4/7日記(サツカレ夢小説短編)#03
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4/7日記(サツカレ夢小説短編)#03

2019-04-01 21:40

    ・・・・

    よし、なかなかいい仕上がりだ。

    俺は仕事場で預かった品の手入れをしていた。
    うちの常連である竜崎以外にも多少は客がいる。
    中には、自分は快楽殺人者だなんて言ってるヤツもいる。
    まあ、明らかに違法な薬物でも使ってる感じではあるが、
    金払いはいい上に『使用頻度』が高いせいか、
    短い期間で依頼がくる。

    正直、そういうヤツの言が真実だった場合のことを考えると、
    銘を入れないで欲しいという、刀匠に対してありえない頼みをしてきた竜崎あたりは、
    店と職人への気遣いとも思える発言だったのかもしれないな。
    ん?なんで殺人関係のことで竜崎が出てくるんだ?
    ったく・・・仕事場にいる時は店閉めて静寂を保つのはいいが、
    静かすぎるとそれはそれで色々考えちまうな。
    ・・・それでも、いい仕上がりになったときは、
    自然と心にも余白が出来てくるってもんだ。


    ガンガンガンガンガンガン!!!!!


    「ねー!!誰もいないノー!?ねーねーねー!!もしもーし!!」


    突如、静寂を切り裂くように引き戸を殴る、いや叩く音が聞こえる。
    ちらっと聞いた感じだと若い男の声のようだ。

    「おっちゃんの紹介ダゾー!!あーーーけーーーろーーー!!」

    どこのはた迷惑なおっちゃんのせいだかわからないが、
    とりあえずこのままだと店の玄関が破壊されそうなので、

    「あー・・・あいよー!今出るから待ってなー!!」

    作務衣のまま慌てて玄関へと急ぐ。が、
    こちらがバタバタするのに反比例して静かになっていく玄関前。
    こちとらは老体引きずるどころか快走させられてる最中だが、
    なんかほかの男の声がしたようにも感じる。

    ガララッ

    「はあ・・・はあ・・・ど・・・どこの誰様だっ・・・」

    息が上がる。距離にすれば10メートルもないはずだが、
    歳のせいなのか、慌てているからなのか、
    どちらにせよ自分の老い具合に嫌気はさしつつ、
    どうにか破壊される前に玄関にたどり着いたわけだが。
    「お騒がせして申し訳ございません。僕は和己景楽、
    先ほどお騒がせしたのはうちの松本記知です。
    ああすみません松本はともかく『ぢるち』はなかなか聞きなじみがないことでしょう。
    そういう意味では僕のかずみけらもなかなか初見では認識しづらいのでしょうが、
    ですがそんなことよりぢるちとはイギリスの俗語で0や無意味・無価値などを示していて、
    ご存知の通り本人が初めて名乗った名前なものですから大切にしてやりたいと・・・
    ああいやそうかそうだったうん。ですから僕が記す知と漢字を当てたのです。
    今回ここにお邪魔したのは・・・」

    「待てい!!」
    「待ちます。」

    ったく・・・
    駆け付けた途端に思ってたのとは違うタイプの痩せぎすのメガネ男・・・
    カズミケラとか言ったか・・・こいつがしゃべりだすもんだから、
    こちとら話すタイミングも・・・おかげで呼吸は整ったがね。

    「・・・・」
    「・・・・」

    お互いに顔を見合わせている。
    ちと不健康そうというか生気が感じられないが、
    端正な顔立ちではある青年だ。

    「・・・・」
    「・・・・」

    なぜだ・・・なにをうかがっている?
    俺の顔がアレか、強面だとかいう理由で黙ってるってのか。

    「あー・・・」
    「動悸はおさまりましたか?」
    「は?」
    「いえ・・・」

    和己とやらは少しメガネを触ったあと続ける。
    「記知が必要以上の騒音を立ててしまった時点で、
    このようになる可能性は少なからず検討の対象には入っていましたが、
    実際に予測した通りの事象が観測されることは実際そう多くはない。
    その点においてあなたの年齢と一般的職業柄に対するイメージを、
    先行させた上での対応はさほど僕の予測とは乖離していなかったのですが単純に、
    事前に聞いていた情報、つまりはあなたの体格や年齢、
    ここまでの生き方から推測した身体能力などの予測からすると、
    現在のあなたは僅かな距離でありながら、
    肩部全体の筋肉は収縮し利き足である右足は、
    大腿からつま先までしっかりしているのに対して左足は」

    「待てい!」
    「待ちます。」

    いや、これじゃさっきと同じだ。

    「はあ・・・で、あんたが和己って人でいいのかい?」
    「和己景楽と言います。」
    「よし。そんでうちの玄関をさっきまで叩いてたのが?」
    「記知です。」
    「ぢるちねえ・・・じゃあその男はどこにいる?」
    「あそこに。」

    くるりと振り返った和己が指をさす方向には、
    ど派手なピンク頭の兄ちゃんが、
    ・・・竜崎に肩車されてはしゃいでいる。
    そしてその手にはおもちゃのようななにかをもっている・・・
    ああ・・・そういうことか・・・

    「おっちゃんって竜崎かよ・・・」
    「はい。」
    「いやあんたに言ったんじゃないんだが。」
    「そうですか。この店の紹介者が竜崎さんなのか、という意味かと思いました。」
    「はあ・・・ま、いいや。」

    と、和己とやらとやりとりしてるうちに、
    いつの間にか竜崎と松本とかいう兄ちゃんがこちらに来ていた。

    「すみません親父さん。」
    「ああ?なんのことだ竜崎。」
    「いえ・・・」

    珍しくバツが悪そうに眼をそらす竜崎。
    たぶん、自分が紹介した客がスペシャルサイコ野郎だったせいで、
    俺が気分を害した、あるいは仕事の妨げになったとでも思ったのだろう。
    ・・・害されたとまでは思わんが、せめて事前にこんなヤツがくると、
    連絡の一つもあればこんな心臓に悪いことにはならんかった気もする・・・

    「ネーネーけらちゃん!!」
    「なんだい記知。」

    先ほど竜崎に持たされたと見えるウサギがモチーフっぽい玩具を手に、
    外見とは裏腹な幼い感情表現を前面に和己へ話しかける松本ぢるちとやら。

    「俺のナイフは~?」
    「ああ・・・ちょうどよかったよ。今からその話をするところだったんだ。」

    すると、いそいそと和己がポケットから折りたたまれた紙を取り出した。

    「師匠さん。」
    「いや・・・それ俺のことか?」
    「はい。そうです。」
    「おっちゃん~!!あ、でもこっちもおっちゃんだから・・・」
    「そうだね。刀のおっちゃん、さん、だね。」
    「・・・」

    渋い顔をしている竜崎はともかく、
    俺は差し出された紙を受け取り、
    8つ折りにされていたその紙を広げた。

    ・・・・いやいやいや。
    なんだこりゃ。

    「一応聞くが、こりゃなんだ?」
    「依頼書です。」
    「・・・細かすぎる。」
    「記知の希望を細かく分析するとそうなるのですが。」

    A4サイズの紙の端から端までびっしりと手書きの文字。
    よく読めば本人の手の形状の分析とか握力の平均値がなんだとか、
    材質がなんだの生産性がどーだの書いてあるが、

    「ダメですか。」
    「え~!刀のおっちゃんだめナノー!?」
    「いや、せめて図かなんかをだな・・・」
    「行こうか、記知。」

    俺を無視してクルリと背を向ける和己。

    「竜崎さん、せっかくご紹介いただいたのにすみませんでした。」
    「和己、お前なにを言って・・・」
    「けらちゃん~刀のおっちゃんに作ってもらわないノ?」
    「ああ、そうだね。」

    背を向けたままどうやら依頼は諦めるらしい。
    竜崎の連れてきた客だから悪い気もするが・・・
    さすがにこんなこまけえ字とにらめっこしながら仕事なんざ・・・

    「こちらの方では技量的に再現ができない、ようだからね。」
    「なにぃ?」

    その一言は聞き捨てならねえ。

    「待ちな兄ちゃん。誰が技量的になんだとかだと?」
    「おい和己、今の言い方は失礼だろう。」
    「竜崎、お前はちとすっこんでな。」
    「はあ・・・」
    「ナニナニ~!!けんか?けんか~!?俺もやる~!!!」

    どこから出したのか、スラリと小ぶりな刀剣、
    言うところのナイフらしきものを取り出す松本。
    なんつー形してんだ・・・

    「こら記知。人前で出したらダメだと言っただろう。」
    「え~?けんかでショ~?けらちゃん弱ぇし~w」
    「そいつが得物かい。おいピンクの。」
    「なになに~?これ作れない刀のおっちゃんなに~?」

    おのれ、こんなのにまで・・・

    「見せろ。それ。」
    「記知、お見せして。」
    「うん!えへー!かっこいいっしょ!とくちゅ~!!」

    俺はナイフを受け取りじっくりと見る。
    ・・・奇抜な形、というだけでもないのか。
    確かにいい仕事してやがる・・・
    少なくともネットとやらで大量に売られてるようなもんじゃねえ。
    ピンクの言う通り、すでに手はくわえられているようだ。

    「で、こいつと同じものが欲しいってのかい。」
    「師匠さん、先ほどの依頼書は目を通していただけてないのですね。」
    「ぐっ・・・あ、あんなもん読まなくたって要望さえ聞けば感覚でだな・・・」
    「行こう記知。」
    「いや説明しろやそこは!」
    「ほう・・・口頭で・・・」
    「あ、いや、やっぱり後でよく読む・・・」

    スイッチを入れてしまったと思ったが遅かった。
    踵を返してこちらを向いた和己が話し出す。


    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



    ・・・・・・・・・・・・・・・・



    ・・・・・・



    ・・・



    「それではよろしくお願いいたします。」
    「刀のおっちゃんまったネー!!」
    「竜崎さん、先に外で待っています。」
    「ああ。」

    和己と松本が出ていく。
    永かった・・・
    質問をすりゃあ10倍くらいになって帰ってきやがるし、
    長話の最中にピンクが店の刀でなんとかライダーごっこ始めるし・・・
    それを竜崎がやめさせたら泣きだすし、
    竜崎がそれをまたあやすし・・・

    「今日は本当にすみませんでした、親父さん。」
    「いいってことよ・・・客には違いねえ。注文もあったしな。」
    「この間のバカといい申し訳ない。」
    「ああ緑色の。いーんだよ若いのもたまにゃ。」

    最近の竜崎は謝ってばかりだな。
    なんというか・・・

    「お前さん、あの子らの保護者みてぇだな。」
    「保護者、ですか。・・・どうでしょうね?」
    「ははっ。しっかしまあ、あの二人組も色々変わりもんだな。」

    ピンクのほうはなんというのか・・・幼児?
    それに対する和己のほうは、うーむ・・・

    「にしても、ついムキになっちまったな年甲斐もなくよ。」
    「和己には悪気がないんです。許してやってもらえませんか。」
    「別に怒っちゃいねえよ。実際、読みもしねえで断りかけてたからな。」

    そうだ。得物がなんであれ、どんな依頼であれ、
    断るにしても詳しく話を聞いてからにするべきだったし、
    自分の腕に少しばかりでも覚えがあるんなら、
    やる前から引いてちゃあいかんよなぁ。

    「それではまた。」
    「おう。また仕上がりは連絡すると伝えてくれ。」
    「ええ。」

    今日は車できたようだった竜崎が出ていく。

    「ふー・・・」

    俺は和己から渡された依頼書を読み直す。
    ・・・見えん。眼鏡どこだったかね・・・
    ん?紙の一番右下隅になんか描いてあるな?

    「ふっ・・・」

    俺はとっとと店を閉めて作業にとりかかることにした。

    依頼書の最後に『和己景楽』の署名と、
    その横に、それこそ子供が書いたようなひらがなで、
    『ぢるち』と書き足してあった。
    で、たぶんなんとかライダーと思しきイラストが小さく描かれている。

    「子供のおもちゃにしちゃ、危なすぎるだろーに・・・」


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