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 “α-Synodos” 
vol.281(2020/11/15)
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〇はじめに

いつもαシノドスをお読みいただきありがとうございます。編集長の芹沢一也です。αシノドス vol.281をお届けします。

最初の記事は、穂鷹知美さんの「カナダの移民政策とスイスの国民投票――社会はどのように移民を受け入れるのか?」です。カナダとスイス、どちらの国も移民の受け入れに成功しているイメージがあります。かたや、プラグマティックに自国の都合にマッチする移民を受け入れ、問題や不満が出にくいカナダと、かたや、国民投票という制度を使って、移民への不満のガス抜きをしているスイス。答えは一様でないことがよくわかります。

次の記事は、松村博行さんの「「米中デカップリング」はどのように進んでいるのか」です。トランプ政権下で、ハイテク・情報分野において、米国は大掛かりな脱中国化を進めてきました。たとえばファーウェイをめぐる報道は耳に新しいと思います。ではなぜ、米国はこうしたデカップリングを進めているのでしょうか? バイデン政権の動向を見据える上でも、必読の解説です。

コロナウィルスが流行する中、国民の生命を守るために国家が前面にせり出し、他国民の入国を制限し、さらにはロックダウンを行うのを目撃したとき、多くの人がホッブズと彼の主著『リヴァイアサン』を想起したと思います。近代という時代の劈頭にあって、国家の役割は「人民の安全を確保することである」と明言したホッブズとはどのような思想家だったのでしょうか? 梅田百合香さんの「不測の未来と政治の時間性――ホッブズとトゥキュディデスの視点」です。

「イクメン」という人口に膾炙し、また男性育休をうながす制度も整いつつあるのに、じっさいに育休を取得する男性はまだ少数派です。ではなぜ、男性育休は普及しないのでしょうか? この問いに、「職場の雰囲気」と「時間意識」から挑んだのが、齋藤早苗さんの「男性育休の困難」です。斎藤さんが明らかにした問題の所在と、その解決法は、子どものいる男性や女性にかぎらず、すべての国民にとっての関心事だと思います。

コロナウィルスの流行の終息がまったく見通せない中、人びとの生活には大きな変化がいろいろと現れています。今回の平井和也さんのレポートは日常生活やビジネスに生じている変化をレポートします。意外だったのは、首都圏で、とくに女性の間でウクレレが売れているとのことでした。巣ごもりに習い事はぴったりですし、練習によって上達が目に見えて分かる楽器演奏は楽しいですよね。

最後は、石川義正さんの「東日本大震災以降の「崇高」(下)──現代日本「動物」文学案内(6)」です。前回に続き、今回も山尾悠子の幻想小説『飛ぶ孔雀』を取り上げます。ウィリアム・ベックフォードの『ヴェテック』にみられる「裂け目」と絡めながら、今回は2010年代の日本社会の姿を照射します。ここ10年間の日本社会が抱え込んだ「裂け目」とはいかなるものだったのか?

次号は12月15日配信です。お楽しみに!