• 無職転生 二次創作「偽典:無職転生 Fake/the outer mission」後編 「(´・ω・`)きゅう!?」※2020年1/1加筆

    2019-12-20 21:37



    ・これは無職転生の二次創作小説です。

    ・原作最終話まで読んでない方には超ネタバレがありますのでご注意。

    ・原作に出ていない二次キャラ描写があります。苦手な方はごめんなさい。

    ・二次創作自体が苦手な方も回れインド人を右にでお願いします。



    ※あらすじ

    74年の生涯を幸せに終えたルーデウス。
    ふと気が付けば、彼は見知らぬ場所に召喚されていた。少年の頃の姿で。
    おまけに20歳頃のエリスも一緒に。
    二人は勃興した鬼神帝国に攻められるアスラ王国を救うべく召喚された存在。
    それから数か月後、ルーデウスとエリスは帝国との合戦の地に赴いた。
    そこに現れたのは、鬼神トモエと名乗る巨体の女鬼族だった――。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






    「鬼神……トモエ?」


    聞き覚えのないその名前と語感に、俺は眉をひそめた。
    鬼神、といえばマルタ。
    俺の中ではそれが一番強烈な印象であり、事実となっている。
    再度、目の前にそびえ立つ巨女をまじまじと見る。


    まるで、夏の青空に立ち上る入道雲のような、圧倒的に巨大な体躯。
    総身、はち切れんばかりに発達し、モリモリと隆起した筋肉。
    まさに、これぞ鬼と言わんばかりの魁偉で怪異なその容貌。


    たーしかに、その圧倒的な存在感は、俺の記憶に残るあの巨漢のそれと相違は無い。
    ただちょっと、胸の辺りが豊満なのと、キツ目の美女顔ってのが違う点ではある。


    しかし、鬼神……トモエだぁ?
    生前では見た事も聞いた事も無い。
    鬼ヶ島には何度か訪問した事もあるが、こんな鬼女はいなかった筈だ。


    ……それにしても、鬼神……鬼神、ねぇ?
    薄らぼんやりとした記憶を思い返す。
                    
                               タフネス     パワー
    ――本気を出せば、七大列強下位にも食い込める程の強靭な耐久力と金剛力。

    ――しかして実際は、戦うのを好まない穏やかで優しい気質。

    ――会話をすれば、厳つい見た目とは裏腹に、理知的で理性的な性格。

    ――徒に弱者を傷つける事を好まず、友誼を結べば命を捨ててでもそれを守ろうとする――。


    それが、俺の知っている鬼神マルタだ。
    目の前に傲然と構える、好戦的かつ狂暴な雰囲気の人物では無い。

    だからこそ、迂闊にも。ついポロッと。

    「……誰?」と、俺は呟いてしまった。

    それが気に食わなかったのか、目の前にそびえたつ筋肉の塊はギリッと歯ぎしりをする。


    「チッ……糞が……!!」


    舌打ちをし、訛りの強い魔神語でそう吐き捨てた。
    相当に気分を害したのだろう。巨体の割に美しく整ったその容貌が醜く歪んだ。



    「あぁそうさ!!」


    「鬼神といえば、あてぇの親父のマルタだ!!」



    「親父は強かった!!」


    「誰よりも!!あてぇよりもな!!」




    巨女は憎々しげに喉を鳴らし、天よ裂けろとばかりの大音声を上げた。                                       かお
    ギリギリと歯ぎしりをする。歯茎を剥きだしにしたその顔は鬼の貌そのもの。
    そして右手で持っていた重そうな金棒を突然地面に叩きつける。ドゴーン。



    「だがッ!!」


    巨女はまたも叫んだ。俺を指さして。



    「鬼神といえばトモエッ!!」


    「これからの時代はそうなるッ!」



    「いずれはあてぇが七大列強にッ!!」




    「いや、地上最強になってやるッ!!!」





    「魔神だ?龍神だァ?」


    「全員、あてぇがブッ殺してやんよッ!!」





    そう叫び、巨女――トモエは持っていた金棒を再び地面に叩きつけた。
    凄まじい衝撃と共に、大地が裂けて弾ける。
    それは恐るべき気迫であり、ある種、幼いとさえ言える行為。
    でも、本人は真面目なんだろうな。眼がマジだったし。すんごい血走ってるよ。

    とはいえ、その揺るぎない決意の固さは大したもんだとは思う。
    強者として生まれたからには、一度は最強を夢見るもんだもんな。うん。


    「う~ん……ん?」


    ふと、俺はこいつの言葉にひっかかりを覚えた。

    ――親父は強かった。
    今さっき、トモエはそう言い放った。それは過去形の言い回し。
    今も鬼神マルタが健在なら、そうは言わないと思うのだ。
    なので、ひっかかった気持ちそのままに、俺は疑問を口にした。


    「ってか、マルタのおっさんはどうしたんだよ」


    何気ない質問。当然と言えば当然の疑問。
    鬼神マルタがいるんなら、この巨女が「鬼神」を名乗るのは変だ。
    この世界線でのあの巨漢は、どうしたのか。

    俺が生きた世界線では、彼の末路は誰よりも知っている。
    龍神ラプラスの産んだ『闘神鎧』を身に纏った魔王バーディガーディに斃された。
    なまじ強く、耐久力に秀でていた為に、俺を逃がす盾となって果てた心優しき赤鬼。

    しかし、この世界では『闘神』と戦う機会も少ないだろう。
    自領の「鬼ヶ島」を脅かす者もいないだろうし、好戦的な人柄でも無いからだ。
    それに俺の知る限り、アスラ王国軍には彼を屠る程の剛の者はいない筈である。

    つまり、普通に考えれば鬼神マルタは存命な筈。どこさ行ったんだ?
    俺のそんな素朴な疑問はしかし、目の前の鬼女によってあっさり回答された。


    「――死んだよ」


    へッ、と。
    憎々しげに片方の口角を上げ、トモエはそう吐き捨てた。
    え、死んだ?どぼちて?おれはこんらんした!
    俺の困惑をよそに、トモエの、先ほどとは違って平坦で感情のこもらない説明が続く。


    「帝国の奴らが言っていた」


    「親父は、銀髪金眼の野郎に素手で斃された、……ってな」


    なん、だと……。
    銀色の髪……金色の眼……素手……うっ、頭が……。

    ん~、ヤレヤレだぜドララー。
    なんていうか、流れを理解できちゃったっていうか……。

    (うおーい社長、アンタなにしてくれちゃってんの!ワンマン過ぎるでしょう!?)

    とりあえず、世界最強のしかめっ面に叱責を浴びせておく。心の中でひっそりと。
    とはいえ、彼の行動の理由はおおよそ予想がつく。

    果てしなく続くループ世界。
    そこに突然現れた「鬼神帝国」というイレギュラー。
    帝国の、その中核であろう鬼神マルタを排除して、歴史がどう推移するかを観察しようとしたんだろう。多分、きっと。

    で、切り込み隊長であるマルタを排除したら、確かに戦争は一時的に停滞した。
    停滞したけど、マルタというピースが抜けたらこの筋肉女が飛び出してきたと。
    お蔭で戦争が再開するや、前以上に攻撃的になってしまったっていう。


    (……オイオイオイオイ、やっぱ、ダメじゃん!)


    うーむ、余計なことをしてくれたもんだ。
    俺としては、マルタが生存していた方がイージーモードだったんだが。
    親父の方が、この脳筋女なんかより、よほど話し合いに向いていたのだから。
    記憶の中にある、世界一不機嫌そうな顔の男に、俺はちょっと不満を抱く。

    あ、でもさ。
    この巨女の目的は、仇であるオルステッドなんだよな?
    俺はやむを得ずこの戦争に関わったけど、基本的には無関係。その筈。かなり確実。
    どうにかして二人を巡り合わせて、潰し合わせられないもんか。
    っていうか社長!アンタが責任取ってよね!ぷんぷん!



    ――とか考えてだけど、トモエの次の言葉に俺の背筋もついシャキっと伸びてしまった。



    「そいつは、おめぇとよく似た拳技を使ってたってなぁ?」



    獰猛な微笑みを浮かべつつ、舌なめずりをする鬼神トモエ。
    ゴキンゴキンと首を鳴らし、見開いた双眸が爛々と輝きだした。

    アイヤー。そうか。俺の拳技は龍神直伝。そりゃ似てるわな。
    ドドリゲスのオッサンとの闘いを、じっくり観察されてたって訳かォィ。
    どーりで一直線に俺んとこに飛んできた訳だ……。


    「探したぜぇ?」


    ずいっと一歩、鬼女が足を踏み出す。
    バキボキと、金棒を握ってない方の手を鳴らしつつ迫ってきた。


    「おめぇは、親父を斃した相手と何か関わりがある筈だ」


    あっ、はい。それについては否定できない。
    脳みそが筋肉の割にこの巨女、やたら察しが良い。


    「おめぇをボコれば、銀髪が出てくるかもしれない」


    察しがいいけど、言う事は短絡的だ。筋肉だからね。仕方ないね。

    ずしん。
    まるで震脚のごとき一歩。
    そうして歩を進めつつ、口から怪気炎を吐く。




    「だから、ボコらせろ」




    Σ( ゚Д゚)ぴやぁー!

    いや、待って待って。
    この世界のオルステッドと俺は接触してないんだってば。
    多分どっかで様子見はしてるだろうけど、出てくる可能性は低い。
    だから、俺はボコられるだけ損であり、キミはボコるだけ無駄、無駄、無駄ァッ!!

    俺の必死な言い訳を総スルーして、トモエはジリジリ近づいてくる。ダメ!来ないで!


    「な~に、死なねぇ程度にブン殴るからよぉ」


    ――嘘だッ!!

    なによ、その金棒!電信柱か?
    片方の手はゴキンゴキン指鳴らしてるし!
    そんなパワーショベルみたいな拳で殴られたら死んでしまいます!
    俺が脳内でそう叫んでいると、トモエも思う所があったのか、ふと歩みを止めた。
    そして一瞬、ほんの一瞬、首をひねって考える素振りを見せる。


    「……あン?うっかり死んじまうってこともあるか?」


    うっかりってなんぞ!?お前ほんとに考えたのか!?
    いやでもそうよね!?うっかり死んじゃうって事もあるんだし!!
    優しくね!?ほら、ボクタチ、お互い(遭うのは)初めてなんだしね!?

    だがしかし。
    こちらの懇願を知ってか知らずかトモエは――。


    「……へっ」


    こちらに視線を戻し、ニタリと不気味な笑みを浮かべた。


    「……まぁ、いいか。メンドクセェ」


    ぎゃーす!!
    ダメだこいつ、やっぱり全然考えてねえー!!


    「元々あてぇは、暴れられれば構わねーし」



    アタシは構います!すっごく!切実に!


    「んじゃ、始めようぜ!」


    鬼女がニッコリ破顔した。こわっ!!
    ちょっ、この人、眼が血走ってる!
    結局南極、暴れられればいいのかよ。


    …………。


    うーん、いやでも、な。
    今までのやり取りで、ちょっと、引っかかってたトコがあんだよな。
    些細と言えばそうだし、この際スルーしてもいい部分だったかもしれない。

    でも、俺にとっては流す事は出来ない部分だった。

    「……なぁ、もうひとつだけ、いいか」

    後ずさりつつ、俺はそう口にした。

    「なんで、アンタが鬼神なんだ?」


    「……あ゛!?」


    苛立ちに、トモエはだみ声で凄んでくる。ヤンキーかな?
    が、ここで引く訳にはいかない。大事なことだ。

    「俺の知ってる鬼神マルタの後釜は、イワベェってオッサンだった筈だ」

    「なんでアンタが鬼神なんだ」

    「そもそも、鬼ヶ島のみんなは、アンタの代替わりに納得してるのか?」

    そう、さっきからずっと気になっていたこと。
    それは、俺の歩んだ人生において、鬼神マルタの後継者は別人だったってことだ。

    昔、ちょいとしたヤボ用で鬼ヶ島にお邪魔しに行った時。
    俺を出迎え、歓待してくれたのは、気のいい鬼人たちだった。
    そして彼らを率いていたのは、マルタの後継者であるイワベェというおっさん。
    それがなんで、こんな粗暴な奴がその位置にいるんだ。それが俺の疑問だった。


    「……カッ!そんなことかよ、くっだらねぇ」


    トモエは吐き捨てるようにそう言い放った。
    だが、次にその口から吐き出されたセリフは、俺にとっては聞き捨てならないものだった。


    「アニキなら殺したよ」


    さも、どうでもいいようなことだとでもいうように。
    道端に唾を吐くように。ハナクソでもほじるように。
    俺に向けて、トモエはそう言い放った。


    「いきなり戦をフケるとか抜かしやがったんでな」


    「親父の遺言だぁ?んなもん知ったこっちゃねぇ」



    「一族の年寄共もだ。ゴチャゴチャうるせぇから皆殺しにした」


    「あてぇは暴れてーんだよ。邪魔するほうが悪いんだ」




    俺が先の言葉の内容を理解しようと反芻してる間、トモエはベラベラとまくし立てた。

    ふーん、ほーん。そっかそっか。なるほどなるほどー

    邪魔だから、コロシタ。あー、そっかそっか。

    耳で受容した言葉を頭で咀嚼して、理解した。

    まぁ、そうだよな。こんな粗暴な奴なら、家族だって屁とも思わないよなぁ。

    わかるー。今までも、これまでも、何度もそういうやつを見てきたからな。


    ……でもな。





         バカンッ!!






    気が付けば、俺は全力のフルスイングでトモエをぶん殴っていた。
    とにかく何も考えずの、頭真っ白になってのぶん殴り。
    ウェイト差、実に150㌔はあるであろう巨女が――自称鬼神が数メートルも後退した。


    「ふーっ、ふーっ……」


    殴った拳を握りしめ、俺は胸に溜まった息を吐く。

    もう、言葉にならない。小田和正。

    いや――うん。

    なんだろうな、この気持ち。
    ダメだ。この女とは、相容れない。


    頭では理解できた。でも――心では納得いかなかった。


    こいつはダメだ。
    ただ自分が暴れたいだけで、それ以外の何かを完全に蔑ろにしている。
    何か――そう、よくわからないけど、大事な何か。
    自分の氏族の為に戦うのであればまだしも。
    このクソ野郎は、ただただ自分の欲求を満たしたいだけで行動している。


    ――いや。


    「――もう、いい。おめーは、もう喋ンな」


    フルスイングで殴った後、拳を渾身の力で握りしめつつ、俺はそう呻いた。
    もう、いい。
    もう、この女の口から何も聞きたくない。
    もう、その行動原理に意味を与えてやりたくもない。
    大切な、一番大事な何かを蔑ろにするような奴からは。

    こいつは臭ぇ。ゲロ以下の臭いがプンプンするぜ。
    そう思ってとりあえず一発、思い切りブチ込んだ。
    今の俺の拳は、鎧のブースト機能も加算され、ダイナマイト級の破壊力を持っているだろう。
    それを遠慮なく放った。たとえ巨岩だろうが城の城壁だろうが砕ける自信がある。

    だというのに、ぶん殴られた当の巨女は……。


    「……いぃ~い拳を持ってる、じゃぁねぇかぁ、オメェ……」


    首をのけ反らせたまま、そう言い放った

    呻くように。

    感触を確かめるように。

    咀嚼し、味わいを楽しんだあとでゆっくりと嚥下するかのように。


    「……」


    俺は油断なく身構える。
    こいつはこの程度じゃ、蚊の刺したほどにも感じない筈だ――そう思って。


    果たして――。
    巨女はのけ反った頭を前に戻し、更にゴキゴキと左右に振ってからそう漏らした。

    「ぎっ……ぎひひ」

    トモエの歪んだ口元から、軋むような音が漏れる。
    あれは――悦楽。
    口角を上げ、歯茎を剥き出しにして笑っているのだ。

    「いいぜ、オメェ。楽しくなってきやがったぜ」

    呟きつつ、トモエは両脚のスタンスを広げ、腰を落とした。
    両腕は自然に腰だめの位置。戦闘態勢だ。

    「あてぇに文句があるってんなら、その拳で語れや」

    ……70年代の少年誌キャラかな?
    なんだか古臭いような、汗臭いセリフを吐いている。
    だが――。

    「拳とか知らねーよ」

    俺も重心を下げ、いつでも動けるような姿勢になる。
    魔力は満タン。鎧のお蔭で動きも軽い。気力も充実している。
    不安要素はあるにはあるが、それも出たとこ勝負だ。

    「とにかく、アンタをブン殴らないと気が収まらない……!」


    「カッ!言うじゃないか。気に入ったよボウヤ……!」


    両眼を欄々と光らせ、舌なめずりをするかのようにトモエは言った。
    それに対し、俺は呻くように返す。



    「俺は……アンタが……気に入らない……!!」






    戦いの火蓋は、いま、切って落とされた――。























    ――その一方で。















    ルーデウスが鬼神トモエと対峙する少し前。













    彼と反対の軍勢に突進していったエリスは――。
















    「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」



    エリスはルーデウス手製の石剣を構え、荒く息を吐いていた。
    その全身は血に塗れ、まさに満身創痍の様相だった。



    彼女の前に立つのは、長身痩躯の男。
    薄気味の悪い男で、肌の色はまるで病身のように白、あるいは灰色に見える。
    さらには洗いざらしたザンバラ髪。
    顔は長い前髪に隠れていて容貌もすべては伺い知れない。
    長い剣を弄ぶように振り回し、それはヒョウヒョウと不気味な音を立てていた。


                         お主は
    「クハッ……クカカカ。お姉さん、いいよ。おんしぁ、強い。凄く強いねぇ♪」



    男は薄い唇をパカッと開き、軽薄な口調でそう言った。
    男の言葉は聞き取り難い、魔神語訛りの共通語だった。
    長い舌をべろりと出し、血に濡れた己の刀身をベロリと舐める。

    「……んん~、妙な味。おんしぁ、なんか混じってる、ネ?」

    問いかけとも独り言ともつかない言葉を吐き、男はまた剣を振り回す。
    ヒョウヒョウ、ヒョウヒョウ。
    刃は空を切り、怖気の走るような奇妙な刃音を立てた。

    ――ガリッ!

    エリスはその音を聞きつつ、奥歯を音がするほど噛み締めた。

    「ガァッ!!」

    そして男へと斬りかかる。
    エリスの全力――全身全霊での『光の太刀』。
    それは剣神流において最高の奥義。剣先は音速を超え、光の速さにまで達するという。
    しかし――。

    「おぉっと!……ちゃっちゃっ。たまるか、たまるか~♪」

    男はエリスの『光の太刀』を己が長剣で受け流した。
    なおかつ剣を流され、態勢を崩したエリスの脇腹を蹴り飛ばしたのだ。
    たまらず吹き飛ぶエリス。

    「ぐっ……」

    石剣を構え直し、エリスは男を睨みつける。

    (……気に入らない)

    エリスは歯噛みする。
    先ほどから、どうにも思うようにいかない。
    斬ろうとすれば絶妙に外され。
    斬ったかと思えば、突如として意識の外からの斬撃を受ける。
    相手はまるでダメージを受けず、自分は徐々に疲弊していく。まるでじり貧だった。

    「あんた……一体、なんなのよ」

    思わず、という感じでエリスは唸った。
    強敵ではあった。
    難敵ではあった。
    だが、勝てないとまでは思えなかった。

    鋭さで言えば、ガル・ファリオンを破ったジノ・ブリッツの剣の方が上だった。
    脅威でいえば、『闘神』バーディガーディの拳の方が身の毛もよだつ恐ろしさだった。
    彼らに比べれば、この男にはそれほどの恐怖や実力差を感じなかった。
    なんで、こんな程度の奴に。それがエリスの正直な感想だった。

    しかし、現実に彼女は相手の打倒を果たせていない。
    この男には何かがある。自分の知らない何かが。

    「クッ……クヒッ。クヒッヒヒ……クハハハハッ!」

    果たして、男の口からは引きつるような嗤いが漏れた。
    ナナフシのごとき長い身体を揺すり、いつしか男の嗤いは哄笑となった。

    「クハックハハハ……フヒ……フヒーッ!」

    ひとしきり嗤い、男はやっと一息ついた。
    それからだらりと剣を下げ、首を傾げてエリスの方を向いた。

    「……あれ、知らんか。ワシん名はイーズォ。人からは『殺神』言われちゅーもんじゃ」

    そしてまた剣を振るう。ヒョウ、ヒョウ。

    「なんの因果か、おんしら剣神流を根絶やしにせんとならん。げに厄介な事じゃ」

    心底、困ったと言わんばかりに首を振るう。
    エリスはその様子を見て、しかしなんとも思わない。
    この男の仕草、すべてはブラフであろう――そう見做しているからだった。
    だから、この男の口から吐かれる言葉に真実が含まれていてもどうでもよかった。

    ただひとつ、気になること。それは――。

    「あんたが誰だろうが、なんだろうが、そんなのどうだっていい」

    剣の柄を握る両手に力を籠める。
    大地を踏みしめる両脚に意志を通す。

    彼女がただひとつ、気になること。それは――。



    「あんたはルーデウスの邪魔になる。それだけよ」



    そして、エリスはまた突進し、石剣を振るった――。








               ー後編 「邂逅」に続きますー








    それでは、また。(店`ω´)ノシ





    ※タイトルがもうわけわかめ。前中後で収まらない……。
    短編にするつもりがやっぱり長くなっちゃいました。
    物語自体はラストまで考えてあるんですが、筆力と知能が追い付きませんです。


    ※令和二年、2020年一月一日にラスト部分に加筆しました。


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  • 無職転生 二次創作 単話 ナナホシの挑戦「ヌードル何杯食べる?」※誕生日プレゼント返し←?

    2019-11-09 05:54



    ※これは無職転生の二次創作小説です。

    ※注意。原作最終話まで読んでない方には超ネタバレがあります。

    ※蛇足編「ナナホシのグルメ」のオマージュです。

    ※原作には出てこない二次創作キャラ描写があります。

    ※二次創作が苦手な方は回れ右でお願いします。

    それでは、どうぞ。

    ==========================================






    私の名前は七星。
    七星静香。

    甲龍王ペルギウスの居城ケイオス・ブレイカーに居候する元JKだ。
    違う、そうじゃない。             トリッパー
    日本から異世界転移してしまった元JKの、いわゆる異世界転移者だ。
    元の世界に戻るために、毎日を寝て過ごす引きこもりのような生活を続けている。

    ……。

    ラノア魔法大学に在籍していた頃もそうだったけど。
    仕方がない。そう、仕方がないのだ。
    あの頃は早く元の世界に戻る為に研究していたんだし。
    今だって、寝ていないといつ体調を崩すか知れたものではないからだ。
    誰だってそーなる。私だってそーなる。

    仕方がない。そう、仕方がないのだ。大事なことだから二回言います。

    ……。

    はぁ。
    私は一体、誰に言い訳してるんだろうか。

    ――それはそれとして。

    最近の私はとても真面目で勤勉だと思う。
    日々(というか目覚める度)の運動を日課としているからだ。

    ――食っちゃね生活で太ってきたとは思いたくない。思いたくはないのだ。


    ……。


    ん、んんッ!(咳払い)


    えっと――。

    まず、運動メニューは城の外周を駆け巡る。
    ……巡ります。

    この城はやたら広いので、一周するだけでもそれなりの運動になる。
    それを三周。大体一時間くらい。もちろん、休み休みだけどね?

    暫しの休憩の後、ペルギウスの秘書シルヴァリルから戦闘訓練を受ける。
    健康的かつ波乱万丈なスケジュールだと思う――元JKにしてはね?
    ジョギングはともかく、戦闘訓練はどうなんだろう。
    私はただ、痩せたいだけなんだけど。ケンカが強くなっても……ねぇ?

    ……。

    ひとしきりバトった後は、整理運動と若干の筋トレが待っている。
    腕立てに始まり、腹筋にスクワット。
    ――と言っても、1セット五回とかですけどね。

    別に、何かを目指してるわけでもないですし。そこそこ回数をこなせればいいんですよ。
    以前は体育の時間だって、言い訳作ってサボッてたりしてましたし。
    は?不真面目とかじゃないですから。一般的な女子高校生の日常ですから。

    ……。

    それでも最近はそこそこ腹筋も引き締まってきた気がする。腕のぷにぷだって。
    何気にぐっと力こぶを作ったりして、一人満悦の笑みを浮かべたりする。
    よしよし。効果あり。うふふん。こうなると楽しくなってくるよね。

    ……いや、うーん。
    そういう趣味はなかったはずなんだけどなぁ。ぐぬぬ。

    ――うん、まぁ。
    筋トレが終われば、その日の運動は終了となる。お疲れさまでした。
    汗で濡れた肌着を脱ぎ散らかし、さっさと水浴びをする。

    ……。

    冷たい。物凄く。
    元日本人としては、熱い湯船に浸かって「うあ゛~」とか言いたいよ。
    でも、ここは甲龍王のお城。ワガママは言えない。

    あー、お風呂に入りたい。身体を湯船で伸ばしたい。
    お風呂で思い浮かぶのは、ルーデウスの家のお風呂。
    あそこは良い。広いし、温かいし、気が休まる。たまに首筋に水滴が落ちてくるけど。
    そうだ、今度借りに行こう。そうしよう。うむ。
    などと益体もないことを思いつつ、手桶に汲んだ水を被る。う~、冷たい……。

    なんやかやと午前中のメニューを終え、自分に与えられた部屋に戻る。
    ……ん?なにか違和感を覚えるぞい?
    いぶかしさに眉間に皺が寄るのが自分でもわかった。

    「お、お疲れさん」

    部屋には一人の男性がいた。
    彼の名はルーデウス・グレイラット。
    私と故郷を同じくし、かつ、この世界の人間として生まれ直した異世界転生者だ。
    出会った頃は少年だった彼も、今ではすっかりおじいさんになっていた。

    「あ、うん、お疲れ様」

    挨拶を返しつつも、私の意識は別のことに囚われていた。
    それは、部屋に入ってからの違和感の正体を探ること。

    何かがいつもと違う。
    いつもあったハズのものが無い。
    なんだこれは。一体なんなんだ。
    私は一ミリ秒の間に考えを巡らせ、漸くそこに突き当たった。
    そうか、匂いだ。美味しい匂いがしないのだ。

    私が起きる。
    運動する。
    部屋に戻る。
    するとルーデウスがいる。
    部屋には美味しそうな匂いが充満している。

    はい、これが毎日のローテーション。あって当たり前の日常。
    だというのにだ。今日に限って、いい匂いがしないんデス。

    私は視線だけで部屋を探る。
    テーブル、いくつかのイス、調度品、ルーデウス(爺)。

    ……ふむ。

    テーブルの上には卓上コンロ。
    その上には手鍋が置かれ、そこから湯気が噴いていた。
    お湯が沸いているのだから、当然湯気の匂いはする。
    でも、一番重要なお料理の匂いがしない。絶望的なまでにしなかった。

    そんな馬鹿な。
    この生活になって、毎日の楽しみが部屋に入った時のあの匂いだっていうのに。
    空虚だ。虚無だ。人生の剥奪だ。

    何なの?生殺しなの?遠まわしな嫌がらせなの?殴ってやろうかしらこいつ。
    シルヴァリル直伝のピーカブー・スタイルになりかけて、私は咄嗟に思いとどまる。
    まだだ。まだ、こいつを殺ったら、食事にありつけない。ここは我慢の一手だ。
    震える右腕をやっとの思いで抑える。くっ……。

    「ねぇ、今日はなんなの?死ぬの?お腹ぺこぺこなんだけどブン殴るぞ?」

    私は空腹を抑えきれずにそう言った。あと、本音も抑えきれなかった。
    テーブルの上には簡易コンロと、湯を沸かしているであろう手鍋。そして丼と箸。
    彼がいて、料理の支度は一応整ってはいるので、何かしら食べさせてくれるのだろう。
    でもお湯しか沸いてない。それ以外は何もない。馬鹿にしているのか?

    私の視線に殺意が籠められているのを察したのか、ルーデウスの顔が一瞬引き攣る。
    シルヴァリルから何度も言われた殺意とやらが、ついに私にも備わったようだ。
    フハーハハ。見ろ、ルーデウスがゴミのようだ。

    「ちゃ、ちゃんと用意してあるよ!?だ、大丈夫だから。ハウス、ハウスよナナホシ……」

    Oh……。失策だったかも。
    ルーデウスが物凄く怯えてしまっている。チワワのようにぶるぶる震えているではないか。
    あと、私は犬じゃないし。歯は食いしばっているけど。
    ルーデウスが傍らにある鞄をごそごそ探りだした。きっと良い物が出てくるのだろう。
    私は席についてそれを待つことにした。気分は四次元アイテムを待つの〇太くんだ。

    「ま、ま、取り合えず、これを飲んでくれ」

    取り出したのは金属で出来た水筒。飾りっけは無い。
    中身をトクトクとカップに注ぐ。なんだか白い。

    「絞りたての新鮮ミルクだ。運動した後は、やっぱり蛋白質だからな」

    へー、なるほどね。運動で消耗したアミノ酸を牛乳で補給しろってか。
    そんなことより食事を、と言いかけるも、ふんわり香る甘い香りに喉が鳴ってしまう。
    カップを手に取り、口をつける。……ん~~ッッ甘ぁ~いッ!説明不要ッッ!!

    「どう?どうどうどう!?冷えてて美味しいだろ!?だろだろだろぉ~!?」

    畳み掛けとイキり変顔がとてもうざい。
    とはいえ、確かにこの牛乳、すっごく冷えてて美味しい!
    水浴びはしたけど、身体の芯はまだ熱を持っている。だからか余計に美味しく感じられた。

    「俺の魔術で冷やしてあるからな。いつでもどこでもキンキンだぜ!」

    彼の掌から冷気が漏れている。さすがに練達の魔術師。
    私はゴクゴクと牛乳を飲み干す。思ったより喉が渇いていたみたい。
    それにこれ、すっごく濃厚でとっても甘いのに全然癖が無い。
    まったりとしていて、それでいてスッキリ。シャッキリポンと舌の上で踊るわぁッ!!

    彼曰く、解毒魔術による殺菌処理をしているので、高温加熱法による殺菌に比べて風味が損なわれていないんだとか。
    ということは、この味わいこそが、純粋に新鮮な牛乳の味なんだろう。
    あ、でもちょっと待って。牛乳をこんな一気飲みしたらお腹がゴロゴロしそうなんだけど。

    「大丈夫。こいつはアスラ牛とミリス牛を掛け合わせた特別性なんだ」

    私が眉根を寄せていたら、ルーデウスが勝手に説明しだした。
    楽チンだし、どうでもいいから喋らせておく。カップを揺らしておかわりを催促。

    「うちのアイシャが選別して生産している、お腹がゴロゴロしないやつなんだぜ」

    私のカップに牛乳をこぽこぽ注ぎながらルーデウスが説明する。
    どうやら彼の下の妹であるアイシャ氏監督の元、生み出されたのがこれらしい。
    たしか、牛乳に含まれる乳糖とかいうのが、消化し難い成分なんだっけ。
    アイシャ氏はそこを見極めて、牛の交配を進めて作り出したのがこの牛乳。
    お腹ゴロゴロ成分を極力無くした美味しい牛乳。誰もが望んでいた奇跡のミルク。
    科学知識の無いこの異世界でどういうことなの。あの子、何者なの?
    まぁ、稲作とか植物の掛け合わせとかも昔の人たちがやってたわけだし。
    努力と経験と直感で何かを作り出す職人ってスゲーとは思う。うん。

    「いわば『ルードミルク』!!これこそ新時代のプロテインなのだよ!!」

    私が一人納得しているところに、またしてもイキリ変顔が。
    私はそれを無視してぐいぐい牛乳を飲み続ける。
    細けぇこたぁどうでもいいんだけど、うん。これ、普通に美味しい。

    ぷはぁっ。
    なんだかんだと二杯目を飲み干しちゃった。まんぞく。

    ……でもさぁ。

    私がじっとりとした目で見ていると、ルーデウスは頷く

    「任せろ。今日はとっときを持ってきた」

    そういって鞄からまた何かを取り出す。
    大き目のお弁当箱みたいな物と、四角い紙包みだ。

    お弁当箱の蓋を開けると、中身は色とりどりの食材。
    茶色に黄色に緑色。白もある。
    調理されたお肉に野菜。なんだか、トッピングみたいな?
    なんか、不思議と既視感。
    私がちらりとルーデウスに視線を向けると、彼もにやりとした。

    「ふふ~ん」

    ニヤつけるルーデウスは、続けてパサパサと四角い紙包みを解いていく。
    出てきたのは、細くてやや黄色くて、紐を丸めて固めたかのような細長い何かの塊。
    どこかで見たような、見慣れた四角い塊。いや、ちょっと、それは。

    驚愕に目を丸くする私をよそに、ルーデウスは塊を丼に入れ、湯を注いだ。

    「フフ美味しい、フフフ美味し~♪」

    楽しげに、なんだか耳慣れたフレーズを彼は口ずさむ。
    丼にお盆を乗せて、しばし待つこと二~三分(個人差はあります)。

    「……そろそろ、いいかな」

    そう言って、お盆を除ける。
    ふんわりと湯気を煙らせつつ現れたのは、懐かしくも香しいアレ。

    「……これって!?」

    涎を堪えつつ、私はそう聞き返した。
    目の前に現れたのは、白い丼にたゆたう茶色いスープ。そして黄色く細い紐状の――麺。
    ほかほかと湯気を立てる器を私の前に差し出し、ルーデウスが両手を広げた。

    「さぁ、お好みのトッピングを盛り付けて食したま――ぶほぉッ!?」

    私は歓喜のあまり、思わずルーデウスに右ストレートを叩き込んでいた。
    吹き飛ぶルーデウス。しかし私の眼はテーブルの上の器にくぎ付けだった。

    だってだって、これって。


    「……ラーメンじゃん!」



    --------



    「はふっはふっ……ズルズル~……ふぉっふぉっ……むっちゃむっちゃ……」


    熱々の麺を啜る。


    熱々のスープが一緒に口の中に飛び込んでくる。


    味は醤油味。うっすらと鶏ガラっぽい旨味。


    ……欲を言えば、もっと濃い旨味が欲しいかな。


    でも、それは贅沢というものだろう。

    こっちの世界では調味料もなにもかも、元の世界とは違うのだから。

    若干の不満を感じつつも、私は夢中でスープを啜って、噛んで、それを飲み込んだ。


    繰り返し、繰り返し。


    何度も何度もその行為を繰り返す。ただただ、無心の反復運動。


    麺は生の麺ではない。小麦粉で作られた乾麺。
    カチカチの乾麺は熱いスープで戻され、頼りない柔らかさに変貌している。
    だが、それがいい。その頼りなさ、柔らかさがいい。コシなど偉い人の言うことです。

    麺を頬張り、歯で噛む。あるか無きかの抵抗感の後、ウニャリと切れる感触。
    懐かしくも程よい噛み応えに、私の舌が、歯が、口内が、脳が、喜びに震えている。


    「~~~~~~~ッッッ!!」


    言葉にならない。
    そういうのって、本当にあるんだなぁ。
    食べることに夢中な頭のどこかで、しみじみとそう思う。


    「~~ッぷはー!!」


    食べた。

    食べちゃった。

    自分でも驚くくらいあっさりと一杯目を食べ終えてしまった。


    トッピング?あ、そんなのもありましたっけ。
    ラーメン。それは日本人の大好物、心の故郷、懐かしのソウルフード。
    そんなものを前にした私に、トッピングを乗せる余裕はなかったぜ。
    丼をひっつかむやいなや、箸を即座につっこんで一口目を啜ってしまったのだ。

    うおォン!!喉の奥から野獣のような唸りがほとばしる。

    そこからの私はまるで人間ジェットコースターのように勢いが止まらなかった。
    結果は、目の前のカラッポの器が示している。

    「ほぁ~、凄いな」

    ルーデウスが殴られた顎をさすりつつ目を丸くしている。
    ……なんか、じっくりと見られていたのを考えると、若干の羞恥心が。

    「――んっ」

    私は照れ隠しで空になった丼を彼の前に差し出す。

    「お、へへっ、おかわりか?」

    嬉しそうに丼を受け取るルーデウス。
    なんだかんだ、ルーデウスは人がいい。もてなすのが好きなのだろうか。

    まぁ、彼がなんだろうと、今の私は空腹を満たせればそれでいい。
    私の腕が、胸が、太腿が、五体すべてが、栄養を欲しているのだ。
    ……この即席ラーメンにどれほどの栄養があるかは、推して知るべしだけど。

    ルーデウスが丼を置き、そこに乾麺がひとつ入れられる。
    手鍋にルーデウスの手から生み出された魔法水が注がれ、それはコンロの熱でお湯になる。
    そのお湯を注いで少し待てば、即席ラーメンの出来上がりだ。
    次こそトッピングを乗せよう。ぜひ乗せよう。
    何を乗せよう。どれを乗せよう。焼き豚、コーン、メンマ、法蓮草、煮卵……。


    「随分と興味深いものを作っているではないか――ルーデウス・グレイラットよ」


    浮き浮きとする私の心の間隙に、その声は降ってきた――天井から。
    仰ぎ見れば、天井に背中をへばりつけたペルギウスとシルヴァリルがいた。
    いや、普通に怖いんですけど!?

    「ハッハァー!!」

    ドン引きの私をよそに、ペルギウス+シルヴァリルは颯爽と一回転して降り立った。
    そして優雅に歩み、私の対面に傲然と座る(シルヴァリルが椅子を引いた)。

    「ふんふん……フッ」

    卓上にあるものを値踏みし、それから彼は鼻で笑った。

    「今日はまたぞろ、雑多なものばかりを揃えてきたものだな。幼子のままごとか?」

    雑多……。うん、まぁ、確かに。
    普段のペルギウスの食事は、彼一人分にしては豪勢なものだ。
    各国の宮廷料理の数々が、次から次へと運ばれてくる。
    私もこんな身体になる前は、時々ご相伴にあずかってたけど、味も素材も素晴らしかった。
    それに比べれば、卵だの、茹でた法蓮草だの、果てはメンマなんて、彼からすれば子供のままごとに使う雑草やら泥水に浸った木片かなにかに見えたのかもしれない。

    でも、そういう言い方は無いと思う。
    私は、私たち日本人は、これを長い間親しんできたのだから。
    よその文化を蔑視するのは、むしろそっちの方が野蛮だと思う。
    そもそもこれは私の昼食なんだから。あ、だんだんイライラしてきたぞい(怒)。

    「貶すだけなら食べなくてもいいんですよ?デレの無いツンに食わせる麺はありません」

    故郷の懐かしい食べ物を小馬鹿にされ、プッツンした私。
    概念ですら殺せそうな視線を送りつつ、ペルギウスに冷たく言い放った。
    ペルギウスは絶句して、彫像のように凍り付いた。シルヴァリルも、ルーデウスまでもだ。
    冷静になって考えれば、物凄く危険な事をしたと思う。相手は竜より強い龍王さま。
    思うけど、仕方がない。こっちは腹ペコなのじゃ。

    「ルーデウス、おかわり。はやく」

    私は固まるペルギウスの存在を無視して、ルーデウスをせっついた。
    凍り付いていた彼も、我に返って丼にお湯を注ぎ、盆で蓋をする。
    このまま二分ほど待てば出来上がる。その間に、乗せたいトッピングをチョイスする。

    「湯を注いだだけ……ではないか?」

    硬直から復活したペルギウスが、訝しそうにそう言った。
    手をかけてこそ料理――それがペルギウスの持論。
    かなり前に、彼がルーデウスと料理でケンカしてたのを思い出した。
    その時はルーデウスがTKGを持ってきたり、刺身を持ってきたりして。
    最終的に美味しさを認めたがらないペルギウスに憤って場が滅茶苦茶になったんだっけ。

    でも、今回は料理勝負なんかじゃない。
    大事な大事な、私のための昼食なのだ。暇人に邪魔はさせない。

    「ほい、お待ちどうさま」

    ルーデウスがほかほか湯気を上げる丼をこちらに差し出す。
    ペルギウスは油断なく丼の中身を覗き込み、落胆したような顔を浮かべる。

    「……なんだそれは。素っ気ない麺だけではないか」
          ひと
    いったい、他人の昼食に何を期待していたんだろうか、このオジサン。
    まぁ、いい。無視しよう。

    私は素知らぬ顔をして、トングを使ってトッピングを乗せていく。
    コーン、メンマ、茹で法蓮草に茹でもやし、煮卵、焼き豚、焼き海苔……。
    最後に刻みネギをちらして、豪華特盛一人前の完成!テッテレー!


    「ふぁー!いっただっきまーす!!」


    ことさらに声を上げて両手を合わせる。
    まずスープをレンゲで啜る。
    それから麺。ズルズル~。
    またスープ。そして麺と共にメンマやもやしを口中に投じていく。

    フーフー、ずるずる、もちゅもちゅ、ごくん。
    今度は慌てず、急がず、ゆっくりと味わっていく。

    焼き豚はしっかり焼いてあって、旨味がぎゅっと凝縮されている。
    メンマも柔らかいのに歯ごたえがあるし、もやしとコーンもいいアクセントだ。
    刻みネギと茹で法蓮草が口の中をさっぱりさせてくれるし、煮卵なんてトロトロ~!
    焼き海苔うめぇー!元の世界のと若干風味は違うけど、やっぱり海苔は美味しいなー!


    「はふはふっ!ずずー!もきゅもきゅ、ごくん!フッフー、ずるる~!」


    再び繰り返される、人間ジェットコースター。味覚のロケッティア。
    黙々と箸を進める。つーか、ラーメン食べてる時に何が言えるのかと!
    それに、即席ラーメンの割にトッピングはなにげ手がかかっていた。
    こんなに工夫されているんだったら、私が文句を言う筋合いじゃないし。

    次から次へと具材を口中に放り込んでいく。噛み締め飲み込む。ゴックン。
    旨い。焼肉や旬の魚の塩焼きを食べた時に比べるまでもないけど、十分に美味しい。
    久方ぶりに食べる故郷の食べ物とは、これほどのものかって。うーん。


    …………。


    ……おや?


    横目で見れば、ペルギウスは一人取り残されたかのような寂しげな顔をしていた。
    いつもなら、あれやこれやと腐したり蘊蓄を披露するのに。
    私の食べ方が鬼気迫っていたので、それに飲まれてしまったのだろうか。


    「……ッッぱぁーー!!ご馳走様でしたー!!」


    ふー、二杯目も完食。大・満・足。
    即席ラーメン自体には栄養もなにも無いと思うけど、トッピングで補完する感じ。
    なにより、懐かしい味わいが私の魂を満たしてくれた。これ以上なにをかいわんや。

    しかし、満足気な私をよそに、ペルギウスは座りが悪そうだった。
    何か言うわけでもないけど、居心地悪そうにしている。
    さっき、私が意地悪したからスネているのだろうか。

    彼の視線は空になった丼、トッピングの皿を行き来している。明らかに食べたそう。
    でも彼も彼で、ままごとだの雑多だの貶してくれたし、今日の私は"おこ"なのだ。

    ちらりとペルギウスと視線が合うも、素知らぬ顔で牛乳をカップに注いで飲む。
    しゅーんとなる甲龍王。やだ、なんか罪悪感。

    そんなペルギウスに、ルーデウスは私のとは別の丼をそっと差し出す。
    そして、おもむろにこう言った。

    「とりあえず、一杯食べてみませんか?」

    何気ない一言に、ペルギウスは虚を突かれたのか言葉に詰まる。
    その間に、ルーデウスは丼に乾麺を入れ、湯を注いでいた。

    「これは、見ようによっては手抜きのままごとに見えるかもしれません」

    言いつつ、盆で蓋をする。

    「でも、これは俺やナナホシにとって、かけがえのない食べ物なんですよ」

    椅子に座り、ゆっくりと両手を組む。

    「これは軽食。駄菓子と同じようなもの。毒にも薬にもならない食べ物です」

    ぽつり、ぽつりと。
    ルーデウスはヌードルについての見解を語っていった。

    ふと小腹が空いた時。
    忙しくて時間が無い時。
    支度が面倒な時。
    食材がなにも無い時。

    年端のいかない幼子でも湯を注げば食べられる。そんなお手軽で身近な存在。
    誰でも買えて、誰でもどこでも、お湯さえあれば簡単に作れる。

    「例えば冒険者。固パンに干し肉。携帯できる保存糧食はバラエティに乏しいでしょう?」

    寒い北方地帯。凍えるような雪の森。氷の洞穴。
    そんな場所でロクに暖も取れず、冷たい糧食を口にする。
    気分は沈み、体力は下がる一方。これでは能力を発揮することは難しい。
    しかし、そこに温かいヌードルがあればどうだろうか。
    身体は温まり、心は落ち着く。胃の腑も安心を覚える。

    「栄養なんて二の次。とにかく腹を満たす。それが最優先……でしょ?」

    ぱかっと。蓋を取る。ふんわりと湯気が立ち上り、鶏ガラと醤油の香り。
    ペルギウスが覗き込み、ごくりと喉を鳴らす。

    「とはいえ、家で食べるなら……少しは豪華に、ね」

    慣れた手つきでトッピングをさくさく乗せていく。
    海苔、焼き豚、刻みネギ、メンマに煮卵。最低限ながらも最高の品ぞろえ。
    出来上がった一人前のラーメンを、ペルギウスに勧めるルーデウス。

    「これが、俺たちの故郷のソウルフード。ラーメンです。いかがです?」

    にっこりと。
    すっかり皺の刻まれた顔に笑顔を浮かべてルーデウスはそう言った。
    この人も、若い頃はペコペコしてばっかりだったけど、最近は如才ない感じがする。
    年の功ってやつかな。

    笑顔のルーデウスに相対するペルギウスは無言。
    じっとラーメンを眺めて、それからそっと、両手で丼を掴んだ。

    「――頂こう」

    厳かに宣言し、彼はフォークにて、麺を啜りだした。

    「……うむ」

    ひとつ頷くと、そのまま無言で啜りだした。

    ずるずる。ふーふー、ズズー。

    流石に何度もルーデウス飯を経験しているだけあって、食べ慣れている。
    フォークで食べるところが、なんだか外人っぽくてウケる。
    まぁ、いつもうるさい人が黙って食べてるんだ。のんびり牛乳を飲んで食休み、食休み。

    「はぁ~。あ、でさ、ナナホシ」

    ――しまった。

    私はルーデウスにゆとりを与えてしまった事に、内心舌打ちをする。

    「ちょっと聞いてもらいたいことがあるんだけど」

    ほらねぇ。

    恒例行事ではあるけどさ。
    こう毎日、重い話を持ってこられるのも面倒ではある。
    とはいえ、美味しいご飯を奢ってもらってる立場上、無下には出来ないし……。

    「……何?」

    社交辞令として返事をしておく。まぁ、長い付き合いだしね。
    そんな私の気の無い返事に救われたような顔のルーデウス。
    あーもう。面倒臭いおじいちゃんだなぁ。
    やれやれと呆れる私をよそに、ルーデウスはポツポツと語り始めだした。

    「実は……アリスが……」

    アリス。
    確か、ルーデウスの孫娘。
    長男のアルスさんと妹のアイシャさんの二人目の子ども。
    何度かここに連れてきた事もあったけど、普通に明るくておしゃまな女の子だったっけ。
    そのアリスちゃんがどうしたっていうのだろうか。

    「こないだ、魔法大学を卒業したんだけどさ、首席で」

    ほーん。なんだ、普通に孫自慢かな。私はほっと胸を撫でおろす。

    「その次の日、書置きを残して家出しちゃったんだよ……」

    ズコー。はい、普通に重い相談でしたー。この人の家、呪われてるの?
    う、うん。咳払いをして、気持ちを切り替える。

    「……その書置きにはなんて書いてあったの?」

    書置きがあるなら、まだマシなんじゃないかしら。少なくとも本人の意思は判明する。
    何も言わずに家出しちゃったアイシャとアルスの時とはそこが違う。

    「うん……。冒険者になります、って」

    「……それだけ?」

    「あ~、うん。どこに行くとか、どこで冒険者になるとかは、全然」

    「それだけか~」

    「あ、あと『心配しないでね!』って」

    いや、心配するでしょう普通。
    ちょっと外を歩けば魔獣とか盗賊がいる世界なんだし。

    「う~ん、でも首席ってことは、アリスちゃんも優秀なんでしょ?」

    「そりゃそうさ!全属性魔術はすべて上級!剣術だって剣神流上級なんだ!」

    急に鼻の穴を広げて興奮して語りだす孫自慢。正直メンドイ。
    でも凄いなぁ。女の子で文武両道の実力者なんて、そうはいないんじゃないかしら。
    そんなに強いなら、よほどの事じゃない限り平気そうだけどなぁ。
    私が首を捻っていると、ルーデウスは興奮が冷めたのか、またションボリした。

    「……どんだけ魔術や剣技が得意でも、些細なことで死ぬのなんて普通だからさ」

    そう呟きながら、左腕を無意識に擦っていた。

    ――あ、そっか。

    確か、迷宮で左腕を無くしてるんだっけ。
    そして、ルーデウスはその時にお父さんも亡くされているのを私は思い出した。

    ルーデウスは世界最高の魔術師。そのお父さんも天才的剣士だったという。
    そんな二人でも、迷宮で酷い目に遭った。
    そしたら、可愛い孫娘がどんな目に遭うか心配で堪らないのは人情というものだ。

    「心配……だよ、ね」

    「うん……。何があるかわからないからさ、冒険って」

    うーむ。どうしたものか。
    書置きに行先も書いてないんじゃ探しようもないだろうし。
    たとえば探偵を雇うったって、この世界にそんな職業は……。

    「あ」

    「え」

    私はきょとんとするルーデウスに人差し指を突き付けた。

    「ルード傭兵団。世界中に支部があるんでしょ?」

    「お、おう」

    「そしたら、各地の冒険者ギルドにアリスちゃんが顔を出してないか、調べさせれば」

    「アッ――!!」

    その手があったか、と指パッチンするルーデウス。……いや、スカッと空振りしてたけど。

    「いやー、ありがとうナナホシ!さっそくお触れを回してみるわ!」

    凄くいい笑顔で私の手を握りしめ、ブンブン振るわれた。痛い。
    うん、まぁ、食事のお礼になったんだったら、こっちとしても気分は良い。
    彼もハッピー、私もハッピー。ウィンウィンの関係って奴よね。

    「でも、見つかったからって連れ戻そうとしたら、嫌われちゃうかもよ?」

    「あ、うーん。そうかもなぁ」

    「こっそり傭兵団の人に見守ってもらうとか、どうかな」

    「おぉ、それはいいな!俺が仮面を被って一緒のパーティに入るとかは――」

    「あ、それはやめたほうがいいと思う。絶対、確実に」

    「え、そうかな~?変装は得意な方なんだけど」

    「それ絶対カンチガイだから」

    アハハ、ウフフ。
    と、私たち二人がほんわかしているのを、じっと睨みつける視線がひとつ。

    それは、ラーメンを食べ終えたペルギウスだった。

    「話は終わったか?」

    腕を組み、椅子の背もたれに身体を預けている。
    しかしその顔はやや険しい。なんだろう、美味しいものを食べた後って感じじゃない。

    「端的に言おうルーデウスよ……悪くはなかった」

    「あ、そうですか」

    「だが、不満がある」

    「はぁ」

    「貴様の料理は、何故いつも鬼水や豆腐を味付けに使う」

    「え、いや、まぁ、……俺の個人的な好み?」

    「そこだ!」

    ドンッ!と。テーブルを叩く太郎……じゃない、甲龍王。

    「せっかくの料理も、ビヘイリル地方の味だけでは飽きてしまうではないか!」

    物凄く生真面目なんだろう。真面目に、大仰に一喝している。

    「貴様だけの好みではなく、万人に向けた味わいも楽しみたいではないか!」

    そうは思わんか、ナナホシ――。
    私の方を睨んでそう唸るペルギウス。いや同意を求められましても。

    「まぁ、そう言われるとは思っていたんですよね」

    そう言いつつ、ルーデウスは鞄を漁りだす。
    テーブルに、取り出した紙包みを並べた。それぞれ色が違う。

    「この黄色いのはカレー味。赤いのはキムチ味。これはトマトチーズ味。これは……」

    と、それぞれの紙包みの味を説明していく。それを聞いて興奮するペルギウス。
    うんうん。甲龍王にプレゼンしてお墨付きを貰えば、売れる保証まったなしだよね。
    でもさ、そういうのはどっか他でやって欲しいんだけど。ここ、私の部屋だし。

    「……ん」

    「……む」

    私のジト目に気が付いたのか、二人が気まずそうになった。
    えへん、と咳払いをし、ペルギウスは立ち上がる。

    「ルーデウスよ。貴様に見せたいものがある。ついて来るがよい」

    バサリと、マントを翻して去っていくペルギウス。……照れ隠しだろうか?
    ルーデウスは持ってきた物を鞄に戻している。

    「ルーデウス、今日もお食事、ありがとう」

    「おぉ、こんなもんなら、いつでもだ」

    嬉しそうに、皺の寄った顔に微笑みを浮かべる老人。
    私の友人、ルーデウス・グレイラット。

    出会った頃は少年だった彼も、もうお爺さん。
    時々来てくれるザノバもそうだし、彼らの家族も徐々に年を取っていっている。
    私はといえば、まだ高校生の時のままの姿。
    その差に、言い知れない寂寥感を覚えていく。

    いつしか、ルーデウスやザノバに会えなくなる時が来るのだろう。
    それは、もうそんなに先のことではないのかもしれない。

    私が眠り、目を覚ます時は一ヶ月も先の事。
    私にとってはほんの一日。でも、彼らにとっては一ヶ月もの時間が経過しているのだ。

    「また一月後に来るよ。次はなにが食べたい?なんでもいいぜ」

    鞄を担いで立ち上がり、こっちを振り返るルーデウス。
    その姿を見て、私はなんだか無性にお父さんに会いたくなった。

    「……どした?」

    彼が不思議そうな顔をする。
    ……そうだ。まだ、今は私の予定する未来じゃない。
    今はまだ、ルーデウスがいる。
    彼と繋がる大勢の人たちにも会える。
    だから、あとになって悔やむよりも、会える時間を大切にしていこう。
    一期一会……っていうんだっけ。

    「……おにぎりと、ポテチがいい」

    感傷を押し隠し、私はそう伝えた。
    ルーデウスは快諾して、扉から去っていった。



    -------



    一人になると、静かすぎて耳がキーンとなるようだった。
    さっきまで賑わっていた部屋も、誰もいなくなればガランとしてしまうものだ。

    私は寝室に移動して、もそもそとベッドにもぐりこむ。
    それから肌身離さず身に着けているお守り袋を撫でた。
    それから布団をしっかりとかけて、枕に頭を沈める。

    (……あとになって、後悔しないように。いっぱい、いっぱい。思い出を作っておこう)

    次もたぶん、ルーデウスが来てくれるようだ。
    その時に、ほかのご家族や友人も一緒に来てくれるように言ってみよう。
    私の旧知の人たち。つながりのあるすべての人たちと、たくさん触れ合いたい。
    そして、たくさん、たくさん、ありがとうと。伝えていくのだ。


    いつか、この世界と別れるその日まで――。


    「……じゃぁ、お願いします。スケアコートさん」

    「うむ」



    そう思いながら、また私は眠りにつくのだった。







                     ーfinー








    それでは、また。(店`ω´)ノシ






    ※更新が長い間滞っており、大変申し訳ありませんでした。

    ちょっとリハビリに単話などをひとつ、って感じです。
    とはいえ思うところもあり、二次活動はしばらく休止しようか考え中です。
    作品へのご感想をお待ちしております。

  • 無職転生 二次創作「偽典:無職転生 Fake/the outer mission」後編「破ァァッ!」

    2019-03-14 18:47



                 ~前回までのあらすじ~



    鬼神帝国軍の謎の侵攻停止より数か月。
    暫しの安寧に浸っていたアスラ王国に、再びその侵略の魔の手が伸びようとしていた。
    国境付近にて駐屯していた王国軍が、帝国によって突然殲滅されたのだ。
    迎撃のため出陣したルーデウスとエリス、そしてアスラ王国民3000の決死隊。

    王都より数日の行軍。たどり着いたそこは、広大なるフィットア平原。
    さらに偵察に出た二人が目撃したのは、三万を超える鬼神帝国の大軍勢だった。
    自軍の十倍以上の兵数を前に、しかし怯まないルーデウスとエリス。

    魔法騎士より貸与された装備に身を包み、ルーデウスは決戦に臨む。
    頼りない自軍を背に、彼は帝国軍に向けて魔術を放った。

    それはかつて最も得意とした魔術――『泥沼』であった。





    ====================================================





    「――はぁ」


    男は本日、何十度目かの溜息を吐いた。
    祖国が鬼神帝国より屈辱の併合を強いられてよりはや数年。
    以来、何度吐いたか知れない重い溜息だった。

    男はかつて魔法三大国と呼ばれたうちの一つ、バシェラント公国の武官だった者だ。
    剣も魔術もそこそこ使え、それが故に奴隷兵士となった今も生き残れている。
    それが幸運なのか不運なのか、今も男にはわからないままだったが。


    鬼神帝国は併呑した国の人民を尖兵として徴収し、それらを使い潰してきた。
    奴隷兵士となった彼らは人形のように、唯々諾々と命令に従っていた。
    また、そうするしか出来なかった。出来ない理由があった。
    逆らえば家族を、友を、親類を、自らにつながる尽くが誅されてしまうからだ。

    さらには先祖代々の墓すらも暴き、系図すらも灰にするという徹底ぶりである。
    風の噂で、街一つの住人の尽くを虐殺したとも耳にした。
    そんなふうに、自分一人の命だけならともかく、己の生きていた証すらも消滅させられる恐怖というのは、余人には計り知れないものだろう。

    それだけでなく、板や柱に女子供を括り付け、戦場での肉盾として用いられもした。
    この処置には誰もが心を折られてしまった。
    己が母や姉妹、妻に娘を目の前で嬲り殺されてなお、反骨を貫ける者は皆無であろう。

    いったいどうすればここまで人を憎めるというのだろうか。
    男には理解が出来ない。出来ようが無い。
    ただ、その悪鬼外道のごとき所業に戦慄するのみだった。

    とはいえ、人が鬼神帝国に従うのはなにも恐怖政治の為ばかりではなかった。
    懲罰ばかりでは、人は従わない。当然の理屈である。
    人も動物も、抑え込むばかりでは必ずや不満を持ち、それらは叛意へと成長していく。
    窮鼠猫を噛む。イタチの最後っ屁。窮余の策。苦し紛れの抵抗。
    どうせ先が無いのであれば、諸共に砕け散ろうとするのは生物として自明の理である。
    だがそこは鬼神帝国。そこは周到にして悪辣であった。

    帝国は隷属側の国民を弾圧する一方で、言葉巧みに思考を誘導していった。
    ある意味、鞭に対する飴である。それは、微量の毒入りではあるものの――。

    "忠誠を誓いたくなければ誓わずともよい。その代わり、近隣を互いに監視せよ"

    人間とは弱く、脆いものである。
    たったそれだけの言葉で、国民達は互いを疑心暗鬼の目で見るようになった。
    もし叛意ありと見なされれば、或いはそういった活動をした者は罰を受けるだろう。
    そしてそれを注進した者は、多少なりとも恩賞に預かれる筈――そういった視線だ。

    北方地方の隷属国家群の国民達は、鬼神帝国の国民の下位に位置付けられている。
    帝国民は一等国民であり、忠誠を誓った者は二等国民。
    二等国民は徴兵義務も緩和、生活水準も旧に復すのを許されていた。
    そして三等国民。当然ながら、彼らへの扱いは苛烈であった。

    三等国民の生活は困窮を極めた。食料などは配給制であり、流通は滞ったまま。
    働き盛りの男たちは皆、戦奴として徴収されてしまい、残るは女子供と老人ばかり。
    その女子供すら、戦場へと駆り立てられてしまうのだ。
    真綿で首を絞めるがごとく、じわりじわりと削がれていく気力。
    併合初期こそ、帝国なにするものぞという気概があった者でも、徐々に疲弊していく。
    お互いを監視しあい、誰が出し抜き出し抜かれるのか戦々恐々とする日々。

    また、略奪や暴行こそないものの、人の差別意識というものは恐ろしいもので、大人にそれがあるのであれば子供同士にすら特権意識というものは生まれていく。
    自分よりもあいつらは下だと思えば、どこまでも残虐になるのは人の性。
    つい少し前までは同じであった目線が、まるで天と地ほどにも乖離してしまうのだ。

    最終的に、地域の管理者が住民からの突き上げを喰らい、街ごと服従するようになっていくのは当然の帰結と言えた。

    そうして自らの意思で頭を垂れ、服従を誓った者への帝国側の対応はといえば――。
    一人一人を力強く抱きしめ、涙を浮かべての激励であった。

    『よくぞ、よくぞ決意した。我らはそなたらの苦渋の決断を受け入れよう!』

    これからの我々は同胞であり、志を同じにした家族である――そう言うのだ。
    その場にいた誰しもが嗚咽を漏らし、涙するのも無理からぬ事だろう。
    最底辺から一転、温かな言葉で迎え入れられたのだから。

    これは実のところ、よくある洗脳術の一端である。
    人は弱い。苦しみを吐露した者へ優しい言葉をかけると簡単に堕ちてしまうように。
    帝国は国家ぐるみでそれを施政の手法として用いていたのだ。

    そんな馬鹿なと人は思うかもしれない。
    だがしかし、渇した状態のそこに、天上から甘い蜜が滴ってきたらどうであろうか。
    誰しもがその蜜を舐め、天上へと手を伸ばすに違いないだろう。
    そうして下ったものは、蜜をもたらす者へと盲目的に従うのである。
    この手練手管、まさに邪神の知謀かと噂されることとなるが、それはまた後の話である。

    そうして男の周囲は、いや、故国の民達は帝国の施政にようやく慣れ始めていた。
    人はぬるま湯に浸り続けていると、かえってそこから抜け出せなくなる。
    傷つきつつ抗うよりも、頭を垂れて従う方が楽であると思うように。
    帝国は飴と鞭を上手く使い分け、奴隷兵士を使役してその版図を着々と広げていった。

    それにしても――男はふと思う。何故、己が祖国は併合されたのかと。

    ラノア、ネリス、そしてバシェラントは帝国に飲み込まれた。それは事実である。
    確かに帝国の軍勢は恐るべきものであった。
    しかし、魔法三大国の総戦力は世界有数と謡われていた。
    比肩するのは、全盛期のアスラ王国のみであるとも。
    いざ戦いとなれば、勝てはしなくとも、ただでは負けない自負もあった。

    そう――戦えば、の話だ。

    現実には、三大公国はろくに戦わないうちに降伏勧告を受け入れてしまった。
    そして気が付けば、不平等な条約で帝国の傘下になっていたのだ。

    男は平凡な一武官である。国の中枢の思惑までは知る由もない。
    しかしそれでも、三大公国の併呑はあからさまに速過ぎた。

    (まるで、自らの意思で帝国に頭を垂れたかのような……)

    これでいいのだと、薄気味悪い微笑みを浮かべた政府高官の面々を思い出す。
    あの連中は、まるで洗脳されたか買収されたかのように満足そうだった。

    (――洗脳?いや、しかしそんな機会は無かった筈。……では?)

    男は首を振る。
    自分は所詮は下士官である。国の上層部の思惑などには関係ない。
    そうやって今まで生きてきた。心を殺し、ただ戦うだけの道具として――。

    そしてまた、今日この日、この場に、戦うだけの道具として誘われてきた。
    自分と同様に、虐げられるだけの存在を蹂躙する道具として。

    「はぁ――」

    だが、男は今日も溜息を吐く。
    戦に駆り出されるのは、既に割り切っている筈なのに。
    それでも未だ、胸に澱む何かを吐き出す毎日。

    男は天涯孤独の身の上だ。質に取られるような煩わしい係累は無い。
    だから他の武官のように、立身と身の安寧の為に土下座でもなんでもすればよかった筈。
    しかし男は何故かそれを潔しよしとしなかった。
    とりたてて故国に愛着があるでもなし、知人の視線が気になるでもなし。
    だがしかし、なけなしの矜持というものが邪魔をしていた。
    今の自分というものを培った数十年の年月が、帝国への反骨を支えていた。

    幼いといえば幼い衝動かもしれない。
    他の連中の様に、上手く立ち回れば楽に生きられるかもしれない。
    そうはいっても、気に入らないものは気に入らない。
    かといって、自分には現状を塗り替えられるような素質も才能も無かった。
    能力も足らず、気概も無く、ただ憤懣を腹に溜め込むだけの生ける屍のごときモノ。

    だからこそ、男は今日も溜息を吐く。
    いつ終わるとも知れないこの覇業に加担する者として、少しばかりの嫌悪と罪悪感を込めて。

    「……ん?」

    それは、ほんの少しの違和感。
    いつもと変りない今日であったが、この日ばかりは何かが違った。
    じわりと――。
    足元に、些細な変化を感じたのだ。

    (……まさかな)

    魔術師でもあり、武官である男の感覚からすれば無視できないほどの違和感。
    しかし奴隷兵士としての男からすれば「どうでもいい」変化。
    だから男は「それ」から目を逸らした。

    どうせ何をしても変わらない。
    俺が何をしようが、今日も、明日も、明後日も――。

    ――もし。

    もし、男がもう少し用心深く感覚を広げていれば。
    感知し切れぬ程に、果てしないとさえ言える領域に「それ」を感じただろう。

    「それ」を察知したのは、男の他にどれほどいただろうか。
    いたとしても、恐らくは何も変わらなかっただろう。
    それほどに、「それ」は些細であり、あまりにも速過ぎた。


    そして、男の腰から下はずるりと大地に沈み込んだ――。





    -------





    「――『泥沼』」



    俺は最も慣れ親しんだ魔術を行使した。
    そりゃもう、かるーい気持ちで。

    掌から放たれる魔力は、俺の魔力総量からすれば微々たるもの。
    しかして、眼前に起こった事象をと見れば――世にも稀な大災害といえるものだった。

    ……えー、マジかよ

    その魔術を放った俺自身が目を疑った。
    いま、目の前に広がる光景は、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
    泥んこパンツレスリングとかそんなチャチなもんじゃぁ 断じてない。

    北方各国から集められた捕虜兵士、総勢およそ二万。あと馬とか荷車とか。
    そのほぼすべてが、俺の放った魔術によって生まれた泥の海で溺れていたのだ。
    二万人でしょ、それらが駐留する場所でしょ。地平の果てまでって感じなのね?
    そんで地平の果てまで泥沼地帯になった訳でさ。やっべえ、環境破壊で訴えられそう。

    いやね?そりゃ、昔から全力で魔術を使ったら凄い事になるとは思ってたさ。
    『溶岩(マグマガッシュ)』で街一つ壊滅させるとかね。
    そういや魔王バーディガーディに撃った『岩砲弾』は割とガチだったっけか。
    でもさぁ、たしか中級魔術だよね、『泥沼』ってばさ。

    「……うわぁ」

    自分でドン引きだよ。どこが中級魔術なのよ。
    え、なに?俺って惑星規模の災厄認定?ディザスター級?
    放送禁止存在じゃんコレ。うーむ……。



    -------



    ちなみに、俺が引き起こしたこの広大な『泥沼』なんだが。
                 バミューダ・オブ・ルード・ロヌマー
    この『泥沼』は後に、「ルード・ロヌマーの大腐海」と命名されることになった
    なにしろ範囲が半端ない。ちょっとした街ひとつが沈む広さだもんね。
    ……いやホント、すいませんでした(汗)。


    ――ちなみに。
    戦後、この一帯にかけられた術式は数十年を経ても解呪されず、ずっと放置された。
    理由は当然、ある。
    アスラ王国からすれば、ここは敵の侵攻を阻む要害の地となる。
    故にわざわざ膨大な労力を使ってまで俺の『泥沼』を上書きする意味は無い。
    敵さんだって、進軍中に自陣の魔術師の魔力を枯渇させてまで解呪したりしないだろう。
    自慢じゃないが、聖級魔術師の二人や三人でどうにかできる範囲じゃないしな。へへっ!


    ……っていうか、それだけじゃなく。
    肥沃な大地が沼地に変わった事で、魔獣や巨蟲の棲家になっちまったんだよな。
    更に言えば、そいつらにくっついていた胞子が発芽し、妙ちくりんな草木が生えたりして、辺りの様相は一変してしまった。クレソンやら生きたザリガニを他の土地に輸送しちゃいけない理由……この目で見たって感じでした。いやマジで腐海だよ、ここ。

    ――敵味方、両陣営からすれば、予期せずして生まれた呪われた魔境。
    その所業、古来より伝え聞く魔王の如し――って事で名付けられた訳で。
    まぁ、まんま俺の名前を付けられるのも面倒なんで、自分で偽名を広めた訳なんだがな。


    ……閑話休題。



    -------



    「凄い……。やっぱり、ルーデウスは凄い……」

    横からそんな呟きが聞こえてきた。エリスだ。
    彼女は茫然と、いや陶然と、目の前の大惨事を眺めていた。
    頬は興奮で上気し、しっとりと濡れている。
    いやエリスさん、大惨事を前に、それはちょっと人として危ないんじゃ。
    俺がそう思いつつソワソワしていると、当のエリスが感慨深そうに頷いた。

    「ギレーヌが言ってたとおりね。離れた位置からなら自分でも勝てないって……」

    へ、へぇ?あの鬼のように強い剣王ギレーヌがそんなこと言ってたのか。

    …………。

    やべぇ、嬉しくてちょっと口元が猿みたいになってるかもしれんね。うぇひひ。

    「こうなったら、私も負けてれないわね!」

    こちらを振り向いたエリスが、決然とした表情でそう言い放つ。
    俺は「お、おう」とだけ答えた。
    ニッと、不敵な微笑みを浮かべたエリス。すごく、格好いいです……。

    「じゃ、行ってくるわ!!」と言い、エリスは石剣を担いで敵陣左翼に爆進していった。
    うわぁ……すっげー勢い。なんか向こうの方で大爆発が起きてるし。
    うぉオン!俺のエリスはまるで人間魚雷だ!!

    「ん~、それじゃ、俺も行くとしますか」

    まずは屈伸、そして伸脚。ラジオ体操第二。ひっひっふー。
    軽くジャンプ。うん、痛い所もきしむ所も無い。若いっていいね(実感)。



    「そんじゃま、行きますか!」



      ブート・オン
    "『起動開始』"――戦闘用動甲冑を起動して、俺は走り出した。


    目指すは敵陣右翼。総数、およそ五千。
    皇国の興廃ここに在り――そんな言葉が脳裏によぎる。



    「う……うぉおおおおぁああああああああっ!!!!」



    全力疾走――全身に万能感が漲る。

    目の前には物々しい装備をし、両目を栄達でギラつかせた兵士の群れ、群れ、群れ。

    そんな飢えたピラニアの群れの中に飛び込むという蛮勇。恐怖と興奮のない混ぜ。
    意味不明な昂ぶりからか、我知らず、喉から雄叫びが迸っていた。

    俺は自分をそこまでバトル脳とは思ってなかった――今、この時までは。

    だが強化装備に身を包み、全能感に酔いしれた今、雑魚を蹂躙するのも面白いかもしれない。
    ……なーんて、思ってしまったのも事実だった。
         ウォーフレイム
    身に纏う戦闘用動甲冑は、装着者の肉体能力を聖級剣士並みに引き上げる。
    13歳くらいの少年の肉体年齢の俺でさえ、今は暴走するシベリア超特急のごとし。

    っていうか、すっげー身体の調子、いいんだが!?
    なんでだ?腰も膝もヌルッヌル動く!これが若さか!!(cv:池田秀一)
    フハーハハ!さすがショタデウスの肉体だよ~!絶好調であるッ!!

    あ、そっか。ずっとジジィだったから、その感覚が染みついてたんだな。
    こっちに召喚されてからというもの、こんな全力で走ったこと無かったし。
    うわー!龍玉で若返った緑色の大魔王の気持ちが、今になって実感できた!!
    はっはっはっは!!!!これだ!このあふれるパワー感だっ!!!
    戻ったぞ!!!若返ったのだー!!!!

    ……などと供述しており。
    いやいや、俺としたことが、ちょっと舞い上がっちまってるみたいだな。
    ま、今はこの高揚感に酔いしれたまま突っ走った方がいいのかもしれない。
    戦いとは酔うものだと、前田慶次も言ってたしな。言ってたっけ?
    ……まぁいい。




    さて――カーニバルを、始めようか!!




    -------





    ボカーン!



    アニメ的にいえば、その絵面はまさにそんな感じだったろう。
    身構えた物々しい軍勢の中に弾丸のように突っ込む。
    ただそれだけで、武装した騎士や戦士たちが木っ端のごとく、まとめて吹っ飛んだんだから。

    無論、俺も動甲冑を身に纏ってたとはいえ、なんの仕込みも無しに突進した訳じゃない。
    風魔術にて、自身の前方にX状の激しい気流を生み出し、それを纏っていたのだ。
    下から上に巻き込むような突風、つまり逆バギク〇ロス。伏字になってない。

    今の俺は時速120㌔のコンバイン。
    ……ごめん、コンバインを操作した事も無いし触った事もないんだ。
    ブルドーザーとかショベルカーとかのが正しかったかもしれんね?

    まぁなんだ、突っ走ってるだけで人が空に吹っ飛ぶ暴走マシーンって思ってくれ。
    後方に『爆風』を噴出して速度を爆進させ、前方のX状の気流によって人を吹き飛ばす。
    さらには俺の周囲に酸素を集約させ、少年の未完成な心肺機能の底上げをする。
    いやぁ、今になって幼少時に練習してた、大気成分の分別法が役に立つとはね。
    完璧だよォこの作戦はァーッ!


    (クックック……フハァーッハッハッハッ!!)


    見ろ!!人がゴミのようだ!!

    鎧に身を包んだ野郎共が、驚愕の表情を浮かべて次々と吹き飛んでいく!!
    ……いやすいません。怪我はするだろうけど、死にはしないと思います。
    でもさー、栄達目当てで参戦してるんだし、ま、多少はね?

    約五千人の兵士達の群れに俺はジグザグに疾走し、手あたり次第刈り取っていく。
    敵陣営の魔術師が魔術を使おうとすれば、『乱魔』でそれを掻き乱し。
    練達の剣士っぽいのが斬りかかってくれば、大ジャンプからの連続土砲弾でぶっ飛ばす。
    騎馬軍団で襲いくれば『土針鼠』を広域展開して、堅牢な陣形を木っ端微塵にしてやった。
    気分は某無双ゲームの関羽か忠勝って感じ。脳内cv:は明夫だ!

    どかーん、ばこーん!今日もどったんばったん大騒ぎ!

    ……なーんて、な。
    このまま体力の続くまで帝国軍をぶっ飛ばせれば楽な仕事、だよなー。
    しかし世の中そうはイカキン。イカの金玉。……イカの金玉ってなんなんだぜ?
    それはまぁ、置いておいて。

    今回の俺の仕事は、実のところ侵攻してくる帝国軍の殲滅では無かったりする。
    魔法騎士から依頼された事はいくつかある。
    そのうちの一つがズバリ、「やり過ぎない事」。
    そして、アスラ王国軍が自力で作戦遂行を成し遂げられるように先導する事。
    先ほどの『泥沼』でもわかるように、俺がちょっと本気を出せば、三万や五万の軍勢なんてあっという間に蹴散らせるだろう。あっという間は言い過ぎかもしれんけど。

    「だが――ね」

    そう、だがしかし、なのだ。
    俺が片付けてしまうのは簡単である。だが、それではダメなんだ。
    召喚された救世主だか勇者がそれやっちまうと、二度とアスラの民は自力で動けなくなる。
    困難を誰かが取り除いてしまうと、それが癖になるからな。うん。

    萎え切ったアスラ王国を奮い立たせ、自らの脚で歩かせる。
    それが今回の迎撃戦の主眼であり、最大の目的。
    だからこそ、俺はやり過ぎてはならないのだ。

    ――ってな訳で。
    俺の役目はズバリ、陽動。
    中央の奴隷軍の足止めをした後、左翼、或いは右翼を撹乱し、この大軍を率いる将軍なり副将軍なりの高級将校を炙り出し、ふん捕まえて人質にする。
    そして、それを以て帝国軍との交渉の材料にする――それが魔法騎士の描いた作戦だった。

    勿論、将校の一人や二人を取引材料にして、帝国と和平が出来るとは彼女も思っていない。
    必要なのは、アスラ王国の民に成功体験をもたらすこと。
    たとえ救世主の助力があったとはいえ、自力で敵軍を打ち破った経験は、負け続きの自国民や兵士たちに大いなる達成感をもたらし、次へと繋がる希望になるのだという。

    なんとなく、奴の言わんとする事は理解できる。
    魔法騎士は多分、目先の勝利は求めていないのかもしれない。
    きっと、これからの人材を育成し、若人たちがいつの日か、自分たちの意思で道を切り拓いていくべきなのだと、そう言いたいんだろう。
    俺がそう合点して言うと、魔法騎士は舌打ちをして顔を歪めた。

    「馬鹿め。今回のような大召喚は、滅多に成功するものではない」

    今回は勇者が助けてくれた。じゃぁ次も強い英雄を召喚して助けてもらおう。
    神風が吹けば、次もその次も、きっと神のご加護がある筈だ――などと。
    そんな甘い考えで生き延びられるほど、今の時代は甘くないと、彼女は吐き捨てた。

    「アタシはただ、今ある手札の中で、より確実な方を選択しているだけだ」

    ならば、救世主殿の大魔術を広範囲に放ってもらえば一番確実ではないのか、と同じ卓についていた士官の一人が提案した。俺がホイホイ山をこさえたり谷を掘ったりしてるのを見ていたら、誰もがそう思うだろう。俺だってそう思う。
    それに対する魔法騎士の答えが「このフヌケにそれが出来れば苦労はしない」でした。
    うーむ、すっかり見抜かれてる。

    そうなんだよなー。いくらなんでも、人間相手に殺傷力の高い魔術を使いたくはない。
    何度生まれ変わっても、俺の根っこは変わらないし、変わったら終わりだと思う。
    俺は「あの老人」のようにはなりたくない。なっちゃいけない。

    -------

    てーことで、俺はとにかく敵軍をひっかき回し、味方の行動をしやすくするのみ。
    幸いにも、戦闘用動甲冑のおかげで身体能力は聖級剣士並み。
    完全な搭乗兵器であった魔道鎧に比べて、自力で動かなくてはならないマイナス点はあるものの、そこは風魔術を運用することでカバーしている。

    見よ!蝶のように舞い、蜂のように刺すがごときこの華麗なるフットワークを!
    俺の場合、攻撃力はカンストしているから、機動力の問題さえクリアすればいいのだ。

    左翼側はエリスが大暴れをしている筈。あっちはあっちで安心して任せられる。
    さぁ、あとは別行動をとっている隊長さんたちが上手くやってくれれば――。

    などと考えていたが、世の中そうは上手くいかないのが常である。
    戦場を突っ走る俺の前に、屈強そうな野武士然としたオッサンが立ちはだかった。
    背丈はそれほどでもないが、ガッチリとした体躯。
    太い腕に短いが逞しい両脚。首などは女の腿ほども太い。
    容貌は一言で言ってワイルド。歯並びは獰猛だし、眉毛も繋がってる。

    「グワーハハハッ!我こそは北神カールマンが直弟子『孔雀剣のオーベール』!

     ……の三番弟子のロドリゲス!!

     ――さんの家の隣に住んでいたこともあるドドリゲス!いざ尋常に勝負!!」

    ……いや、普通に他人だろ、それ。
    なんだか面倒くさそうなオッサンだったので、適当な威力の『土砲弾』を放ってみた。
    こいつは初級の土魔術ではあるが、俺が精製した魔術だ。威力は推して知るべし。
    泥の塊が勢いよくオッサンに向けてカッ飛んでいく――が、

    「ぬぇいッ!!」

    パッカーン!と、俺の『土砲弾』はオッサンの剣によってまっぷたつにされてしまった。
    ぬぅ、このドドリゲス、パチモン臭い割に中々やりおる……!?

    「グワーハッハッハ!小僧!こんなチャチな泥団子で我を倒せると思うてか!!」

    剣を振り上げ、歌舞伎役者のような大見えを切るドドリゲス(オッサン)。
    大仰でアホっぽいが、実力はそれなりにあるようだった。
    刀身に付着した泥をブンッと払うや、オッサンは突進してきた。割と速い。

    「ハッ!フンッ!ホホゥッ!!うりゃうりゃうりゃうりゃ~!!」

    オッサンの攻撃は中々鋭く、また多彩だった。
    剣で斬りつけるかと思えば、足で蹴ってきたり、唾を飛ばしてきたり(キチャナイ)。
    目まぐるしく矢継ぎ早に攻撃を繰り出してくる。
    しかしそれにしてもうるさい。誰かに似ている。イラッ!!

    「グハハハハッ!!幼い割に鍛錬をつんでいるようだが、まだまだ甘い!!」

    オッサンが言うように、俺は龍神流の受け流しを使って防戦一方。
    実際、思ってた以上にこのオッサンは強いと思う。
    三大流派じゃなさそうだけど、上級、あるいは聖級剣士レベルかもしれない。

    「むほぉッ!隙ありーッ!超破裏剣流・百裂羅刹斬ッ!!」

    オッサンはそう叫ぶや「おぁ~たたたたたぁッ!」と凄まじい連撃を仕掛けてきた。
    俺は予見眼で少し先の未来を見る。
    ……おぉう。こいつぁすげぇ。
    視界全体を、オッサンの連続斬撃が埋め尽くしてはる。嫌やわぁ……。

    (――はてさて実際、どうするか)

    このまま受けに回れば、どこかでミスをして、致命的な致命傷を受ける可能性もある。
    あーもう、なんだってこんな半端に強いキャラが出てくるかなー。
    しかも倒したところで何も得られない系。ダースドラゴン的な。

    などと思っていると、予見眼に少し先のビジョンが映る。

    <オッサンが剣を上段に振りかぶり、殺到してくる>

    あー、はいはい。
    それで俺の頭をカチ割る気なのね。いたいけな少年に対して、なんて酷い!!
    俺はそれに合わせてカウンターの『爆風』を放射する。波ッ!!

    「グワッ!?」

    あの構え、つまり両掌から衝撃波が放たれる。
    正面からまともに喰らうオッサン。
    しかしオッサンは踏みとどまり、なおも俺に突進してくる。無駄にタフ過ぎィ!!
    とはいえ、勢いの削がれた大雑把な斬撃を華麗なバックステッポゥによって躱し、俺はいったん距離を取った。

    うーむ、弱めの魔術じゃこのタフガイは止まらないか?
    俺が思案する間にも、オッサンはドドドドッと詰め寄って来る。
    ちっしゃーねーな。ちょっと威力が強いかもだが『電撃』で痺れさすか。

    「『電撃』ッ!!」

    突き出した右手から眩い電光が迸る。
    ジグザグの稲光はドドリゲスに突き刺さるや、激しくスパークする。

    「グワワワワワワワッ!?」

    青白い放電に包まれ、オッサンは苦痛の叫びを上げつつ痙攣した。
    閃光が収まるや、どさりと倒れ伏す。
    おぅ、身体のあちこちからブスブスと煙が吹きあがってて痛々しい。

    「む、ぁ……」

    一瞬、殺っちまったかな?と思ったけど、そんなことは無かったぜ。
    オッサンはむくりと起き上がるや「ブハーッ」と口から煙を吐き出した。

    「ゲーッホゲホゲホッ!!……ぬぅ、やるな小僧。しばらく煙草はいらんなッ!!」

    いやー、どんだけ頑丈なんだよ。
    こ〇亀の両さん並みのタフさだけど、さすがにウンザリしてきた。
    アフロになった頭のまま、襲い掛かってくるオッサン。
    少し先の未来には、相変わらず凄まじい斬撃が映る。

    (……ま、いっか)
                   キーワード
    俺はぺろっと唇を舐め、とある『合言葉』を口にした。





    ドンッ!!





    凄まじい爆音。
    そして次の瞬間、オッサンは俺の前にひれ伏していた。
    あ……ありのまま、今起こったことを話すぜ!

    『オッサンが襲い掛かってきたら、オッサンが倒れていた』

    な……何を言っているかわからねーと思うが、俺も何をしたかわからなかった。
    いや、何をしたかっつーと、なんかしたんだけどな。確信犯だぜ。

    「ゴフッ……お、おのれぇ」

    オッサンが恨みがましく呻いている。いや、知らんがな。
    ゴスンッ!!
    中年戦士の頭を踏みつけてトドメを刺す。いや気絶させただけだけど。
    いや~このオッサン、結構強かった。
    やっぱり、なんだかんだと世の中は広い。油断大敵 屁の用心。
    幼い頃に、パウロにボコられたのがいい教訓になっている。サンキューパウロ。

    「ふぅ~。さてっと……」

    強敵は倒した。それではまた仕事に戻ろうかと思ったその時――。



    「……ぁぁぁぁぁあああああああああははははははははははッ!!!




    甲高い哄笑を放ちつつ、それは遥か上空から降ってきた。
    凄まじい大質量のそれは、俺の目の前数メートル先に着弾した。
    全身が痺れる程の爆音と衝撃。耳をふさいでも無駄な程だった。
    夥しい量の土埃が舞い上がる。
    濛々とした砂煙のその中から、そいつは姿を現した。

    ずしん。
    なんの変哲もない一歩に、そんな擬音がついていた。

    そいつの容貌――。
    まず、デカい。説明不要。
    身の丈は二メートル半ほど。いやそれ以上。
    全身、筋骨隆々。
    後頭部で雑に纏めた、砂色の長い蓬髪に赤銅色の肌。
    額から生える、頑丈そうな一対の角。




    「……みぃ~つけたぁ」




    心底嬉しそうに嗤う口元からは、二本の長い牙が。
    爛々と光る双眸は俺をひたと見据えている。

    あぁ、こいつは――。        フォルム
    いつかどこかで見たことのある圧倒的な形態。
    暴力的で威圧的。怪異にして魁夷な存在感。
    我知らず、俺の口はそいつを形容する言葉を漏らす。



    「き、鬼神――」



    そいつはそれを聞いて、凄絶な笑みを浮かべる。


    「あぁ、そうさ」


    そう呟き、親指で自身を指さす。





    「あてぇが『鬼神』トモエ様だ……ッ!!」












                -後編「急」につづきますー





    それでは、また。(店`ω´)ノシ













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    えー、作品内で「ん?これ原作であったっけ?」的な内容は、二次小説用に創作したネタですので、そこらへんはよろしくご了承&噛み砕いてくだされば幸いです。
    よろしくお願いいたします。






    ※麿の二次創作とは、あまねくゲ〇のようなものである!!←