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 “α-Synodos” 
vol.284(2021/2/15)
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〇はじめに

編集長の芹沢一也です。αシノドス最新号をお届けします。

昨今、「国からお金をもらっているのだから言うことを聞け」という空気が幅を利かせています。たとえば、日本学術会議の会員任命見送り問題。報道を通じて年間10億円の予算が投入されていると知らされたとき、世論は明らかに、政府に批判的な学者は任命されなくて当然だという意見に傾きました。熊本博之さんは社会の報奨金化という観点から、なぜ当事者側の反発が世論を喚起できずにいるのかを読み解きます。

コロナ・パンデミックによって浮上した課題のひとつに遠隔教育があります。デンマークやアイスランドなど教育のデジタル化が進んでおり、遠隔教育にうまく対応できた国もあれば、ドイツのようにデジタル化に抵抗があり問題含みの国もあります。しかし、ドイツをつぶさに観察すると、たんに失敗とだけまとめることのできない、ポジティブな要素も垣間見えます。穂鷹知美さんにドイツの現状をレポートしていただきました。

わたしたちは今、文字通り激動の事態に生きています。こうした時代にあって多くの人が、「より深く原理的に物事を考える」ことを求めています。しかし、いきなり哲学の原書に手を出すのはハードルが高く、また入門書といってもとっつきやすいものはなかなか見つかりません。そこで、かつて高校で「倫理」の授業を担当していた池田隼人さんに、「哲学的素養」を連載で教えていだくことになりました。ぜひ、みなさんの思考の糧としてください。

バイデンが中国にどう向き合っていくかが、大統領選挙以来議論されてきました。トランプ前政権は、台湾に対する広範な支持を強化し、また台湾もそうしたトランプ政権に対する期待を明らかにしていました。このような中で、台湾がバイデン新政権をどう見ているのか、台湾にとってバイデン政権はどんな意味を持っているのかが注目されています。平井和也さんに海外メディアの報道や研究機関の分析について紹介いただきました。

現代社会には環境をめぐる不正義がいたるところに存在しています。福島第一原発事故、コロナ禍、世界各地の森林伐採、南北格差問題、Black Lives Matter(BLM)運動、米軍基地問題、核廃棄物処分地の問題、ワクチンの人体実験やワクチンの分配の問題。そしてそのような不正義を正し、環境により得られる利益と環境により負わされる負担の公平な分配を目指すのが「環境正義」です。神沼尚子さんにご解説いただきました。

「動物は倫理的な重みをもつ存在である。」こうした命題を説得的に主張するにはどのような思想的立場がありうるのでしょうか。また、こうした命題を受け入れたとき、われわれ人間とその社会にはどのような変容が求められるのでしょうか。動物は人間の環境を構成する一要素に過ぎないのか、それとも人間と同様の尊厳を求められる生命なのか。動物倫理学者の久保田さゆりさんと、環境倫理学者の吉永明弘さんとのスリリングな対話です。

次号は3月15日配信です。お楽しみに!