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【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第9回】
2013-11-30 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】 これで二人目だ。
最も話しかけづらいと思っていた同年代の女の子と、明らかに怖くて普段なら絶対関わり合いになりたくないヤンキーを説得できたことで、僕の中に少しずつ、本当に少しずつだが、自信らしきものが芽吹いてきていた。しかも運良く僧侶、魔法使いとバランスよく勧誘できた。あと一人。あと一人でいいんだ。地獄のような勧誘に終わりが見えた。もしかしたらこれは、いけるんじゃないか?
ゆうしゃは「にのうでさわらせて」を おもいついた!
うん、なんか今変な呪文覚えた! でも気にしないことにする! あと一人! あと一人!
「あっ」
マカロンが声をあげた。その声に反応して、僕もマカロンの方を見る。
「イルーカさん」
マカロンが、酒場の入口の方を見ながら言う。
ふと見ると、そこには女性が立っていた。胸元が大きく開き、深いスリットが入った深紅のチャイナド -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第8回】
2013-11-28 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】「あなた、死んでたわよ」
またも死亡。またしてもドレアさんの声で目が覚める。
僕はさっきと同じように、酒場のカウンターの前で横たわっていた。
たかだか五分くらいの間に二回連続で死んだ。「死因は何だ?」「はい、自分が臭いのではないかという被害妄想による精神的ショックです」などと、僕の頭の中の刑事二人が話し合っている様子が浮かんだ。ダメだ。まさかこれほどとは。常々ガラスのメンタルだとは思っていたが、よもやここまで脆いとは。
「おいオマエ! 打たれ弱すぎるぞ! しっかりしろ!」
師匠気取りのゴブリンが僕を抱き起こし、両肩をぐらぐら揺すってくる。
「いいか。次が三度目だ。三度目の正直だぜ。いってこい!」
ああ行くよ。行くしかないもんな。
だけどなヨコリン、いいことを教えてやる。
三度目の正直という言葉、とても素晴らしい言葉だと思うよ。
しかしな -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第7回】
2013-11-26 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】「あら? 目が覚めたみたいね」
ドレアさんが僕の顔を覗き込んで、声をかけてくれている。
僕は、酒場のカウンターの前に横たわっていた。
あれ、なんで寝てるんだ? 記憶が抜けてる。たしか女の子を勧誘しようとして、そうだ、「なんか臭くない?」って言われて、目の前が真っ暗になって……
「あなた、死んでたわよ」
ええええ!
僕、死んでましたかあああ!
死んでたのはいいとして、いやよくないけど、全っ然よくないけど、「死んでたわよ」って。
もっと他になんか言い方あるんじゃないだろうか。ドレアさんはオブラートに包むという言葉をご存知なんだろうか。まあ、死んでたわけだから「死んでたわよ」で何一つ間違っていないんだが。そうか。僕、死んだか。生まれてすみません。そして死んですみません。
ということは、僕は生き返らせてもらったんだろうか。誰に? ドレアさんに? -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第6回】
2013-11-23 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】 ここまで考えて僕が出した結論は「女の子に話しかけるのはやめよう」だった。
大丈夫だ。酒場は二階まである。あえて話しかけづらい女の子を勧誘しなくても、二階に話しかけやすそうな人がいるかもしれないじゃないか。そもそも女の子なんか連れていったら、冒険してる最中「今、変な奴と思われたんじゃないか」とか気になってしょうがない。しかも「キモイ」とか言ってくるかもしれない。モンスターと戦ってる時に「キモイ」を唱えられたらモンスターからも味方からも大ダメージだ。女の子とモンスター、なぜか二つの勢力と戦うハメになってしまう。だからやっぱりまず二階へ行こう。そうだ。そうしよう。
明らかに楽しそうに賑わっている二階に行くのもかなり嫌だったが、それでも同年代の女の子に話しかけるよりはマシだと判断し、僕はゆっくりと二階に続く階段をのぼっていった。
顔をふせ、下を向いて、 -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第5回】
2013-11-21 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】 気を取り直して一階を見回してみて気づく。一階には、女の子がぽつんとひとり座っているだけだった。一階にいたのはドレアさんとヨコリン、そしてこの女の子だけなのだ。
女の子。女の子か。一番話しかけるのに困るタイプの人間だ。困るというか、決定的に苦手だ。まだ幼さの残る顔立ちから察するに、十六、十七歳くらいだろう。明らかに僕と歳が近そうな女の子だ。よりによって同年代の女の子か。嫌だ、どうしよう。
僕の「話しかけやすさランキング」の中で、もっとも話しやすいのは中年のおばさんだ。なぜ中年のおばさんがいいかというと、はいはい頷いているだけでおばさんが勝手に話を進めてくれるからだ。それに相手がおばさんの場合、僕からもおばさんからも恋愛対象から外れるため、変に自分をよく見せようとする必要がないこともストレス軽減の一因となっている。僕は相手から「変な奴だ」と思われる事 -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第4回】
2013-11-19 00:003章 やればできる
【 はじめから よむ (第1回へ) 】 三人だ。
たった三人でいい。
今の僕に必要なものは勇気。
たった三人の仲間を得るために、誰かに話しかける勇気が欲しい。
勇ましき者の血を引いているはずなのに、致命的に勇気が足りない僕だったが、とにかく三人だ。仲間が三人欲しい。勇者のお供といえば三人。勇者を含めて四人のパーティで世界を救うというのが古来からの伝統である。かつて桃から生まれた勇者もそうであった。とはいえ、その時は三人ではなく二匹と一羽だったが。
仲間の数は三。三がいいのだ。三こそ巨悪に立ち向かうラッキーナンバーである。
ヨコリンに教えてもらった呪文を狂ったように反芻している矢先、ふとドレアさんから言われた言葉が頭をよぎった。
「どんな仲間をお探しなの?」
「ほら、職業とか、年齢とか、性別とか」
しまった。そうだ。何も考えてない。職業とか年齢とか性別とか。 -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第3回】
2013-11-16 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】 死んだ魚のような目をして遠くを見つめながら「はははははは」と小声で笑う僕をまったく気にせず、ヨコリンはアドバイスを始めた。
「説得の基本は、呪文だぜ!」
呪文。あれか。火が出たり、風を起こしたり、凍らせたりできる不思議な力のことか。
「もっとも、ここで言う呪文っていうのは、火や風や氷の呪文のことじゃないぜ!」
違うのか。確かに仲間を勧誘するのに火とか氷を出してたら大惨事になる。
「『いただきます』『さようなら』なんていう基本的なあいさつ、これが呪文だぜ」
え?
「『いいてんきだね』『ごはんおごるよ』なんて日常会話、これも呪文だぜ」
ん?
「『おれがまもってやる』『キミをだきしめたいよ』なんて殺し文句も、立派な呪文だぜ!」
えええ?
「もう、わかっただろ? 相手に向かって発するコトバ、そのすべてが呪文なんだぜ!」
なんだその理屈。またそんな -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第2回】
2013-11-14 00:002章 いったい何を言えばいいの
【 はじめから よむ (第1回へ) 】 突然の死刑宣告からどれくらいの時間が経っただろう。三十分か。一時間か。
僕は酒場の隅っこの壁にもたれかかり、がたがた震えていた。
カウンターにいるドレアさんから見える位置だと気まずいので、カウンターの奥からはちょうど死角になるような位置をキープし、「酒場にはよく来るんです」「この壁の横が僕のお気に入りスポットなんスよ」と言わんばかりに必死で平静を装っていた。できるだけ変な目で見られないようにしたかったが、手首を回したり、前髪を触ったり、目線だけチラチラ動かしたりと全く落ち着きがなかったので、爆弾でも仕掛けようとしている不審者にしか見えなかっただろう。通報されなくて本当によかったと思う。
僕がいるのは壁の前。ヤニとホコリで薄汚れた、場末の酒場の壁の前。
ああ。そうだ。壁なんだ。
人生にはしばしば、乗り越え -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第1回】
2013-11-12 00:000章 プロローグ
それは ゆうしゃが たんじょうびを むかえた あさで あった。
とつぜん おうさまから よびだされ
ゆうしゃは しろへ むかった。
「おお! ゆうしゃ よ!
そなたがくるのを まっておったぞ。
きょう わざわざ よびたてたのは
ふういんされたはずの まおうが
ふたたび あらわれたから なのだ!
これから そなたには あくのけしん
まおうを たおして もらいたい。
しかし きになる ことがある。
それは せんじつの ことだ。
まちのひとびとが そなたのことを
うわさしているのを みみにした。
『じゅうえんだまのような かおいろだ』
『かせい でも いきられそうな かおつきを している』
『どもっていて なにをいっているのか よく わからない』
ひどい ないようだ。
きけば そなた
ふだんから『はい』『いいえ』と
さいていげ -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第0回】
2013-11-08 13:00● 「あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね」とは?2013年5月にiPhone/Android無料ゲームアプリとしてリリースされ、
RPG・アドベンチャーの2カテゴリで1位を記録したレトロコミュニケーションRPG。
プレイヤーは勇者となり、魔王討伐に向かうため、
どこかで見たことがあるような酒場で仲間を勧誘するところから物語は始まります。
ただし勇者は人付き合いが大の苦手、コミュニケーションに難ありのハイティーン!
モンスターとの戦いではなく人との会話こそが「戦闘」のように感じられる過酷な状況!
ファミコンテイストのグラフィックとBGMが古き良き時代を思い起こさせる、
マヌケでおバカなゲームです。
● そんなアプリを「小説化」してみることにしました
しかも長編連載です。ほぼ勢いに任せて決断いたしました。
小説化するのは、ゲームのシナリオも担当しておりますSYUPRO-DX・横
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