大河ドラマ『いだてん』に「天狗倶楽部」登場!〜横田順彌と古典SF三部作
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

大河ドラマ『いだてん』に「天狗倶楽部」登場!〜横田順彌と古典SF三部作

2019-01-13 12:02




     東京オリンピックについては蟻のお猪口ほどの関心も持ってない私だが、大河ドラマ『いだてん』の初回は絶大な関心を持って視聴した。

     ミステリーや歴史に造詣の深い三谷幸喜とは対照的に、宮藤官九郎はもっぱら小ネタをちりばめた集団劇を得意とする作家。歴史劇には興味なさそうに思えた宮藤が、明治から昭和に渡る50年という時代をどんな視点で切り取るのかと思ってみれば……、プロローグではまだ主人公を活躍させず、嘉納治五郎を中心にオリンピックという祭典とその概念を知った直後の日本人のリアクションを描く内容となっており、彼らの反応から出る言葉が現代オリンピックへの批評となっていたり、50年後の1959年と複雑に往復する構成など(『あまちゃん』も1984年の描写と交差したのを思い出す)、なかなかに挑戦的なすべり出し。
     少なくとも初回放送後、何かを語り合いたくなる要素がほとんど見当たらなかった去年の大河とはあきらかに違う。

     わけても嬉しかったのは、日本初のオリンピック出場選手の一人である三島弥彦と、彼が所属したスポーツ社交団体「天狗倶楽部」の面々が重要な存在として描かれたことだ。
    「天狗倶楽部」という団体は、SF作家にして明治文化研究家である横田順彌(愛称:ヨコジュン)の『火星人類の逆襲』(1988)を読んで知った。題名にある通り、これは火星人が明治44年の日本を襲撃するという内容で、「逆襲」とあるのは、火星人たちはその13年前に大英帝国を襲っているから、つまりこの話はH.G.ウェルズ『宇宙戦争』の後日談として描かれており、さらにウェルズ作品の再解釈でもあったのだ。
     本来の題名は『明治天皇と宇宙大戦争』(!)だったというこの小説、乃木大将率いる近衛師団と火星人との激闘も描かれるが、主人公となるのは『海底軍艦』で知られる冒険作家・押川春浪と早稲田大学応援隊隊長・吉岡信敬、そして彼らが中心となって結成されたバンカラ集団「天狗倶楽部」の個性豊かな面々だった。
    『火星人類の逆襲』の3年後には、続篇『人外魔境の秘密』(1991)も刊行された。こちらでは、天狗倶楽部メンバーが南米のジャングルに出張し、英国のチャレンジャー博士が発見したという謎の台地を探検して恐竜に遭遇する。つまりコナン・ドイル『失われた世界』と世界を共有する物語なのだ。南米に到着した一行を案内するのが、コンデ・コマこと柔術王の前田光世だったり(グレイシー柔術が有名になる以前の小説である)、彼らに飛行船を提供するのがブラジルの飛行機王サントス・デュモンだったり、厳密な時代考証と遊び心を同居させた、空想の明治を描いた傑作だった。「山田風太郎の明治ものが、史実の隙間にあり得たかもしれない物語を構築する試みとすれば、横田順彌の明治SFは、当時書かれていたかもしれない物語を再現する試みと言えるだろう」とは日下三蔵氏の評だが、至言である。


    表紙イラストはバロン吉元。「人外魔境」にルビが振られているのは出版社の独断で著者の意向ではないという。

     このシリーズは解説に<古典SF三部作>とあったので、当然三作目が読めるはずと期待していたのだが、なぜか出版されることがなかった
     横田順彌はほぼ同じ時期に、押川春浪と若き科学小説家・鵜沢龍岳が活躍するSFミステリのシリーズを書き始め、こちらは長編3冊(『星影の伝説』、『水晶の涙雫』、『惜別の祝宴』)、短編集3冊(『時の幻影館』、『夢の陽炎館』、『風の月光館』)にまとまっている。<古典SF三部作>と<押川春浪&鵜沢龍岳シリーズ>は同じ世界線に存在し、それぞれの作品に仕掛けられたある設定が、H.G.ウェルズの『タイム・マシン』を素材とする「古典SF三部作・完結編」で種明かしされるという構想だったそうだが、待てど暮らせど出ない。
     その理由が「出版社から中止させられてしまった」と知ったのはごく最近になってからだ。

     横田順彌には『「天狗倶楽部」快傑伝〜元気と正義の男たち』(1993)、『快絶壮遊 天狗倶楽部〜明治バンカラ交友録』(1999)といった著作もあり、宮藤官九郎もおそらく参考資料としていることだろう。『木更津キャッツアイ』の作者がこの集団を見逃すはずがなかった。ちなみに『いだてん』では押川春浪を武井壮が、吉岡信敬を満島真之介が演じている
     しかし、ヨコジュン初期の小説群、特に実験精神に満ちた連作短編「荒熊雪之丞シリーズ」(現在のギャグ系ラノベにかなり影響を与えているのではないか、と私はニラんでいるがあまりそういう声を聞かない)や、ダジャレでオチがつく落語的ユーモアSF短編(「老婆は一日にしてならず」とか「溺れる者はファラオも掴む」とかいくらでも思い出せるぞ)を愛読した世代としては、ここは『いだてん』に大成功してもらい、『火星人類の逆襲』と『人外魔境の秘密』の復刊、そして幻の完結編の執筆・出版を願わずにはいられない。
     さらに欲をいえば、ヨコジュンのもう一つの代表作『日本SFこてん古典』全3巻の復刊をぜひ! 古書店で発掘した明治から昭和初期にかけての奇想小説を紹介するというこのシリーズ、今の目で見ると内容に誤りが多い、との理由で著者に再刊の意思がないそうだが、凄腕オタクの研究レポートでありながら非常に面白いユーモアエッセイでもあるという、マレな名著だと思うのだ。
     この本自体が稀覯本になっている現状は本当に残念……と、ここまで書いたところで『日本SFこてん古典』が電子書店パピレスで入手可能と知った。荒熊雪之丞シリーズの『謎の宇宙人UFO』や『銀河パトロール報告』も出てるのか。『火星人類の逆襲』と『人外魔境の秘密』もせめて電書化してもらえないだろうか。

    電子書店パピレス「横田順彌」のページhttp://www.papy.co.jp/sc/list/credit1/_sqPFxL3n170


    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。