無職転生・二次小説 閑話「ルーデウスの一番長い日」 その13
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

無職転生・二次小説 閑話「ルーデウスの一番長い日」 その13

2017-04-29 05:01





    「諦めさせて欲しい……だって?」





    言葉の意味が理解できない俺は、片膝をつく王子に聞き返した。
    彼はどこか寂しそうな表情で、やや前方に虚ろな視線を向けていた。
    それからきゅっと両目を瞑り、やや深く息を吸い込み、そして言葉と共に吐く。

    「私は今、とても後悔しています――」

    なんとも言えない表情で、王子はそう呟いた。
    怒り?悲しみ?喜び?喜怒哀楽?
    そのどれかであり、それらすべてをひっくるめたような、そのどれでもないような――。

    後悔と彼は言ったが、言葉通りのネガティブな感情だけでは無さそうだ。俺は王子の心中を推し量りつつ聞き返した。

    「……後悔?」

    つーか、オウム返しってのもバカっぽいなぁと我ながら思うが、聖徳太子でも無い俺に、他人の心を忖度しろったって土台無理な話だ。しかし彼は真面目に返してくれた。えぇ子や、えぇ子やでぇ。

    「はい……もう少し剣を修練していればとか、魔術をもっと学んでいればとか。
     もっと、今よりも強ければ、師にも一矢報いることが出来たかもしれない……。
     それ以外にも、戦っている間に様々なことに気がつきました。

     ――それはとても楽しく、とても胸躍る発見でした。

     だからこそ、とても後悔しております――王子という肩書きを持ってしまったことを」

    彼が言うには、俺と戦っているうちに、自分の可能性に気がついてしまったのだそうな。
    この剣はもっと速くなる。もっと鋭く、さらに強くなる。そういう可能性だ。
    だけれども、自分は大国アスラの王子である。その肩書きが、剣だけを、魔術だけを追い求めてしまうことを許さない。自縄自縛してしまっている。それが悔しいのだと。

    「いつかアスラの王になる――王子である私は、そのための帝王学を修めて参りました。
     しかし、いつでも私の中には、それだけでいいのかという想いが燻っていました。
     もっと、違う生き方もあるのでは……と」

    若さと才覚に任せて、冒険者として己の腕一本で生きてみたい――そう思ってもいたらしい。
    しかしその一方で、自国民を導き、より幸せにしたいという理想も強く持っていた。
    特にその想いを新たにしたのは、例の学園での風紀粛清事件からだそうだ。

    初めは自分自身の利己的な考えからの行動。賛同者は皆無に等しかった。
    しかし問題を解決するために働きかけていくうちに、周囲に人が集まっていった。初めは自分を疎ましく思っていたならず者たちも心を開き、最後には最高の協力者となってくれた。

    自分が動いたことによって学園は変わった。笑顔が増えた。友も増えた。
    この統率者としての成功体験こそが、今の自分の根幹ともいえる。
    だからこそ、揺れ動いていた。剣を頼みに生きるか、王を目指して生きるか……。

    そいつは若さゆえ、才能に溢れるがゆえの悩みなんだろうな。
    剣を恃みにまだ見ぬ未知へと挑む――。
    コイツほどの剣の才能があれば、それも可能だったろう。ある程度経験を積めば、それなりのクランの頭目としても活躍できたかもしれない。ある意味、一番彼に適した道と言える。

    しかし、彼は他にも見つけてしまった。
    もっと多くを率いる道を、数多の臣民を幸せにする為に生きる道を――。
    言うのは簡単だが、行うのは難しい。なにせ、背負うものが桁違いだ。
    だけど、王子はそれにやりがいを感じてしまったんだな。

    「このままでは、私は宙ぶらりんのままで生きることになる。
     そんな人間に、大国を統べ、民衆を率いることなんて、到底無理でしょう……」

    ……ま、そうだよな。あっちこっちよそ見して、フラフラ浮気してるような奴が国家の運営を出来るのかっていったら、無理だろう。どれほど才能があって、選択肢がたくさんあっても、選べるのはどれかひとつなのだから。

    だからといって、可能性を諦められない。
    幼い頃は、誰だって、なんにでもなれる可能性を持っている。野球選手にも、アイドルにだってなれる。夢は誰でも等しく持つことができる。それが未来への可能性って奴だ。
    だが大人になるにつれて可能性は狭まり、夢をいくつも諦めざるを得なくなっていく。
    ひと握りの天才、あるいは幸運な奴だけが、夢を現実にできるんだ。

    こいつは――王子は天才の部類なんだろうが、残念ながら幸運の持ち主とは言い難い。
    なにせ、生まれながらにして大国の王子って重荷を背負っているんだからな。選択肢のひとつが、滅茶苦茶重い。重すぎる。
    一般ピーポーからすれば憧れの地位かもしれないが、実際そんな生まれや肩書きは重くて仕方がないと思う。俺なら逃げてるね。いや、引き篭るか?これぞロイヤルニート?

    ……俺のことはどうでもいいか。
    まぁ、そんな雁字搦めだったからこそ、広がる世界に対して夢を持っていたんだろうな。

    「フフ……なにを他人事のように。ルーデウス師にも責任があるんですよ?」

    「なにゃ――俺に責任?」

    やだ……責任取れだなんて……。
    ごほん。どうも彼が言うには、昔から俺の生い立ちやら武勇伝を好んで聞いてたんだと。
    んで、いつか自分も俺みたいに魔王やら屈強な剣士たちと戦い、美しい女性と恋に落ちる……みたいなのに憧れていたんだそうな。うん、やっぱこいつ、アスラ貴族だわ。

    「そう、私に広い世界を見せてくれたのは貴方だ」

    「――だからこそ、ルーデウス師の本気で、私を諦めさせて欲しいのです」

    「夢だけではたどり着けない高みというのを、実感させて欲しいのです」

    いま、生まれてしまった希望を、捨てきれないでいた夢を、無限の可能性を、オッサンの俺に叩き潰してくれってことか……。ふぅー、やれやれ。まったく酷な注文だぜ。

    俺はじっと王子の目を見る。彼も俺をひたと見つめていた。
    それは長い時間、あるいはほんの十秒程度だったのかもしれない。

    「……いいのか?」

    長い沈黙の末に、俺は彼にそう問うた。
    王子は目を閉じ、今度は大きく深呼吸をして溜め、しばらくの後に、それを吐いた。
    胸の中の酸素をすべて吐き尽くすまで、それは続いた。
    それは彼の持っていた夢――最後に残った子どもらしさの残滓だったのかもしれない。
    息を吐き終えたあと、顔を上げて俺に向き直った彼の顔は、先刻までの幼さが薄れていた。
    引き締まった面差しの中で、瞳だけがキラキラと濡れていた。

    「――お願いします」

    渋く笑ってそう言った。
    いまこの瞬間、王子は自分の生まれを受け入れたのだろう。
    世界一の大国の王を目指す――その重い宿命を。

    そうは言っても、自分以外に候補者が幾人もいる。敵対者もいるだろう。困難なのは自明の理だった。母である女王アリエルだって、何度も殺されかけた。楽な筈は無いのだ。
    しかし彼は選んだ。己の可能性すべてを、王になることのみに注ぎ込む決意をして。



    己の道を生きる覚悟――か。



    「……凄いよ、お前。尊敬する」

    本心から、そう思った。
    本気で生きる――それの難しさは、俺も痛いほど知っている。
    正直、こんだけの才能だ。もっと楽で楽しい人生を選んだっていい。でも、こいつは選ばなかった。それは何故か?俺の脳裏にちらりと疑問が掠めた時、王子が視線を逸らした。俺はちられてそちらに視線を向けた。

    「……ぉぅ」

    向こうでは、エリスとクリスティーナがキャットファイトならぬ親子ゲンカの真っ最中。
    まぁ、親子ゲンカっていうレベルじゃないんだけどな。
    例えると、真空草刈鎌vs破壊はやぶさの剣の戦いというか。
    スクリュードライバーとハリケーンミキサーの撃ち合いというか。
    金曜ロードショー、ランボーvsコマンドーというか(これは余計か)。
    とてもじゃないが近寄れない。エリスは超楽しそうだけど、クリスの方は超必死だ。そりゃ、当たれば必ず死ぬ訳だし。

    そんな二人を、いやクリスティーナを見る王子の顔は穏やかだった。

    ……あぁ、そういうことか。
    彼が自分の進む道に覚悟を持ったその理由に、俺はやっと得心する。
    なんのことはない。つまりは、俺と同じだったってことだ。

    前の世界で、前の人生での俺は、逃げてばかりのダメな野郎だった。
    人生をやり直せれば、今度こそ本気だすんだと言い訳しながら逃げていた。
    それがひょんなことからこの世界に転生して、念願の別の人生がリスタートしてしまう。
    とはいっても、どこかゲーム感覚で過ごしていた。本気で生きると言いつつも。

    それがシルフィと結ばれて、結婚して、ルーシーを授かってからだったかな。俺が俺として、ルーデウス・グレイラットとしての人生に本気を出し始めたのは。

    家庭を持って、他人の命を、人生を背負ってから、やっと生きるってことの重みを知った。
    そういや父親のパウロも、俺を授かってから身を固めたって言ってたしな。そういうもんなんだろう、人間って奴は。

    王子もきっとそうだろう。クリスティーナと結婚すると決めて、愛する者の人生までも背負うと決意して、自分の中の幼さから卒業しようとしているのかもしれない。
    なんというか、クソ真面目というか、絵に描いたような王子様ぶりだぜ。

    「……ったく」

    我知らず、口元に笑みが浮かんでしまう。
    王子はと見れば、俺の漏らした呟きに虚を衝かれた顔をしていた。

    「わーったよ。俺の全力でもって、お前の夢を諦めさせてやる。

     これでも、一応お前の教師だったからな。きちんと、筋道は立ててやるさ」

    俺がそう言うと、王子はみるみる相好を崩した。俺が立てるかと聞くと「ハイッ!」と大声で返事をして、踏ん張るようにして立ち上がる。まだ膝は笑ってるが、回復しつつあるのは見て取れる。その辺はさすがと言えた。

    「よっし……。とりあえず、これを持って構えろ。護身用だ」

    土魔術で作った即席の石剣を彼に手渡す。ついでに初級の治癒魔術をかけてやった。
    彼は驚いていたが、まぁハンデみたいなもんだ。フラフラのままじゃ、彼も諦めがつかないかもしれないからな。

    「反撃しても、こっちは構わないからな。あ、それとお前も闘気は全開にしておけよ」

    「は……ハイッ!頑張りますッ!!」

    うん……。一応、注意はしておかないとな。
    などと考えながら、俺はある程度の距離を取る。イテテ……歩くだけで足が結構痛い。連続して空中殺法を使ったからな。まったくヤムチャしやがるぜ。

    距離にして、7,8メートルってとこかな?今の俺じゃ、これくらいが精一杯だろう。
    首を左右に振って首の骨を鳴らす。あーやだやだ、歳は取りたくないねぇ。
    何度か軽くジャンプをし、小刻みのステップに切り替える。徐々に身体がほぐれていく。

    「そろそろいくぞー?闘気、全開」
    「ハイッ!……ハァァァッ!!」

    ドンッ!という感じで彼の全身から闘気が噴出する。中々のもんだ。
    さーて、いっちょやったりますかね。……と、その前に。

    「おー、ちょっといいか?」
    「は、ハイ。なんでしょうか?」

    本気でやる前に、少し言っておきたいことがある。ま、オッサンからのアドバイスだな。

    「覚悟とかさ、色々と気負ってるかもしれんけどさ。

     まぁ、アレだ。
     ……んなもんはさ、とりあえず、後回しでもいいんじゃないか?」

    「――は?」

    「いやな、俺もシルフィと結婚してからアレコレと必死になった分際だからさ。
     お前も、これから大変だろうけどもさ……」

    言いつつも、俺のステップは少しずつ獰猛になっていく。狼や虎が獲物を襲う前のイメージ。

    「これからのお前のそばには、クリスティーナがいる。
     アイツもまだまだだろうが、二人で一緒にやってけばいいよ。
     失敗もするだろうし、苦労もするだろう。ってか絶対する。しない訳がない。
     ――俺もそうだったからな。

     でもな、一人じゃないってのはいいもんだぜ?
     シルフィが支えてくれて、ロキシーが導いてくれて、エリスが守ってくれた。
     だから今も俺はここにいる。共に生きるってのはつまり、そういうことだ」

    ちょっと長いかな?と思ったけど、語るうちに王子の表情が明るく希望に満ちてきた。
    やっぱりガチガチに考えていたんだろう。これで少しはほぐれてくれればいいがな。

    「よーし、そろそろ行くぞー」
    「ど、どうぞ!」

    ステップを踏みながら、俺は魔力を収斂していく。
    使うのは龍神流の技、そして俺の編み出したオリジナル魔術――。
    ジワリジワリと、俺の周囲の空間が歪んでいく。
    そうして、魔力の昂ぶりが臨界に達しようとした時、俺は叫んだ。



    「――これが、俺からの卒業授与だ。歯ァ食いしばって、受け取れやッ!!」」













                 ーその14につづきますー




    それでは、また。(店`ω´)ノシ






    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。