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【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第12回】
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【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第12回】

2013-12-07 00:00


    はじめから よむ (第1回へ)

    「オマエ、レベル2の仲間で魔王倒せるのか?」

     二階にいるからレベル2という意味だろうか? いささか乱暴な理屈だが、レベル2の仲間で魔王を倒せるかと問われれば難しいと答えざるを得ないのが大いに不本意だ、けども、だからって。

    「オレサマはオマエの師匠だ! 師匠の言う事は、聞くべきだぜ!」

     

     ヨコリンからは にげられない!

     ゆうしゃは いやいやながら 3かいに いかされた!

     

     こんな事があっていいのか。動く城とか飛ぶ教室というのは聞いたことがあったが、増築される酒場というのは初めてだ。いや増築自体は別にいいし勝手にしてくれて構わないけど、なぜその工事の日と僕の旅立ちの日がカブるんだ。今思えば二階で聞こえたあの音は、増築工事の音だったんだ。それだけじゃない。変なゴブリンに目をつけられて酒場から出られなくなったのも痛い。おまけに説得したばかりの仲間たちは僕の性格を理解していないため、基本的に誰も仲間の勧誘を手伝ってくれないときている。ヤバイ。とんでもなく悪い流れに巻き込まれている気がした。

     僕はすっかり意気消沈してしまった。今なら死兆星が見えてもおかしくない。

     

     ゆうしゃは おとなのかいだんを のぼった!

     ゆうしゃは レベルが あがった!

     

     こんな時でもレベルって上がるんですね! 限りなく後ろ向きなレベルアップをしたよ! 階段を上がりレベルも上がり気持ちは下がり、もう上がってるのか下がってるのか自分でもよくわかりません!

     僕はほぼヤケクソで、三階の冒険者たちに特攻した。仲間候補に「特攻」というのもおかしな話だったが、今の僕の気持ちを表すのにこれほど相応しい言葉はなかった。相手は三人。一世一代、玉砕覚悟のバンザイアタック、今ここに開始!

     

     シルキーが あらわれた!

     シルキーが はなしかけてきた!

    「あいとか こいとか きょうみないの!」

    「やっぱり よのなか おかねだよね!」

     シルキーは おかねに めを かがやかせている!

     ゆうしゃの じゅもん!

    「おやじは王さまなんだ」

     シルキーの こころにひびいた!

     シルキーに 71のダメージ!

     シルキーは たおれた!

     

     シルキーは女商人で、何よりお金が大好きらしいので、さっき二階で覚えた「おやじは王さまなんだ」が効果てきめんだった。完全に七光りを武器にした非常にズルい言葉だ。しかも僕の父は王様ではない。真っ赤な嘘だ。最低だ。心が痛いが次へいく!

     

     ウェインが あらわれた!

     ウェインが はなしかけてきた!

    「わたしは なんかいな すうがくの ろんぶんを いくつも かいたのだ」

    「どうだ? すごいだろう?」

     ウェインは じしん たっぷりだ!

     ゆうしゃの じゅもん!

    「ぼくにはとてもできない」

     ウェインの こころにひびいた!

     ウェインに 72のダメージ!

     ウェインは たおれた!

     

     ウェインはどこの学校を出たかでしか人を判断しない、学歴社会のお化けであった。プライドの高い男賢者なので、尊厳を傷つけないように「僕にはできないが、あなたにはできるからスゴイ」とアピールし、相手を上げる高等呪文「ぼくにはとてもできない」が心に響いた。ごまをすりつつ次!

     

     ローシャが あらわれた!

     ローシャが はなしかけてきた!

    「だんたいこうどうは すきじゃない」

    「ほんでも よんでいたほうが たのしい」

     ローシャは ふしめがちに いいはなった!

     ゆうしゃの じゅもん!

    「ひとりはさみしいだろ」

     ローシャの こころにひびいた!

     ローシャに 76のダメージ!

     ローシャは たおれた!

     

     ローシャは女盗賊で、一見ひょうひょうとした一匹狼タイプの女性に見えたが、実際は自己表現が苦手なだけだった。みんなの輪になかなか入れなかったが、本当は仲間に入りたいと思っていたらしい。せつない。とてつもない親近感だ。だからこそそんな気持ちをわかってあげられる「ひとりはさみしいだろ」が的中。これで三名撃沈! 今度こそ勧誘は終わりだ!

     サクサク勧誘できたように見えるかもしれないが、今日までまともに人と会話してこなかった僕の心的負担はすさまじく、大して動いたわけでもないのに体はふらふらで、目はかすみ、いつ倒れてもおかしくないくらい疲弊していた。なにしろ「特攻」したのだから当然だ。

     でも、これで終わりだ。本当にもう終わりだ。僕は大きく息を吐き、椅子に腰を下ろした。決して心地よい疲れではなかったが、がんばったことによる満足感はしっかり味わえていた。一階、二階、三階と、十人近い仲間を説得してきて、ようやく確かにレベルが上がったという実感が湧いてきた。僕が成長したせいなのだろうか。酒場のたたずまいや部屋のインテリアはどの階も代わり映えしないのに、目の前の景色が少しだけ、鮮やかに見える気がする。このテーブルも。今座ってる椅子も。壁際に置かれた酒ダルも。上に登る階段も。上に登る階段?

     おや。おやおやおやおや?

     ここは三階。そしてあれは上に登る階段。あれー? おっかしいぞー?

     弾かれたように椅子から立ち上がり、階段を登ってみる。悪い予感が現実味を帯びてくる。

     四階ができていました。

     シット! この野郎! なんでだ。なんでだ。なんでなんだ。しかも三階ができた時と同じように、四階にもすでに冒険者がスタンバイ済み。もう本当にスタンバイとしか言いようがないくらいの素早さと手際のよさ。なんなの君たち? 本当になんなの? 陰謀なの?

     ドッキリ大成功の札を持って誰か出てこいという願いは叶わず、カメラらしきものもどこにもない。仕込みでも夢でもない。これが僕の現実らしかった。思えば三階の冒険者たちを勧誘している間も、どこからか工事の音が絶え間なく聞こえていた。今気づいた。それに気づけないほど落ち込んでいたのだった。

     ヨコリンが階段の横で上を指差しながら、ゲヘゲヘ笑っているのが目に入る。

     ああ。そう。そうですか。まだ勧誘しないといけないですか。

     気力も体力も底をつき、運命の神様からも見放されたらしい。

     僕は声にならない声で泣いた。

     そしてほぼ半泣きのまま一階を目指して走っていく。もうホント勘弁して。もう無理。限界。一生のお願いです。ドレアさん、増築をやめてください!




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    ・原作となるアプリはこちら(iPhone、Androidに対応しております)

    http://syupro-dx.jp/apps/index.html?app=dobunezumi

     

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