無職転生・二次小説 閑話「ルーデウスの一番長い日」 その12
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無職転生・二次小説 閑話「ルーデウスの一番長い日」 その12

2017-04-03 19:54

    娘のクリスティーナが、俺に向けて木刀を構えている。
    その顔に決死の表情を浮かべながら。まるで、魔王に単身立ち向かう姫騎士のように。
    凛々しいとさえ言える姿に、俺は不覚にも一瞬うっとりしてしまった。
    エリスの娘は流石だよ!めっちゃ格好いい!




    ……………………。



    ………………。



    …………。



    ……。





    ……あるぇー?どうしてこうなった?
    なんか、生まれたての小鹿みたいに震えながら覚悟がどうとか言ってるし。

    ウェイウェイ。
    ちょっと落ち着いて深呼吸でもして、それから振り返ってみよう。ひっひっふー。


    …………。


    えーと、俺はルーデウス。グレイラットさんちのお父さんだ。おk。
    んで、目の前の女の子は末娘のクリスティーナ。ぉぅぃぇぁ。
    その後ろで跪いてるのは、娘の彼氏()で、アスラの王子くん。俺の教え子でもある。

    うん。ここまではいい。主要な登場人物はこんなもんだ。
    それから、状況を考察してみよう。

    いま、俺がいる場所は庭。凄く庭。これ以上無いくらい庭。アイシャが手入れしてくれてる。
    なんでこんなとこにいるか?勝負してるから。誰と?王子くんと。
    なんで勝負してるって?……エリスの陰謀に決まってるだーッ!!

    ……そうだよ。
    この王子くんとクリスが俺に隠れてコソコソ付き合ってるってのが発覚して。
    んで、エリスや家族全員と半日すったもんだした挙句、和解したりして。
    団欒でのんびりしてるところに、ルークと王子くんが来訪してきて。
    あれこれ話をして、まぁ許してやるかなと思ったけど、やっぱ腹に据えかねるもんがあったんで、一発ブン殴ってやろうと思ったらエリスが勝負しろとか言い出したんだった。

    ……うーむ。なんか、ほんと今日の俺は流されっぱなしだな。

    チラリと見れば、クリスはまだ剣を構えている。
    あ、あれは俺がどっかやった木剣じゃん。それを拾って再利用ってか。エコだよそれは!
    俺は痛む頭を押さえたい衝動に駆られた。なんだって、娘が父親に剣を向けるか。

    ――つーか、覚悟ってなんの話だ?

    「あー、クリス?覚悟って……」

    なんぞ?と続ける前に、クリスは口を開いた。

    「ごめんなさい、パパ。いまの私に覚悟があるかはわかんない。

     ――でも、私はこの人が好き。先輩が大好き。
     だから、傷ついたこの人に代わって、パパに勝負を挑みます!」

    そう言い切って、クリスは再び剣を構えた。その姿には一分の隙も無い。
    うわぁ、凄く格好いい。自分の娘じゃなかったら、惚れてまぅで。まぅー。
    っていうか、勝負を挑まれちゃったよ。なんでだよ。パパだよ、俺は。

    ……まぁ。
    いまの状況で、なんとなく理解したことがひとつある。
    この二人にとって、ラスボスなんだな、俺は。つまるところ。

    麗しの姫を奪い去り、取り戻しに来た勇者を迎え撃つ、魔王ルード・ロヌマー。
    これは由緒正しいセオリーであり、そういったプロセスであり、そんなカテゴリー。
    でもさぁ。娘に剣を向けられるとか、調子こいて王子くんをボコってたらこのザマだよ。

    「先輩。先輩はここで傷を癒していてください。私は――」

    クリスが王子くんにそう囁き、俺に向き直ってキッと眦を決した。

    「――先輩の盾になりますッ!パパ、お覚悟!!」

    そう言ってジリッと歩を踏み出した。つられて後ずさる俺。
    アホ!お覚悟なんてできるか!なんでやねん!俺は親の敵じゃ無いってばよ!
    そんな俺の心の声が伝わる筈も無く、うちの末娘はジリジリと間合いを詰めてくる。

    (……ど、どうしよう。どうしよっか、コレ)

    一応、俺もさっき作った石剣を構えはしたものの、踏ん切りがつかない。
    や、だってさー、なんだってテメェの娘と戦わにゃならんのよ。それでなくとも、今日はエリスと引っ叩きあっちゃってヘコんだってーのに。
    あー、なんかテンション下がってきたら、手足がすっげーズキズキしてきた。
    もうおうち帰って、シルフィに痛いの痛いのとんでけーしてもらいたいわー。そういや昔はルーシーがしてくれたんだよなー。可愛かったなー。あの頃に戻りたいなー。

    「やあああああッ!」

    って、現実逃避してたらクリスが斬りかかってきた。速いぞ、結構。
    俺は予見眼を開き、クリスの太刀筋を未来視する。……ふむ、真っ向上段か。
    防御の為、痛む腕で石剣を持ち上げる。頭上をガードだ。
    いくら学校で鍛え直したっつっても、わずかな年数だ。いまの俺でも凌げるだろう。

    ――そんなふうに考えていた時が、俺にもありました。

    突然、見えていた筈のクリスの太刀筋がブレた。
    ――同時に、俺の網膜にキラリと一筋の流星が映った気がした。

    「いッ――」

    カァァァ――ンッ!!



    夜の空気に澄んだ音が鳴り響いた。
    クリスの木剣と俺の石剣が、空中で激しくぶつかりあったからだ。めっちゃ腕が痺れた。
    いや、待って待って、いまの太刀筋ってもしかして……。

    「ひ、光の太刀……!?」

    エリスが放つ剣を何度も受けてきたからこそ判別出来る。いまのは完全にアレだった。
    もちろん、エリスのソレとは威力も精度も違うけど……。

    「――へ?ひかりの、……タッチ?」

    当のクリスはキョトンとしている。……もしかして、知らずに放ったってのか?
    ちょっとまって、この子、無意識に剣神流の奥義を使ってるの?なにそれこわい。

    そういえば、昔、子ども達だけの迷宮探索で、逆上したクリスが光の太刀を使ってたかも。
    あの頃は姉や兄に混じって剣術の真似事を楽しんでたから、思わず放てた偶然かと思ってたけど、もしかしてこの子、ものすごい天才だったんじゃないの……?

    クリスは一瞬、よくわからないといった顔をしたが、首を振って剣を構え直した。
    やっべえな、これ。満身創痍のいまの俺じゃ、凌ぎきれる自信がないぞ……?
    じりじりと後ずさる。ん、待てよ?このままじゃ、さっきと同じで――

    「たあああああッ!」

    デスヨネ――!
    慌てて後退しようとして、俺は小石かなにかに蹴躓いて態勢を崩してしまった。
    トトトトッ……っと、コケないように手足をバタつかせる。

    「うおッ……」

    そこへクリスが突っ込んで――来なかった。
    驚いた顔をして、つんのめるように急ブレーキをかけたからだ。
    なんだ……?と思った瞬間、後頭部がなにか柔らかくも弾力に富んだ物に包まれた。
    同時に力強くきゅっと抱きとめられる。

    「んぉ――!?」

    これにはちょっとびっくりした。予想すらしなかったから。
    視界の端に映るのは、ウェーブのかかった真っ赤な髪。
    後頭部には安心を覚える柔らかい感触。それからほんのちょっぴり汗の香り。
    ……うん。これは既視感のあるやつだ。なにせ、俺は三日に一回、この匂いを嗅ぎつつ、この弾力を枕にして寝ているんだからな。

    「エ……エリス(の、おっぱい)か?」

    「そうよ……なによ、変な顔して」

    首を無理やり捻るようにして(身体をガッチリホールドされてるので、そうするしかない)振り返ると、何故か楽しそうな顔をしたエリスがいた。

    「いや……手を出さないんじゃなかったかなって」

    「一対一だったんならね」

    フフン――。エリスは鼻を鳴らしてそう言った。

    「ちょ……、ママどいて!!パパを倒せない!!」

    うちの娘がなんか怖いこと言ってけつかる。倒すってなによ、倒すって。
    エリスはどう思っているのかと顔色を伺うと、なにやらニマニマと薄ら笑いを浮かべていた。

    「へぇー。このわたしがいるってのに、ルーデウスに手を出そうって言うんだ?」

    「――!?」

    「アンタ、さっきあの坊やの盾になるって言ってたわよね――フフン、面白いじゃない」

    そう言うなりエリスは片手を前につき出して宣言した。



    ルーデウスを倒したいんなら、

          このわたしを倒してからになさい!!」





    実に滅茶苦茶である。
    クリスも半泣き顔になっていた。当然である。(cv:キートン山田)

    「な、なんでママがしゃしゃり出てくるのよ!?」

    「わたしはルーデウスの牙であり盾だからよ!!」

    「なにそれ説明になってない!!」

    「ん……、じゃぁ、一心同体?」

    「意味わかんなーい!!」

    「うっさい!!かかってこないなら、こっちから行くわよ!!」

    「こ、来ないで!!ママは痛くするからヤなんだもん!!」



    「問答無用ッ!!」



    「ヤダ――ッ!!」



    ……この母親にして、この娘だな。

    クリスは今までの凛々しさをかなぐり捨てたように叫んで逃げた。それはもう脱兎の如く。
    一方、エリスは抱きしめていた俺をかなぐり捨てて、三枚の御札の山姥の如くクリスを追いかけていった。

    あとに残されたのは、俺と王子くん。ぽつーん。
    頭をポリポリ。呆気にとられつつ、手持ち無沙汰気味に。
    王子くんの方も、ほんの少しの間クリスを目で追いかけていたが、ハッとなってこちらを振り向いた。
    バツが悪そうな顔をして、俺たちは見つめ合う。何故か素直におしゃべり出来なくなる。

    「いや……、なんかホント、申し訳ありません」

    ……王子くんは素直だった。育ちが良いって、こういう子を言うんだろうか。
    いや、アスラ貴族はド変態が多いし、アリエルだって……まぁいいか。

    「なんでお前が謝るんだよ」

    「いや、その、……なんとなく?」

    思わず口に出た、という顔をしている。
    多分、クリスのドタバタを我がことのように恥ずかしく思っているからこそ出た言葉なんだろう。
    一心同体……か、まったく。
    幼さを残す彼の顔を見ていたら、なんとはなしに頬が緩んでしまう。

    「……プッ」

    「ハハッ……」

    照れ笑いが可愛い。考えてみれば、まだまだ高校卒業したてくらいの若さなんだよな。
    はぁー、なんだろうな、こいつ。王子らしいオーラがあるかと思えば、年相応の素顔を見せてくたりもする。変にしゃっちょこばった野郎よりも、よっぽど好感が持てると言えた。

    「ふ~、……さて、やるかね」

    二人でひとしきり笑いあったあと、俺はそう切り出した。
    しかし王子の答えは簡潔だった。

    「すいません、無理です」

    「んぁ?なんでだ」

    「いえ、実を言いますと、先ほどの声の魔術で足が動きません」

    確かに、見ればカクカクと小刻みに震えている。
    口がきけるだけ、俺が食らった時よりマシだろう。ザノバだってぶっ倒れてなにもできなかったらしいからな。

    「ん~、んじゃぁ……」

    どうするんだよ――。俺がそう言おうとした矢先、王子は言った。





    「諦めさせて下さい」と――。







                  ーその13につづきますー






    それでは、また。(店`ω´)ノシ





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