第19話 幻想郷の一番長い日 8
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第19話 幻想郷の一番長い日 8

2018-01-07 04:16
    あらすじ

    妖怪の山の異変を解決に向かった4人は、射命丸文と合流し、
    黒幕討伐組と天狗鎮圧組の二手に分かれて行動することにする。

    果たして天魔は何故このような奇行に走ったのか?
    黒幕の正体とはだれなのか?

    第19話 幻想郷の一番長い日 8

    今現在、天狗の山での攻防は、
    天魔の意見に賛同する、縄張り拡大賛成派が優勢である。

    一人一人の実力では、縄張り拡大反対派が上。
    一方、数では賛成派が約10倍と圧倒。

    いくら実力者が多くとも、数のチカラに対抗するのはなかなかに難しい。
    1体で10倍近くを相手どれるほどの猛者は少ないのだ。

    それに加えて天魔に賛同している者たちは、一種の狂奔状態となっている。

    理性なく、上だと認める者の言葉を妄信する集団は、この上なく強い。

    いくらチカラの弱い哨戒天狗でも、自身の行動に抑圧がなくなくなれば、
    普段とは比べ物にならないチカラを発揮する。



    しかしそんな戦闘の中でも、不利をものともせず戦う者たちがいる。

    反対派に回った一部の大天狗と、各天狗のまとめ役である長たち。
    そして、烏天狗の中でも強力なチカラを有する射命丸文と姫海棠はたてである。

    彼、彼女らは、妖怪の山から哨戒天狗が出ていかないように、
    少人数ながらも10倍の軍勢を足止めをしていた。


    ……


    大天狗A「文ァ!!そちらの戦況は!?」

    文「上々ですよ。そちらはいかがです?」

    大天狗A「流石だな!俺より強いだけはある!こちらももうすぐだ!」

    文「軽口叩いてる暇があるならさっさと片付けてください」

    大天狗A「その生意気な態度も今は頼もしいぞ!
    余裕があるなら玄武の沢の方へ向かってくれ!あそこはとてつもなく危険になる!」

    文「……承知しました。
    そちらは請け負いましたので、ここは任せましたよ」

    大天狗A「フン、心配いらん!
    我が鍛え上げられた神通力、若輩共がいくら束になっても敵うものではないわ!」

    文「ま、それはその通りですが。不覚だけはとらないように」

    大天狗A「無論だ!」


    ……


    烏天狗長「そんなことが……天魔様が何者かに操られているとは……」

    はたて「その可能性は高いみたいです。
    だから最近天魔様は何かおかしかったみたい……」

    烏天狗長「ムムム……天魔様ほどの御方が操られるなど想像できんが……
    最近のご乱心を考えれば疑う余地はなさそうじゃのう……」

    はたて「ですよねぇ……」

    烏天狗長「では尚更、天魔様に対面して何とかするしかあるまい」

    はたて「ものすっごい畏れ多いですけどね……」



    文が片っ端から哨戒天狗をなぎ倒して、防衛線維持に奔走している間、

    はたては反対派の実力者たちに
    天魔が操られている可能性があることを伝えて回っていた。

    今も自身の所属する烏天狗の長に真相を伝えたところだ。

    そして、そうしている間にも哨戒天狗たちは防衛線を抜けようと攻め込んでくる。



    はたて「あぁもう……キリがないわ……」

    烏天狗長「泣き言を言うでない、はたて」

    はたて「だってですよ、烏天狗長……
    哨戒天狗の奴ら、倒しても倒しても沸いてくるんですよ?
    わんこそばじゃないんだから……」

    烏天狗長「仕方なかろう。元々の数が違うのじゃ。
    それに、天魔様直々のお言葉、という大義名分もある。普段とは気迫が違う」

    はたて「それはわかってますけどぉ……あぁ、また来た」

    烏天狗長「次の相手は……!」



    戦線を維持する烏天狗長とはたての前に現れたのは、
    強力なチカラを持つ天狗の幹部、大天狗のひとりであった。



    大天狗B「我が前に立ちはだかるのは、烏天狗が一匹と……烏天狗長か」

    烏天狗長「大天狗様……」

    はたて「うえぇ……」

    大天狗B「今すぐそこをどけ、貴様等。大天狗直々の命令だ」

    烏天狗長「お言葉ですが、大天狗様……その命令は聞けませんのう。
    最近の天魔様はどこかがおかしくなってしまわれた。
    まずはその原因を突き止めるのが先決ではありませんか?」

    大天狗B「我が命令に背き、天魔様にも反逆するという事か?」

    はたて「そ、そんなつもりはないんです!」

    烏天狗長「そうですじゃ。はたての言う通り。そんなつもりは毛頭ありませんわい。
    むしろ逆に、今までの天魔様を知っているからこそ、
    我らは本当の天魔様に戻ってきていただきたいと思っておる!」

    大天狗B「話にならんな。天魔様の命は絶対だ。
    それが聞けぬとあれば、反乱分子として処分する」

    はたて「や、やめてくださいよぅ!そんなつもりじゃないんです!」

    烏天狗長「そうですじゃ!まずはこちらの話を聞いて……」

    大天狗B「問答無用!!」



    そう言うと大天狗は二人に向かって団扇を振るう!

    そこから大量のかまいたち状弾幕が発生し、二人に襲い掛かる!!



    はたて「や、やめてくださいってー!!」

    烏天狗長・大天狗B「!!」


    突然の攻撃にも関わらず、はたての反応は早かった。

    迫りくるかまいたちの一本一本は、さながら風でできた鋭利な刃物だ。
    まともに喰らえば体を切り裂かれることは必至。

    それに対してはたては、
    目の前に円形に高速回転する空気の壁を作り出すことで、
    無数のかまいたちを四方に受け流した!

    その結果、かまいたちは本来の軌道を逸れ、
    周囲の地面や木の幹を削り取る結果となった。



    はたて「お願いですから話を聞いてくださいよー!」

    烏天狗長「はたてよ、お主、ここまで……!」

    大天狗B「……!」



    大天狗は今の行動を見て、本格的な戦闘態勢をとる。

    はたては通常の烏天狗とは一線を画す実力を持っている。
    そのことを認めたということだ。



    烏天狗長「はたてよ!お主、天魔様の元へと向かえ!!」

    はたて「!?……でも烏天狗長様一人で、大天狗様の相手なんて……」

    烏天狗長「よい!何とかする!
    儂の実力程度では天魔様に言葉を届けられぬが、お主ならやれるはずじゃ!」

    はたて「ええ!?そ、そんなの無理ですよっ!」

    烏天狗長「無理ではない!早う行けぇっ!!」

    はたて「わわ、わかりました!ご武運をっ!」



    あたふたしながらもそう言うと、はたては風のように飛び去って行った。



    大天狗B「貴様一人で我の相手をするつもりか?思い上がるなよ」

    烏天狗長「儂とて烏天狗を纏める長。
    倒せないまでも時間稼ぎくらいはしてみせますわい!」

    大天狗B「フン……烏風情が。身の程を教えてやる」



    ……



    文「やれやれ……キリがないですねぇ……」



    妖怪の山の各地では、戦いが繰り広げられている。
    文は目に入る戦闘に全て介入し、恐ろしい早さで決着をつけることをしていた。

    とにかく相手方の数が多い以上、持久戦をしていてはジリ貧になってしまう。
    迅速に相手を片付け、かつ味方を減らさない行動がカギになる。

    それが一番うまくできるのは自分だという自負が射命丸にはあったし、
    それは真実だった。

    自身の戦闘に介入されて不満を持つ味方もいるにはいたが、
    文にとってはそんなことはお構いなしだ。



    文「さて、大天狗様の言う通り玄武の沢まで来ましたが……」



    文に目的地を示した大天狗には、『危機が見える』神通力がある。

    故にここ玄武の沢に、自分よりも実力が上と認める文を寄こしたことには
    何か特別な意味があるはずだ。



    文「むむ。確かに哨戒天狗の数は多いですが、戦線は維持できているようですね」



    しかし文の予想に反して、
    見る限りでは、そこまで切羽詰まった事態には見えなかった。

    なんとか戦線を維持するだけの戦力は整っていたし、
    相手に強力な天狗がいるわけでもない。



    文「さて、大天狗様が言っていた危険とは何か……確かめないとですね」



    文は戦場をもう一度見渡してみる。
    ……が、やはり驚異となるような相手は見当たらない。



    文「やはり問題はなさそうですね……」



    しかしその直後、
    大天狗がこの場所が危険だと言っていた理由が判明した。



    文「……成程。これは確かに……」



    妖怪の山を出ようとこちらに戦いを仕掛けていた天狗たちが、
    いきなり戦いをやめて、一斉に同じ方向を向く。

    そしてその視線の先には……



    文「お出ましですか……天魔様」



    他の天狗とは一線を画した魔力、威圧感……

    妖怪の山の総大将・天魔の登場である。

    文は天魔の姿を確認すると、その目の前に降り立つ。



    天魔「おお、貴様は射命丸ではないか……」

    文「天魔様……」

    天魔「射命丸も我らの縄張り拡大に尽力するために来たのだろう……?
    さあ、共に幻想郷を天狗の社会へと塗り替えようぞ」

    文「天魔様……一体どうしてしまったのですか?」

    天魔「何……?」

    文「私の知るあなたは、もっと気高く、思慮深かった。
    少なくとも、縄張りを広げるなどという、野蛮なことは考えなかった」

    天魔「……」

    文「それがどうして、こんなことになってしまったのですか?
    一体天魔様は、どういうおつもりで、こんなことをなさったんですか?」


    文は唯一、天狗の中でも天魔の事だけは尊敬している。

    それは持っているチカラが強いから、というだけではない。

    常に天狗全体のことを考え、慎重かつ冷静に振る舞うことができる思慮深さ。
    身分に関係なく、実力ある者や修行に余念がない者は地位を上げる、思考の柔軟さ。
    幻想郷の各勢力との外交を担い、また、後進の育成も重点的に行っていた視野の広さ。

    単純な戦闘力で言えば文も天魔に近いものを持っているのだが、
    そのほかの能力……指導力、洞察力、外交力などは、天魔に並ぶべくもない。


    ……生来のシングルプレイヤーである文にとって、
    それらの能力は必要と感じないものである。

    しかしだからこそ、
    そういった役割を高いレベルでこなしてくれる存在がいるからこそ、
    シングルプレイヤーとして自由気ままに振る舞えるということを
    文はわかっている。

    そういった理由で文は天魔のことを尊敬していたし、
    天狗社会の大黒柱として信頼してもいた。



    天魔「……射命丸よ。時が来たのだ。
    我ら天狗の雌伏の時は終わり、黄金の時代が訪れる。
    それが今であり、これからなのだ」

    文「……わかりませんねぇ。
    貴方ほどの御方がそんな妄言を吐くなんて」

    天魔「さぁ共に来い、射命丸よ。
    来る新たな時代、我ら天狗のチカラがこの国には必要なのだ」


    天魔の様子は明らかにいつもとは違う。
    会話は一見成立しているようで、天魔の言葉は文の質問に対するものではない。

    その視線の先は目の前の文ではなく、どこか遠くへと向かっている……



    文「……まるで壊れた蓄音機だ……
    天魔様が操られていると聞いて半信半疑でしたが、どうやら本当の様ですね」

    天魔「古き世に栄えた天狗社会を、復刻させようぞ」

    文「……貴方のそんな姿は見るに堪えません。
    今、ここで、止めさせていただきますよ」

    天魔「……我が誘い、断るというのか?」

    文「当然。傀儡の駒になどなれるはずがありません」

    天魔「……そうか」



    天魔の放つ雰囲気がガラリと変わる。

    一瞬のうちに張り詰める空気、先ほどとは比べられないほどの殺気を放つ眼光。

    流石の文の額にも、冷や汗が浮かぶ。



    天魔「我らの大願妨げる者は皆一様に敵対者なり。
    者ども、この不届き者の首、刈り取るのだ」

    哨戒天狗「御意に!天魔様!」



    ザザザッ!!



    天魔の号令がかかったとたん、周りで静観していた哨戒天狗達が動き出す!

    皆々が何のためらいもなく、同族の文に殺意を持って向かってくる。



    文「……!これは……っ!!」



    文にとっては哨戒天狗がいくら束になろうと敵ではない。

    木っ端のごとく蹴散らすことができるだろう。


    ……しかし問題はそこではない。

    あまりにも「統率が取れすぎている」。


    いくら命令に忠実な哨戒天狗たちとはいえ、
    同族同士の殺し合いなどためらいがあって当然だ。

    現に今までの妖怪の山での戦闘は、
    命のやり取りから離れた弾幕ごっこで行われていた。

    しかも今回に関しては身内、しかも圧倒的に格上である文が相手。
    躊躇なく殺しにかかれるような状況ではない。



    ……それなのに今、哨戒天狗たちは
    自らの意思を失い、文に高純度な殺意を向けている!!



    文「……天魔様の何かの能力ですかね……
    まったく、底が知れない御方だ」



    文は精神を集中させ、手扇を構える。

    ここで必ず天魔を止め、天狗のプライドを守ると心に誓いながら。



    つづく



    略称一覧


    はたて…姫街棠はたて(ひめかいどうはたて)。鴉天狗であり、新聞記者でもある。引きこもりがちなのに新聞が書けるのは、念写能力を持つおかげ。今回の異変では縄張り拡大反対派。実は戦闘のポテンシャルが高いうえ、なんだかんだ修業はまじめにやっているため、なかなかに強い。

    文…射命丸文(しゃめいまるあや)。鴉天狗であり、新聞記者でもある。よく人里に下りて無茶な取材をしたり、信ぴょう性の低すぎる記事を書いたりしている。しかしその行動は、天狗というものを世間に周知させ、天狗社会に新たな風を吹かせたい、という願いもあってのこと。まあ9割趣味だが。本編で言っていたように天狗の中でも幻想郷の中でも実力はトップクラス。

    大天狗A…天狗の幹部である大天狗のひとり。法力と体力はその地位に見合うものであり、実力者。能力は『危機が見える程度の能力』。縄張り拡大に興味がないことと、天魔の様子がおかしいことを気にして縄張り拡大反対派に。

    大天狗B…天狗の幹部である大天狗のひとり。Aと同様かなりの実力者。生来の生真面目な性格もあり、封建的な天狗社会において天魔の発言には従うべき、という理由から縄張り拡大賛成派に。

    烏天狗長…烏天狗たちをまとめる長。天狗社会における地位は大天狗とほぼ同格。戦闘力よりも事務能力、人心掌握能力などを買われて、天魔より烏天狗長を襲名した。とはいえ戦闘もできないわけではなく、その辺の木端天狗程度なら一蹴できる。天魔の様子がおかしいことと、慎重な性格から、様子見も含めて縄張り拡大反対派に組することに。

    天魔…天狗ヒエラルキーのトップに立つ存在。戦闘力をはじめ、外交力、統率力、内政力、ほぼすべての分野で比類なきチカラを持つ。もちろん幻想郷全体から見ても、その実力はパワーバランスの一翼を担うほど。普段は深い洞察力と慎重に事を運ぶ冷静さで天狗社会を支えているのだが、現在の彼の様子は何かがおかしい……

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