無職転生・二次小説 閑話「ルーデウスの一番長い日」 その3
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

無職転生・二次小説 閑話「ルーデウスの一番長い日」 その3

2016-11-06 00:09





    「……ルーデウスは、本当に泣き虫ね」





    そう言って、エリスは涙で濡れた俺の顔を拭いてくれた。
    いつもだったら照れ隠しでゴシゴシと乱雑に拭くのに、やけに優しい手付きだった。
    怒られるかな、殴られるかなって身構えてたけど、なんだか拍子抜けしてしまう。
    ゆっくりと、撫でるように拭いたあと、エリスはじっと俺の顔を見つめている――かと思えば、何がおかしいのか、緩く微笑んだ。

    「――フフ。なんだか、あの時の事を思い出すわね」

    あの時……、ってなんだろう。

    「ルーデウスが、パウロさんとノルンと喧嘩して、しょげてたじゃない?」

    ……あぁ、あの時の事か。

    今から三十年程前に起きた、謎のフィットア領大転移現象――。
    俺とエリスは突然、見も知らぬ遠い魔大陸に飛ばされた。
    当時の俺たちは幼く、右も左もわからない魔境ではあったが、偶然(必然?)知り合った屈強の魔族・ルイジェルドの助けもあって、長い長い旅路の末、船便に乗って神聖国ミリスにたどり着く事が出来た。
    その首都ミリシオンで再会した俺とその父親であるパウロだったのだが、ちょっとしたボタンのかけ違いで諍いになり、取っ組み合いの大喧嘩になったんだっけ。

    「あの時も、父さんとノルンが、俺のことを理解してくれなくてな……」

    上体を起こしながら、俺は昔を思い出して呟いた。
    父さんだけならともかく、小さいノルンからも暴言を吐かれて、滅茶苦茶ヘコんだんだよな。
    そんで、宿屋に戻って人ションボリしてたら、エリスが俺を慰めてくれたんだっけ。

    俺はエリスの方を見る。
    窓から入り込む鈍光に照らされた彼女は、俺を真っ直ぐに見ていた。
    その眼差しは、あの頃とちっとも変わりがなかった。
    勿論、今のエリスは四十代半ば。容姿は年齢相応に老いてきてはいる。
    それでも彼女の心根は、あの頃のままなのだろう。

    「……エリスは怒らないのか、俺のことを」

    ふと、聞いてみた。おっかなびっくり、って程じゃないが。
    今の彼女が何を考えているのか、俺にはよくわからない。

    「怒る?なんでよ」

    不思議そうな顔をする。

    「え、だって……」

    あそこに居たみんな、俺を非難がましい目で見ていた。
    シルフィも、アイシャも、ゼニスはともかく、リーリャまでも。
    俺がつい本音を喚いたばかりに……。
    それはまるっきり、アルス達が家出をした時の焼き直しみたいなもんだったから。
    クリスティーナは泣いて、それで俺は居た堪れなくて逃げ出した。
    だから――エリスだって、俺のことを怒ってるんじゃないか、……って。

    俺の胸中に蟠るそれらの想いは、だが言葉にはならず、ただ虚しく口を閉ざすだけだった。
    きっと今の俺は、捨て犬のような眼をしているだろう。

    そんな、イジイジとした俺を見て、エリスはどう思ったのか。
    彼女はツイっと窓辺に視線を向け、そのまま黙りこくってしまう。



    「………………」



    ……静かだ。あまりにも静かすぎる。無音が殊のほか重い。



    それはほんの数秒だったのかもしれない。だけど、今の俺にとっては拷問に等しい沈黙。
    きっと、エリスも呆れているんだ。ガッカリされているのかもしれない。
    そう思うと、ますます俺は縮こまってしまう。

    ――しかし、エリスの口から漏れた言葉は、俺の予想を裏切る内容だった。



    「……ルーデウスは、お前が守ってやれ」



    しばしの、そして永遠とも思えた長く永い静寂の後、エリスはポツリと、そう呟いた。

    「え……」

    彼女の声は微かで、でもとても柔らかくて。疑心暗鬼になる俺の心に染み込んできた。
    もっとその声が聴きたくて、俺は彼女の隣に座ることにした。

    「……昔ね、言われたわ――ギレーヌに」

    エリスは窓の外を見ていた。外では綿雪があわあわと降っている。
    雲が薄いのか、それなりに明るい。季節的にはもう、春だしな。
    なんとなく、そのまま俺も雪が降るのを見ていた。

    「――まだロアの街に住んでいた頃にね」

    暫くの間を置いてから、エリスはそう言葉を紡いだ。

    「二人稽古をした後、川で水浴びをした時に、ギレーヌはわたしに向かってそう言ったの」

    「水浴び」

    おい、なんだそのイベントは。フラグを逃したのか!?糞ッ、許せんぞ!
    ……フィットアの頃って事は、エリスが12歳かそこらの頃か。

    「正直、何を言ってるんだろうって、そう思ったわ。その時はね」
    「ルーデウスは凄い。なんでもできちゃう。人攫いからだって、颯爽と助けてくれた」
    「攫われた時は痛くて怖くて、逃げている間、本当に不安で仕方なかった」
    「でも、ルーデウスがいれば、わたしは安心なんだ、大丈夫なんだって思えたわ」

    ……なんだかこそばゆい。気恥ずかしい。手で顔を覆いたいくらいだ。
    エリスはいつだって、俺を凄い凄いと持ち上げてくれているが、こうハッキリと言われると、やっぱり照れてしまうもんだ。

    などと俺が悶えている間にも、エリスの独白は続く――。

    「……ルーデウスは凄い。強くて頭が良くて、なんでも出来る」
    「そんな凄いルーデウスを、ギレーヌは守れと言った」
    「その言葉の意味を、あの時のわたしには理解出来なかった」
    「でも、魔大陸に転移して――」
    「ルーデウスとルイジェルドと、三人であの地を旅をして、思い知った」
    「ルーデウスは、ずっと背伸びをしていたんだって。ずっと、我慢をしていたんだって」
    「世界で一番の魔術師だったとしても、本当はわたしよりも年下の男の子だったんだって」
    「ずっと、一人ぼっちで、頑張っていたんだなって、そう思い知ったの」

    ……うーん、そこらへんを言われると、さらにこそばゆい。倍率ドンだ。

    本当の俺は、34歳中年ニートが転生した「さいしょからつよくてニューゲーム」状態な訳で。
    確かに魔大陸に転移した当初は、体調不良もあって不安もプレッシャーもあったけど……。
    あれ?俺が転生者だって事は、前にエリスにも話してあったような……。

    俺が変な顔をしているのに気がついたのか、エリスがクスッと笑う。

    「そうやって、何でもないって顔をして、いつだってわたしを守ってくれていた――」

    そう言うと、エリスは俺の肩に頭をコテンと乗っけてきた。柔らかい重みが心地よい。


    「――だからね、わたしは決めたの。
     

           何が起きてもルーデウスを信じよう。例え世界を敵に回したとしても――」


    「エリス……」

    窓の外の雪を見ながら、俺たちは無言でそのまま寄り添っていた。

    「……好きよ。ルーデウス」

    じんわりと、染み入るような声。やだもう、いい年してキュンとしちゃうじゃない。

    「俺もだよエリス。ずっと、それは変わらない」

    「……フフ」

    なんというか、よくわからないようでいて、よくわかるような話だった。
    ひとつわかった事は、エリスは怒ってないって事だ。
    とはいえ、今回の騒動の原因はやっぱり俺にあるし。
    そこは反省しないとならないとは思う……。

    でも、俺は図々しくもホッとしてしまった。
    とりあえず、エリスだけでも俺の傍にいて、俺と話をしてくれるのは嬉しい。

    「……はい、わたしの話はお仕舞い。今度はルーデウスの番よ」

    照れ隠しなのか、エリスは俺にそう水を向けて来る。

    「クリスの話、……ルーデウスは実際、どうなの?」

    「ん~……」

    彼女の格好いい覚悟を聞いた後で、俺の情けない話を吐露するってのは……。
    もそもそと座り直す。そもそも、なんでこんな事になってるんだっけか。
    胡乱な頭で、先刻までのやりとりを思い出す。
    あぁ、そうそう。クリスティーナの爆弾発言な(ワザとらしい)。

    頭では理解していたんだ。あの子が恋人を作って、物語のような結婚をしたいってのは。

    親元から離れて、知った顔一人いない環境で、頼りになる人間を見つけて。
    そいつと仲良くなって、恋仲になって、将来を誓い合う。うん、いい話じゃないか。
    父親として、認めるしかないよなぁと。そん時はそう思ったさ。

    ――でもさ、理屈じゃないんだよな。こればっかりは。

    「……子どもがさ、なんの相談も無く"結婚します"じゃ、そりゃ俺も納得出来ないよ」

    色々考えあぐねた挙句、俺の口からはそういう言葉が出た。
    うん、やっぱり、納得いかない。クリスがいきなり結婚だなんて。
    結婚したら、俺の傍から離れて行ってしまうって事だろ?冗談じゃない。
    それに、結婚する相手なんて顔も見たことも無いし、名前だって知らない。何も知らない。

    俺は父親なんだ。腐っても、あの子の親父なんだ。どこの馬の骨か知らないヤツに、大事に育てた可愛い娘をやれるかってんだ。
    なんだか、段々ムカッ腹が立ってきた。

    「みんなもみんなだよ。父親である俺の気持ちも、少しは考えて欲しいよ」

    つい、そう口走ってしまった。しかし口から出てしまったものはもう戻らない。
    そこからは、みんなから責められた鬱憤も交えて、愚痴を垂れ流してしまった。
    エリスはそれをじっと聞いてくれていた。不思議なほど、落ち着いた顔で。

    ――俺は、そこで気が付くべきだった。
    相手は論より拳骨を地で行く狂剣王エリス。
    いつもの彼女からは考えられないほどに静かで、穏やかだった事に。

    彼女らしさが発揮されたのは、ひとしきり文句を言ったあとだった。

    「あの子もあの子だ。なんで手紙やらで知らせてこない。あんないきなりじゃ俺だって――」

    「――いきなりじゃなければ許せたの?」

    ズバリと切り込まれた。
    口調そのものは穏やかだったが、彼女の眼は真剣を構えた時のものだった。
    俺はその眼力に気圧されてしまう。ささくれ立った気持ちも萎えていく。

    「あの子が逐一報告していれば、ルーデウスはあの子を素直に祝福出来たの?」

    「う……」

    ――わからない。

    確かに、いきなりだったから狼狽えたというのはある。
    かといって、前もって手紙やら人伝てで「彼氏が出来ました。結婚しようと思います」と知らされていても、俺は今回と同様の反応をしたかもしれない。

    今回と同じ反応……「家族がいなくなるのはイヤだ」という感情。

    ――なんで、こんなにイヤなんだろう。頭では解っている癖に。
    ――なんで、こんなにイヤな気持ちになるんだろう。喜ばしい筈なのに。

    胸の中がモヤモヤとして、気持ちが悪い。あの、胸を掻き毟っても収まらないヤツ。
    なんだろう、これ。自分でも、このモヤモヤがなんなのか判然としない。

    「んん……」

    結論が出ない。唸ったって、出る訳が無い。
    いい加減、頭が曖昧になってきた、その時――。

    (むにゅっ)

    「……ふぇ?」

    不意に、エリスが俺の頬をツネったのだ。
    痛くはない。ふにっと、羽毛をつまむくらいの力加減。
    彼女を見る。先ほどまでと同じ、真剣な顔をしていた。

    「……そうじゃないでしょ?」

    真剣そのものの表情で、エリスはそう言った。





                      *






    ――ルーデウスが悩んでいる。




    それは久しぶり、と言っていいのか。
    それとも、また悩んでいると言ったほうが的確なのかもしれない。

    彼はいつも悩んでいる。
    勿論、普段はそれをおくびにも出さずに生活してはいるけれど。
    それでも、ルーデウスはいつだって、私達の知らない何かを抱えて生きていた。

    出会った頃、ボレアス邸で一緒に生活していた頃――。
    魔大陸に転移して、そこからフィットア領まで戻る旅路の間――。
    五年ぶりに再会し、結婚して一緒に生活するようになってから――。

    ――そして今現在。
    彼は、たった一人で何かを背負っている。とても重い、想いを――。

    その重荷のいくらかは、数年前に明かしてくれた。
    ――それは、ルーデウスが転生した存在だということ。
    こことは違う世界で死に、ここでルーデウス・グレイラットとして生を受けたということを。
    転生という概念自体は、なんとか理解は出来た。知ってる人にも、そういう人がいる訳で。

    そういえば随分前にも、彼とオルステッドがそんな事を話していたっけ。
    頭の悪い私には、その時の話もよくわからないものだったけれど。

    ルーデウスは、なんだかバツが悪そうだった。嘘が露見した幼子のように。
    そんなに思いつめなくてもいいのに。その時はそう思った。
    だから、帰りの道すがら、私はルーデウスに問うたのだ。
    「……ルーデウスは、ルーデウスよね?」……と。
    彼は何も変わらないと言った。私にはそれだけで十分だった。
    それに、彼と私だけの秘密を共有する事は、シルフィとロキシーに対してちょっぴり罪悪感はあったけれど、密かな優越感もあった。

    この間、それを打ち明けられた時のシルフィやロキシーがどう思ったのかは知らない。
    それでも、彼女たちだって、私とそうは違って無いと思う。
    だって、ルーデウスはルーデウスなんだから。

    シルフィたちとは、今までに色々なことを話した。勿論、ルーデウスの事をだ。
    私しか知らないルーデウス。彼女たちしか知らないルーデウス。
    "女子会"と銘打って、今までに何度か、ルーデウスが出張している夜に、みんなでお酒を飲んで盛り上がった。
    結婚はシルフィたちに先を越されて悔しい思いもあったけど、私は私で、二人よりも先にルーデウスを貰ったから、それでおあいこよね。フフン。

    ……っと、話が脱線したわね。

    シルフィたちとの話といえば、彼女たちはこんなことを言っていた。
    「ルディは、ある時から雰囲気が変わった」――と。
    ある時というのは、龍神オルステッドとの戦いの少し前くらいから……らしい。

    ――エッチなのは変わらないし、家族大事なのも一緒。
    ――でも、何かを隠すようになった。
    ――傍で見ていて、痛々しいほどに、何かを一人で背負うようになった。

    シルフィは思い出し思い出し、そんな事をポツポツと語った。
    それはヒトガミって奴のことじゃないの?と私は言った。
    横で聞いていたロキシーはその言葉を半分肯定し、でも半分は否定した。

    ――それはそうだと思います。
    ――ヒトガミは、ルディの命だけでなく、わたしたち家族も狙っているとのことですから。
    ――家族を守るため、ルディが過敏になるのは当然でしょう。

    じゃぁ、残りの半分はなんなのか。

    ――それは、わかりません。
    ――ルディが言いたくないのであれば、無理に聞こうとは思いませんし。
    ――ただ、彼に助けが必要なのであれば、わたしたちは力になろうと決めています。

    ロキシーの言葉に、シルフィも強く頷いた。
    結局、ルーデウスが何を隠し、何を背負っているのかは未だに解らない。
    ただ時折、隠している事が遠因となって、大きな事件になる事があった。
    それがアルスたちの家出事件だったし、今回もそうなのかもしれない。
    あのうろたえぶりは、思慮深いルーデウスらしくない姿だった。
    まるで子どものように、イヤだイヤだと喚き、切羽詰って逃げ出した。
    それから部屋に閉じこもったまま、出てこようとしない。
    私はべそ泣きをしていたクリスをロキシーに任せて、シルフィたちの後を追った。

    部屋の前では、シルフィとアイシャが騒いでいた。
    開かないドアを叩いたり、ノブを回したり。ルーデウスを説得しようと躍起になっていた。
    彼女たちも、突然の事でパニックになっていたんだろう。
    逆に私はそれを見て、落ち着くことが出来た。普段とはまるで逆だ。

    「ごめん、ここは私に任せて」

    前回もだけど、今回も私の子どもが発端なのだ。だから、ケジメは私が着けないと。
    そう言うと、シルフィもアイシャもしぶしぶ納得してくれた。
    ドアノブはガッチリ固まっていた。仕方がないので無理やり回すと、ノブはもげてしまった。
    ……まぁ、直せばいいわよね。ドアは開いたんだし。

    部屋に入ると、ルーデウスはベッドに潜り込んでいた。……まったく。
    布団を捲り上げれば、やっぱり泣いていた。

    ――そこからは冒頭部分のシーン。やっと追いついた。

    ルーデウスは、私に怒られると思っていたようだ。
    フフッ、馬鹿ね。こんな時にいくらなんでも怒りやしないわよ。
    むしろ、ルーデウスの泣き顔を見てたら胸がこう……。
    んん……ゴホン。

    とりあえず顔を拭いてあげてたら、懐かしい事を思い出した。
    あれこれと思い出した端から、言葉にしてみた。
    すると、不思議なくらいに心も頭も穏やかになってくる。

    一通り自分の思い出を語り終えた私は、次にルーデウスに水を向けてみた。
    彼が今、どう思っているのか、素直な気持ちを聞きたいから。
    ルーデウスは言いづらそうにしていた。
    それでも、ボソボソと話し始める。

    ――愚痴ばっかりだった。

    ……なんていうか、こういうのの聞き役は、ロキシーが適役だと思う。
    私はイライラしてきて、最終的に怒鳴りたくなってくるから。
    でも、よほど腹に溜めていたんだろう。あれこれと吐き出すルーデウスを見ていると、それも可哀想だと思えてきた。

    考えてみれば、あの自己中心の権化だったガル・ファリオンだって、最後の最後に、愚痴を吐いていた。これから戦おう、殺し合おうとする相手に向かって。

    流派の為、弟子の為、妻子の為、「剣神」という、自分自身の肩書きの為――。

    あんなに強かった男でさえ、己の人生を、己の思うように出来ず、己以外の為に、己を曲げて我慢をしていたのだ。誰も、己の肩代わりなどしてはくれないのだから。
    ルーデウスならば尚更だろう。だから、私は聞くべきだと思った。

    半分ぐらいは耳から抜けていったと思う。正直、聞いてて楽しいものじゃなかったし。
    愚痴はやっぱり愚痴なのだ。自分を取り巻く環境や、理解してくれない人たちへの不満。
    思うようにならない家族間の溝。努力の空回り。etc...

    ルーデウスほどに重荷を背負っていれば、当然、それ相応の鬱憤も溜まるだろう。
    普段は自分が折れる事によって、場を収めてきた彼なら尚の事だ。

    いつ果てるともない不満の羅列。
    しかしふと、私は彼の言葉の端々に、なんとない違和感を覚えていた。
    本音を吐いているようでいて、本質からどんどん離れていっているような。
    ――何かを誤魔化したくて、言葉を弄しているかのような、そんな違和感。
    一度そう思ってしまうと、私には彼の愚痴が、なにか悲鳴のようにも聞こえてしまうのだ。

    彼は、何から目を逸らしているのだろう。何に気がつきたくないのだろう。
    一体何を――わたしたちに知られるのを、恐れているのだろう。
    ルーデウスが言葉を紡げば紡ぐほど、真実から遠ざかってく。
    語れば語るほど、彼は自分の言葉で自分を傷つけている。

    そうじゃない。そんな言葉を、聞きたいんじゃない。
    泣きたいなら、泣けばいい。
    苦しいなら助けを求めればいい。
    でも、誤魔化すことだけは、して欲しくなかった。
    私は、私たちは――家族なのだから。

    とうとう、ルーデウスはクリスの結婚について言及しだした。
    でも、それだって、やっぱり何かが違う。
    いきなりだったから?疎外感があるから?確かに、それは本当なんだろう。
    ルーシーの結婚の時も、彼は相談されなかった事に対して落ち込んでいた。

    ……じゃぁ、それなら前もって相談されていたら、あの子の結婚を快諾したのだろうか。
    わたしがそう言うと、悲しげな顔をして黙ってしまう。
    あぁ、彼を傷つけてしまったのだろうか。私の心は一瞬怯んでしまう。

    ――ダメだ。怯んでは、目を逸らしてはいけない。

    アルスとアイシャの事件が解決した時に、ルーデウスは自分の前世の事を話してくれた。
    隠していた後暗い過去を、目を逸らし続けていた己の影を、明るみに出した。
    それは、繊細な彼にとって心を抉るように辛い事だったろう。
    話さなくても良かった筈だ。隠していても問題無かった筈なのだ。
    それでも、ルーデウスは話してくれた。裏も表も無い、本当の"家族"でありたいからと――。

    だから、今回の事もきっと、乗り越えなくてはならない壁なのだと思う。
    逃げていては、目を逸らして誤魔化していては、ダメなのだ。
    甘えるだけでは、それを受け入れるだけでは、私たちは、本当の家族とは言えない。
    壁があるなら、それに真正面からぶつかって、乗り越えるべきなのだ。
    ルーデウスはきっと、それが出来る人なのだから。

    勿論、彼一人だけに重荷を背負わせたりはしない。
    私がいる。シルフィもロキシーもいる。今度は、家族みんなで乗り越えるのだ。

    私は目の前で思い悩んでいるルーデウスを見る。
    彼は、ルーデウスは、転生して、文字通り生まれ変わったように生きてきたという。
    努力を放棄した前世を後悔し、今生では必死に生きようと決めたのだと。
    その努力は実り、彼は今では世界に無くてはならない人物になっている。

    わたしはそんな彼を、誇りに思う。
    幼くして世界最高の魔術師になったのだったら、もう少し怠けてもいい筈だ。
    でも、ルーデウスは努力を怠らない。勤勉に、真面目に生きている。

    勿論、エッチだし、だらしがないところだってある。
    でも私は、誰だってダメなところがあってもいいと思う。完璧な人間など居ないのだから。
    今更、彼のダメなところを見て、幻滅などしたりはしない。
    ……ルーデウスは、それを恐れているのだろうか。

    彼がそれを恐れているのなら、私は彼に寄り添っていよう。
    彼が挫けそうなら、私が彼に手を差し伸べてあげよう。

    ただ――彼が自分から逃げようとするなら。
    その時は、私が嫌われてでも、止めないとならない。体を張ってでも。
    それが私の役割なのだと思うから――。





    ――そして。







    ――気が付けば。









    ――わたしの右手は、彼の頬をツネっていた。











                ーその4につづきますー




    それでは、また。(店`ω´)ノシ


    ※大変お待たせしました。
    構想より随分と長くなってしまったので、構成を変えました。
    お待たせした割に、あまり進んでない気がします……。


    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。