異世界転生 「政治的弱者」の特別性
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異世界転生 「政治的弱者」の特別性

2019-11-27 22:42
    ○てんてーの温泉きてたじゃん。

    ○ニコニコ漫画を見ていると、まだまだ異世界転生の人気が続いているように見えなくもない。以前、かなり荒っぽく書いたことがあったが、これだけ人気を集めるには異世界転生あるいは異世界ものになにか強く惹かれる要素があることは間違いないだろう。異世界転生とはどんなキャラクターを生み出そうとしているのか考えてみたい。好き嫌いは別の誰かが書いてくれるし評価してくれるだろうから、安心して適当なことを書こう。
     異世界転生は以前のファンタジー小説とはかなり違っているように見える。以前の、というのは00年代に流行したセカイ系だのいうラノベのもっと前に流行ったファンタジー小説のことだ。

     異世界転生モノを見たり読んだりすると(おれは主に漫画だが)、これはファンタジーものだが、どうも不思議だなと思う部分がある。
     それは「異世界に行く」という現象が自然に認識されていることだ。転生トラックと揶揄されるギミックすら意識されて小説で書き込まれることもある。ところが「異世界に行く」現象を追究する作品はあまり多くはなさそうだ。女神に召喚されたとか、死んだからかわいそうなので転生させたとか、ではなぜその主人公がその対象に選ばれたのかなどという追究は少ない。/最近では異世界転生の死ぬ前にどんな人物だったのか、ほぼ描くのをやめているパターンもある。
     別にそこを真面目に追究すれば面白くなるわけではない。のだが、ファンタジー世界やキャラクターの構築に一生懸命になる反面、移動する現象自体にはあまり注意を払わないのはもはや異世界転生が物語づくりの大前提になっているということだ。
     現象に注意を払わないということは、異世界が元の世界(現実世界)となにか地続きの評価軸で動いているということではないだろうか。死んで別の世界に行く、ということはキャラクターにとって決定的な変化ではないのだ。死ぬことは軽く、世界を移動することも軽い。また別の世界であってもなにかの軸は変わらずに、そのまま使われている。かつてのファンタジー小説とは別に、それほどキャラクターにとって(死ぬことや移動することが)問題ではないのだが、その一方で異世界を強調する理由がある。

     異世界転生について、キャラクター面からもう少し詳しく抽出してみよう。
    ・元の世界(現実世界)の自分、あるいは過去の自分の社会的評価が低い
     ニートやブラック企業社員、S○GAゲーマーなど、移動する以前に社会的に成功を収めて高い評価を保っている主人公はあまり多くない。また学校内でもスクールカーストは下位に位置しており、陰キャと自称する主人公もいる。
     ただし、これらはあまり描写されていない作品も見られる。元の世界での自分との整合性が取れないこともあるだろうが、もともと元の世界の自分を詳しく描写はしない。/成熟した大人が転生して子供じみた行動を取ることに粘着的にツッコミを入れる人もいるが、そもそも現実世界で成功しているまともな人間だったら異世界転生する話に書く必要はないと思う。
    ・自己評価と周囲の評価に大きくズレがある
     「また俺何かやっちゃいました?」をはじめとして、異世界転生した際に与えられた能力に対する自己評価が低かったり、あるいは逆にものすごい力を持っているけど厄介なことになると思って隠そうとする。/周りが極端に驚愕するタイプと周りが軽んじるタイプがある感じだろうか。
     これらは異世界転生モノに特有とは言い難いが、組み合わさると意味を成すと考える。
    ・スキル、ステータス、レベルが異世界で用いられる
     極端に高い能力を数字で示す例が多い。社会的成功を収めていたとは言い難いキャラクターのため、個人の人格によって乗り越えていくよりも、数字や強力な能力を割り振ることで説得力をもたせようとしている。
    ・主人公の目的は元の世界(現実世界)に戻ることや異世界の成り立ちの謎を解くことにはなりにくい
     転生の場合は特に一度死んでいるためか、元の世界に戻ろうという目的を持ちにくい。また同時に、主人公は無双や復讐、平穏無事に暮らそうといった、異世界でどう暮らすか、どう生きるか、といった方向になることが多い。これらは総じて異世界そのものがどのようにできているかという探究には向かわない。

     以上の点は、個々には珍しいものではない。たとえば社会的に評価が高くない人物が超能力によって隠れた実力を秘めている、というキャラクターづくりは、むしろオーソドックスですらある。問題なのはそれが異世界に移動しなければ付与されなかった理由だ。元の世界にいては超能力があってもキャラクターとして生きられなかったということだろうか。
     これをごく自然に絞り込めば、社会で生きられない(社会的評価が回復不能である)から→自己を殺人して異世界に移動するキャラクター形成をする「しかなかった」、と考えられるだろう。すなわち、元の世界(現代世界)での社会に対する評価機能、ないし改善機能に対する不信だ。
     ところで、評価機能は学歴やら会社やらがあるとして、改善機能といえば政治があると考えて良さそうだ。

     youtubeに移行しているが、これは参考になる。一言で言えば、何がしたいかわからんが生まれから目的までコネと政治でできた物語だというのである。これをそのまま受け止めれば、何がしたいかわからないのではなく、政治的地位を確立して、政治的個人として安定した立場でいたい(ただし政治家のような権力闘争には巻き込まれたくない)というキャラクターということになる。
     するといわゆる異世界転生が求めている典型的キャラクター像のひとつは、社会的評価を上げることよりも政治的地位を確立することにあると考えると面白そうだ。

     この社会的評価と政治的地位は似ているようで微妙に異なる。
     たとえばブラック企業の社員も大企業の役員も、社会的評価は違うが民主主義の体制下では同じ一票を持っている。しかし、それは政治的地位を直接表しているとは言い難い。これは、民主主義社会では孤立した個人がいくら一票を投じても大して意味はなく、集団となってまず少数派にでもならなければ政治的存在として認知されにくいからである。/政治家も支援者やいま話題の後援会がいて地位を保てる。
     しかし、異世界に行かなければならないような社会的評価の低いキャラクターたちは、孤立した個人であることが多い。/仲間が多く、支援者の存在を気にしている人物であれば、元の世界に戻る、という物語ができてしまう。/これはこのキャラクターたちが「社会的弱者」というよりは「政治的弱者」…孤立して社会的評価を覆せない存在であり、それを乗り越えるためには社会(世界)そのものを飛び越えなければならない可能性を示唆している。

     ここに異世界転生が世界を飛び越える特別な理由ができる。とりわけ中世ヨーロッパ風の? 世界を選択する理由は、漠然と非民主的な社会であるから、かえって孤立した個人でも、集団を形成しなくても生きていけるのではないか、という期待感からくるものと見てよいだろう。
     その反面、異世界ではスキルやステータス、レベルといった数字がつけられている。孤立した個人に対して、数字や能力で評価する能力主義を据え置いている。/まあこれはゲームの流用みたいなもんだと思うが。
     そしておそらく、そこへ最大の政治的強者への転生点として、神に選ばれた存在であることが示される(政治権力神授説)。あのステータスボーナスは、別に強力な能力を指し示しているのではない。中世ヨーロッパ風?の世界で、神に寵愛を受けた政治的強者であることを示しているのだ。

     以上を見れば、異世界転生のキャラクターが社会的評価を改善するために、政治権力に注目していることは疑いようもない。民主主義体制においては、だれもが平等で主役であるがために、だれもが敗北を喫する可能性を孕んでいる。しかし、民主主義体制で政治的にも敗北し、社会的に苦しめられたままでいることはおかしいのである。異世界転生の特別性はそのような敗北から出発していることに違いあるまい。
     ここまでいいちこを飲んで書いたので参考にする人はおるまい。
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