〈漫画『ボールルームへようこそ』に視るコマ割りの面白さ、或いは「花と額縁」について〉
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〈漫画『ボールルームへようこそ』に視るコマ割りの面白さ、或いは「花と額縁」について〉

2013-09-21 10:35
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 今日は、漫画『ボールルームへようこそ』の最新刊である五巻が極めて素晴らしかったために、少し漫画について書いてみたいと思います。
 まず『ボールルームへようこそ』では、おおまかに言って大きく二つのコマ割りを使い分けています。一つは次のような日常での四角いコマ割り。


(※無論、例外はあります。例えば、①の二ページ 目の左上のコマ、花岡さんが多々良に“仕掛ける”場面のように)

もう一つが次のような、アクション・シーンで使われる(ここでの画像は喧嘩のシーンですが、本来は主にダンス・シーンで使われる)斜めのコマ割り。
(※こちらにも例外があるのですが、ここでは置いておきましょう)



 で、今回、凄いと思ったのが次の斜めに割られた頁です。



 これは、主人公で社交ダンスを始めたばかりの少年、多々良(黒髪の少年)が、ライバルのひとりであるガジュ(髪を染めている少年)と一緒に、自分の師匠的な存在である仙石(ペアでダンスをしている男性)の試合を見学に行ったシーンです。
 左側の頁、右上のガジュと中心の仙石・本郷ペアのコマは音符によって橋渡しをすることで、それが同時であることを強調されています(本来なら、右上のガジュと右下のガジュが同じカメラに収まることはあり得ませんので、これだけでも、漫画ならではの表現で凄いですね)。
 その二つの塊を始点に、右下ではガジュの方を向いていた多々良が、左上では二人に視線を移動しています。即ち、ここで時間が急速に流れている(からこそ、今度はしっかりコマが割られている)訳です。しかも、それは右下の多々良が、自分より背の高いガジュを見上げる視線を通って、更にペアのダンスを通過し、そこから左上の視線として――N字のように――切り返され、自分が今まで知らなかった仙石というダンサーの凄さを、上手から下手へと流れる物語の時間の流れに逆らって、目の当たりにするのですね。ここでのコマ割りは、物語の内容から必然的に要請されるものだったと言えるでしょう。つまり、完璧なのです。
 そして、そこから流れるように盛り上がる観客の視線に沿って、読者もペアのダンスから目が離せなくなります。観客の視線を延長した先には、中央で躍動する二人の姿が描かれているのですから。即ち、この頁では、中心の仙石・本郷ペアに視線が集中するように誘導が行われている訳です(そこから、左下では仙石の視点へと切り替わっていく訳です。こうした一つの身体に留まらず、画面上を自由に、まるで飛行するかの如く移動する体験が、漫画を読む際の面白みではないでしょうか。その幽体離脱性を支えるシステムについては、またいつか機会があれば触れてみたいと思います)。
 それを、簡単に図にすると、次のような形になると思われます。大きく分けると二つ。一つは、長く縦に伸びた二本の青い枠が、視線を赤い矢印に沿って中央(この頁で最も重要な対象)へ集めていること。もう一つが、左側の枠内で、横に短く割ったオレンジの枠が、紫の動線を導き、それに沿ってコマ内のキャラクターが動いていること。見事な流れです。


 以上のように、『ボールルームへようこそ』では、アクション・シーンでは斜めのコマ割り(この、コマ割りが持つのであろう、コマの枠に対して垂直に視線を誘導する機能――無論、コマ内の描写もそれと連動する訳ですが)を巧みに使うことによって回路を作り上げ、読者はその回路に沿って紙面を様々な方向に、ダイナミックな躍動を、つまりは視線の移動という快楽を促される作りになっていると思われます。
 とは言え、では全てを斜めのコマ割りにすれば良い、という訳でもなく。例えば、もう一つ凄いと思ったのがこの頁です。



 このシーンは、先のダンス後、興奮冷めやらぬ会場で人垣が崩れた時に、そこにいるはずのない同級生の少女、千夏と多々良が出会って(現在、独り身な多々良が今後はペア探しをしていくだろうことを考えると極めて重要な)驚く場面です。
 ここでは本来は一瞬の出会いが、真っ直ぐ等価に割られたコマを読者の視線が行き来することで、時が止まったかのようですらあります(それと共に、上と下のコマの間白は、左右のコマの間白に比べて広く、更に二人のコマは「えっ」という台詞で同時に、先程のガジュとペアの時と同じように繋がれています)。今度は、四角いコマ割りを極めて効果的に使用して、見事な「引き」を演出している訳ですね。

 そして、こうしたコマ割りを踏まえると、同作の3巻で描かれた「花と額縁」に感動せざるを得ません。社交ダンスを始めたばかりの多々良が何とか急造ペアの相手である真子(ガジュのパートナーで、妹でもある少女)を花岡さんに勝たせるため選んだやり方、「額縁」の多々良が、「花」である真子を引き立てる、という、その二人の間で「とんでもない量の情報と気配の行き交」う姿に。
 それは漫画という行為そのものではないか、と。

 漫画を描いていらっしゃる方々は、まず例外なく、一番面白い漫画を描こうとしてらっしゃるに違いないでしょう。それは即ち、「これこそが漫画だ!」とそれぞれが考えているものが、紙面上にはアウトプットされている、ということだと僕は考えます。それ故に、僕は漫画においては、自身の選んだ漫画という媒体に対してどれだけ考えを巡らせているのか、という部分に惹かれてしまうのでしょう。そういった視方も、一つの面白みとして今後の参考として頂ければ、幸いです。

 まあ、そんなこんなで、漫画『ボールルームへようこそ』は、今更、僕が言うまでもないですけれど(というのも、同作は「この漫画がすごい!」などでも上位にランクインしている作品なのでw)、とってもオススメです! 皆様も、是非!






 ※追記
 この記事は、twitterや、謎の読書会(?)組織〈殲滅ひょーぎかい〉などでやり取りをさせて頂いている「すぱんくtheはにー」(TwitterID:@spank888)さんのブログ「ゲームばっかりやってきました」の以下の記事が素晴らしかったため、触発されて書いたことをここに記しておきます。皆さまも、是非読んでみては如何でしょうか。
すぱんくtheはにー「『放浪息子』15巻に見る「漫画」の魅力」

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ふぅ・・・理解力乏しく時間がかかったがとりあえず理解できったっぽいぞ!いや~漫画を読んでると自然とできてしまっていることを改めて説明されると目から鱗な感じだな。漫画家さんの作品を楽しんでくれ!って気持ちがいっぱい詰まってることを深く知れたと思うぞ!
印象的なシーンとかってコマや擬音なんかが個性的だったりするもんなー音読してるとどうしてもキャラの思考みたいなもんのほうが流れ込んできてそういう客観視?みたいなもんに行き着かなかったりするんだ。改めて気づかせてくれたことに感謝を。あ、ついでに草の根運動的に宣伝を。ブロマガやってます、よかったらくだらないものも読んでみてはいかが?「長くてすんませんした」すみませんでした。
82ヶ月前
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オッサン発言さん、いつもありがとうございます!
漫画、面白いですよね。
ブロマガ、勿論、ブックマークしておきましたw
82ヶ月前
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