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αシノドス vol.123 <鉄の女>サッチャーが遺したもの
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αシノドス vol.123 <鉄の女>サッチャーが遺したもの

2013-05-01 21:00
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    荻上チキ責任編集
    “α-Synodos”

    vol.123(2013/05/01)

    <鉄の女>サッチャーが遺したもの
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    ★今号のトピックス

    1.対談/常見陽平×今野晴貴
    若者はなぜブラック企業に入ってしまうのか――「意識高い系」と「ブラック企業」の交わるところに

    2.経済ニュースの基礎知識TOP5
    ………………………片岡剛士

    3.サッチャリズムとは何だったのか
    ………………………吉田徹

    4.新自由主義批判の難しさと北欧型新自由主義の到来
    ………………………橋本努

    5.対談/伊勢崎賢治×大野更紗
    9.11以後の世界―平和のための紛争学

    ○編集後記

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    chapter 1
    常見陽平×今野晴貴
    若者はなぜブラック企業に入ってしまうのか――「意識高い系」と「ブラック企業」の交わるところに

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    若者は、「自由の罠」におちいっている!?
    『「意識高い系」という病 ソーシャル時代にはびこるバカヤロー(ベスト新書)』の著者である人事コンサルタントの常見氏と
    『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪(文芸新書)』でブラック企業の危険性を論じた今野氏が語りつくす。

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    http://synodos.jp/wp/wp-content/uploads/2013/04/tunemi520.jpg
    常見陽平氏

    http://synodos.jp/wp/wp-content/uploads/2013/04/konno520.jpg
    今野晴貴氏


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    常見陽平(つねみ ようへい)
    人材コンサルタント、大学講師、著述家。
    一橋大学商学部卒業後、株式会社リクルート入社。その後、玩具メーカーの新卒採用担当、人材コンサルティング会社を経て独立。実践女子大学・武蔵野美術大学の非常勤講師をしつつ、一橋大学大学院社会学研究科修士1年にひっそりと在籍中。『「すり減らない」働き方』(青春出版社)『僕たちはガンダムのジムである』(ヴィレッジブックス)など著書多数。
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    今野晴貴(こんの はるき)
    1983年生まれ。仙台市出身。NPO法人POSSE代表。一橋大学大学院社会学研究科博士課程在籍。
    NPO法人POSSEにて、年間1000件近くの労働・生活相談にかかわっている。
    著書に『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)など。
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    ◇なぜブラック企業に入ってしまうのか

    常見:ブラック企業に入る人にもいくつかパターンがあるとおもいます。その中で、ぼくが問題に感じているのは、積極的にブラック企業に入社していくパターンです。

    ブラック企業は、採用活動が上手いんですよね。まず説明会が上手い。特徴の一つは、社長が出てくることです。もちろん、社長が出てきたから、ブラック企業と断言するわけではありませんが、大手企業の説明会に社長なんて出て来ないんですよ。ビデオレターならともかく。

    社長が出てきて「夢」とか「感動」とかいうだけで、本来必要な条件や職種といった情報をすっとばしても、それらしく聞こえるわけです。社長と沢山会ったことのある学生って、ほとんどいないじゃないですか。だから社長がすごい人に見えてしまうんですよね。

    しかも、就活中の学生の、7人に1人が鬱という結果がPOSSEの調査で出ています。就活につかれている中、社長の話は福音のように聞こえてしまうのかもしれません。

    また、面接も上手い。採用力が強いと昔から評判のリクルート流の手法を取り入れていて、志望動機や自己アピールが下手でも、根掘り葉掘り聞いて整理してくれるわけです。そこで、この人はやっていけそうなのかを見極める。しかも、面接を重ねていくうちに、だんだん入社への気持ちを乗せていきます。

    もともと、就活というのは演劇みたいな要素があります。企業は「良い会社」を演じ、学生の側も「良い学生」演じる、ロールプレイング合戦のようになってきています。そこに上手く順応し学生を騙していくのがブラック企業なのかもしれません。

    あと、会社説明会ってすごく差別されています。「学歴フィルター」と学生は噂しますが、企業はターゲット校を明確に設定しています。HR総合調査研究所の調べによると2014年度新卒採用では実に52%の企業がターゲット校を設定しています。説明会の予約が取りづらいといった差別が実際におきています。でも、ブラック企業の説明会は予約が取れる。就活生に対して平等なんです。

    今野:学生がブラック企業に入ってしまのは、端的に「他に就職先がないから」だと私はおもいます。

    ブラック企業と一言にいっても、入り方はさまざまです。私が「使い捨て型」や「選別型」と呼んでいるように、大量採用し、大量離職が行われるブラック企業では、秋採用も活発に行っている場合があります。そこでは、「仕方なく」入社してしまう学生が多いでしょう。

    決まらないから仕方がなく入るしかないんです。POSSEで就活生に調査をしたことがあります。就活の最初の時点では、働き方に対しての「希望」や「条件」というのを多くの学生が持っているんです。でも、いくらエントリーしても落とされてしまう、なかなか内定が出ないというのが繰り返されてしまうと、秋になるころには「なんでもいいから正社員」という考えになってしまいます。就職活動がいろんなことを諦めさせていくんです。それを私は「諦念のサイクル」と呼んでいます。

    もう一つ、ある種の「個人主義」の風潮が強いという点もそれを助長しているのかとおもいます。

    たとえば、「ブラック企業の見分け方はなんですか」とよく聞かれるんです。もちろん、見分け方が広まって、ブラック企業が社会的に批判されるというのはすごく意味のあることだとおもいます。でも、「見分け方」を論じることで、「入る」「入らない」といった個人の選択の問題になってしまいます。しかし、ブラック企業は社会問題です。先ほどいったように、仕方なくブラック企業に入ってしまう学生もいます。それなのに、結局「見分けられなかったお前の自己責任だ」という話になってしまう可能性があります。

    さらに、学生の側でも個人主義がはびこっています。

    先日、ある番組で、38人の就活生と話す機会がありました。私はブラック企業についてお話させていただきました。その後の感想で、「自分で選ぶことが大事だとおもいました」「自分を信じればいいとわかりました」と学生達はいうんですね。

    さらに、そこでは筑紫野女子学園大学のキャリアセンターの取り組みが紹介されていました。それは、就職課がOGから企業の評判を聞くと、違法行為があるのか調査に行き、あれば企業に警告をし、それでも改善しない場合は、就職課ではその企業の紹介は一切しないというものでした。

    しかし、学生は、「ブラック企業だからといって学校が紹介しないのは、ぼく達の可能性を狭めることになる」というわけです。

    どうして、そうなってしまうのかなとおもいました。なんだか、その結果どうなろうと自分で選ぶのが一番素晴らしく価値があることだとおもっているようなのです。

    ご存知の通り、経済効率とか社会制度といった話をする時に、ふつうの個人の選択が最良を招くことなんてないんですよね。情報に非対称性があるからです。就職活動の場合、選ぶのは学生です。社会で働いたこともなければ、専門的に研究を重ねているわけではない。そんな個人が自由に選択して上手くいくことなんてないですよ。本当なら、「専門家」が間に入るべきですが、実際には「個人の選択」が煽られている。だから、ブラック企業に騙されて入社してしまうんです。

    常見さんが良くいっているように、毎年毎年就活生って違う人なんですよね。情報や経験値がたまっていくわけでもなく、今年卒業してしまえば、また素人が来てしまう。それなのに、なぜ自分が選ぶことに意味があるとおもってしまうんだろうかと疑問なんです。自分で見分けるんだ、自分で判断するんだという信念があって。そんな個人主義が社会制度を無効にしちゃっている。あるいは、社会制度の不在の中で、その弊害を拡大してしまっているともいえます。

    たとえば、昔の就職活動は就職課やゼミなんかが主役なわけです。先生が企業を選んで、ここだったら信用できるとか、この事業者は知りい合いだからと、就職先を紹介していました。企業の方も、「あの先生の生徒だから大事にしよう」という関係性で成り立っていたわけです。しっかりとした社会環境の中で、若者は働くことができ、経済も順調に周っていくというしくみでした。

    でも、今は個人主義が徹底されてしまって、有能なカウンセラーがいようとそれを信じられないし、どんなに大学でいいしくみをつくろうと、自由な選択でなければ「自分の可能性を閉ざしてしまう」と考えてしまう。それがブラック企業を助長する一つの原因になっているとおもいますね。

    常見:やっぱり、接続の問題って重要なことですよね。結論からいうと、中堅以下の学校は可哀そう。上位校ならまだ先輩後輩のつながりがあるし、リクルーターがついたりもしますからね。でも、それがないと、ブラック企業に入社してしまう可能性はかなり高まりますよね。

    今野:たぶん、筑紫野女子学園大学は、地域で就職する女子学生が大半だとおもうんですよ。だから、地域の企業訪問をして、採用をより分けるようなサイクルを形成しやすいという面があるのだとおもいます。

    ◇「自由の罠」

    今野:過去の就活システムには、ルールがありました。昔は学歴主義で、良い大学や、高校の成績順に、勉強のできる人を取った。そういう人はまじめに働くし、だから企業も発展していくというしくみでした。

    これは閉鎖的なしくみである反面、ものすごく効率的だし、ある種の合理性でマッチングしているわけです。成績が良い人=大企業という図式です。

    このルールをなくしてしまったら、結局意味がわからなくなってしまうんです。平等にチャンスがあるという「建前」は、大切なことなのかもしれませんが、実際のところ、誰がどういった職種につくのか、というのがある程度学歴によって決まっているといえるでしょうし、嫌な仕事だって誰かが引き受けなければいけない。でも、とりあえずみんな自分で選びなさい、頑張りなさいとなってしまうと、社会が混乱してしまうとおもいます。そして大量エントリー・大量不採用の過程で、しんどくなった若者は鬱病にかかり、企業は本当に入社したい人を探し出すための経費負担が増します。

     
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