• 第20話 幻想郷の一番長い日 9

    2018-01-07 04:18
    あらすじ


    妖怪の山各地で行われる縄張り拡大反対派と賛成派の戦い。

    天魔の説得に向かうはたて、その天魔と相対する文。

    戦いは大詰めへと向かっていた。

    第20話 幻想郷の一番長い日 9

    天魔「……随分暴れたものだな」

    文「……準備運動にもなりませんね。
    この程度の相手で止められると思われるのは心外です」



    相対する二人の周囲には、
    気絶し、動けなくなった哨戒天狗たちが何十人も倒れていた。

    文はその言葉通り、殺気を剥き出しにして迫る哨戒天狗の群れを、
    殺さないように、重傷を与えないように、いなし切ったのだ。

    狂奔状態となり、実力以上のチカラを引き出して戦う天狗たち。
    その相手をするのは文といえど流石に骨が折れたが、なんとか片付けることができた。



    天魔「木端どもでは相手にもならんか。それでは私自ら相手をしてやろう」

    文「ようやくその気になりましたか」



    文と哨戒天狗たちの戦いを静観していた天魔が動く。

    正直余裕などないが、それで焦ってしまっては勝てる試合も勝てなくなる。


    ……神経を研ぎ澄ませ。呼吸を整えろ。

    ここからが本当の戦いだ。



    天魔「……」

    文「!!」



    ヒュババッ!


    天魔が文に向かって手のひらをかざすと、数え切れないほどの風刃が出現する!

    到底避けられる数ではない!



    文「これしきっ!」



    並の実力では抵抗する暇なく切り刻まれる攻撃ではあるが、文もさるもの。

    その手に持つ手扇から強力な風圧を発生させ、風刃の壁に穴を開け、そこから抜け出す。


    そしてその勢いのまま天魔の頭上へと位置どり、カウンターを仕掛ける!



    文「―――『サルタクロス』!」



    文は周囲に跳弾弾幕を展開!

    頭上からの無差別射撃が降り注ぐ。

    跳弾は木々や岩に反射され、
    様々な軌道を描きながら、天魔を全方向から取り囲む!



    天魔「鴉の分際で私を見下ろすなど不届き」



    しかしこの攻撃でも天魔は全く動揺しない。

    あくまで悠然とした構えを崩さない。



    文「この弾幕をかわすことはできないでしょう!さぁ、どうしますか!?」

    天魔「かわす?」



    そう答えると天魔は両手で印を組む。

    すると天魔の内から湧き出る霊力が体を取り囲み、霊力結界を展開した!



    バチチッ!!


    文の放った弾幕は、その全てが結界に阻まれ、消滅した。



    文「……そこまで余裕で防がれると、少しショックですね」



    質より量を重視した弾幕ではあったが、
    そこまで簡単に防げる威力ではなかったはずだ。

    今の攻撃で天魔の結界は破れたものの、ダメージがあるようには見えない。

    ……これは迂闊な攻めはできないだろう。



    文の状況判断は一瞬だった。

    しかしその一瞬の隙をつき、天魔は攻撃を仕掛ける!



    天魔「破ッ」

    文「!!」



    ズシャアッ!!



    文「ッ!……一体何が……?」



    天魔の頭上に陣取っていた文だったが、
    空中でのコントロールを失って落下してしまった。

    あまりにも急な出来事だったので、何が起こったのかは正確にはつかめない。

    しかしこれは、天魔の攻撃によるものであることは明らかだった。



    文「……感覚操作ですか」

    天魔「先にも言ったろう。我が頭上に位置取るなど不届き。
    故に引き摺り下ろしただけの事」

    文「……」



    文は神経を張り巡らせ、自分の感覚が正常かどうか確かめる。

    ……どうやら感覚は元に戻っているようだ。
    先ほどの攻撃の効果が続くのは、一時であるらしい。

    永続的な効果でなくて何よりだ。



    文「……わかりませんねぇ……やはり貴方は圧倒的にお強い。
    それだというのに、何故、操られたりなどしているのです?」

    天魔「操られてなどいるものか。
    我ら天狗の復権こそが正義であり、幻想郷、ひいてはこの国を救う一歩となるのだ」

    文「そんな荒唐無稽なことを話している時点で、正気でないことは明らかですよ。
    ……貴方の裏にはどんな存在がいるのですか?
    どうせ碌でもない奴でしょうが」

    天魔「……あの御方は我ら天狗一族を導いてくださるのだ。
    不敬な態度をとる事は許さん」

    文「見たこともない輩に不敬も何もありませんよ。
    しかしどうやら、「あの御方」とやらが黒幕の様ですね……一体何者なのですか?」

    天魔「我らの邪魔をする貴様に話してやることではない。
    ……無駄な時間をとった。終わらせるぞ」



    ズオッ!



    天魔の体に霊力がみなぎる!



    文「今の貴方には、どうあっても負けられないのですよ!」

    天魔「……塵と化せ」



    ……



    妖夢「れ、霊夢さん……この空気は……!」

    魔理沙「あっちは……玄武の沢がある方だな」

    妖夢「とんでもない霊力ですよコレ……
    こんなに離れたところにいるのに危機を感じるなんて……」

    霊夢「文とはたても頑張ってるようね」

    妖夢「これはあのお二人だけではマズいのでは……
    私達も加勢したほうが!」

    霊夢「アンタ、あの二人舐めすぎでしょ?
    ……こっちはこっちで大変なんだからほっときなさい」

    妖夢「でも……」

    霊夢「今から私達が相手しなきゃいけない敵は、
    あんなもんじゃないかもしれないのよ?
    その辺理解しときなさい」

    魔理沙「だよなぁ……さっきの霊圧には私もビビったけど、
    その霊圧を出してる天魔を操ってるやつが敵なんだよなぁ……」

    霊夢「多分、だけどね」

    妖夢「わかってたつもりでしたが、何というか、こう……
    実際体感すると面食らいますね……狼狽えてしまいました……」

    霊夢「実戦経験不足があんたの弱点なんだから仕方ないわよ」

    妖夢「うぅ……」

    魔理沙「ワオ、辛辣」

    霊夢「はいはい、なんでもいいからいくわよ」

    妖夢「ひどいですよ、霊夢さん……気にしてるのに……」

    魔理沙「ハハハ……」



    これから起こるであろう壮絶な戦闘に不安を残しつつも、
    3人はいつも通りな調子で進んでいた。

    緊張しすぎているわけでも、その逆でもない。

    とても良い状態といえる。

    これも霊夢がいつも通りの調子をキープしているおかげだ。
    魔理沙と妖夢だけではこうはいかなかったろう。



    しかし平静を装う霊夢も、心の中では不安と戦っていた。


    敵の正体は?
    天魔を操るほどの技とは一体?
    本当にこの3人で太刀打ちできるのか?
    そもそも相手は単独なのか?複数なのか?


    頭で考えれば不安は尽きることがない。
    この先に行ってはならない、という警笛が頭の中でガンガン鳴っている。


    そんな霊夢に歩を進めさせ、平常心を保たせていた理由は2つ。

    ひとつは
    命の危機に晒されるほど悲惨な状態にはならないだろう、という自身の勘。

    そしてもうひとつは
    これまで数々の異変を越えて培ってきた、自身の戦闘センスへの信頼。


    ……幻想郷における霊夢の評価は、軒並み高い。


    「あの巫女はすごい実力者だ。到底かなわない」

    「あの人は特別だよ。比べようなんて思っちゃいけない」

    「妖怪より妖怪じみている」


    霊夢に対する印象を聞くと、誰からも概ねこんな意見が返ってくる。


    ……しかし、知っている者はどれだけいるのだろうか?


    彼女が異変に備えて、とんでもない時間をかけて武器の調整をしていることを。

    大勢の敵からかわし切れないほどの弾幕を受けて、何度も出直していることを。

    その度に相手の攻撃の癖を捉えて、針に糸を通すような動きと戦略で突破していることを。

    不屈の心と行動力を持って、異変の短期解決を成し遂げているのだということを。


    ……当然天賦の才がなければそんなことなどできない。

    だが霊夢の実力は、
    度重なるトライ&エラーによって磨かれた部分の方が多いのだ。

    異変を越えるたびにセンスが磨かれていくのは当然と言える。


    そんな霊夢だからこそ、
    この規格外の異変にも広い視野をもって臨むことができている。

    敵の実力がどれほど高くとも、ここまで冷静でいられるのは彼女くらいのものだろう。




    霊夢「さて、そろそろよ」

    魔理沙「……ついに、か」

    妖夢「む、武者震いが……」

    霊夢「アンタのそれは怯えてるだけでしょ……」

    魔理沙「しかし霊夢、この辺は全然敵の気配がないぜ?
    本当に黒幕がいるのか?」

    霊夢「……確かに全然敵の気配はないわね」

    妖夢「そうですよ。……いや、でも……おかしくないですか?」

    魔理沙「何?どこかおかしい場所でもあるのか?」

    妖夢「いえ、そうではなく。
    今までの道中は、どこを通っても、必ずといっていいほど天狗たちが戦っていました」

    魔理沙「まあな。……確かにそれに比べるとここは静かすぎるな」

    妖夢「ええ。あまりにも敵の気配がなさすぎる。
    まるでここだけ、普段通りの穏やかな幻想郷そのもの、という印象です」

    霊夢「いいとこに気づいたわね。妖夢。
    集中してあの辺をよく見てみなさい」

    妖夢「あの辺りですか……!?」



    妖夢は霊夢の指さす方向に目を凝らす。

    すると、普通に見ていてはほとんど気づくことができない、
    気の乱れのようなものを感じ取ることができた。



    妖夢「あれは……力場が歪んでいる……?」

    魔理沙「……本当だ。言われないと気が付かないほど小さな歪みが見えるぜ」

    霊夢「……あれは結界ね。しかも相当上級なものよ」

    魔理沙「成程な。あれで自分の気配と霊力を外に漏らさないようにしてるのか」

    妖夢「しかしそうすると黒幕は随分と慎重ですね……
    天魔を操れるほどのチカラを持ちながら、こんな隠れるような真似をしているなんて」

    魔理沙「あ!もしかしたらだけどさ!
    そいつって相手を操るチカラはすごいけど、戦闘力は大したことない奴なんじゃないか!?
    ほら、わざわざこんな労力掛けてまで隠れてるような奴だし!」

    妖夢「その可能性もありますね。そうだったら良いのですが」

    霊夢「……まあ、そうかもしれないわね。
    でもそんなこと考えて油断してると、足元すくわれるわよ。集中なさい」

    魔理沙「わ、わかってるよ。そんな怖い顔するなって」

    霊夢「それじゃ妖夢。その剣であの結界を斬って頂戴」

    妖夢「承知しました」



    そう言うと妖夢は居合の構えをとり、意識を集中させる。



    霊夢「鬼が出るか蛇が出るか……」



    シュラッ!



    妖夢の腰から、迷いを断ち切る剣、白楼剣が目にもとまらぬ速さで抜刀され、
    目の前の空間を一刀両断する。



    妖夢「―――『瞑想斬』」



    ピシピシィッ!!



    一見何もない空間に入った切れ込みは、亀裂となり、結界を崩壊させる。


    そしてそれと同時に……




    ブオッ!!




    霊夢・魔理沙・妖夢「!!!!!」



    結界が破れたのと同時に、とてつもない霊力があふれ、3人を圧倒する!



    霊夢「……ッ!」

    魔理沙「なんだこれッ!なんなんだよッ!!」

    妖夢「こんな、こんなことって……」



    その圧力は、先ほどの天魔から放たれた霊力以上!

    周囲の空気が一気に重くなり、飛んでいることすら困難になるほど密度が濃くなる!

    うまく呼吸ができなくなり、動悸が激しくなる!



    ??「何者じゃ……妾の結界を破った礼儀知らずは……」



    魔理沙「……!!アイツが今回の……」

    霊夢「……ええ、黒幕のようね……」

    妖夢「……なんて威圧感……!」



    ??「フム……童が3人……木っ端じゃな」



    結界内にいた妖怪は、気だるそうに3人を見回してため息をつく。



    ??「ハァ……せっかく張っておった結界を壊すほどなのだから、
    もっと骨がある者が来たと思うたのじゃが……
    見当外れも良い所よのう」



    明らかにこちらを舐めてかかっている態度。
    しかしそんな油断しきっている状態なのにも関わらず、こちらに対しての圧倒的な威圧感。

    凄まじい実力者だということは火を見るより明らかだ。



    霊夢「答えなさい。アンタは何者?
    天狗を操って一体何をしようとしているの?」

    ??「そんなことを聞かれて、
    はいはいと応えてやるとでも思うておるのか?この盆暗め」

    霊夢「……それならチカラづくで聞き出すしかなさそうね」

    ??「本気でできると思うておるのか?」

    魔理沙「で、できるかどうかじゃなくてやらなきゃいけないんだよ!
    アンタ達、幻想郷を壊そうとしてるんだろ!?そんなこと絶対させない!」

    ??「ハァ……実力の差も掴めない愚か者じゃったか。
    しかしその微かな勇気に免じて少しだけ教えてやろう……」


    天逆毎「妾の名は天逆毎(あまのざこ)。
    須佐之男命(すさのおのみこと)の子にして、天狗の始祖よ。
    お主らのような童が、ひっくり返ってもかなう相手ではない」


    霊夢「天逆毎……!!」

    魔理沙「知っているのか!?」

    霊夢「ええ……まさかこんな化け物が黒幕だなんてね……!!」



    霊夢の額に冷や汗が流れる。

    神話でしか聞いたことがない、想定の遥か上をいく相手。



    妖夢「そ、それほどですか……!!」

    霊夢「……鬼と天狗を足して二で割らない強さで、
    あの天邪鬼の性格をしていると思えばいいわ。
    ……恐らく守屋の神や紫よりも実力は上よ」

    魔理沙「!?……なんだよそれ……ッ!!」

    妖夢「そんな……そんな化け物だなんて……」


    天逆毎「少しは勉強しているようじゃのう。ま、それも無駄になるが」

    霊夢「……どういうことよ」

    天逆毎「ここでお主ら3人ともオシマイ、という事じゃよ」



    ピカァッ!



    天逆毎の体が白く光り輝く!


    ……いや、これは、光っているのではない!


    無数の、隙間なく迫る白い霊弾が放たれたのだ!

    まるで一面の白い壁のように、弾幕が3人に襲い掛かる!!



    霊夢「二人とも!!私の後ろにっ!」

    魔理沙「お、おうっ!」

    妖夢「は、はいっ!」



    霊夢「―――『二重大結界』!!」



    霊夢の周りに結界が展開され、
    白い壁となった弾幕は3人にぶつかることなく通り抜ける!!


    天逆毎「ほう……童にしては、すこしはやるようじゃの」


    魔理沙「し、死ぬかと思った……」

    妖夢「これほどまで実力差が……」


    霊夢「二人とも!呑まれちゃダメ!
    私達は今からアイツを倒すのよ!!
    敵を恐れていたら、戦いになんてならないわ!!」



    あまりの実力差に、普段の調子が出ない魔理沙と妖夢。
    それを霊夢は必死に奮い立てる。

    霊夢の言う通り、相手に呑まれていては
    勝てる戦いにも勝てなくなる。



    天逆毎「ほほほ!少しは妾を楽しませるのじゃぞ!」



    考えろ……!勝利に不要な感情は棚上げしろ……!
    なんとしてもこの窮地を乗り越える……!


    霊夢は必死でこの状況を打破する一手を考える。

    いつも異変の時にそうしてきたように、
    今回もこちらの優位を見つけるのだ。

    相手がどれだけ強力だろうと関係なく
    必ず優位に立てる瞬間、流れ、戦略はある……!



    ……私は博麗の巫女。
    この幻想郷を壊すなどという横暴、許してはおかない。




    つづく



    略称一覧

    霊夢…博麗霊夢(はくれいれいむ)。幻想郷を覆う、博麗大結界の管理をしている。通称・博麗の巫女。幻想郷で起こる数々の異変を解決してきた実績があり、各勢力からの信頼は篤い。年齢からは想像できないほど、物事を達観した目で見ている。

    魔理沙…霧雨魔理沙(きりさめまりさ)。魔法の森の辺りで暮らしている魔法使い。霊夢とは昔からの知り合いで、仲が良い。明るく前向きな性格。彼女も霊夢と共に異変解決をしてきた経歴を持つ。ただし罪悪感なしに泥棒をしていくので、一部からはお尋ね者扱いされている。

    妖夢…魂魄妖夢(こんぱくようむ)。白玉楼住まいの庭師にして剣術指南役。とても真面目であるがゆえに、主人の幽々子からは日々からかわれている。従者としての能力も剣術の腕も上々。半霊という人魂のようなオプションがくっついているが、それは彼女がそういう種族だから。

    文…射命丸文(しゃめいまるあや)。鴉天狗であり、新聞記者でもある。よく人里に下りて無茶な取材をしたり、信ぴょう性の薄すぎる記事を書いたりしている。しかしその行動は、天狗というものを世間に周知させ、天狗社会に新たな風を吹かせたい、という願いもあってのこと。まあ9割趣味だが。本編で言っていたように天狗の中でも幻想郷中でも実力はトップクラス。

    天魔…天狗ヒエラルキーのトップに立つ存在。戦闘力をはじめ、外交力、統率力、内政力、ほぼすべての分野で比類なきチカラを持つ。もちろん幻想郷全体から見ても、その実力はパワーバランスの一翼を担うほど。普段は深い洞察力と慎重に事を運ぶ冷静さで天狗社会を支えているのだが、天逆毎に洗脳されたのか、現在は全く自らの意思を感じさせない動きをしている。

    天逆毎…あまのざこ。天狗の先祖にして、天邪鬼の先祖でもある。尚且つスサノオから生まれたという経歴もあり、押しも押されぬ強力な神。伏ろわぬ神々の中でも強力な神であり、裏・博麗大結界から抜け出ていた数柱のうちの一柱。裏・博麗大結界の破壊に合わせて、事前工作の仕上げを始めた。怪力無双にして、天邪鬼な性格。

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  • 第19話 幻想郷の一番長い日 8

    2018-01-07 04:16
    あらすじ

    妖怪の山の異変を解決に向かった4人は、射命丸文と合流し、
    黒幕討伐組と天狗鎮圧組の二手に分かれて行動することにする。

    果たして天魔は何故このような奇行に走ったのか?
    黒幕の正体とはだれなのか?

    第19話 幻想郷の一番長い日 8

    今現在、天狗の山での攻防は、
    天魔の意見に賛同する、縄張り拡大賛成派が優勢である。

    一人一人の実力では、縄張り拡大反対派が上。
    一方、数では賛成派が約10倍と圧倒。

    いくら実力者が多くとも、数のチカラに対抗するのはなかなかに難しい。
    1体で10倍近くを相手どれるほどの猛者は少ないのだ。

    それに加えて天魔に賛同している者たちは、一種の狂奔状態となっている。

    理性なく、上だと認める者の言葉を妄信する集団は、この上なく強い。

    いくらチカラの弱い哨戒天狗でも、自身の行動に抑圧がなくなくなれば、
    普段とは比べ物にならないチカラを発揮する。



    しかしそんな戦闘の中でも、不利をものともせず戦う者たちがいる。

    反対派に回った一部の大天狗と、各天狗のまとめ役である長たち。
    そして、烏天狗の中でも強力なチカラを有する射命丸文と姫海棠はたてである。

    彼、彼女らは、妖怪の山から哨戒天狗が出ていかないように、
    少人数ながらも10倍の軍勢を足止めをしていた。


    ……


    大天狗A「文ァ!!そちらの戦況は!?」

    文「上々ですよ。そちらはいかがです?」

    大天狗A「流石だな!俺より強いだけはある!こちらももうすぐだ!」

    文「軽口叩いてる暇があるならさっさと片付けてください」

    大天狗A「その生意気な態度も今は頼もしいぞ!
    余裕があるなら玄武の沢の方へ向かってくれ!あそこはとてつもなく危険になる!」

    文「……承知しました。
    そちらは請け負いましたので、ここは任せましたよ」

    大天狗A「フン、心配いらん!
    我が鍛え上げられた神通力、若輩共がいくら束になっても敵うものではないわ!」

    文「ま、それはその通りですが。不覚だけはとらないように」

    大天狗A「無論だ!」


    ……


    烏天狗長「そんなことが……天魔様が何者かに操られているとは……」

    はたて「その可能性は高いみたいです。
    だから最近天魔様は何かおかしかったみたい……」

    烏天狗長「ムムム……天魔様ほどの御方が操られるなど想像できんが……
    最近のご乱心を考えれば疑う余地はなさそうじゃのう……」

    はたて「ですよねぇ……」

    烏天狗長「では尚更、天魔様に対面して何とかするしかあるまい」

    はたて「ものすっごい畏れ多いですけどね……」



    文が片っ端から哨戒天狗をなぎ倒して、防衛線維持に奔走している間、

    はたては反対派の実力者たちに
    天魔が操られている可能性があることを伝えて回っていた。

    今も自身の所属する烏天狗の長に真相を伝えたところだ。

    そして、そうしている間にも哨戒天狗たちは防衛線を抜けようと攻め込んでくる。



    はたて「あぁもう……キリがないわ……」

    烏天狗長「泣き言を言うでない、はたて」

    はたて「だってですよ、烏天狗長……
    哨戒天狗の奴ら、倒しても倒しても沸いてくるんですよ?
    わんこそばじゃないんだから……」

    烏天狗長「仕方なかろう。元々の数が違うのじゃ。
    それに、天魔様直々のお言葉、という大義名分もある。普段とは気迫が違う」

    はたて「それはわかってますけどぉ……あぁ、また来た」

    烏天狗長「次の相手は……!」



    戦線を維持する烏天狗長とはたての前に現れたのは、
    強力なチカラを持つ天狗の幹部、大天狗のひとりであった。



    大天狗B「我が前に立ちはだかるのは、烏天狗が一匹と……烏天狗長か」

    烏天狗長「大天狗様……」

    はたて「うえぇ……」

    大天狗B「今すぐそこをどけ、貴様等。大天狗直々の命令だ」

    烏天狗長「お言葉ですが、大天狗様……その命令は聞けませんのう。
    最近の天魔様はどこかがおかしくなってしまわれた。
    まずはその原因を突き止めるのが先決ではありませんか?」

    大天狗B「我が命令に背き、天魔様にも反逆するという事か?」

    はたて「そ、そんなつもりはないんです!」

    烏天狗長「そうですじゃ。はたての言う通り。そんなつもりは毛頭ありませんわい。
    むしろ逆に、今までの天魔様を知っているからこそ、
    我らは本当の天魔様に戻ってきていただきたいと思っておる!」

    大天狗B「話にならんな。天魔様の命は絶対だ。
    それが聞けぬとあれば、反乱分子として処分する」

    はたて「や、やめてくださいよぅ!そんなつもりじゃないんです!」

    烏天狗長「そうですじゃ!まずはこちらの話を聞いて……」

    大天狗B「問答無用!!」



    そう言うと大天狗は二人に向かって団扇を振るう!

    そこから大量のかまいたち状弾幕が発生し、二人に襲い掛かる!!



    はたて「や、やめてくださいってー!!」

    烏天狗長・大天狗B「!!」


    突然の攻撃にも関わらず、はたての反応は早かった。

    迫りくるかまいたちの一本一本は、さながら風でできた鋭利な刃物だ。
    まともに喰らえば体を切り裂かれることは必至。

    それに対してはたては、
    目の前に円形に高速回転する空気の壁を作り出すことで、
    無数のかまいたちを四方に受け流した!

    その結果、かまいたちは本来の軌道を逸れ、
    周囲の地面や木の幹を削り取る結果となった。



    はたて「お願いですから話を聞いてくださいよー!」

    烏天狗長「はたてよ、お主、ここまで……!」

    大天狗B「……!」



    大天狗は今の行動を見て、本格的な戦闘態勢をとる。

    はたては通常の烏天狗とは一線を画す実力を持っている。
    そのことを認めたということだ。



    烏天狗長「はたてよ!お主、天魔様の元へと向かえ!!」

    はたて「!?……でも烏天狗長様一人で、大天狗様の相手なんて……」

    烏天狗長「よい!何とかする!
    儂の実力程度では天魔様に言葉を届けられぬが、お主ならやれるはずじゃ!」

    はたて「ええ!?そ、そんなの無理ですよっ!」

    烏天狗長「無理ではない!早う行けぇっ!!」

    はたて「わわ、わかりました!ご武運をっ!」



    あたふたしながらもそう言うと、はたては風のように飛び去って行った。



    大天狗B「貴様一人で我の相手をするつもりか?思い上がるなよ」

    烏天狗長「儂とて烏天狗を纏める長。
    倒せないまでも時間稼ぎくらいはしてみせますわい!」

    大天狗B「フン……烏風情が。身の程を教えてやる」



    ……



    文「やれやれ……キリがないですねぇ……」



    妖怪の山の各地では、戦いが繰り広げられている。
    文は目に入る戦闘に全て介入し、恐ろしい早さで決着をつけることをしていた。

    とにかく相手方の数が多い以上、持久戦をしていてはジリ貧になってしまう。
    迅速に相手を片付け、かつ味方を減らさない行動がカギになる。

    それが一番うまくできるのは自分だという自負が射命丸にはあったし、
    それは真実だった。

    自身の戦闘に介入されて不満を持つ味方もいるにはいたが、
    文にとってはそんなことはお構いなしだ。



    文「さて、大天狗様の言う通り玄武の沢まで来ましたが……」



    文に目的地を示した大天狗には、『危機が見える』神通力がある。

    故にここ玄武の沢に、自分よりも実力が上と認める文を寄こしたことには
    何か特別な意味があるはずだ。



    文「むむ。確かに哨戒天狗の数は多いですが、戦線は維持できているようですね」



    しかし文の予想に反して、
    見る限りでは、そこまで切羽詰まった事態には見えなかった。

    なんとか戦線を維持するだけの戦力は整っていたし、
    相手に強力な天狗がいるわけでもない。



    文「さて、大天狗様が言っていた危険とは何か……確かめないとですね」



    文は戦場をもう一度見渡してみる。
    ……が、やはり驚異となるような相手は見当たらない。



    文「やはり問題はなさそうですね……」



    しかしその直後、
    大天狗がこの場所が危険だと言っていた理由が判明した。



    文「……成程。これは確かに……」



    妖怪の山を出ようとこちらに戦いを仕掛けていた天狗たちが、
    いきなり戦いをやめて、一斉に同じ方向を向く。

    そしてその視線の先には……



    文「お出ましですか……天魔様」



    他の天狗とは一線を画した魔力、威圧感……

    妖怪の山の総大将・天魔の登場である。

    文は天魔の姿を確認すると、その目の前に降り立つ。



    天魔「おお、貴様は射命丸ではないか……」

    文「天魔様……」

    天魔「射命丸も我らの縄張り拡大に尽力するために来たのだろう……?
    さあ、共に幻想郷を天狗の社会へと塗り替えようぞ」

    文「天魔様……一体どうしてしまったのですか?」

    天魔「何……?」

    文「私の知るあなたは、もっと気高く、思慮深かった。
    少なくとも、縄張りを広げるなどという、野蛮なことは考えなかった」

    天魔「……」

    文「それがどうして、こんなことになってしまったのですか?
    一体天魔様は、どういうおつもりで、こんなことをなさったんですか?」


    文は唯一、天狗の中でも天魔の事だけは尊敬している。

    それは持っているチカラが強いから、というだけではない。

    常に天狗全体のことを考え、慎重かつ冷静に振る舞うことができる思慮深さ。
    身分に関係なく、実力ある者や修行に余念がない者は地位を上げる、思考の柔軟さ。
    幻想郷の各勢力との外交を担い、また、後進の育成も重点的に行っていた視野の広さ。

    単純な戦闘力で言えば文も天魔に近いものを持っているのだが、
    そのほかの能力……指導力、洞察力、外交力などは、天魔に並ぶべくもない。


    ……生来のシングルプレイヤーである文にとって、
    それらの能力は必要と感じないものである。

    しかしだからこそ、
    そういった役割を高いレベルでこなしてくれる存在がいるからこそ、
    シングルプレイヤーとして自由気ままに振る舞えるということを
    文はわかっている。

    そういった理由で文は天魔のことを尊敬していたし、
    天狗社会の大黒柱として信頼してもいた。



    天魔「……射命丸よ。時が来たのだ。
    我ら天狗の雌伏の時は終わり、黄金の時代が訪れる。
    それが今であり、これからなのだ」

    文「……わかりませんねぇ。
    貴方ほどの御方がそんな妄言を吐くなんて」

    天魔「さぁ共に来い、射命丸よ。
    来る新たな時代、我ら天狗のチカラがこの国には必要なのだ」


    天魔の様子は明らかにいつもとは違う。
    会話は一見成立しているようで、天魔の言葉は文の質問に対するものではない。

    その視線の先は目の前の文ではなく、どこか遠くへと向かっている……



    文「……まるで壊れた蓄音機だ……
    天魔様が操られていると聞いて半信半疑でしたが、どうやら本当の様ですね」

    天魔「古き世に栄えた天狗社会を、復刻させようぞ」

    文「……貴方のそんな姿は見るに堪えません。
    今、ここで、止めさせていただきますよ」

    天魔「……我が誘い、断るというのか?」

    文「当然。傀儡の駒になどなれるはずがありません」

    天魔「……そうか」



    天魔の放つ雰囲気がガラリと変わる。

    一瞬のうちに張り詰める空気、先ほどとは比べられないほどの殺気を放つ眼光。

    流石の文の額にも、冷や汗が浮かぶ。



    天魔「我らの大願妨げる者は皆一様に敵対者なり。
    者ども、この不届き者の首、刈り取るのだ」

    哨戒天狗「御意に!天魔様!」



    ザザザッ!!



    天魔の号令がかかったとたん、周りで静観していた哨戒天狗達が動き出す!

    皆々が何のためらいもなく、同族の文に殺意を持って向かってくる。



    文「……!これは……っ!!」



    文にとっては哨戒天狗がいくら束になろうと敵ではない。

    木っ端のごとく蹴散らすことができるだろう。


    ……しかし問題はそこではない。

    あまりにも「統率が取れすぎている」。


    いくら命令に忠実な哨戒天狗たちとはいえ、
    同族同士の殺し合いなどためらいがあって当然だ。

    現に今までの妖怪の山での戦闘は、
    命のやり取りから離れた弾幕ごっこで行われていた。

    しかも今回に関しては身内、しかも圧倒的に格上である文が相手。
    躊躇なく殺しにかかれるような状況ではない。



    ……それなのに今、哨戒天狗たちは
    自らの意思を失い、文に高純度な殺意を向けている!!



    文「……天魔様の何かの能力ですかね……
    まったく、底が知れない御方だ」



    文は精神を集中させ、手扇を構える。

    ここで必ず天魔を止め、天狗のプライドを守ると心に誓いながら。



    つづく



    略称一覧


    はたて…姫街棠はたて(ひめかいどうはたて)。鴉天狗であり、新聞記者でもある。引きこもりがちなのに新聞が書けるのは、念写能力を持つおかげ。今回の異変では縄張り拡大反対派。実は戦闘のポテンシャルが高いうえ、なんだかんだ修業はまじめにやっているため、なかなかに強い。

    文…射命丸文(しゃめいまるあや)。鴉天狗であり、新聞記者でもある。よく人里に下りて無茶な取材をしたり、信ぴょう性の低すぎる記事を書いたりしている。しかしその行動は、天狗というものを世間に周知させ、天狗社会に新たな風を吹かせたい、という願いもあってのこと。まあ9割趣味だが。本編で言っていたように天狗の中でも幻想郷の中でも実力はトップクラス。

    大天狗A…天狗の幹部である大天狗のひとり。法力と体力はその地位に見合うものであり、実力者。能力は『危機が見える程度の能力』。縄張り拡大に興味がないことと、天魔の様子がおかしいことを気にして縄張り拡大反対派に。

    大天狗B…天狗の幹部である大天狗のひとり。Aと同様かなりの実力者。生来の生真面目な性格もあり、封建的な天狗社会において天魔の発言には従うべき、という理由から縄張り拡大賛成派に。

    烏天狗長…烏天狗たちをまとめる長。天狗社会における地位は大天狗とほぼ同格。戦闘力よりも事務能力、人心掌握能力などを買われて、天魔より烏天狗長を襲名した。とはいえ戦闘もできないわけではなく、その辺の木端天狗程度なら一蹴できる。天魔の様子がおかしいことと、慎重な性格から、様子見も含めて縄張り拡大反対派に組することに。

    天魔…天狗ヒエラルキーのトップに立つ存在。戦闘力をはじめ、外交力、統率力、内政力、ほぼすべての分野で比類なきチカラを持つ。もちろん幻想郷全体から見ても、その実力はパワーバランスの一翼を担うほど。普段は深い洞察力と慎重に事を運ぶ冷静さで天狗社会を支えているのだが、現在の彼の様子は何かがおかしい……

  • 第18話 幻想郷の一番長い日 7

    2018-01-07 04:14
    あらすじ

    封印されていた神々から人里を守ろうと準備していた霊夢と魔理沙。

    しかしそこに予期せぬ訪問者、姫街棠はたてが現れ、二人に助けを求める。

    天狗の内乱を解決するために、道中妖夢も加わって、
    4人は妖怪の山へと向かうのだった。

    第18話 幻想郷の一番長い日 7

    妖怪の山へ向かって飛んでいる一同。
    緊張の中、魔理沙が疑問を口にする。



    魔理沙「なぁ、霊夢」

    霊夢「どうしたの?」

    魔理沙「今回の妖怪の山の異変ってさ、『伏ろわぬ神々』と
    なんか関係あるのかな?」

    妖夢「え?なんですか?その『伏ろわぬ神々』って?」

    魔理沙「あ、やべ、妖夢はこれ知らないんだったな」

    はたて「私も知らないわよ。なんなの?それ」


    霊夢「あー……。ま、いいか、もう無関係じゃないし」

    妖夢「えっ?えっ?」

    はたて「……もしかしてこれ、聞かない方がいいやつ?」

    霊夢「もう遅いわ。実はね……」


    少女説明中……


    はたて「あーーーもーーーー!!
    やっぱり知らないほうがいいやつじゃないのよー!!
    なんなのよ!幻想郷全滅とかーーー!!!
    そんなのと戦えないーーー!!」

    妖夢「……(絶句)」


    あまりに突飛な情報だったため、妖夢とはたては現実を受け止めきれずにいる。
    霊夢が淡々と説明したこともあり、どうにも真実味が感じられないようだ。


    魔理沙「まあ、そうなるよな」

    霊夢「恐らくだけど、妖怪の山の異変もそいつらが一枚噛んでるわ」

    はたて「……いやでもおかしくない?
    天魔様がおかしくなってきちゃったのって、大分前よ?何か月か前。
    霊夢さんの話だと、結界が危なくなったのって、つい最近なんでしょ」

    霊夢「というか2日前ね。結界にひびが入ったのは。
    まさかこんなに早く結界が破壊されるとは思ってもみなかったけど」


    はたて「じゃあ天魔様がおかしくなっちゃったのって、
    その伏ろわナントカって奴らとは関係なくない?そうだよね?そうだといってよ」

    魔理沙「うーん、でもタイミング的にできすぎだと思うんだよな……」

    霊夢「そう。結界が破壊されたとたんに動き出した。無関係じゃないわ」

    妖夢「ええと……」


    魔理沙「てことはあれか、結界が壊れる前から、
    幻想郷にちょっかい出してたやつがいるってことか」

    霊夢「多分、ね」

    妖夢「ええと……あの……」

    はたて「それって……かなりヤバいんじゃ……」


    霊夢「ヤバいでしょうね」

    霊夢「裏・博麗大結界をすり抜けてくるくらいの実力者。
    それが妖怪の山で、私達が戦う相手よ……」

    はたて「しかもそいつ、天魔様を操ってるんでしょ……?」

    魔理沙「攻撃してくる天狗の軍勢をかいくぐって、大天狗も天魔も何とかして、
    それからその、とんでもなく強い奴を倒すってことか……?」

    霊夢「……そうなりそうね」

    はたて「ちょっと待って、私そんなのきいてないわ」

    霊夢「アンタが持ってきた話でしょ」

    はたて「あ˝ー……引きこもりたい……布団にもぐって全部忘れたい……」

    霊夢「今まで散々やってきたでしょ。腹くくりなさい」


    妖夢「あうぅ……」

    魔理沙「あ、ダメだ。妖夢が現実を受け入れられずにパンクした」

    霊夢「やれやれ……前途多難ね……」



    ・・・・・・



    戦々恐々のまま、4人は妖怪の山へと到着した。

    当然ながらはたてが離れた時よりも、戦闘は激化しており、
    至る所で弾幕が飛び交っている。



    霊夢「これはなかなか壮観ね」

    魔理沙「……妖怪の山がクリスマスツリーみたいだ」

    妖夢「これだけの天狗と戦っていては、スタミナが持たないですよ」

    はたて「うえー……私が出てった時より激しくなってる」


    霊夢「そりゃそうでしょ。
    ……でもまだみんな弾幕ごっこのルール内で戦ってるわね。結構結構」

    魔理沙「そだな。これなら何とかなりそうだ」

    はたて「あなた達、あの数見てよくそんな余裕そうにしてられるわね……」

    魔理沙「正直言って安心してるくらいだ。
    ガチンコの殺し合いになるかと思ってたから」

    妖夢「まぁ、気を抜かなければ、命の危険はそこまでなさそうですね」

    はたて「一回負けたらオシマイなのに、大したもんだわ……」



    天狗たちが暴走していると言っても、
    あくまで幻想郷流の弾幕ごっこルールの範囲内で争っているようだ。

    さすがに同胞と殺し合いをするほど狂ってはいない、ということだろう。

    それを見て安心する魔理沙。
    霊夢、妖夢とは何度も異変解決に出向いた仲であり、
    自分含め、この3人の弾幕ごっこの腕前は幻想郷でもトップクラスだ。

    いくら相手の数が多くとも、
    雑兵程度なら、油断しなければ負けることはない。


    ……しかし霊夢は気を緩めてはいなかった。



    霊夢「……魔理沙、妖夢、気は抜いちゃダメよ」

    魔理沙「いや、まあ、そこまで気は抜いてないがな。
    それでも殺し合いするよか全然マシだろ」

    妖夢「そうですよ霊夢さん。
    この様子なら何とかできなくはないというか、勝機がありますよ」

    はたて「流石の自信じゃん。頼もしいわ」


    霊夢「……やっぱり気を抜いてたわね。全く……。
    いい?結局は天狗との戦いは前哨戦よ。最後の敵が本番だからね?」

    魔理沙「あ―……そうか」

    霊夢「そいつは多分弾幕ごっことか知らない相手よ。
    実力差から考えても、息をするようにこっちを殺しに来るでしょうね」

    妖夢「その敵とは真剣勝負になる、と」

    霊夢「そうよ。
    地獄の女神と全力勝負するくらいに思ってなさい。」

    魔理沙「……言われてみりゃそうだよな。気を抜いてたらやられちまうか。」

    妖夢「……不覚でした。考えが足らなかったです」

    霊夢「わかればいいわ。まずは文と合流しましょ。
    文はどの辺にいるの?はたて」

    はたて「あー、えーと、ちょっと待って」



    そう言うとはたては、外の世界でいう携帯電話を取り出し、念写をする。
    すると画面に文が飛んでいる姿が写しだされる。



    はたて「オッケー。ここにいるのね。今から案内するわ」



    少女移動中……



    はたて「あっ、いた!文ーっ!!」

    文「ん?その声は……はたてですか」



    念写で文の居場所を割り出した4人は、
    無事に合流することに成功した。



    文「あやや……霊夢さんだけでなく、魔理沙さんに妖夢さんも。
    ナイスですよ。はたて」

    はたて「この二人を連れてこれたのは殆ど偶然だったけどね」

    文「僥倖です。私だけでは手が足りなかったですからねぇ」



    霊夢「で、文。どんなもんなのよ」

    文「正直押し切られそうです。
    縄張り拡大派の数が圧倒的に多いですから」

    魔理沙「どのくらいの戦力差なんだ?」

    文「こちらの数が1とすれば、あちらは9か10くらいでしょう」

    妖夢「……少し厳しいですね」

    文「数がいればいいというワケじゃありませんよ。
    あくまであちらの大半は哨戒天狗です。このメンバーなら敵ではないでしょう」

    はたて「アンタもアホみたいに強いからねぇ」

    文「そういうアナタこそやればできるクセに」



    霊夢「そういえば何でアンタは縄張り拡大派じゃないの?
    なんとなく答えはわかってるけど」

    文「……わかってるなら聞かないで下さいよ。
    正直かなり頭に来てるんですから」

    魔理沙「お前がそんなに怒ってるなんて珍しいな」

    文「チカラづくで縄張り拡大とか、畜生のやり方ですよ。下品なやり方だ。
    私達は天狗であって狗ではありません。」

    はたて「まあ、それは私にもわかるわ」

    文「まったく天魔様はおかしなことを言いだしますし、
    大天狗達は揃いも揃って追従するだけの木偶の坊だし、
    恥を知ってほしいものです」



    文の口調はいつも通りだが、明らかに怒り心頭だ。

    普段は飄々としていて、そうは見えないが、
    文はかなり古くから生きている実力者である。

    その分自身に対する誇りと、天狗がどうあるべきか、という信念は
    しっかり持っているのだ。

    そんな文にとって、今回の騒動は到底許せるものではない。



    縄張りを広めるだなんだと、そんなのは弱者の発想だ。
    本当の強者ならそんなことを考えずに、思う通りに振る舞えばよい。

    ……だから私はあまり妖怪の山の掟に縛られたくないのだ。



    文「まぁ、私の事はいいんです。
    身内の恥を晒すことはしたくないですが、助けてくださると助かりますね」

    霊夢「そのつもりだし構わないわよ」

    魔理沙「といっても、どうするんだ?
    このまま何も決めずにバラけて戦ったら、ジリ貧だぜ?」

    霊夢「そうね……
    相手の黒幕を倒すメンバーは、ほぼ万全の状態でいた方がいいわね」



    文「……黒幕?」

    魔理沙「ああ、文も知らないんだっけか」

    はたて「文、聞かない方がいいわよ……」

    文「なんなんですか?いったい?」

    魔理沙「実はな……」



    少女説明中……



    文「あややや……それはそれは、何とも……」

    霊夢「あんたかなり昔から生きてるでしょ?
    天魔をどうこう出来る奴って心当たりないの?」

    文「正直ピンときませんね……しかし天魔様の実力は私よりも上です。
    その天魔様が操られているとなると、
    おそらく圧倒的に強いか、相性が悪すぎるか、どちらかでしょうね。
    他の天狗ではどうにもできないでしょう」

    はたて「アンタしれっと
    自分が天狗の中で2番目に強いって言ったわね……」

    文「? そうですが?」

    はたて「恐れ入るわよもう……」



    魔理沙「しかし、もし天魔から見て相性が悪い相手だとしたら、
    天狗の二人もきついかもな」

    文「ですね。私とはたても操られる可能性はあります」

    妖夢「そうなってしまうと手が付けられませんね……
    どうでしょう、霊夢さん。
    天狗たちの鎮圧はお二人に任せて、私達は黒幕討伐に向かっては?」

    霊夢「それがいいかもね。そんな気がするわ」



    妖夢「お二人もそれでいいですか?
    大変な数の天狗を相手にすることになってしまうと思いますが……」

    はたて「えー……それはちょっと」

    文「もちろん問題ありません」

    はたて「うえぇ……」

    文「何怖気づいてるんですか、はたて。
    あんな能無しどもなんて蹴散らせて当然でしょう?」

    はたて「だってさっきアンタ、このままじゃ押し切られるって……」

    文「それはあくまで余裕を持って戦えば、という話です。
    そんなマズい相手がいるというなら、私も全力でやりますよ」

    はたて「大した自信家よね、全く……」

    文「はたての自己評価が低すぎるんですよ。
    アナタ大天狗くらいなら簡単にあしらえる実力があるくせに」

    はたて「ちょ、そういう失礼なこと言っちゃダメでしょ!」

    文「……まあいいです。
    とにかく、私たち二人と他の反対派たちで、
    あのバカどもと天魔様の目を覚まさせます。
    その間にあなた達3人は黒幕とやらをどうにかしてください」

    魔理沙「ああ、任せとけ」

    妖夢「では、お二人とも、ご武運を」



    ・・・・・・



    黒幕討伐組と、天狗鎮圧組の二手に分かれた一同。
    それぞれ戦闘に向かう。



    はたて「そういえば文。
    私達反対派ってさ、かなり実力ある奴が多いじゃない?」

    文「まあ、そうですね。地位に関係なく、実力ある者が多いですね」

    はたて「反対派はチカラがある天狗が一杯いて、拡大派は弱い天狗が多いじゃない?
    実力の高い低いって、変なこと言い出したりするかどうかにも関係してたのかな?」

    文「そうですねぇ……
    チカラある天狗が反対派に多い理由としては、
    単純に縄張り争いに興味がない、やり方が気に入らない、そんなところでしょうか」

    はたて「天魔様の命令なのに従わないってのは、抵抗感あるんだけどね……」

    文「何も考えず命令に従う。
    そのことに疑問が持てる程度には、
    物事を考えられる者たちということでしょう。
    結構なことです」


    縄張り拡大賛成派に、チカラの弱い天狗が多くいること。
    そこにはたては何か引っ掛かるものを感じていた。


    文「ま、頭が空っぽの集団に対して、こちらは自分で考えて動ける者の集団です。
    そこまで勝敗を心配することもないでしょう」

    はたて「それでも数の差がなぁ……ハァ、気が重いわ……」

    文「そろそろ縄張り拡大派の姿が見えてきますよ。気合入れてください」

    はたて「わかってるわよぅ……」



    ……



    魔理沙「おっしゃ!勝ったぜ!」

    天狗A「グヌヌ……すみません、天魔様……」



    妖夢「他愛ないですね」

    霊夢「流石に拡大派の天狗はたくさんいるわね」

    魔理沙「それでも反対派の天狗たちが、だいたいの戦闘を引き受けてくれてる。
    十分チカラは温存できそうだぜ」

    霊夢「そうね。ここまでは作戦通りってところかしら」



    妖夢「しかし黒幕はどこにいるんでしょうか?闇雲に飛び回っていても……」

    魔理沙「どうだ?霊夢」

    霊夢「たぶんそろそろね。あっちの方にいる気がするわ」

    魔理沙「だってさ」

    妖夢「……ホントに便利ですよね、その能力」



    着々と妖怪の山の異変を解決していく一行。

    しかし本番はここからである。

    一番奥で待ち構えるのは、一体どんな存在なのだろうか?


    つづく



    略称一覧

    霊夢…博麗霊夢(はくれいれいむ)。幻想郷を覆う、博麗大結界の管理をしている。通称・博麗の巫女。幻想郷で起こる数々の異変を解決してきた実績があり、各勢力からの信頼は篤い。年齢からは想像できないほど、物事を達観した目で見ている。

    魔理沙…霧雨魔理沙(きりさめまりさ)。魔法の森の辺りで暮らしている魔法使い。霊夢とは昔からの知り合いで、仲が良い。明るく前向きな性格。彼女も霊夢と共に異変解決をしてきた経歴を持つ。ただし罪悪感なしに泥棒をしていくので、一部からはお尋ね者扱いされている。

    妖夢…魂魄妖夢(こんぱくようむ)。白玉楼住まいの庭師にして剣術指南役。とても真面目であるがゆえに、主人の幽々子からは日々からかわれている。従者としての能力も剣術の腕も上々。半霊という人魂のようなオプションがくっついているが、それは彼女がそういう種族だから。

    はたて…姫街棠はたて(ひめかいどうはたて)。鴉天狗であり、新聞記者でもある。引きこもりがちなのに新聞が書けるのは、念写能力を持つおかげ。今回の異変では縄張り拡大反対派。実は戦闘のポテンシャルが高いうえ、なんだかんだ修業はまじめにやっているため、なかなかに強い。

    文…射命丸文(しゃめいまるあや)。鴉天狗であり、新聞記者でもある。よく人里に下りて無茶な取材をしたり、信ぴょう性の薄すぎる記事を書いたりしている。しかしその行動は、天狗というものを世間に周知させ、天狗社会に新たな風を吹かせたい、という願いもあってのこと。まあ9割趣味だが。本編で言っていたように天狗の中でも幻想郷中でも実力はトップクラス。

    天狗A…縄張り拡大派の哨戒天狗の一匹。あっさりやられてしまったが、相手が魔理沙ゆえ致し方無し。まあ実際実力も低いが。普段はまじめに大天狗の指示通り、山の哨戒をしている。趣味は将棋。