もうヒロインはいない(1):バハムートラグーン
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もうヒロインはいない(1):バハムートラグーン

2013-11-12 20:54

     このゲームで萌えるのはドラゴンだな、とあの時の自分は思った。
     今も多くの人はそう思うだろう。
     そのくらい、このゲームの登場人物はひどい、あるいは個性豊かだった。何より、ここまでメンバーの心が最終的にバラバラになってエンディングを迎えるゲームに、その後の自分はお目にかかっていない。

     すでに知られすぎているため、実際にプレイせずにキャラクターに悪罵を投げる人も多いだろう、「スクウェア三大悪女」の一人、ヨヨをヒロインに据えたSRPGの巨頭、頭がおかしいんじゃないかってくらいの美しいドット絵のドラゴン、ホモジジイヤク中老害NTR詐欺ヤンデレ、シナリオと同時に進んでいく友情破壊がたっぷりつまった群像劇、それがバハムートラグーンだ。
     確かに既存のゲームシナリオからするとぶっ飛びすぎているが、清々しいまでに「心を一つにしなくても世界なんて救えるよねっ☆」(特にプレイヤーが冷める)をやり切った作品として仕上がっており、難易度もフリーバトルを利用すれば大体クリア可能で初心者も安心の楽しいゲームだった。このゲームのおかげで何かに目覚めた人は大勢いるに違いない。(何に目覚めたかは知らないが)プレイした当時はそれほどでもなかった傷が、数年後に目覚めることもあるものだ。

     どうせありきたりなことしか書けないんだろうが、やっぱり屈折した精神を作り上げた一つの要素として、バハラグから見るヒロインの話を語らなくてはならない。
     物語におけるヒロインの役割はドラクエⅠを上げるまでもなく、「褒美」「冒険で得られる成果」であって、男がたたかってゲットしてくるもの、というものであった。(まあ、ドラクエで言うならⅡでは早くもパーティーに加入したし、Ⅲでは主人公として選択可能だったが)いずれにしても、従順で、褒美に相応しい、大前提としてヒーローを好いてくれるキャラがヒロインである。
     バハラグのヒロインは違う。かわした約束はともかく、幼い頃の思い出をわざわざ目の前で上書きし、片思いを続ける主人公の前でいちゃいちゃ、確かに周囲が望んでいるものとのギャップや神竜たちの暴走による苦しみはあっただろうが、終盤には露骨に主人公の好意を利用しようとする面さえ見せる。悪女と呼んで、十分つり銭が来そうなヒロインがヨヨである。だからといって、ヨヨがいかにひどいかを語りたいわけではない。

     たとえばこれが今のゲームであれば、メンバーの中の他のキャラとキャッキャさせるとか、そーゆーことになるはずだ。つまり、このムカつく女を辞めて、別の女を好きになろう……好感度システムとかでこういう切り替えの仕方だって出来る。
     が、それが出来ない。
     この腹立たしいのにセットになっているヒロインのお陰で、ビュウは精神的に孤独な立ち位置に行かざるを得なくなってしまう。
     まず戦竜隊隊長から、解放軍のリーダーとしての立場により、ケンカや人間関係が次第にボロボロになっていく連中をまとめるというところから逃げられないことがひとつ。竜の世話もあるし、神竜の戦争に巻き込まれるし……確かにその代わりと言っていいくらい、ビュウには慕ってくれるサブヒロインや弟分がごろごろ出来る。しかし、このヒロインのために最後まで戦わなくちゃならない(神竜たちがヨヨから出て行かない)ために、最後の最後までヨヨに向き合わされ、付き合わされ、世界まで救わないといけなくなってしまうのだ。
     当初は「姫様を助けて祖国を取り戻すぞ!」と一致団結していたメンバーも、この過程でほとんどが破局したり追い詰められたりする(もちろん純愛もあるよ!)が、とにかくメインストーリーにほとんど絡まなくなる。ラストバトル付近では弟分たちは「この戦争が終わったら商人にでもなって家を持ちたいねー(ほのぼの)」って感じだし、ぶっちゃけヨヨへの愛情なんぞとっくの昔に消失してしまったプレイヤーにとっては、もう当初の帝国をぶっ潰すという目的も果たしたし、「神竜共の代理戦争とかホントどうでもいい感じなんです。マジで」状態と化している。そんなことより「むずかしいダンジョン」やろうぜ! となり、最後にヨヨに協力を求められた時のあざとさには最早イライラを飛び越えて「あ、ふーん」という無感動。どうでもいいのに、子どもの頃の好意を引きずっているがために最後までやらされて、この空しさをぶつける相手がいない主人公を見せられてどうしろというのか。

     メインストーリーに絡んで親身になってくれるヒロインが(サブも含めて)いない、それがバハラグのとんでもないところなのだ。サブヒロインは慕ってはくれるが、あくまでモブの一人であって、最後の最後で彼を励ましてくれる人がいないのである。

     いやいる。 神竜バハムートだ。
     ビュウがなぜサラマンダーからバハムートに乗り換えたのかは、そりゃあアレですよ。バハムートなら会話が通じるし、そもそも選択次第ではサラマンダーはつがいになって子ども産んどるやんけ! ってなわけで。
     ちょっとバハムートのセリフを引用しよう。

    『ビュウ……。ヨヨの心の中でおまえはとても大切にされていた。
     しかしそれは思い出の中のおまえだ……いつかは消え去る記憶にすぎぬ……
     ビュウ……新たなる時代は来た……だが、新たなる時代はすぐに古き時代となる……
     時間には誰も逆らえぬ……
     さあ、ビュウ……前だけを見て歩くのだ……
     おまえが生きることができるのはつぎつぎと押し寄せるいま、この時だけなのだ……』

     
     このように、バハムートは最後の最後でビュウの傷ついた心(実際はセリフとかないんで分かりませんが)に力強い言葉をかけてくれるのだ。最終的にビュウがバハムートに乗ってエンディングを迎えた以上、どう見てもビュウのヒロインはバハムートでした、というようにしか見えないのである。

     でも、人じゃないじゃん。

    ――以下次回。


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