喫茶探偵三久・1
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喫茶探偵三久・1

2019-06-24 18:13
  • 1

その日は雨だった
今日みたいな、どんよりとした空に
霧雨の降る日だった

その娘は茫然と立ち尽くしていた
雨にさらされてずぶ濡れになりながら、その眼はどこを見ているのか虚ろで
それはまるでこの世ならざる者か何かと見まごうような、不可思議さを漂わせていた

ふと、こちらに気づいたのか、視線を傾けた
目が合った
「…あ」
か細い声が少女の口から漏れ出た
「あなた…は」
僕のことを言っているのだろう。他に人はいない
「僕…僕は…」

「探偵さ」

嘘をついた
何でそんな言葉が出たのかわからない
だが、探偵にあこがれていた部分もある

「探偵…?」
少女は考えるように首を傾げ
数秒ののち
「探してほしい人がいるんです」
涙を目に浮かべながら僕に言った

それが僕とカイコ君の馴れ初めだ

―喫茶探偵三久― 

「とかなんとか意味深なはじまりかたしましたけど、私そんなことしてないし、言ってないです」
外は雨だ
我が喫茶店「喫茶初音」は目下のところ、閑古鳥の住みかとなっている
もっとも、雨でなくとも鳥たちがたむろしているのに変わりないが
「店長、人の話聞いてます?」
「いいじゃないか、少しくらい脚色しても」
先ほどから僕の回顧を邪魔してくるのがいる
「邪魔って…ぼーっと火のついてないパイプくゆらせてる人が何か仕事してるとは思えないのですが」
「こういうのは雰囲気だよ、ワトソン君」
ちなみに我が喫茶店は全席禁煙である
「ワトソンじゃないです。始音カイコって名前があるんですから、ちゃんと呼んでください」
そういうとカイコ君はお皿を磨く作業に戻った
磨きすぎたせいで鏡みたいになってるが、ほかにやることもないので致し方無いだろう
「しかし、このお店いっつも暇なのによくつぶれませんねぇ」
「僕に突き刺さる言葉を投げるのはやめてくれないかな」
「事実じゃないですか。まぁ、お給料ちゃんともらえるなら私は文句ないですけど」
「うん、その辺は気を付けてるから大丈夫」
雨は強さを増してきた
ますますもってお客なんて来ないだろう
「私、帰ってもいいですか」
「うーん…そうだねぇ…帰っていいよ」
「じゃあ、お疲れさまでした」
「お疲れ様」
カイコ君は身に着けていた制服代わりのエプロンをほどきながら、スタッフルームに入っていった
「今月も赤字かな…」
真面目に閉店の危機かもしれないな
おかしいなぁ、紅茶は美味しく淹れる自信があるし、食事メニューもそこそこ美味しいと思うのに
致命的にコーヒーが不味いってのがよくないのかな
なんでどう淹れても不味くなるんだろう
日曜昼の一時過ぎ、普通の喫茶店ならそこそこ混んでる時間だと思うのに、このありさまである
そんな時だった
「きゃあああ!?」
スタッフルームからカイコ君の悲鳴が聞こえた
「どうしたのカイコ君!?」
強盗でも入ったか、はたまたごきかぶりでも出たか
前者なら命の危機、後者なら飲食店として危機である

スタッフルームに駆け付けると、そこには床にへたり込んだカイコ君がおびえていた
「何があったんだい」
カイコくんに近づいてみると、カイコ君がびしょぬれになっているのに気づいた
傘もささずに外に出たのか?いや、カイコ君はそんなに間抜けな子じゃない
それに、部屋の床も濡れている。まるでバケツで水をぶちまけたかのようになっている
「ててて、てんちょお」
「落ち着いて。強盗かい。G級クエストかい」
「どっちでもないです、出たんですよ」
「…出たって言うと?」
「お、おばけ…幽霊…ゴースト…そ、そのたぐいの何かです」
おばけ
「今、『カイコ君が冗談を言うなんて珍しいなぁ』って顔してますね!?」
図星だ
「うん、まぁ…そうね…」
「信じてませんね!?でも見たんですよ!」
「話をとりあえず聞こうか」
「私が裏に入ったとき何か違和感があったんですよ…っへ…へっくし!!」
「うん、まずは体拭いてきて、替えの服とりあえず娘の使っていいから」
「すみません…」
カイコ君を自宅スペースの風呂場へ案内する
「の、覗かないでくださいよ」
「娘と同じ年ごろの子の着替えなんて盗み見ないよ」
「どうだか」
「僕はそんなに信用ないのかい?とりあえずお店のほうに僕はいるから着替えたら声をかけてね」
ジトっとした目で睨んでくるカイコ君から逃げるように店へ戻る
いくら人が来ないといっても長時間空けるのは気が引けるし、まさに泥棒でも入ってきたら大変だ
スタッフルームのドアに手をかけたときだった
「…-ん」
何か聞こえた
声?
「……」
何かがいる
泥棒か
こうなると先ほどのカイコ君の証言が気になってくる
おばけ…そんなまさか
だが気にかかってしまうと怖くなってくる
もとより、お化けとか幽霊とかは信じてないが、テレビとかで心霊特番をみた夜中は寝付くまで怖かったりする
なんとない暗がりにもしかしたら人ならざる者がいるような気がしてしまい、大人ながらにトイレに行くのにおびえてしまうのだ
だが今はいくら外がどんよりしているとはいえ、昼間
昼間から動く幽霊なんてそうそういないと思う
いやまてよ、誰が幽霊は夜にしか動かないなんて決めた?
例外がいるかもしれないじゃないか
そして僕が今出くわしているこの場面にその例外がいるとしたら?
お化け怖い
しかし、お化けに出くわしてどうなる?
呪いころされる謂れなんて僕にはないし
そもそも物理攻撃してこないじゃないか
だったらまだ泥棒のほうが怖い
刃物とか銃器とか持ってたら命の危機だ
どうしよう
「何やってんですか、店長」
「ぎゃあああ!?」
気づくと着替えを終えたカイコ君が後ろに立っていた
「お、おぅ」
「何をこんなところで立ち往生してるんですか」
貸した娘のお古を着ながらカイコ君は僕をジトっとした目で見つめる
「胸がきついです、この服」
「まぁ…うちの娘、胸ないから」
「…あんまりじろじろ見ないでください」
ガタン、と不意に部屋の中から物音がした
僕とカイコ君は二人で息をのみ、互いの顔を見た
「いま、何か音しましたよね」
「う、うん」
「店長、中を見てくださいよ」
怖い。物音の前には何か声みたいなものも聞こえてるわけだし
もういっそ、警察呼ぼうかな
「ここでこうしていてもしょうがないじゃないですか」
「それもそうだけど」
「…みょ…」
また何かの声が聞こえた
「ひぃ」
「よ、よし、僕は行くぞ!」
恐る恐る扉を開ける
中を覗き込むとそこには

紅い髪の少女がいた

ー続く


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これは嘗ての作品のリメイク小説?続きがとても楽しみです
19ヶ月前
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