこの言葉遣いが出てこなくなるにゃん。仕方ないにゃん」
    「親御さんはどんな反応するの?」
    「もう数年口きいてないにゃん」
    「……なんか事情あるの?」
    「いや単なる育児放棄にゃん」
    「救いなく重いな!」
     さらっと言われるとものすごい対処に困る。
    「にゃははは。気にしなくていいにゃん。あんなクズども、義務教育が終わったらさっさとおさらばにゃん」
    「生活していくアテあんの?」
    「当面は遠矢ちゃんが貸してくれる予定にゃん」
    「ああ……まあ、あいつならな」
    「そしてきっちり幸せな家庭を築いて親に舌出してやるのにゃん。それがわたしの復讐にゃんよ」
    「いいこと言ってるように聞こえるが、その途中でおじさんからお小遣いもらうのはどうなんだ?」
    「仕方ないにゃん。親はどうやってもお小遣いなんてくれないにゃん」
    「いや、でもリスクあるだろ。身体的にも成長しきってない女の子なんだし」
    「たいていの場合、シャワー浴びてくるからっつって時間を稼げば逃げる算段は立てられるにゃん」
    「……そ、そう」
    「まあシャワー室が外から見えるマジックミラー方式だったりしてバレることも多いんだけどにゃ。そのときは迷わず股間蹴りにゃん」
    「いや、それは十分なリスクだろ」
    「色ボケしてる男はだいたい股間がお留守だからにゃ、成功率は100%にゃん。まあ、この前悶絶して泡を吹きながらうわごとみたいに「ありがとうございます、ありがとうございます……」とかつぶやいてしがみついてこられたときは、さすがにどうかと思ったけどにゃ」
    「うわあ……」
     さすがにそれはどん引きってレベルじゃねえぞ……
    「まあそれは可愛いレベルにゃん。やっぱ本質的にやっかいなのは汗のにおいがたまらんとか言っていきなり押し倒してくる奴にゃ。キモいから死んで欲しいにゃ」
    「いや、だからそれがリスクなんだろ?」
    「否定はしないにゃ。つうかこの前はさすがにやばかったにゃん。いきなり肩を外されてナイフ突きつけられたからにゃ」
    「……おまえ、よく生きてたなあ」
    「かろうじてスタンガンが間に合ったにゃん。警察に突き出したら大量殺人犯だったらしくて金一封もらえたんにゃけど、同時に補導されちゃったにゃん」
    「まあ、そうだろうな……」
     ヘビーな生き方してんなあ、こいつ。
    「つうか、いまから遠矢を頼っちゃだめなの?」
    「さすがに遊行費を他人にたかるのは気が引けるにゃん」
    「その倫理観は間違ってはいないが、なんでそこでおじさんにたかる方向に行くかな……」
    「なんだったらお兄ちゃんが養ってくれるにゃん? おっぱいくらい触らせてやるにゃよ」
    「悪いがおまえは好みじゃないのでパス」
    「残念にゃん……」
     割とマジで残念そうに言う御前崎。
     ……まあ、そもそも金ないんだけどな。俺も。
    「安定収入が……欲しいにゃん……」
    「無茶言うな。……まあ、勉強だけはしておけよ。学歴は完全ではないが、大きな武器だ」
    「そういうお兄ちゃんは大学にも行かずにバイトにゃん?」
    「うるせえな。就職はできたんだよ。すぐクビになったけど」
    「なにかへまでもしたにゃん?」
    「そりゃあ……ああ、ちょっとタンマ。おまえちょっと一歩後ろに下がれ」
    「? なにがにゃん? 客は来てないような……」
    「いいから。ほれほれ騙されたと思って下がる下がる」
    「そもそも騙されるの嫌いなんだけどにゃー……」
     言いながら、後ろに一歩下がる御前崎。
     直後、ひゅがっ! と、光の帯がその目の前を通過して壁にぶつかって爆発した。
    「ん、よしよし。無事よけられたな」
    「ってなにごとにゃん!? いまのレーザー兵器っぽいなにかは!?」
    「なにごとって、霊障だよ霊障。ほれ、さっきから誰かが結界張ってるだろ」
    「いきなり中二時空に飛ばされても対応できないにゃん!?」
     パニクる御前崎。……あー、そっか。霊感ないとこれ見えないのか。
    「いやわりとしょっちゅうあるぞ最近? このあたりで霊能バトルしてるグループがあるっぽくてな。たぶん世界の命運とかがかかってるんだろ、知らんけど」
    「気楽に言われても困るにゃん! どうやって対処するにゃん!?」
    「大丈夫だって。結界内の被害はご都合的に結界が解けると修復されるから。人間を除いて」
    「わたしたちはちっとも大丈夫じゃないにゃん! 防御結界とか張れないのにゃん!?」
    「無茶言うなよ。俺ただ霊感あるだけの普通の人間だし。攻撃の前兆くらいは察知できるから……お、御前崎。ちょっと左にずれないと危ないぞ」
    「わわ!?」
     きゅががっ! と御前崎のいた空間を薙ぎ払う光の閃光。
    「んー、なんか今日は流れ弾多いな。人数が多めなのかな?」
    「ひいいい! 世界の裏でこんな戦いが行われてるなんて初耳にゃん!」
    「そりゃまあ、霊感ないと普通結界内に入れないからなあ。普通の奴はわかんねえよ」
    「じゃあなんでいまわたしはここにいるにゃん!?」
    「この店舗、簡易結界になってるから。霊障に反応して見えるようにしてくれるっつー機能があるんだよ。だからこの内部にいる限り近場で結界が張られたら取り込まれるっつーか」
    「なんでそんな無駄機能つけたにゃん!」
    「便利なことも多いんだよ。霊障には祟りとかそういう地味なのもあるからな。客にへんなのが憑いてきて店舗に移ったりしたら大事だろ」
     おかげで、霊感ある店員しか雇えないというへんな制約がついちゃったりしているが、まあそれはご愛敬。
    「あ、上から来るぞ。どこでもいいから移動」
    「ひいいい! もう嫌にゃー!」
     どがーん、と上からビームが降り注ぎ、ちょっと前まで御前崎がいた場所を貫く。
    「さ、さっきからなんかわたし1人集中砲火にゃん!? どうなってるにゃん!?」
    「いやさー、こういうの見てるとなんか切なくなるよな。マンガとか読んでても、この主人公が撃った気弾とかどっか流れ弾になって無実のひと殺してるんじゃね? とか思っちゃってさ」
    「話を聞けにゃー!?」
    「あ、一歩右な」
    「ひー!?」


     しばらくして結界は解除され、店の内部も元通りになった。
    「稼ぎ時までに結界が解除されなかったら弁償させる規則だけど、今回はそうならなかったなー」
    「……つーかお兄ちゃん。そろそろ説明して欲しいにゃん。なんでわたし、ここまで狙い撃ちにされたにゃん?」
     こころなしかげっそりした御前崎が問う。
    「んー、そりゃ簡単な理由だけど」
    「なんだにゃん?」
    「おまえの運勢が最悪なんだよ。ラック値が低いとそれだけで霊障は引き寄せられるからさ」
    「ええー!? そんなの聞いてないにゃん!?」
     がびーんと叫ぶ御前崎。
    「ていうかそれってどうにかならないものにゃん?」
    「日によって変わるものだから気にしなくていいと思うけどな」
    「せめてチェックはしたいにゃん……テレビでやる今日の運勢とか気にしたほうがいいのかにゃ?」
    「あー、あれガチとエセのどっちが監修してるかわかんねーからな……見知ったガチの霊能者から直接聞くのがいちばんなんだが、素人には詐欺師との区別もつかねーし」
    「じゃあどうするにゃん?」
    「ぶっちゃけ、神社にお参りするのがいちばん手っ取り早いぞ? 一週間に一度行く程度でも、運勢はかなりフラットになるし」
    「神社……この近くに神社あったかにゃん?」
    「ほれ、おまえの中学の近くに一個あっただろ。あのやたら急な坂上ったところ」
    「あそこは……なんか水子供養とかやってるからにゃん……」
    「ダメなのか?」
    「いや、わたしが行くと、『ああ、とうとうガチでできちゃったのね』とかいう暖かい目で周囲から見られそうで嫌な感じだにゃん」
    「それは自業自得だろ」
    「なんで誰もわたしの言うことを信じないにゃん! わたしはれっきとした処女だにゃん! 純白だにゃん!」
    「処女はともかく純白はねーよ」
    「いつか純白のウエディングドレスを着てバージンロードを歩くのが夢にゃん」
    「それだけ聞くと女の子っぽい夢なんだが、おっさんから小金巻き上げてる奴の言う台詞じゃないな……」
    「失敬だにゃん。わたしは巻き上げてなんかいないにゃん。ちゃんとおっさんが無茶を言わず聞き分けがよくて金払いもよければおっぱいくらい触らせてやるにゃん」
    「おまえに金払うほど飢えてるおっさんがその程度で我慢できるわけねーだろ」
    「まあにゃー。男ってなんでみんなああなのかにゃ?」
    「そいつらと俺を一緒にするなよ……」
    「だよにゃー。だからお兄ちゃんは大好きにゃん」
    「おだてても一円も出ねえぞ」
    「ちぇっ」
     ぶー、という顔で御前崎。
    「まあそれはいいとして、神社以外でなにか対策打つ方法はないかにゃん?」
    「ああ、運勢の話か? まあないわけじゃないが、有料だぞ」
    「えー。金取るにゃん?」
    「当たり前だ」
    「仕方ないにゃん。一万でいいにゃん?」
    「いや高いよ! 十分の一でいいよ!」
    「そんなに安くていいのにゃん?」
    「いくらなんでも中学生からそこまで巻き上げたら問題だろ。俺ができるのってガチの専門家を紹介するまでだし」
    「専門家……どういうひとにゃん?」
    「このコンビニの店長」
    「…………」
    「なんだよ。腕はたしかだぞ店長。結界張ったのも彼だし」
    「いやまあ、そこはいいんだけどにゃ。被害を受けたのはその店長のせいで、その被害を防ぐための相談も店長って、これわたし騙されてないかにゃ?」
    「物理的実害は受けてないからいいだろ。それに今回みたいなことは他の店でもあり得ないわけじゃないんだし」
    「ううー。まあいいかにゃ……それで、その店長はどこにいるにゃ?」
    「いまは休憩時間中でな。まあ、メールアドレス教えてやるから、適当に交渉しろや。そういうのはわりとお手の物だろ?」
    「んー、わかったにゃ。……また捨てメアド取らないとにゃあ」
    「捨てメアドじゃないとダメなの?」
    「基本的にわたし、誰も信用しないからにゃ。深いおつきあいはお断り、にゃ」
     御前崎はそう言って、笑う。
     なんだか少しだけ、深く見えるような笑い方だった。
    「まあそれはともかくお兄ちゃん。ひょっとしてさっきクビになったっていう話、この霊能力がらみだにゃん?」
    「…………」
    「お、図星にゃん?」
    「悪かったな。……まあ、その、なんだ。おまえと同じ状況に立たされた社長がな、こっちの話も聞かずに一方的に解雇を宣言してな」
    「不運だにゃー。ちなみにその会社ってどこにゃ?」
    「……聞いてなにをする気?」
    「やだにゃー。そんなこと言えないにゃー」
    「……まあ、いいけど」
     俺は前に勤めていた会社の名前を告げた。
    「ふんふん、なるほどにゃー」
    「言っとくけど、俺の名前を出しても無駄だぞ。マジで1ヶ月経たないうちにやめさせられたからな。たぶんほとんどの社員は俺のこと覚えてない」
    「気にしなくていいにゃ。たぶん次会ったときはその会社の社長が片方のタマをなくしているだけにゃ」
    「おいマジでなにする気!?」
    「じゃあバイバイにゃ、お兄ちゃん。今度はデートしようにゃ」
    「あ、おい!」
     止める間もなく、御前崎はコンビニを出て行った。
     ふう、と吐息して、苦笑する。
    「やれやれ、結局なにも買っていかねえでやんの」
     本当にあいつ、なにしに来たんだろう。
     それ以前にこのバイト先の住所、妹にも教えてないんだけどな。
     まあ、細かいことはどうでもいいか。
     もうすぐ大学の終了時刻。昼ほどではないが、多少客も来るだろうし。
     がんばって働くとしよう。
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