第16話 幻想郷の一番長い日 5
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第16話 幻想郷の一番長い日 5

2018-01-07 04:12
    あらすじ

    裏・博麗大結界が完全に破壊され、『伏ろわぬ神々』が幻想郷に現れた。
    そしてその脅威はまず初めに人里に及ぶ。

    人里の出入り口は完全に包囲され、このままでは脱出は不可能。

    そんな中、封印されていた者どもの進行を止めるべく、
    西門では藤原妹紅が、北門では命蓮寺の聖白蓮と寅丸星が、南門ではピクシーとガラクタ集めマネカタが、それぞれ戦いを繰り広げるのだった。

    第16話 幻想郷の一番長い日 5

    ―――南門―――



    ピクシーとガラクタ集めマネカタは、
    人里の南門まで足を運んでいた。

    人里中に火の手が上がる中、わざわざこの場所に来た理由は二つある。

    一つには、単純に距離が近かったから。

    そしてもう一つは、こちらの方角から火の玉が里中に飛んでいくのが見えたからだ。

    縁もゆかりもない土地とはいえ、一週間以上も過ごしてきたのだ。
    そこが焼き払われていくのを見るのは、あまりいい気分ではない。


    案の定、二人が南門に到着すると、
    火の玉を吐き出す悪魔と、その配下と思われる悪魔数十体がたむろしていた。



    ピク「ちょっとアンタ達!何してんの!?」

    ガラ「火の玉だすのやめてよ~!このままじゃ町が燃えちゃうよ!」



    二人の存在に気づき、火の玉を吐き出していた悪魔は、
    行動を止め、二人の方へと視線を寄こす。



    ??「オオォ……オォオオ……」



    今まで火の玉を人里中に吐き出していたその存在は、
    うつろな、見えているのかわからない目でこちらを見すえる。

    その体はごうごうと赤く燃え滾り、ふらふらと体を揺らしている。
    はた目から見れば、ゾンビが人体発火している、といった印象だ。



    ピク「なんか気持ち悪いやつね……」

    ガラ「ボルテクス界にこんな悪魔いなかったよね」



    その悪魔の正体は、悪霊・インフェルノ。
    人々の怨念が何物をも焼き尽くす炎の形となって生まれた悪魔だ。



    イン「オォウ!オオオッ!!」

    ??「アアァァ……オアアゥ……」



    インフェルノの雄叫びに呼応して、周りの悪霊たちも声を上げる。

    取り巻きの悪霊の群れは、死霊・コープスだ。

    こちらもボルテクス界には存在しない悪魔。
    怨念がいびつな形で集合した存在だ。

    その性質はレギオンとよく似ている。


    ピク「うーん……確かにこいつらチカラは強いけど、
    そこまで驚異じゃなさそうね」

    ガラ「なんだか不気味だけどねぇ」

    ピク「……よし決めた。アタシはこれから人里まで戻って消火活動にいそしんでくるわ」

    ガラ「えっ」

    ピク「シンと約束しちゃった手前、人死にを出すわけにもいかないのよね~
    というワケで、ガラクタ君、こいつらなんとかしちゃって~」

    ガラ「ちょちょちょっと!ピクシー!?どこ行くのさ!」

    ピク「だから消火活動しに行くって言ったじゃない。じゃあね~頑張って~」



    そう言うとピクシーは人里に向かって飛び去ってしまった。



    イン「オォォウゥン!!オオウッ!!」

    コー「アアアッ!!アアゥゥッ!!」



    ピクシーが飛び去ったのとほぼ同時に、インフェルノとコープスが雄叫びを上げる。
    そしてその場に取り残されたガラクタ集めマネカタへと、明確な敵意を向ける。



    ガラ「弱ったなぁ……」



    自分は戦闘があまり得意ではないのに、こんなことになってしまった。
    元々ピクシーの戦闘をアシストするつもりでいたため、ちょっと想定外だ。



    ガラ「ま、やるしかないか」



    それでも戦闘ができないというワケではない。
    シンから預かっているアイテムの数々を駆使して、なんとか戦ってみよう。



    ・・・・・・



    ―――北門―――


    命蓮寺から人里を守るために駆け付けた、聖と星の二人。

    二人の前に、人里の入り口である、大門が見えてきた。



    寅丸「聖ッ!見えてきました!」

    聖「ええ!やはり敵襲の様ですね!」


    大門の前には数十匹の妖怪が集まり、
    そのうちの特に巨大な一匹が門を今にも壊す勢いで体当たりしていた。



    ドズゥン!ドズゥン!



    ??「オウッ!オウッ!アトイッポダ!」



    その姿を見て、寅丸と聖の動きが止まる。



    聖「あの姿……!そしてあの爆発するような魔力……!!」

    寅丸「間違いない……!土蜘蛛……!」



    二人はこの妖怪の正体と、恐ろしさを知っていた。

    この妖怪は、地霊・ツチグモ。
    かつて京の都を完膚なきまでに破壊した、大妖怪だ。

    一応今の幻想郷にも土蜘蛛の妖怪はいるが、あくまでそれは分霊のようなもの。
    本当の土蜘蛛のチカラは、そんなものではない。

    京に住む陰陽師全員がかりでも対処しきれない手のつけられなさ。
    嵐のように急激に現れ、大破壊を行い、そして去っていくという性質。
    さらには通り過ぎた後に病魔を残し、何年も人々を苦しめるというおまけ付きだ。



    聖「あんな妖怪が人里に入ってしまっては……!」

    寅丸「手遅れなことになってしまいます!」



    いうが早いか、二人は土蜘蛛に近づき、弾幕攻撃を放つ!



    聖「―――『スターメイルシュトロム』!!」

    寅丸「―――『レディアントトレジャーガン』!!」


    ツチ「ヌッ!?」


    ツチグモがそれに気づくも、
    弾幕のスピードは速く、避ける間もなく命中する!



    バガガァァン!!



    ツチ「グオオォッ!!ナニモノダ!キサマラ!」



    流石のツチグモも、この攻撃にはたじろぐ。

    それを見て、周りで蠢く妖怪たちは、一斉に二人の方を向き、唸る。



    ??「おぎゃああぁぁぁッ!おぎゃぁあアァァ!」

    聖・寅丸「!?」



    取り巻きの妖怪は遠目では蜘蛛のように見えた。
    しかしよく見てみると、人間の赤子にそっくりではないか。

    地面に横たわる赤子から蜘蛛の足が生えている。
    そしてその鳴き声は完全に赤子のそれだ。

    この妖怪の名は、妖虫・ウブ。
    人間の赤子のふりをして、近寄ってきた人間を襲う妖怪だ。

    チカラはそれほど強くないが、こう大量に集まると、精神的に来るものがある。



    寅丸「確かに聖の言ったように、厄介な相手ですね……!」

    聖「ええ。しかし、やるしかありません!」

    ツチ「ナンダァ!?キサマラ!!オレサマノジャマヲスルナ!」



    相手の強大さを肌で感じ、冷や汗を流す聖と星。

    しかしここで退いては人里が蹂躙されてしまう。
    退くわけにはいかない。



    ・・・・・・



    阿求「皆さん!落ち着いて、落ち着いて移動してください!」



    阿求は人里に住む人間の誘導に奔走していた。

    こういったチカラ仕事は、本来なら使用人たちに任せておけばいいのだが、
    この事態の中では居ても立っても居られなかった。

    しかし自分に戦うチカラが無いのが本当に悔しい。

    自分も戦えるなら、誰もこんなに不安にさせなくても済むのに……!!


    ……!


    ここで阿求は思い出す。
    人里には腕利きのデビルサマナー・間薙シンが滞在しているということを。



    阿求「そうだ……!そうだった……!!シンさんなら、助けてくれるかも!」



    阿求は藁にもすがる思いで、シンが宿泊している宿へと駆ける。
    話に聞く、恐ろしい世界で生き抜いてきた彼ならば、戦ってくれるのではないかと……!

    ……しかし



    女将「すみません、阿求さま……!間薙殿はどうやら外出されているようです……」



    必死でたどり着いたというのに、タイミング悪く外出中……

    期待が大きかった分、失望もまた大きい。



    阿求「そう……ですか……ありがとうございます。貴女も早く避難を」

    女将「は、はいっ」



    宿の女将に避難指示を出し、阿求も避難誘導に戻ろうとしていた時……



    ガラ「あれ~?阿求さんじゃないですか。こんにちは」



    この緊急事態に似つかわしくない、間延びした声が玄関から聞こえてきた。



    阿求「アナタは!……ガラクタ集めマネカタさん!」

    ガラ「あ、覚えてくれてたんですね。嬉しいな」

    阿求「そんな挨拶してる場合じゃありません!
    今この人里は妖怪に攻め込まれています!早く避難してください!」

    ガラ「あ、悪魔が来てるのは知ってますよ~」

    阿求「だったら早く!西門に向かってください!」

    ガラ「え?なんで?ここからなら南門の方が近いじゃないですか」

    阿求「南門には妖怪が殺到しています!
    今手練れのものが西門の妖怪を退治してくれていますので、そちらから避難を!」

    ガラ「南門の悪魔なら今倒してきましたよ?」

    阿求「……へ?」



    予想外の言葉に、阿求は完全にフリーズする。

    南門にも30体以上の妖怪が殺到していたはずでは?
    それをこの短時間で全滅させた?
    この目の前にいる、戦闘とは無縁そうな人が?

    阿求がフリーズしているのに構わず、ガラクタ集めマネカタは話を続ける。



    ガラ「いや~、確かにチカラは強かったんですけどね。
    みんな破魔属性が弱点だったんで、助かりましたよ」

    ガラ「シン君から借りてる、この『破魔の霊扇』があったから、あっさり倒せちゃいました」



    ガラクタ集めマネカタはそう言うとどこからか扇を取り出し、阿求に見せる。
    そしてニコニコしながらその扇をブンブン振ってみせる。

    ……しかし阿求にとってはそんなこと、今はどうでもよい。



    阿求「そ、それは本当ですかっ!?」

    ガラ「へ?それって何のことですか?」

    阿求「アナタが南門の妖怪を全滅させたって話です!」

    ガラ「ええ、本当ですよ。
    破魔属性の攻撃で倒したんで、きれいさっぱり、何も残ってないです」

    阿求「……っ!!ありがとうございますっ!!」



    そう言うと阿求は嬉し涙を流しながら、走り去ってしまった。

    事の重大さがいまいち呑み込めないガラクタ集めマネカタは、
    首をかしげてキョトンとしている。



    ガラ「なんだか阿求さん嬉しそうだったなぁ。
    よ~し、ボクももうひと頑張りだ!人里の消火のお手伝いをしよっと」



    そう言うと、ガラクタ集めマネカタは黒煙の上る方に向かって走り出すのだった。



    ・・・・・・



    ―――西門―――



    退治師A「妹紅さんっ!後は我々に任せて、下がってください!!」
    退治師B「私達で何とか止めてみせます!」



    西門では未だモムノフの群れを撃退できずにいた。
    なんとか数は半分ほどまで減らせたものの、こちらも満身創痍である。

    応援に稗田家御用達の妖怪退治師が数名駆け付けたが、
    決定打になりうるのは、妹紅の火炎の術のみ、という状況は覆せなかった。



    妹紅「……うるさいわね、アンタ達はサポートくらいしかできないでしょ……
    前線はおとなしく私に任せて、援護に徹してなさい……」



    妹紅は強がってはいるが、疲労困憊である。

    何分も全力で攻撃と回避を続けてきたのだ。
    どんなにタフネスがあったとしても、疲労の色が強くなるのは避けられない。

    それでも死なない自分が盾になるべきだ。妹紅はそう考えていた。

    それに退治師達のチカラもかなりのもので、
    攻撃に関しては仕方ないものの、援護の緊縛の術、減衰の術などは達者である。
    それらは相手に対して効果がてきめんであるようにも感じる。

    だから援護に徹しろ、というのは単なる強がりではなく、
    実際に効果があってそうして欲しいが故の発言だった。



    妹紅「クソッ!もう避難のために人里から大勢集まっているというのに……!!」



    妹紅の懸念は勝敗よりも、避難民たちにあった。

    続々と人里中から避難民が西門に殺到している。
    このままでは危険だ。チカラのない者たちが集まっているということは、
    妖怪からしたらエサが大量にまとまっているように見えるだろう。

    目の前の武士のような妖怪たちを食い止められたとしても、
    別の妖怪がこれ幸いと襲いに来るかもしれない。



    妹紅「こうなったら仕方がない……!最後の一発!決めるわよ!」

    退治師A「な、何をするつもりですか!?」

    退治師B「いけない!そんなに魔力を高めては!暴発してしまうッ!」

    妹紅「わかってんじゃない!討ち漏らしは何とかしてよねっ!」



    そういうと、妹紅は更に魔力を高め続ける!



    妹紅「あんたらが誰だかわからないけどさっ!生き残りたいなら耐えてみろっ!!」



    ―――『インペリシャブルシューティング』ッ!!!



    ゴオオオウッ!!!



    妹紅の体が紅く光り輝き、火炎属性の濃密な弾幕が展開される!

    巨躯のモムノフがこれをかわすことなどできず、次々に炎に包まれていく!



    モム「オオオオッ!!!」


    妹紅「グ……!アアァァァ熱いィィィィッッ!!!!」


    退治師A「うわああっ!!」

    退治師B「も、妹紅さんっ!!一体何を!」



    妹紅は不老不死だが、痛みも疲労も感じる。

    当然、自分ともども相手を道連れにするこの技は、
    妹紅の体に、生きながらにして焼きつくされる苦痛を与える!!

    強烈な自爆技だ!


    ……


    妹紅の技が出終わったとき、モムノフは一体残らず焼き尽くされ、
    黒焦げの死体が転がるばかりとなった。

    術者である妹紅も当然無事ではない。
    モムノフと見分けがつかないくらい黒焦げとなり、横たわっている。



    慧音「も、妹紅っ!!」



    その光景を一部始終見ていた慧音は、目に涙を溜めながら、
    消し炭となった友人の元へと駆けよる。



    慧音「あぁ……妹紅、こんなになって……
    お前はいつも自分だけで無茶しようとする……だから死ぬなと言っておいたのに……」

    退治師A「も、妹紅さんは大丈夫なのですか!?」

    慧音「ああ……心配ない……早く人里のみんなを避難させてくれ……」

    退治師A「ハ、ハイッ」



    それを聞くと、退治師含め稗田家の使用人たちは、
    人里からの避難を迅速に進めていく。

    これで少なくとも大きな人的被害は出ないはずだ。



    慧音「妹紅、お前のおかげだ……ありがとう……」



    ・・・・・・



    ―――北門―――



    ツチ「オオオマエラッ!ウセロツ!―――『毒針』!!」

    聖「避けなさい!星っ!!」

    寅丸「わかってるわっ!!……クッ!!」



    なんとかギリギリで攻撃をかわす星。


    北門の攻防は、随分と拮抗していた。

    ウブの群れは弾幕による全体攻撃で蹴散らすことができたが、
    肝心のツチグモはいまだ健在である。

    ツチグモに苦戦している理由は、
    別に攻撃の通りが悪いわけでも、ツチグモに回復能力があるからでもない。

    いくら攻撃を当てても疲労を見せないタフさと、
    ツチグモの攻撃のほとんどにある毒性が原因だ。

    大技を出そうとすればその隙に攻撃をもらってしまいかねないし、
    体に触れるような近接攻撃では、そのまま何かしらの毒をもらってしまう。

    2対1という圧倒的なアドバンテージがありながら、攻めきれないでいるのはそのため。
    戦って勝てたとしても、強烈な毒により命を落としてしまっては本末転倒だ。



    聖「私が隙を作ります!―――『マジックバタフライ』!」



    蝶の形をした魔弾が不規則な軌道でツチグモに迫る!



    ツチ「ソノテイド!―――『九十九針』!」



    ツチグモから放たれる大量の針は、
    聖の魔弾をすべてかき消していく!



    寅丸「今です!―――『正義の威光』!」



    寅丸から放たれるレーザー攻撃!
    九十九針を出した直後のツチグモではこれをかわし切れず、直撃する。



    ツチ「グオオウ!」

    ツチ「アアモウ!オレサマ!オマエラ!マルカジリ!」



    そう言うと、ツチグモは寅丸に高速で近づく!



    寅丸「ッ!!」

    ツチ「―――『丸かじり』ッ!!」



    ガブッ!!



    寅丸「うわああっ!!」



    その巨体からは信じられないスピードで近づくツチグモを、
    寅丸はかわし切ることができなかった!

    腕を少しかじられてしまう!



    聖「星ッ!!」

    ツチ「ナンダ……キサマ、マズイ……ヨウカイカッ!!」

    聖「……!これでどうですか!?」



    星は戦闘継続が難しいと踏んで、聖は勝負をかける!
    寅丸に気をとられている今が最大のチャンス!これで決める!!



    聖「行きます!―――『スターソードの護法』!!」



    聖は集中力を高め、空中に多数の魔方陣を出現させる!
    そしてその一つ一つから、剣の形をした弾幕を放出!

    ツチグモに迫る無数の剣!



    ツチ「ナンダコレハ!?クソウッ!!―――『烈風波』ァッ!!」


    ズオッ!



    ツチグモから放たれる衝撃波は、
    聖の無数の魔弾を次々とかき消していく!

    しかし、その程度で収まる数ではない!

    魔弾を相殺しきれずに、ツチグモは直撃を喰らう!!



    ズドドドドッ!!



    ツチ「コンナッ……トコロデェェェ!!!」

    ツチ「……」



    聖の大技を喰らったツチグモのカラダは、
    さながらハリネズミのようになっていた。

    いくらタフな妖怪といえど、ここまでされては耐え切れない。


    見事聖はツチグモに勝利した!



    聖「ハァ……ハァ……流石に疲れましたね……
    星は、大丈夫でしょうか……?」



    ・・・・・・



    ―――東門―――



    こちらは人里の東門。

    戦力となるメンバーは皆多忙だったので、
    ここには誰も来ることができなかった。

    つまり妖怪の暴れるに任されていたこの場所では、
    人里は壊滅的被害を受けている…



    はずだった。



    現在の東門には、ぼろきれのようにズタボロにされた妖怪たちが
    無残にも散らかっている。

    その面々をよく見ると、他の門に集った妖怪と比べても
    一回り強い者たちだ。

    ダツエバ、ヨモツシコメ、ヨモツイクサ……

    黄泉の軍勢である。


    一体誰がこのような強力な軍勢を、蹴散らしたのだろうか……?



    ・・・・・・



    西門と南門からの避難が一段落し、
    稗田家に戻って人里の状況を再確認する阿求。

    このような一大事にもかかわらず、
    死傷者はほぼいないという、信じられない状況であることが判明した。

    めだった人的被害と言えば、

    各門の門番が死亡してしまったこと、
    命蓮寺の寅丸星が外傷と毒を受けたこと、
    藤原妹紅が死闘の末、大けがを負ってしまったことだった。

    死者が出てしまっている以上、手放しで喜ぶことはできない。

    しかし総勢100体以上のあの軍勢に対して、この被害というのは、
    本当に奇跡的だろう。



    阿求「良かった……本当に良かった……!」



    緊張の糸が切れて泣き出す阿求。
    それも無理はない。

    阿求は前世の記憶があるとはいえ、まだまだ子供なのだ。
    人里すべての責任を背負うには、まだ若すぎる。



    その一方、浮かない顔の者たちもいる。



    慧音「妹紅、あれほど無茶するなと言ったじゃないか!!」

    妹紅「いや、だってしょうがないでしょ……私がやんなきゃダメだったし……」

    慧音「そうだとしてもあんな戦い方はもうダメだ!!
    頼むから、もっと自分のことを大切にしてくれ……!」

    妹紅「わ、わかったよ慧音。わかったから泣かないで、ね?」



    妹紅の不老不死を活かした戦い方を、慧音はよく思っていないようだ。
    心配して泣き出しそうな友人を、妹紅はあたふたしながらなだめている。



    聖「星……。大丈夫ですか……?」

    星「うぅ……」



    こちらでは聖が寅丸の看病をしている。
    ツチグモに噛まれた外傷と、その際に受けた毒で、星はうなされていた。

    動悸は激しく、呼吸は浅い。誰が見ても危険な状態だ。

    名誉の負傷であるため、皆何とかしてあげたいとは思っている。
    しかし、ツチグモの毒は強力で、医師も有効な手が打てずにいた。


    そんな中、新たに稗田家に訪問者が現れる。



    ピク「お疲れ様~。みんな生きてる?」

    ガラ「ふーい、消火活動終わったよ~」



    珍しい来客に、その場に居合わせた面々は顔を向ける。



    聖「ピクシーさん!?それにガラクタ集めさんも!」



    二人と面識のあった聖が、いの一番に声をかける。



    ピク「あら、命蓮寺の住職さんじゃない。こっちに来てたのね」

    ガラ「あ、おひさしぶりです!この前はありがとうございました!」

    聖「お二人も人里の防衛をされていたんですね!」

    ピク「う~ん、そんな大層なことしてないけどね」

    ガラ「そうですよ~。
    ちょっと悪霊退散させて、消火活動してただけですから」

    聖「そんな謙遜なさらないで下さい。
    お二人がいなければ、もっと被害は大きなものになっていたでしょうから」

    ガラ「大げさだなあ……ホントに大したことしてないのに……!?」



    聖と話している途中で、ガラクタ集めマネカタは倒れている星に気づく。



    ガラ「ちょ、ちょっと!寅丸さんどうしたんですか!?随分辛そうにしてる!」

    ピク「あ、ほんとね。……これはちょっとまずいかもね」

    聖「……!?ピクシーさん、わかるんですか!?」

    ピク「これはあれね。
    体力の自然回復より毒のダメージの方が大きい、猛毒ってやつよ。
    ほっといたら長くはないわね」

    聖「そ……そんな……」



    ピクシーの話を聞いて、ガクッと膝をつく聖。
    顔面蒼白で、今にも倒れそうだ。



    ピク「あ、そんなに気を落とさないで、聖さん。私達が来てラッキーだったわね」

    聖「……え?」

    ガラ「ボクが色々もってますからね。ハイ、『ディスポイズン』」



    そう言ってガラクタ集めマネカタは星の額に何かの袋をかざす。

    するとなんと!
    見る見るうちに星の血色がよくなり、呼吸が安定していく!



    聖「え……!?」



    あまりにあっさりした処置で、星の容体が回復した。
    にわかには信じがたい光景である。
    聖は呆気にとられ、口をぽかんと開けている。



    ガラ「それと……これ!『宝玉』!」



    またそう言ってガラクタ集めマネカタは何かの球を取り出し、星の胸元に置く。

    その途端、球が光り輝き、その光が星の体に吸い込まれていく!



    聖「……!!」



    何が起こっているか判断しかねる聖の目の前で、
    星がむくりと起き上がる。



    聖「!?!?」


    寅丸「あれ……?聖……?
    ここは一体……?ツチグモは……?なんで私、寝ているのですか……?」


    聖「星っ!!よかったっ!!」


    バッ


    寅丸「ひ、聖っ!?ど、どうしたんです!?」



    『宝玉』で体力と傷が完全に回復した星。

    星が手遅れだと聞いて絶望していた聖は、喜びのあまり星に抱き着いた。
    当の本人は、何が何やらよくわからず、困惑している。



    ガラ「いや~、喜んでもらってよかったよ!」

    ピク「よかったわね。こないだお宝みせてもらった恩返しができたじゃない」

    ガラ「そうだね!このくらいで喜んでもらっちゃって、ちょっと申し訳ないけどね」

    ピク「いいんじゃない?結構危なかったみたいだしね」


    ……


    一連の流れを横で聞いていた阿求。

    人里を守ってくれた星が助かったことに安堵するとともに、
    この二人の底知れなさに心底驚く。

    毒を一瞬で治す道具に、体力を一瞬で全回復する道具……

    そのどちらも秘宝クラス、神宝クラスの効果ではないか。

    お宝を探しに来た、と言っているにもかかわらず、
    そんな神話レベルのお宝をあっさりと使ってしまうとは……

    今になってようやく金銭や物の珍しさに興味がない理由がはっきりした。
    あんなとんでもない道具に対抗できるものなんて、早々ないもの。


    ……しかし今は、そんなことよりも……


    阿求「ピクシーさん、ガラクタ集めマネカタさん」



    阿求は二人に声をかける。



    ピク「あら、阿求さんじゃない。お疲れ様」

    ガラ「あんまり被害がなかったみたいで何よりです」

    阿求「お二人とも……ありがとうございましたっ!!」



    阿求はそう勢いよく言うと、丁寧にお辞儀をした。



    ガラ「そ、そんな!お世話になってるのはボクたちの方なんですし……」

    阿求「そんなことありませんっ!
    今回ピクシーさんは、町の火の手を片っ端から消してくださったと聞いていますし、
    ガラクタ集めマネカタさんは、南門の解放をして下さいました!」

    阿求「お二人の活躍があったからこそ、みんな生きていられるし、
    街並みもそのままで、すぐに生活に戻れるんです!」

    阿求「私達だけでは、ここまでできなかった……!
    本当に、本当にありがとうございますっ!!」



    そういうとまた阿求は嬉し涙を流す。

    阿求は本当に嬉しかった。

    自分の代で人里が壊滅することにならなかったこと。
    さしたる恩もないのに、自ら二人が人里のために動いてくれたこと。



    ガラ「わわわっ!!泣かないで、阿求さん!」

    ピク「フフフ。美人が台無しよ。それとお礼ならシンに言ってあげて」

    阿求「へ?シンさん……?」

    ピク「そうよ。
    いつもシンと一緒にいる私達が、何で別行動してるかわかる?」



    阿求「いや、それは、私も不思議でしたが……」

    ピク「それはね、アイツが言ってたからなのよ。
    人里に危険が迫ったら、助けてやってくれ、ってね」

    阿求「そう……なんですか」

    ピク「シンはもっと危ないところに出向いてる。
    そんなところに行くっていうのに、それよりアンタ達を気遣ったの」

    阿求「なんというか、本当にいい人ですね……」

    ガラ「そうですよ!シン君はボクらを解放してくれた恩人ですから!」



    ピク「そう。だから私達は皆アイツについていくのよ。
    アイツは、だからこそ、私達の『王』なんだから」

    阿求「『王』……?」

    ピク「あぁ、それは気にしないで頂戴。
    とにかく、またシンに会ったときにでもお礼を言ってあげて。
    アイツは仏頂面だけど……ああ見えて寂しがりだから」

    阿求「はい……!わかりました。
    でも、やっぱりあなた達にも言わせてください」



    阿求「お二人とも、助けてくれて、本当にありがとうございます!」



    そういうとまた阿求は丁寧にお辞儀する。

    どれだけ二人にとって些細な事だったとしても、人里はそのおかげで救われたのだ。

    いくら感謝してもしきれない……!



    ・・・・・・



    ひとまず人里の襲撃は退けることに成功した。

    しかし当然、これは第一波であり、
    これより先にも、そして今現在も、侵攻は続いているのだ。

    これからの彼らの行動が幻想郷の運命を決めていく……



    つづく



    略称一覧

    ピク…ピクシー
    ガラ…ガラクタ集めマネカタ

    阿求…稗田阿求(ひえだのあきゅう)。人里の顔役である稗田家、その当主。実年齢は10歳ほどだが、自身の能力により、先代の記憶をすべて受け継いでいる。シン一行のことは警戒し、監視をつけていたのだが、以前の談話で警戒の必要なしと判断。

    聖…聖白蓮(ひじりびゃくれん)。命蓮寺の女住職。生まれは千年以上前だが、長いこと封印されていて、目覚めたのは最近。妖怪と人間の懸け橋として日々精進するやさしい女性。色々あって魔導をたしなんでいるため、見た目に反してかなりの戦闘力。

    寅丸…寅丸星(とらまるしょう)。トラの妖怪だが、見た目はお姉さん。命蓮寺の毘沙門天代理。生きるご本尊。槍術と宝塔のレーザーで戦闘力は高い。しっかりしているようでうっかりしているところもあり、その人柄は多くの人に愛されている。

    慧音…上白沢慧音(かみしらさわけいね)。妖怪と人間の半獣。寿命が長く、見た目からは想像できない年数生きている。人里で寺子屋の先生をやっている。美人なのでファンが多い。ものの歴史を食べる、という変わった能力がある。並の妖怪なら撃退できる程度には戦える。

    妹紅…藤原妹紅(ふじわらのもこう)。藤原氏の一員で、不老不死。奈良時代から今まで少女の姿で生き続けている。何百年も妖怪退治をしてきた実績があり、その火炎の術はとんでもない威力が出るまで研鑽されている。死ぬことができないことを深く悲しんでいて、生きることに希望を見いだせなくなっている。慧音は親友。

    イン…悪霊・インフェルノ。人々の憎悪や憎しみが集まってできている悪魔。その体はあらゆるものを燃やし尽くす憎悪の炎でできている。今回は封印されていた神々の怒りと憎しみから生まれた存在、という設定。配下のコープスも同様。

    コー…悪霊・コープス。詳しくは上記。

    ツチ…地霊・土蜘蛛(ツチグモ)。本編でもかたられているように、かつて京の町で大暴れした大妖怪。破壊と病魔をもたらす厄介な存在。作中ではかなりあっさりとやられてしまったが、それは聖と寅丸が強かったからそう見えるだけ。一匹で人里の一つや二つ潰せるくらいのチカラはあった。ウブを配下としている。

    ウブ…妖虫・ウブ。赤子に擬態して人間を狩る、恐ろしい生態の妖怪。チカラ自体はそこまで強力ではないが、無警戒なものを襲う性質は厄介。今回はあまり出番なく終わってしまったが、やっぱりそれは命蓮寺の二人が強かったせい。

    モム…妖鬼・桃生(モムノフ)。物部氏の子孫にして、武神。のちの武士(もののふ)の語源ともなった。物理耐性を持っており、通常攻撃は効果が薄い。反面神経操作系の攻撃には弱いので、もっと早く神経系の術が使える退治師が来ていれば、戦況も少しは違ったかもしれない。

    退治師A…稗田家お抱え妖怪退治師のひとり。作中では随分ヘタレていたが、状況が状況なだけに責められない。本当は妖怪3匹程度なら一人で相手どれるくらいの実力者。稗田家も彼を重宝している。

    退治師B…稗田家お抱え妖怪退治師のひとり。Aと同じく能力は低くない。中の上くらいはある。今回は難易度ルナティックだったため、あまりいい場面を用意してあげられなかった。ゴメンよ。

    女将…稗田家御用達の宿の若女将。仕事に真面目で、阿求からの信頼も厚い。だからこそシンの下宿先に選ばれたという裏話がある。実はミーハーで、シンのミステリアスな雰囲気と、人の好さにメロメロ。人里間薙ファンクラブ1号会員であり、ファンクラブ会長でもある。

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