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ホビージャパンさん のコメント

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ホビージャパン
いつもD&Dの生放送をご視聴いただきありがとうございます。何分にも生放送で配信しておりますので、時々ご不快に思うような発言が混ざってしまうかもしれません。極力そういったことが無いように、今後はより一層気を付けてまいります。
スタッフの会話につきましては、配信の都合上どうしても入ってしまう事がありますが、本筋とは関係ない会話はなるべくマイクで拾わないように注意させていただきます。
No.2
128ヶ月前
このコメントは以下の記事についています
 水曜夜は冒険者――場所はお馴染み、東京は代々木、HobbyJapanの配信室から。  “今日は(戦闘がなかった前回とうってかわって)戦闘ばっかりですよ!!”とDMはセッション開始前に宣言しているというのに――撃破役のセイヴと制御役のミシュナがお休み。双方を兼ねられるエリオンがいるから大丈夫、きっと大丈夫!! と言いながら赴く冒険は……  死者の街の裁判所、絶叫館の裁判はみごと逆転、ヘプタにかかっていた疑いは晴れ、世にも奇怪なアンデッド殺人事件の真犯人はスケルトンのライト氏と知れた。殺人の報いは死刑――ライト氏は絶叫館の処刑場へと引き立てられてゆき、そこの石臼ですりつぶされて骨粉と化した。  処刑は済んだ――が、この事件の“もうひとりの立役者”であったキャリオン・クローラーの幼生“きゃりーちゃん”もどうにかせねばならぬ。  なにしろこの死者の街においてキャリオン・クローラーの存在はまさに“人喰いの怪物”。しかも幼生とはいえ、夜食にゾンビ1体ぶんをぺろりと平らげて白骨にしている以上、その食欲は侮れない。罪に問えるような性質のものではないとはいえ、やはり殺処分するしかないのではないか―― シェリー:「やめて、この子を殺さないで!! 何も悪いことしてないのよ!!」  意外にも、“きゃりーちゃん”の命乞いをしたのは検事を務めたレッド・ウィザードのシェリー。ちゃんと私が責任もってゴハンも食べさせるし、外に出したりもしないから……と言い張るのだが ゾンビ市民1:「そんなこと言っても小さくて可愛いのは今のうちだけだぞ、大きくなったら捨てるんだろう!!」 ゾンビ市民2:「外に出さないと言っても万が一のことがあったらどうするんだ!!」 ゾンビ市民3:「よそ者の小娘のくせに!!」  検事とはいえ外の世界から来たバイト学生である。叫ぼうが泣きつこうが相手にされず追い返され、“きゃりーちゃん”は処遇が決まるまでということで牢獄に放り込まれてしまった。  が。  スケルトンの刑吏が“きゃりーちゃん”を檻に放り込んで立ち去った暫く後。 ???:「おお、きゃりーちゃん……迎えに来たよ……」  牢獄の入り口で、何者かが低く優しくつぶやいた。 ???:「さすが、ライト氏の手がけたもの。なんとも見事な、愛らしい……」  背の高い人影が牢獄の扉に触れると、鉄格子の扉は音もなく開いた。人影は牢獄に踏み入り、檻の中からきゅうきゅう鳴く“きゃりーちゃん”を抱き上げる。  深い影の中、その人影の顔のあたりで――“きゃりーちゃん”のものではない、長い触手がゆらりと蠢いた。  もちろん、ジェイドたち一行はおろか、絶叫館の主たるアンデッドたちすら知らぬ話である。  一方、ジェイドたちは本来の目的――つまり“絶叫館の評議員たちに会い、名誉市民として認めてもらう”――ために、クーリエの案内のもと、裁判所の奥の広間へと向かっていた。 クーリエ:「さ、こちらです。今なら業務時間内に陳情ができるでしょう」  そういってクーリエが堂々たる大扉を開けた瞬間、むせ返るような血と肉の臭いが襲いかかってくる。目の前に広がるのは――もうここは死者の街なので仕方ないのだが、ありていに言って目を覆わんばかりの血みどろの惨状。テーブルの上に山と盛り上げられた手、足、首、内臓、それを囲んで上等の衣服に身を包んだグールやガストたちが食事の――もっと言えば、宴会の最中である。  赤黒い液体を満たしたワイングラスがそこここに並び、部屋の奥では悲鳴を上げるなにものかの腹から誰かが腸を引きずり出しているところ。 クーリエ:「ああ、ご心配なく。ここで喰われているのはみな犯罪者のなれの果てです。裁判によって有罪と定められた“肉持つもの”は、ここで評議員が食べてしまうのですな」  そう小声で説明すると、クーリエ、評議員たちのほうを向き直った。そしてジェイドたちの経歴とこの街で巻き起こした“素晴らしい破壊と混乱”について滔々と述べる。  すると評議員たち、腐った顔をさらに破顔させた(それを見た瞬間、エリオンはわずかに後ずさった)。 評議員1:「おお、そうすると彼らがあの噂の」 評議員2:「この眠ったような街に活気をもたらしてくれたという」 評議員3:「デーモンの大穴に飛び込み、さらにはドラコリッチを手なずけつつもあるとか」 評議員4:「素晴らしい。まさに英雄だ。まずは彼らをもてなさねばな」  いや、もてなされてもこちらは生身なので皆さんと同じものは口にできず……ともごもごと言い訳をしているうちに、ワインと食事が運ばれてくる。珍しいことに皿の上には腐敗したものはひとつも載っていない。どうみても普通の食事だ。エイロヌイに毒見を命じられたタラン、ワインを一口飲んで「あ、旨いッス。いいワインっすよ、これ」。  実のところ、こうやってジェイドたち一行が一緒に行動し始めて、本当に久しぶりの“歓待”かもしれぬ。何しろネヴァーウィンターにいるときには、どの陣営にもつかないと言った瞬間から、角材で膝を殴られ、腐った卵をぶつけられ、スラムの片隅に潜むような生活をしてきたのだから。 クーリエ:「ご心配なく。ここはこの街きっての裕福な館、生きている方のための食事も完璧に揃うのですよ」 評議員5:「……おや、大法官。今までお姿が見えないと思っていたら彼らと同行されていたのですか」  クーリエが得意そうに言った時、傍にいたグールの評議員が突然びっくりしたような声を挙げた。 ジェイド:「大法官!?」 クーリエ:「ええまぁ、実はそうでしてね」  そういえばクーリエのまとっている衣服も、ただの墓守や案内人にしては不釣り合いなほど上等なものなのだ。実はこの絶叫館の最高責任者であったのだと言われれば、かえってそちらのほうが納得がいく。 ヘプタ:「だったらあんたが俺らを認めてくれさえすればよかったんじゃ……」  不満げにいいかけるヘプタに「まあそうなのですが、いろいろありましてね」と軽く流すクーリエ。だが、その“いろいろ”が、大法官として彼らを試していたのだと思えば、それもまた合点がいくのだ。  ともあれクーリエは評議員や判事たちに向かってジェイドたちを名誉市民として認めるかどうか問いかけ、もちろん議案は全会一致で承認された。 クーリエ:「おめでとう、これでみなさんはこの街の名誉市民です。この街の道を大手を振って歩けますし、うっかりアンデッドに食べられてしまう心配もありません。どうぞ安心して暮らしてください」 エリオン:「……いや、我々はネヴァーウィンターに帰りたいので、名誉市民となれば帰る手段について何か取り計らってもらえるはずだという話だったのだが……」 クーリエ:「……ああ、そうでしたな。では、食事でもしながらゆっくりお話を」  久々のまともな食事はありがたいのだが、腐臭と血の臭いに満ちたこの場所ではさすがに落ち着かない。そう申し出ると「では、こちらに。普段は拷問部屋ですが、毎日きちんと掃除していますから清潔ですよ」と言わずもがなの解説付きで個室に通された。 クーリエ:「……ネヴァーウィンターへの“帰り道”ですが」  一行が落ち着いた頃を見計らってクーリエは切りだした。  サーイのレッド・ウィザードたちにゲートを開けてもらわずとも、ネヴァーウィンターとエヴァーナイトがつながっている場所は、実のところ、多い。しかしそれは一方通行――つまり、ネヴァーウィンターからエヴァーナイトへと人を引きずり込むことはできても、その逆は難しいのだとか。ヒトは放っておいてもほぼ必ず死ぬものだがその逆は難しいので、それもまた道理だ。  だが、一か所だけ、常に行き来が可能な場所があると言う。 クーリエ:「ホートナウ山です。あの火山です。あの山はエヴァーナイトとネヴァーウィンターにまたがって存在します。ですから、あの山の中には常に、確実に二つの世界がつながる場所があるのです……でも」  と言って、クーリエは一同を見回した。 クーリエ:「見ての通りのあんな、といいますか、見るからに危険な山ですよ。怪物もうじゃうじゃいます。悪いことは言いません、お止しなさいよ。年に数回ということであれば、街の中にも“通路”が開くことはあります。名誉市民になったことだし、ここで暮らしながらそういう場所をゆっくり探せばいいじゃありませんか」  申し出はある意味有難いのだが、そんなことをしていてはシャドウフェルにすっかりなじんでしまう。やはりホートナウ山に行きたい……そんな話をするともなくしていると、広間のほうが急に騒がしくなり、「貴様、ここを絶叫館と知っての狼藉か!!」と、おおむねそういったような怒号が聞こえてくる。  まさか“正義の冒険者”が“アンデッドどもの悪の巣窟”に踏み込んできたわけではないだろうな、などとクーリエに聞こえないようにこっそり話しつつ――しかし不穏なのは間違いないので、何ごと、と、飛んでいく。  と。 ジェイド:「うわあ触手」  勢い込んで扉を開けたジェイドが一瞬後ずさる。特殊事情を持つジェイドでなくても、感覚的に何か受け入れがたい情景が目の前に展開していた。  血みどろの広間の入り口に、背の高い人影。  その顔のあたりからは触手が広がってゆらゆらとうねりくねり、しかもその人物は両手に愛おしそうに“きゃりーちゃん”を抱えている。 ???:「話が違うではないか、判事の諸君。この街にジェイドが現れたら、私に引き渡すという約束だったではないか」  その人物は話し出した――いや、その口は動いていない。声が、直接頭の中に響いてくる。仲間たちが一斉にジェイドのほうを見る。等のジェイドはさすがに呆然とした顔をしている。 ???:「ここにいたのだな、ジェイド。一緒に来てもらおうか。君の知識が必要なのだよ」 ジェイド:「俺の知識、だと……?」 ヘプタ:「あのね、言っちゃ悪いっすけどね、ジェイドは結構バカっすよ」  ――なんだかヘプタに言われると事実でも腹が立つ。そう、具体的にはジェイドの知識系技能はほぼ1なので事実と言えば事実なのだ。 ???:「いや、言い方が悪かった。ジェイドの記憶が必要なのだ」 クーリエ:「それでわざわざお越しいただいたのですな。ええ、最初はお渡ししようと思ったのですよ。しかし考えが変わりました。彼らはこの街に破壊と混乱をもたらしてくれるまたとない人材、あなたにとっても必要だろうが我々にとっても必要なのです。そうして彼らは今やエヴァーナイトの名誉市民、引き渡すわけには行きません。お引取りください。ホートナウ山へ、ゴーントルグリムへお帰りなさい」  アンデッドに庇われるとか、破壊と混乱とか、色々と微妙な気分になることはなるが、しかし少なくとも大法官殿はジェイドたちを引き渡すつもりはないらしい。  しかし、あの触手人間はいったい何者だ――ひそひそと相談する、具体的には〈地下探検〉の判定を行なうが誰も大したことはわからない。  とりあえず“あれ”はこの世の存在ではない。“彼方の領域”からやってきた、確かイリシッドという凄まじく邪悪な種族で、人を惑わし、そして人の脳みそを吸い取る化け物だ――が、これでは子供だましのお化け話の内容だ。奴と、どう戦えばいい。 エリオン:「奴は……呪文荒廃の力を享けているな」  識別用の魔法のレンズを通してそいつを観察していたエリオンがぼそりと言った。 エリオン:「イリシッドはもともとサイオニックの力の使い手だ。が、呪文荒廃の力を享け、荒ぶる魔法の力もその身に宿している。が、本来の力と崩れた魔法の力――ああ、どうやらうまく統合できてはいないな。イリシッド本来の力は、奴には、ない」  小声で相談するジェイドたち一行には目もくれず、イリシッドは呆れたように周囲を見回す。 イリシッド:「なるほど……まさか、あなたがたが冒険者に肩入れをするとはね。となると、私が集めた地下生物たちがこの街を蹂躙することになりますが」 エリオン:「ではまさか、貴様が持っている、その、きゃりーちゃ……キャリオン・クローラーの幼生はそのための尖兵……」 イリシッド:「そんな野蛮なことはしない。この子はこの子で私が大事に可愛がらせていただく」  およそ場違いな、けれどシェリー検事が聞いたらおそらく喜ぶのではないか、というようなセリフを吐くと、イリシッドは――彼方の領域の生命体の表情を読めるとして、だが――にやりと笑った、ように見えた。  地下から悲鳴と怒号が響いてくる。さすがにクーリエの表情が変わる。 イリシッド:「では、あなたがたの考えが変わるまで、待たせていただくとしようか……」  言いざま、イリシッドは影の中にふっと消えた。  さすがに、放ってはおけない。 ヘプタ:「この街の人たちに義理がありますしねぇ」 エリオン:「降りかかる火の粉は払わねばならんしな」 エイロヌイ:「この街を落ち着かせねばホートナウ山に行くこともできませんし」 ジェイド:「とりあえず、目の前の厄介ごとを斬ろう」  アンデッドの街を救うために戦う、というのには、さすがに相応の大義名分が要るような気がして落ち着かない――が、少なくともアンデッドは理解できる邪悪だがイリシッドはそれどころではない異次元の悪だ。  さらに、ネヴァーウィンターの鏡像であるエヴァーナイトがイリシッドの支配する場所となってしまえばそれはネヴァーウィンターにとっても決して良いことではあるまい。よし、エヴァーナイトのために戦うことは、義である。 クーリエ:「彼らは下からやってきたに違いない。この絶叫館の地下には、シャドウフェルの地下世界、シャドウダークに繋がる地下道があります。攻め込んでくるとすれば、そこだ」  通常なら便利な地下道だが、今となっては奴らにとって格好の突入口。そこをなんとか食い止めてほしい。  言葉少なく頷き、クーリエに導かれるまま階段を下りる。  戦う相手が決まれば、することはいつでも同じだ。  叫び声のするほうに急ぐ。そこは地下道が交差する大きな十字路になっていた。ここが“奴ら”の現在の拠点と見て間違いない。道の先のほうでは見忘れもしない、“きゃりーちゃん”を抱えたイリシッドが地下生物の群れを背後にこちらをねめつけている。そして手前では、 スケルトン1:「ちくしょう、こんなのただの黒くてでかいプリンじゃないか!!」 スケルトン2:「このロングソードの錆にしてくれる!!」  なんだか黒い塊に向かって剣を振るうスケルトンの一隊。だが、剣で斬りつけるとその黒い塊は分裂して増え、しかも切り口からは噴き出す体液はどうやら強酸であるらしく、斬ったスケルトンの腕がかえって融けて落ちたりしている。大惨事だ。 スケルトン隊長:「ええい、このノウナシどもが!! せめて一太刀なりともッ……」  スケルトンだけにもちろん脳はないだろう、などと冗談を言っている場合ではない。目の前にいるのは、あれはブラック・プディングだ。確かに黒いプリンだが、斬れば増えるしその体液は強酸だ。見た目に反してろくでもなく戦いにくい。  どうやらこいつが複数襲ってきているらしく、別の場所からもアンデッドたちの悲鳴が響いてくる。どう聞いても押されている。ありていに言えば総崩れだ。放っておけば前の敵と戦っている間に、背後からも増え放題に増えた黒いプリンに襲われかねない。 セイヴ:「ああ、聞いちゃおられん。おい、ボウズ、ここはお前がなんとかしろ。俺はちょいと向こうを立て直してくる」  セイヴが駆けていく。アンデッド同士ならスケルトンの戦士たちもセイヴの指揮に従うだろう。背後はひとまず任せるとして。 ジェイド:「とにかく斬り刻む……!! さあ、プリンども、殴るならまず俺から殴ってみろ!!」  ジェイドは素早く周囲の状況を見て取ると、具体的には“ディフェンダー・オーラ/防御のオーラ”を展開すると、真っ先に突っ込んだ。手前にさっき“切り出され”た“プリンの欠片”が2つほどいるが、なに、大したことないだろう。  ――甘かった。  ジェイドの剣が本体を斬って与えたダメージよりも、“プリンの欠片”がジェイドに殴り掛かって与えたダメージのほうが大きい。酸で満たされた欠片はちょっとでも斬ったり突いたりすれば簡単に弾ける――具体的には雑魚なのだが、与えるダメージは決して小さくはないのだ。  ――まずはあの“プリンの欠片”をなんとかしよう。  エリオンはエイロヌイと共に戦場の真ん中に飛び込み、手近なブラック・プディングの欠片を剣風で消し飛ばした。具体的にはマジック・ミサイルで潰した。エイロヌイもさらに踏み込んで“欠片”を片付ける。次は本体に剣が届く。  と思った瞬間。  ブラック・プディングの本体が大きく伸びあがった。そしてそのままジェイドとエイロヌイめがけてなだれ落ちてくる。かわそうとしたが間に合わない。見る間にジェイドとエイロヌイは黒い粘液に飲み込まれる。エイロヌイはともかく、さっきからプリンの欠片に殴り放題に殴られていたジェイドはもはや立っていることも覚束ない。具体的には残りhpが5というところまで追いつめられている。 ヘプタ:「ジェイド、しっかりするッす!!」  ヘプタの声援。具体的にはヒーリング・ワードが飛ぶが、それでもまだジェイドの足元はふらついている。具体的には重傷状態を脱することができない。このままでは危ない。とその時、 クーリエ:「これをお返ししますよ!!」  通路の向こうから聞きなれた声がした。クーリエだ。しかしその姿はもはや見慣れたグールのそれではない。飢えに焼かれ、牙をむき出した恐るべき怪物――ガスト化している。うわあ大法官殿が本気を出されている、と、どこかでスケルトンの兵士の声がする。  クーリエの手から何かが飛んで、ジェイドの身体にぶつかった。それは鎧を通過し、ジェイドの身体に収まる。クーリエを“雇った”ときに預けた1ポンドの肉だ。具体的には1回ぶんの回復力が、即座に使用できるものとしてジェイドに戻ってきたのだ。ここでようやくジェイドの半ば融けかけていた顔に血の気が戻る。 クーリエ:「みなさんだけにご苦労はさせませんとも!!」  そう叫びながら戦列に加わるクーリエ。身体から闘気とともに凄まじい腐臭が立ち上る。さすがにアンデッドと肩を並べて戦うのは初めてっすよ、と口の中だけでぼそぼそ言うヘプタの声が聞こえたのか聞こえなかったのか、クーリエはすっとヘプタの傍に近寄り囁く。 クーリエ:「ここだけの話ですがね、ワタクシ死にますと爆発いたします。ワタクシそういう身体なもので」 ヘプタ:「わ、わ、わ、わかりましたッす。ぜったいにクーリエさんを死なせたりしないッす!!」  もう死んでるけど、と心の中でヘプタはこっそりつぶやく。ここにいると本当に生死の境が危うくなりそうだ。  そこから先はしばらく“黒いプリン”を斬り刻む作業になった。ジェイドは黒い粘液を振りほどき、剣の平で思い切り叩き付けながら抉り飛ばす。エリオンの剣が走り、そして、エイロヌイは エイロヌイ:「我が主シルヴァナスの名において――汝ら、消え失せよ!!」  半ば黒い粘液に覆われたまま、高らかに“ネーム・オヴ・マイト/力の名”を口にする。その全身から一瞬、雷にも似た轟音が轟いたかと思うと、さっき斬り飛ばされたばかりの“欠片”は消し飛び、ブラック・プディングの本体も大きく抉れた。そのままエイロヌイは全身の皮膚を木のそれに変える。  ――こいつは、厄介だ。  ブラック・プディングはそう判断したのか、エイロヌイをもう一息強く締め上げた。酸が鎧の中に滴り落ち、木肌を抉って肉を溶かす。  が、反撃もそこまでだ。ヘプタのボルトが突き立つ。その間合いを縫ってエリオンが前進する。クーリエが黒い塊に掴みかかり、さすがに噛みつかれるとは思っていなかったのか動揺した(ように見える)ブラック・プディングの隙を突いてジェイドが斬りかかる。ブラック・プディングはもう一度高々と膨れ上がり、雪崩れ落ちた。今度はジェイドとエイロヌイ、それにエリオンも包み込まれる。が、 エリオン:「そのような攻撃が私に通じるかッ」  エリオン、素早く飛び退って剣を振るう。状況は膠着しているかに見えるものの、少しずつ少しずつ、黒い塊は形を失い始めてきていた。このままいけば、文字通り、削りきれる。  ――その時。 イリシッド:「ああ、かわいい地下生物たちを傷つけたくはないのだが……こうしてはいられない。ああ、もったいない、もったいない……」  大仰な口調で嘆いてみせながら、イリシッドは背後の群れの中からモンスターを2体、こちらに押し出してくる。 イリシッド:「さて、我が軍団の誇る地下の掃除屋を2匹ばかり、ご紹介するとしよう……」  1体は、丸い身体に大きな口だけが、どこか愉快そうに歯を剥いている化け物。そしてその身体からは無数の触手が生えている。ジェイドが低く怨嗟の声を上げる。そしてもう1体は……見た目はそれなりに気色悪いが、巨大なだけのただの虫だ。  が。  PLたちは全員、悲痛な叫び声を挙げた。ここにいるのは全員が全員、それなりにD&Dを遊んできたメンバーばかり。となれば、その“虫”には皆、一度ならず酷いどころではない目にあわされてきている。その名も――  と、本来ならここで視聴者にイラストが提示されるところなのだが、ここでカメラが、続いてマイクまでもが大不調。とりあえずPLはおやつタイムになだれ込み、画面にはコメントばかりが流れる。そういえばカメラも金属製だし、そういうことかもしれない。    やがてどうにかウェブカメラを代用して配信が復活する。その時画面に映し出されたのは……    新手の敵も厄介だが、とりあえず目の前のブラック・プディングを片付けてからだ。特にジェイドなどは触手の化け物など視界にも入れたくないので、とにかく黒い塊に意識を集中させる。  その隙に、悲劇は起こった。  “虫”は、真っ直ぐにエイロヌイめがけて突っ込んできた。大あごがエイロヌイの身体に突き立つ。  ――え、どうして。  虫の牙など当然鎧が弾くはずなのに、と鋭い痛みの走ったほうに目をやり、エイロヌイは息を飲んだ。虫の牙が触れたところから、鎧は真っ赤にさびて崩れ落ち始めている。  ラスト・モンスター――錆の怪物。誰も知らぬことだが(具体的には全員知識判定に失敗したのだ)この“虫”は、冒険者たちにとっては天敵ともいえる地下生物。金属を餌とし、しかも金属を錆びさせて喰うのを最大の特徴とする。彼らにとっては金属製の鎧を着込み、金属製の武器を持った冒険者は格好の餌なのだ。  そうこうするうちに、大口開けた触手の化け物――こちらはアティアグの名で知られ、肉を腐らせて食べるのを特徴とするモンスターだが――も、触手を振り立てながらこちらへ近づいてくる。 エイロヌイ:「タラン、プディングを片付けなさい!!」  まずは片付けられるものからだ。エイロヌイは虫から身をよじって離れながら叫んだ。タランは弾かれたように走りだし、崩れかけたプリンを文字通り叩き潰す。それを視野の端で確認すると、エイロヌイは“ライチャス・スマイト/正義の一撃”をラスト・モンスターに叩き込んだ――そして知った。この“虫”は身体のすべてに錆を含み、この虫のどこかに金属で触れたらその金属はそのまま錆と化すことを。斬りかかった剣の刃が赤く刃こぼれしてゆく。無駄ではない。剣の一撃は確かに虫の背を砕いた。それに義によってなされた一撃を神は嘉し給うたが、具体的には全員に一時的hpが与えられたが、しかし。  第一の厄介ごとは片付けたが、状況は悪化している。とにかく怪物どもは片付けなければならないが、触れても斬っても錆びるのならエイロヌイには悪いがそちらは後回しにせざるを得ない。  とりあえずクーリエにエイロヌイの助太刀を頼み(何しろガストの攻撃は牙で喰いちぎることだから、金属は関係ないだろう)、ジェイドたちは残ったブラック・プディングの欠片を片付けつつ、そしてひとまずアティアグに斬りかかった瞬間。  エイロヌイが、今度こそ悲鳴を上げた。  “虫”の全身から錆が吹き出し、エイロヌイの鎧にまとわりついた。“ディゾルヴ・メタル/金属分解”――瞬時に鎧はすべて錆と化してエイロヌイの身体から剥がれ落ち、エイロヌイは守るものひとつない姿で立ち尽くしている。  だが、それだけではない。ただでさえ触手が苦手なジェイドが――これはヘプタの声援でなんとか気をとりなおしてはいたが、つまり具体的には触手を目にしたことによる幻惑状態はセーヴによって脱していたが――アティアグの触手に締め上げられ、身動きもとれなくなっている。具体的には残りhpが6である。  あまりのことにエリオンが度を失った悲鳴を上げる。具体的にはエリオンPL瀬尾が「やばいじょー」とか叫び出して、せっかくの厨二キャラが完全にブレている。 タラン:「ちくしょう、エイロヌイ様になんということを!!」  タランが飛び込んでラスト・モンスターを殴る。怒りの鉄拳――そう、タランは武器ではなく、妖精境の光を凝集して拳にまとわせ、それで敵を打つのだ――が、ラスト・モンスターの身体にめり込む。クリティカルだ。  いや、つまるところタランの攻撃には[武器]キーワードがついていないというだけのことなのだが。  それに怯えた――わけではなく、鎧をすっかり食べてしまったので、ラスト・モンスターはエイロヌイから離れた。次の目標は鎧に派手なトゲトゲを付けているヘプタだ。あの鎧も喰いでがありそうだ――が、虫の知能はそこまで、ラスト・モンスターは選択を誤った。ヘプタの鎧のトゲトゲは本当に飾りだった。具体的にはヘプタが着ていたのはレザー・アーマーだったのだ。  こうなれば虫はただの虫である。ヘプタは高らかにコアロンへの祈りを唱える。ジェイドの剣に導きを、クーリエの牙に導きを、そしてこの不埒極まりない虫に神の裁きを。“レヴィ・オヴ・ジャッジメント/裁きの宣告”が下され、さらに大いなる神の御心を讃える言葉によりジェイドの傷が癒される。具体的にはヘプタがバードとマルチクラスしていることによって使用できる“マジェスティック・ワード”の効果だ。これはあまりヘプタのイメージに合わないが、まさか讃美歌かなにかだろうか。ともあれまさに八面六臂の活躍である。  その祈りに導かれるようにクーリエはラスト・モンスターの固い翅を喰い破る。まことコアロンの寛大さ加減は誉むべきかな。アンデッドにもその恩寵は等しく与えられるのである。  となればジェイドも剣の錆を恐れてはいられない。思い切り振り下ろしたジェイドの剣は、錆をまといながらもラスト・モンスターを粉砕した。返す刀で、具体的にはアクション・ポイントを使用して、アティアグにも一太刀浴びせ、それから ジェイド:「エイロヌイ、これでも使え!!」  足元に落ちていたぼろきれを拾って身体を隠せるようにとエイロヌイに投げてやる。具体的には“テイク・ハート・フレンド/勇気持て、友よ”を使用しているのだが。  しばらくは互いに間合いの取り合いが続いたが、ヘプタが状況を一転させた。 ヘプタ:「みんな、超頑張るッす!!! ヤッチマウっす!!!!!」  喉も裂けよと言わんばかりの声援、“インスパイアリング・ファーヴァー/熱情の喚起”である。弾かれたように皆がアティアグに殴り掛かる。さしものアティアグもぐらりと身体を傾げる。具体的には重傷状態である。  アティアグの身体を喰い破ったクーリエが、歓喜の声を上げる。なにしろ腐肉を喰って巨大化した怪物だ。腐肉喰らいのクーリエにはまたとない美味らしい。具体的には噛みつきがクリティカルしている。ガストの牙が腱に食い込み、アティアグは身動きが取れなくなる。  ――よし、いまだ。みんなで畳み掛けろ。  ジェイドはアティアグの目の前に進み出る。殴るなら俺を殴れ。ほかの奴には手を出すな。“グラウアリング・スレット/威圧的な眼光”の技である。その眼光に射すくめられ、アティアグは僅かに身じろぐ。 エイロヌイ:「タラン、今です、片付けなさい!!」  エイロヌイの鋭い命令が響いた。飛び込んできたタランの拳がアティアグの丸い身体を見事に抉った。アティアグは悲鳴も上げず、潰れた。終わりだ、と、思った。が。 イリシッド:「やれやれ、頑張ってくれるものだねえ……しかたない、それでは切り札を出すとするか」  そうだ、イリシッドの背後には地下生物の群れが控えていたのだ。  そして群れの中から進み出てくるのは、巨大な脳味噌に直接手足が生えたもの。  そして宙に浮いた巨大な目玉。その目玉からはこれまた無数の触手状のものが伸び、それぞれの先端にはまた小さな目玉がついている。 目玉:「ねえ、あいつら、ミナゴロシにしちゃっていいんだよね?」  目玉は恐ろしげな外見にも関わらず、生意気な子供の声でそんなことを言う。ひょっとしてあのイリシッド、怪物の幼体を集めるのも趣味なのか。一方ジェイドはそれどころではない。 ジェイド:「……あれは。眼がついているから触手じゃない。眼柄だ。うん、落ち着け」  ……というのはともかく、傷つき、武器も欠け、あまつさえ鎧のないものもいる状態で連戦か――シャドウフェルの空気がもたらしているというものだけでは決してない絶望が、全員の心に忍び込みかける。  絶望が極まると希望の幻覚が訪れるのかもしれない。しかも場違いなそれが。  暗く腐敗した戦場のただなかで、焼きたてのパイの匂いを、全員が嗅いだ気がした。 ジェイドの決断 第二部第1回: 問い:「1日50gpと胸の肉1ポンド」の条件でグールの案内人を雇うか? 決断:雇いたいが、肉はともかく無い袖は振れない。1日あたりの給金をまけてもらう。 第二部第2回・その1: 問い:酒場で盛り上がるアンデッドたちにどう接する? 決断:郷に入ってそっぽを向いていてもしかたない。一緒に騒ぐ。 第二部第2回・その2: 問い:エヴァーナイトで名を上げるために何をする? 決断:デーモンの大穴に入る。そろそろ、タイモーラに捧げたコインの裏表を見に行くのも良さそうだ。 第二部第3回: 問い:「おろかな奴。もう一度訊く。そんなに死に急ぐか?」 決断:Yes 第二部第4回: 問い:壊すことも扱うことも可能なボーン・マングレル・ドラコリッチをどうする? 決断:ここで壊すのは忍びない。連れて行こう…… 第二部第5回: 問い:アンデッドたちと相部屋になるのはジェイドとヘプタのどちら? 決断:ヘプタのほうが馴染みやすそうだ。 著:滝野原南生
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