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Yakitoriさん のコメント

何かしてもらったら、ありがとうから始めよう。(提案
No.28
134ヶ月前
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0章  プロローグ  それは ゆうしゃが たんじょうびを むかえた あさで あった。  とつぜん おうさまから よびだされ  ゆうしゃは しろへ むかった。 「おお! ゆうしゃ よ!  そなたがくるのを まっておったぞ。    きょう わざわざ よびたてたのは  ふういんされたはずの まおうが  ふたたび あらわれたから なのだ!    これから そなたには あくのけしん  まおうを たおして もらいたい。  しかし きになる ことがある。    それは せんじつの ことだ。  まちのひとびとが そなたのことを  うわさしているのを みみにした。   『じゅうえんだまのような かおいろだ』 『かせい でも いきられそうな かおつきを している』 『どもっていて なにをいっているのか よく わからない』  ひどい ないようだ。  きけば そなた  ふだんから『はい』『いいえ』と  さいていげんの ことしか はなさぬ らしいな。    あんのじょう そなたは まだ  さきほどから ひとことも はなしておらぬ。    まさか……  ひとづきあいが にがてな わけでは あるまいな?    ……    おい なにか いったらどうだ。  コミュニケーションは だいじだぞ。    やけに めせんが およいでいるし  ひどく あせをかいているようだが  なぜ むごん なのだ!    ええい イライラする!    そなたの どうようを みるに  ひとづきあいに かんして  なにか トラウマでも あるようだが……  なにが そなたを そうさせたのか。  ゆいしょただしき いさましきものの  ちをひく ゆうしゃ だというのに  ひどい ありさまでは ないか!    しかし そなたが  どんな じょうたいであれ  わしらは ゆうしゃに たよるほか ないのだ。    まおうを たおすのは ひとりでは むずかしい。  なかまが ひつよう ふかけつじゃ!    まずは なかまあつめの ために  さかばへ いくと よい。    かげぐちを いろいろ いわれても  きに するでない。  そなたは ゆうしゃ なのだから。    むごんでは だれも ついてこない。  しっかりと かいわするのだぞ」    そして ゆうしゃは ひとり  さかばへ むかった。  あしどりは とても おもかった……   1章 ここは出会いと別れの酒場よ  帰りたい。  たまに、家にいるのに「帰りたい」と思うことがあるんだけど、あれは一体どこに帰りたいと思っているんだろう。ここではないどこか。まだ見ぬ安息の地。場所ではなくて時間なのかもしれない。もう帰れないあの頃に戻りたいと、無意識に思っているのかもしれない。安息の地がもしあるのなら、それはきっとアダムとイブがいたという楽園・エデンだろうか。僕はエデンの戦士なんだろうか。こんにちはエデンの戦士です。違います。  帰りたい。エデンにじゃなく、純粋に家に帰りたい。  酒場の前で呆然と立ち尽くしながら僕は思う。こんなことがなければ絶対に立ち寄ろうなんて思わなかった場所。人が大勢いて、いつもでかい声でしゃべっていて、よせばいいのに調子に乗って飲み過ぎてゲーゲー吐いたりしてる。何が楽しいのかまったく理解できない。  けれども僕がここに来る事は、最初から決まっていた。「運命」というやつだ。由緒正しき勇ましき者の血を引く僕は、生まれた時から成すべき事を決められていたんだ。  敷かれたレールの上を走るだけなんてつまらなくないか、と言った人もいる。確かに僕も、敷かれたレールが納得のいかないものだったらそう思ったかもしれない。けれど僕は、このレールを走れる事を誇りに思っている。この気持ちが、かろうじて今の僕を支えている。  勇者の一族は皆、誕生日を迎えたその日に、街の酒場で仲間を募り、魔王討伐に向けて長い旅に出る。誰でも知ってる常識だ。だけどもなんで酒場なんだ。そこだけ納得がいかない。勇者の一族はだいたい十代のうちに旅立つのに、仲間を集める場所が酒場っておかしくないか。   カフェとかじゃダメだったのか。オシャレなカフェでカプチーノを飲みながら優雅に過ごす冒険者たち。ときおり聞こえる上品な笑い声。カップを持つ時すらりと伸びた小指。ダメだものすごく弱そうだ。カフェにいる奴なんて信用ならない。こじんまりしたテーブルでわざわざパソコンを広げてカタカタやってる奴は一体何を考えてるのか。何が楽しいのかまったく理解できない。 「まさか、人付き合いが苦手なわけではあるまいな?」  うわあ。  帰りたい。もう嫌だ帰りたい。  現実逃避の妄想が途切れたとたん、ついさっき王様から言われたばかりの言葉を思い出してしまった。最悪だ。せっかく記憶の隅に追いやった出来事が僕の意志とは無関係に、くり返し頭の中によみがえってくる。 「やけに目線が泳いでいるし、ひどく汗をかいているようだが、なぜ無言なのだ!」  うわああもう嫌。好きで無言だったわけじゃない。僕だって必死だったんだ。あなたは知らないでしょうけど、僕は真面目に真剣に話を聞いていただけなんだ。それをどうして、そんな強い口調で言うんです。怖い。何か僕が悪い事しましたか。してないでしょう。黙って話を聞いてただけでしょう。 「ええい! イライラする!」  うわあ! 「ええい! イライラする!」  ああああもう! 「ええい! イライラする!」  ああああ! あああああああ! うわあもう嫌だあああ!  一回言われただけなのに百回も二百回も言われた気分になってくる。わかってる、全部自分のせいだ。他人を、しかも目上の人を不愉快にさせてしまった自分が嫌で、何度も何度も思い出しては身もだえる。できれば忘れたい。なのに何度も頭の中で、自分で再生ボタンを押してしまう。脳裏に刻み込まれた「至らなかった自分」の記憶を、何度も、何度も。脳みそが本当に邪魔。これ半分にならないですかね。取っちゃいたい。取れたらいいのに。  こんな時、物事を自由に忘れられる能力があったらどんなにいいかと思う。聞けば、数世代前の勇者には、物事を自由に覚え、自由に忘れることができる能力があったという。なんてうらやましい話だろうか。その頃の勇者は、旅先で得た有力な情報などを覚え、必要な時にだけ思い出し、用が済んだら忘れるという、効率が良い上にストレスとは無縁の冒険をしていたらしい。なんということか。これこそ生きていく上で最も必要な能力ではないですか。  嫌な事を綺麗さっぱり忘れられる。それが出来るだけで、どれだけの人間が苦しまずに済むか。嫌な事を忘れられないせいで死んでいく人が大勢いる今の世の中で、革命とも言えるべき能力を、僕の一族は持っていたのだ。なのになぜ僕はこの「わすれる」という能力を持ってないんですか。神様。劣性遺伝ですか。劣っているから僕にはないんですか。あんまりじゃないですか。しかも、たぶん劣性遺伝ってそういう意味じゃない。忘れたい記憶がまた増えた。  だから僕は、つらい記憶にカギをかけ、心の隅に追いやるのだ。いつもそうしてきた。重くて堅い心の扉の奥へ、歯を食いしばりながらグイグイ押し込むのだ。こんな自分がどうしようもなく嫌だけど、いつからか僕は、こんな自分になってしまいました。変わりたいのに変われない。普通にしたいのに普通にできない。人と話すのが怖くて怖くて仕方がない。嫌われるのも、相手を嫌な気持ちにさせるのも嫌だ。嫌なことだらけだ。ちくしょう。ちくしょう。  こんな僕が、これから酒場で仲間を探すんです。  魔王討伐に向かうために。  世界の平和を守るために。  夢にまで見た魔王討伐への冒険の第一歩だというのに、憂鬱でしかたがない。  世界の平和は守りたいけど、そのためには仲間を探さなければならない。知らない人とばっかり話さなきゃならない。最悪だ。帰りたい。いや旅に出たい。帰りたくない帰りたい。  強烈な自己矛盾を抱えたまま、僕は酒場の前から一歩も動けずにいた。中に入るでもなく、家に帰るでもなく、ただただそこに立っていた。端から見ればぼんやり立っているだけに見えただろうけど、頭の中は暴風域で、いろいろなことが目まぐるしく思い浮かんでは消えていった。  どちらにせよ、この酒場で仲間を勧誘しなければ、僕は旅立つ事ができない。それだけは間違いのない事実。僕の旅は、旅立つ前からクライマックスを迎えていた。  酒場は、僕の家から歩いて五分もかからない近所にある。宿屋の裏側を抜けて、道具屋の脇を奥に入ったところだ。灰色のすすけたレンガを組んで作られた酒場はおそらく二階建てで、さほど大きな建物ではなかった。建物のまわりにはきちんと手を入れられた小さな庭があり、いくつか花が咲いていた。  回覧板でも回しにいけそうな距離にある何の変哲もない建物が、今の僕には魔王の城よりも恐ろしい場所に思えた。敵の本陣に裸で飛び込むような気分。生きた心地がしなかった。もちろん服は着ているし、城を出る時に王様から餞別として五十ゴールドと銅の剣をもらったけれど、五十ゴールドと銅の剣で魔王を倒せるわけがないよね。人類を救うための一大プロジェクトだというのに、なんなのですかこの切ない餞別。廃部寸前の部活だってさすがにもう少しもらってるよ。ちくしょう。ちくしょう。  入るしかない。かなり嫌だが中に入るしかない。僕は覚悟を決めて酒場のドアを開けた。  中に入った途端、アルコールの匂いが鼻をかすめた。板張りの床に、いくつかテーブルが並んでいる。うつむきながら入ったので、今ここに何人の客がいるのかもわからないが、おそらく店の奥のカウンターにいる人物が店主だろう。早いところ店主に話して仲間を紹介してもらって、こんなところすぐ出よう。そうしよう。  おそるおそるカウンターに近づいていくと、店主らしき人物は電話をしていた。  店主は女性で、二十代後半から三十代ぐらいに見えるが、落ち着いた仕草や立ち振る舞いから、もう少し歳がいっているようにも思えた。いや、まあ、年齢とかは別にいいんだけど、この店主ときたら僕が近づいてきたことにまったく気づいていない様子で、僕がカウンターの目の前に立っているにも関わらず、楽しげに電話を続けていた。 「えー? それで、何時頃になりそうなの?」 「うん、うん。あなたの気持ちはよくわかってるわよ。あたしに任せて」 「うふふ。褒めても何にも出ないわよ」 「いやだぁ、あははははは」  なんてことだ。ものすごく居心地が悪い。一回出直した方がいいだろうか。 「うん、それじゃ、待ってるからね」  お、そろそろ電話が終わりそうか。 「え? だから、それは私がやっておくから、あなたは何も気にせず来ればいいのよ」 「大丈夫。ちゃんと待たせておくわ」 「もちろん内緒にしておくわよ! 心配いらないわ」 「何言ってるの。おばさんをからかうんじゃないの。あはははははは」  ダメだ終わらない。たぶん電話の相手も女なんだ。きっと話がひとつ終わりそうになると、とりとめもない別の話が始まって、永遠に話が続いていくんだ。恐ろしい。これがガールズトークか。帰りたい。なんで旅立つ直前にまったく知らない人のガールズトークを聞かなきゃならないんだ。もうやだ。気分悪くなってきた。旅立つの明日ってことになんないかな。もしくは今すぐここに巨大な隕石が降ってきて全部なかったことにならないかな。隕石が降ってきて魔王と僕だけ生き残って、いきなり最終決戦に突入するんだ。でもそうしたら守るべき人とかもう誰もいないし、そもそも今の僕じゃ魔王に勝てる気がしないから話し合いで解決しよう。魔王が「わしの味方になれば世界の半分をやろう」って言ったら迷わず「はい」って答えて、世界の半分を魔王と分け合ってエンディング。最悪の終わり方だ。そもそも魔王と話し合いなんてできるか? 街の人と話すだけで吐き気をもよおすこの僕が? 無理だ。ダメだ八方ふさがりだ。隕石よ、お願いだから降らないで。 「うん、それじゃ後でねー」  世界征服を企む魔王が、迫り来る大量の隕石から世界を守る「魔王対隕石」っていう映画はどうだろう、という妄想を始めたところで店主の電話が終わった。魔王対隕石、とてつもなく B 級の匂いがする映画だ。どうでもいいわ。魔王と隕石は戦わないわ。 「あら? お客様ね。ごめんなさい電話に夢中で全然気づかなかったわ」  おそらく僕が到着してからも十五分は電話をしていただろう。そんなに長い間お客様が来た事に気づかないって客商売としてどうなのかと思いながら、僕は第一声になんと言ったらいいのか考えていた。というよりも、妄想の途中で急に話しかけられて、パニックになっていた。 「ここは旅人の酒場。出会いを求め、集う場所。何をお望みかしら?」  ひい。  僕の頭の中に飛び出した第一声は「はい」でも「いいえ」でもなく「ひい」だった。怖かったからだ。何をお望みかと問われて「ひい」が出てくる人間は世界広しといえども僕くらいのものだろう。  そもそも何をお望みかと問われたら「はい」も「いいえ」も解答としてはおかしい。なんて答えればいいのか。仲間を探しに来たのだから、それをそのまま伝えればいいだけなのに、いざ口に出そうとするとうまく口が動かない。僕の脳みそと口を結ぶ連絡通路で事故が起こって大渋滞になっている様子が浮かんだ。  魔王討伐に行くために仲間を探してるんです。  腕の立つ冒険者を何人か紹介していただけませんか?  僕が言いたいのはたったこれだけのことだ。その他の事は何も望んでいない。 「どうしたの?」  はひぃ。 「あなたのお望みは一体なあに?」  店主が畳み掛けるように言葉を紡いできた。今だ。僕の望みを言え。魔王討伐に行くために仲間を探してるんだと言え! 「あぁ、う、えっ……」  僕の口から出た声、ゾンビの如し。今まさに地中から蘇らんとする腐った死体の咆哮にも似た気色の悪い声が、今の僕に出せる精一杯だった。こんにちは勇者です。でも今日から勇者ではなく腐った死体と名乗った方がいいかもしれません。もうダメだ絶対気持ち悪い奴だと思われた。死にたい。帰りたい。腐った死体はすでに死んでいるので地中に帰ります。  しかし、酒場の店主は嫌な顔ひとつせず、にこっと笑ってくれたのだった。 「仲間をお探しなのね?」  うわあ! そう! そうなんです!  なんでわかったんだ。テレパシーか。僕の強い気持ちが念波となって伝わったんだろうか。僕は、自分が最も欲しい言葉を相手に言われた事で異常に興奮し、必死になって手足をばたばたさせた。おそらく僕のその様子は、さしずめ捕獲されたカニのように見えただろう。ひどく無様で滑稽だったと思う。 「あたしはドレア。この酒場の店主よ」  カニのような動きをしながら、僕は必死に頷く。 「それで、どんな仲間をお探しなの?」  どんな、と、言いますと? 僕は眉間にしわを寄せ、首をかしげる動作をする。 「ほら、職業とか、年齢とか、性別とか」  そ、そんな事言われても。どんな仲間が欲しいかなんて、何一つ考えていなかった。  人と話す恐怖に気を取られて、それ以外のことはまるで考えていなかったことに初めて気づき、またも頭の中が暴風域に入った。僕はなんてバカなんだ、これだからダメなんだ、職業ってどんなのがあるの、仲間にしたい人の年齢とか選べるの、知らなかった、フヌケだ、全部知らなかった、僕はバカだ。体は腐食、頭脳も腐食! その名は、腐った死体! 「特に希望はないのね? どんな仲間が欲しいとか」  酒場の店主・ドレアさんが僕の顔を覗き込み、尋ねてくる。  酒場で仲間を探す人は、どんな仲間が欲しいとかプランを練ってくるものなのか。僕こういうお店初めてなんでわからないんですよ。なんか説明会とかあったんですか。ネットで調べたらマニュアルとか載ってませんか。あったら調べてきたのに。もうやだ、初心者丸出しで絶対ナメられてる。自意識が暴走して血の気が引いてきた。手足が小刻みに震えてる。 「希望がないとなると、こちらから紹介するのは難しいわね」  すみません。申し訳ありません。僕は自分のふがいなさを呪いながら、ドレアさんに迷惑をかけてしまったと思い、頭の中で何度も謝罪の言葉をくり返した。 「一緒に旅する仲間はね、強いとか弱いとかそれ以前に、ウマが合うかどうかが大事なの」  すみません。申し訳ありません。 「仲間同士でケンカしてちゃ、命の危険が伴う冒険なんてうまくいくはずないでしょ?」  すみません。申し訳ありません。別にお説教をされているわけではないし、ドレアさんは優しく話しかけてくれているというのに、僕の気分といったら、何か悪いことをしてお説教をされている子供の気分そのものだった。 「この酒場にはたくさん人がいるから、自分で話しかけて、気の合う人を連れていくのはどうかしら」  自分で話しかけて、気の合う人を連れていく。  この、僕が?  人と話すのにとてつもない恐怖を感じ、コミュニケーションから逃れ続け、人付き合いのヘタさにコンプレックスを持つ僕が、自分で話しかけて気の合う人を連れていく?  無理だ。できっこない。やりたくない。  でも、やらないと旅立てない。魔王を倒すという夢が、自宅の近所で消えてなくなる。  死刑宣告を受けた気分だった。  酒場の店主に仲間を数人紹介してもらえば、話しかけるのは酒場の店主ひとりだけで済む。    そんな風に考えていた時期が、僕にもありました。  淡い期待を無惨に打ち砕かれ、僕は願った。隕石よ、今こそ落ちてこい。 【 第2回を読む 】 ・原作となるアプリは こちら (iPhone、Androidに対応しております) http://syupro-dx.jp/apps/index.html?app=dobunezumi
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【シュウプロデラックス】浜中、横田、入間川からなる3人組のアプリデベロッパー。天井にめり込んでジャンピング土下座を決める鋼鉄の肉体を持つ男、パイルドライバーを失敗すると引退しようとするベテランレスラーなど、向こう側の世界観を模索するバカゲーアプリの開発から活動をスタートし、処女作「THE・土下座」がゲーム総合1位を獲得。「あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね」はカジュアルRPGながら小説の書籍化、マンガ化などメディアミックスもされている。シナリオやアプリで使用される楽曲が多くのプレイヤーに支持され、どこか懐かしく心に刺さるドット絵のカジュアルRPGの制作に日々奮闘している。