――人類はどうやって暮らしていくべきか。
――敵と言える存在とどのように関わっていくべきか。

漫画と平和論(正義論)の関係は案外深い。
バトル系の少年漫画を読んでいるとほぼ必ず、
この概念に対するキャラ同士の討論が展開される。
クライマックスで行われ、重要な争点となることも多い。

戦いというものを、ゲーム(枠内の競技)ではなく
主人公の成す正しき何かとして作者が突き詰めると、
必然的にそういう方向に行くのだと思う。

「魔王を倒すのは本当に正義か?」というもはや見慣れすぎた問答に始まり、
数パターンの論点に対して、今も様々な作品で盛んに言及されている。

この観点で僕は、
他の作品を読んだり、
世の中の他の知識、出来事と結びつけて考えたりしてきた。
そしてそれは、まだ途中だ。

ただとりあえず、
絶対的な正解が無いということは分かっている。

これは「哲学」「現代思想」が参考になる。
「正義」という概念はただの言葉でしかなく、
真理などは存在しない。
思想家の長年に及ぶ議論の結果、
絶対的な正義が無いと分かってしまった現代社会において、
「真の平和とは」という問い自体が無効で、言葉遊びに過ぎない。

「平和学」という学問もあるが、これも明確な指針を示せてはいない。
間違った現状を各個撃破していく感じだ。

そうなると一段下がって
「落とし所としての、いい感じの平和ってどんなだろ」
みたいな感じで持論を各自が突き詰めていく方向になる。

これについても、正解は無いが「失敗例」はいくつか分かっていて、
例えば、
論理の力を過信した啓蒙思想、合理主義的な方向性(蛮族を近代化したるで~)や、
個人を殺した全体主義的な方向性は否定されている。

しかし正解はない。

故に近代以降、創作は難化した。
「物語」は問題と結果を求めるが、
問題が「正義」や「平和」に関わってしまうと、
明確な解答が無いので全体がボヤける。

この辺の「スッキリした答えがない」というモヤモヤ感から、
最近は、デスゲーム、スポーツといった、
「勝つことが正しいとスッキリ分かるもの」が増えてきたのかもしれない。
漫画はエンタメなので、それはかなりの正道だと思う。
単純に魔王を倒すのには、少し難儀な時代だ。
そこを更に突き詰めて、物語などいらぬ!!!
と突き抜けたのが「日常系」だろう。

読者が食傷地味な部分もある。
問い自体はそこらじゅうで為されるのに、
まともな回答が得られなければ、疲れるだけだ。
それならいっそ、切り分けて、触れなくて済むような構造にした方がマシだ。
(つまり、ゲーム化、競技化)
「魔王にも別の正義が~」「復讐の連鎖が~」「上層部の腐敗が~」「貴族が~」
これらの「正義論あるある」に、新しい回答なく触れるのは、
今となっては覚悟がいる。

でも同時に読者としては、
根幹的な思想で主人公に共感しながら勝利するのは気持ちいい。
大義のある大戦に勝利すると、心の深い部分が震える。
なので、何とかしてうまく利用したいものでもある。
それには、現代においても陳腐ではない「正義論」がいる。

脇道にそれるが、
「現代では既に解決された問題」にも、個人的にはイマイチ乗り切れない。
例えば奴隷制。
読者の生きる現代日本で、そこに憤りを感じる機会は少ない。
(資本主義は隠された奴隷制だ、とかの話は置いておいて)
それなのに、作中世界で
「奴隷制なんて間違ってるだろ!奴隷解放じゃあぁ!!」と叫ばれても、
「せ、せや!!!!」と、ワンテンポ遅れた共感になってしまう。
「作り物の別世界に感情移入し、そして楽しむ」というワンクッションが挟まる。
既に現実社会で起きた流れをなぞっていく(解法の分かった問題をもう一度解く)感じも、
個人的には好みじゃない。
(もちろん、主人公に深く感情移入すれば、そんなのは小さな問題となるが)
これが例えば「愛する者を守る!!」とかなら、
例え非日常的なファンタジー世界の中だとしても
「せやぁああ!!!!!」と、ストレートに乗れる。
同様に、
現実社会で読者が日常的に感じている憤り(最新の問題)を作中で解決すると、
読者としては非常に大きなカタルシスを得られる。
平和論はこの辺に深く関わってくる。
現代社会は、まぁまぁ上手く回りつつも、
確実にいくつかのヒズミを生んでいて、僕らはそれに苦しみ、
結構強めに、解決を望んでいるのだ。
その解決法の一端にでもいいので、触れられると、気持ちいい。

作者としては、その辺に関する良質な持論を用意したい。

というわけで、
この辺に関して、今後ちょくちょく言及していこうと思います。
気分転換と、考えの整理のためですかね。

体系的にまとめようとすると長大化して失敗するので(失敗して下書きとして眠っている)、
その都度、
何らかのテーマから出発して
雑文を書き散らす感じで行こうと思います。


よろしくおながいします。
たくす