無職転生 二次創作「偽典:無職転生 Fake/the outer mission」後編 「序」
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無職転生 二次創作「偽典:無職転生 Fake/the outer mission」後編 「序」

2019-02-02 18:24


                   ~前回までのあらすじ~


    魔法騎士ファクティスの召喚儀式により、甲龍暦500年の並行世界に出現したルーデウス。
    彼に与えられた使命はひとつ、滅亡の危機に瀕したアスラ王国を救うこと。
    敵は北方地帯を手中に収め、さらに中央大陸完全制覇を目論む鬼神帝国。

    戸惑うルーデウスに魔法騎士は言う。お前が戦わないならば、あの二人を最前線に立たせるだけだと。連れてこられた場所には、見覚えのある色彩の人影がふたつ。
    緑色の髪と、青い髪を持つ女性二人。この世界のシルフィとロキシーだった。
    二人を戦いに巻き込みたくない。ルーデウスはそれだけを願い、救世主の役割を引き受ける。
    共に召喚された赤髪の剣王エリスと共に。

    召喚されてより一か月、停戦状態だった戦線に変化が訪れた。
    帝国と王国のにらみ合いの続く戦域で、大量虐殺が起きたのだ。
    魔法騎士は軍議を開き、王国の総力戦を進言する。
    しかし政府高官たちは煮え切らない。挙句、魔法騎士を無能と罵る始末。
    魔法騎士は戦場の映像を観せ、現実を突きつける。怯える高官たち。


    そうして二週間後、ルーデウスは戦地に向けて出陣していった。



    ====================================================




    「――どう?」


    後ろからエリスがまだかまだかと声をかけてくる。
    返答しようにも、俺は現在、集中力のいる作業の真っ最中。
    それなのに、嗚呼それなのに、それなのに。
    背中に感じる、過去百年で一番たわわに実った豊作マスクメロン二玉が、俺のコンセントレーションを邪魔してくるのだ。
    魔訶般若波羅蜜多薩婆訶、色即是空、空即是色、破ァァッ!邪念よ去れ!
    あ、やっぱり去られるのも惜しいのでそのままでお願いしますぅ~☆

    「ん~、もうちょい待って……」

    そこはフィットア平野の小高い丘の上。
    俺とエリスは後方の軍勢から離れ、二人だけで敵軍の動静を探りに来ていた。
    現在、俺は草むらに腹ばいになり、エリスはその俺を守るようにして覆いかぶさっている。
    さすがに襲われないと思うけど、気持ちいいので断りはしない。しませんとも!

    アスラ王国を出立してより数日。野を超え山超え、未だ帝国軍の姿は見えない。
    大軍がいるとしたら、このだだっ広いフィットア平野だろう。
    そう目星をつけ、馬を借りてこの丘の上まで斥候に来たのだ。

    「うーむむむ……」

    草むらに寝そべりながら、俺は眉間に皺を寄せつつ目をしばたたかせる。
    左目に備わっている「千里眼」の調節に四苦八苦していたのだ。
    なにせこっちの魔眼はあんまり使わないからピント合わせに時間がかかってしまう。
    試行錯誤の末、じわーっと左目の映像がアジャストしてくる。

    「ん~……、おっけ、見えてきた」

    「やったわね!で、どうなの!?」

    「いや、ちょっとまってよ……」

    広大なフィットア平野は広大なだけに滅茶苦茶広い。


    いわゆる、デカァァァァァいッ説明不要!!


    千里眼を持っている俺だが、目当てのものを視野に入れようと思えば中々苦労をする。
    例えると、グー〇ルアースでピンポイントに他人の家の庭にあるチョロQを見つけるようなもんで。チョロQ知らない人の方が今は多いかもしれないがな!

    「教えてくれたっていいじゃない!どうなのよ!」

    いい加減焦れてきたエリスが怒鳴る。だから待ってってば。

    「やべーな、すんごい大勢兵士がいる」

    「へえ!どれくらい!?」

    「んー、ざっと見て適当に言うと、三万以上はいそうだ」

    「……ふぅん」

    あー、これ、三万って数字を全然理解してない「……ふぅん」だな。
    エリスにとって数字ってのは「いち」「に」の「たくさん」って感じっぽいし。
    ……おっかしぃなぁ。昔はもう少し算数出来たハズなんだけど。

    まぁ、かくいう俺にとっても三万ってのは未知数な兵力だ。
    大昔、カロン砦で相対した軍勢は五千。それでも凄まじい人数だった。
    それが今、目の前に整然と敷かれている軍勢はその時の数倍。
    俺一人で何も責任が無ければとっとと逃げ出してる人数だね。

    布陣はざっと見たところ、中央に二万、左右に五千ずつって感じかな。
    中央が北方各国の捕虜部隊。左右が帝国と紛争地帯の傭兵団の混成軍って感じだった。
    連中は既に有利な位置に布陣し終えており、悠々と食事を取っていた。
    明らかに俺達アスラ王国軍が来るのを知ってての余裕だろう。

    王国側が出陣したのは、既に帝国側も察知している筈だ。
    スパイである貴族がご注進しているだろうし、出陣式で派手に見送られたしな。
    相手からすれば余裕をもって待ち構え、一息に蹂躙しようって算段なのだろう。

    敵軍は約三万の大軍団。
    対する我がアスラ王国軍は、新兵と民兵の寄せ集め僅か三千。どうしろと?
    っても、これだって二週間足らずで魔法騎士がかき集めてくれた人数なのだ。
    渋る貴族を脅し、なだめすかし、やっとの事でこれだけ招集できた。
    招集できたっつっても、戦うのはウンコ貴族の領民で、ウンコ共はやっぱり引き籠ってる訳だがね。便秘か!

    ん?あいつの配下の魔法騎士団とかはどうしたって?
    彼女の育てた精鋭らは王都の防備に残っている。
    仕方がないっちゃ仕方がないんだけどさ。大国アスラも今やボロボロだかんな。
    それにしたって十倍もの人数を相手にするには心もとない。
    救世主がいれば勝てるからとか送り出されたけどさ、完全に決死隊だもん。
    カロン砦の時は籠城戦だったが、今回は野戦だ。はてさて、どうなることやら。

    「……よし、みんなのところに戻ろう」
    「わかったわ!」

    偵察は済んだ。あとは後方で待機している王国軍の所に戻るだけだ。
    帝国側の物見に見つからないよう用心しながらズリズリと後ずさる。
    それから待機させていた軍馬に乗り、後方へと向かった。


    -------


    「平気?ルーデウス」
    「んがんが、ぉおぉうおォンぉおう……ぶべべべべべべb」

    結構な速度で馬が駆けているので顎がガクンガクンして上手く喋れない。
    実のところ、俺はいまだに乗馬が出来ない。だからエリスと一緒に乗っている。
    一緒にというか、何故かエリスの前に座らされていた。
    恥ずかしいので後ろがいいと言ったんだけど、エリスが頑なにそれを拒否した結果だ。
    後ろから抱き着いた方が安定するし、おっぱいも触れるから後ろの方が良かったのになぁ。
    でもまぁ、エリスに抱きかかえられるようにして座ってるので、彼女の胸が当たる後頭部がかなり気持ちいいからそれでよしとしよう。……今回そればっかだな。

    パカラーパカラー。

    しばらく平原を馬で駆け抜けると、アスラ王国軍が見えてきた。
    兵士たちは所々で火を焚き、飯の支度をしていた。
    斥候に出る前に、彼らには腹ごしらえも兼ねて休憩するようにと言っておいたのだ。
    勿論、警戒だけは怠らないようにと言い含めて。

    「うーん……」

    何人かで集まって飯を食べてる民兵の間を歩きつつ、さりげなく様子を見る。
    皆、一様にモソモソ食べてたり、食欲が無くてげんなりしている。
    会敵まであと数キロというところだが、それにしてもこちらの士気は低い。
    当然だよな。好きで戦争に加わる奴は、金と立身出世目当ての傭兵くらいなもんだ。
    帝国側には紛争地帯の傭兵団が多く加わっていた。
    奴らは戦慣れしているだろうし、勝ち馬に乗っているのもあって戦意は高い。
    こちらはやる気0どころか今にも逃げ出しそうな弱兵ばかり。やれやれだぜドララー。

    「あ、あの……救世主様」

    あれこれ考えていると、金属鎧の下に着る綿入れ姿の小柄な騎士に声をかけられた。
    年の頃は三十路近い、自信無さげな顔つきの女性騎士だった。胸はかなりおっきい。
    彼女の名前は……なんだっけ。なんとかパープルホースさん。
    中級貴族の出身で、一応この決死隊の隊長を務めている。
    いや、無理やり務めさせられたってのが正解だ。

    この人の実家であるパープルホース家は中級貴族とは名ばかりで、実際は没落斜陽貴族。
    現当主は野心家で、どうにかして家名を盛り返したいと常々画策していたらしい。
    そんな折にこの無理強い出兵。ここでひとつ手柄を、とか思っちゃったんだな。
    短絡的な野心を、戦場に出たくない上級貴族らに体よく利用された訳だ。

    んで、現当主はこの人の兄貴なんだけど、当主が出向く訳にはいかない。さりとて自分の嫡男を戦争に行かせる訳にはいかず、かといって血縁者は出さざるを得ない。
    ピーンッ!あぁそうだ、嫁ぎ先から離縁されて出戻った厄介者の妹がいるじゃないかー!、という訳で彼女に白羽の矢が立てられてしまったんだそうな。

    ひでー話だよな。家名復興の生贄に、傷心の女性を戦場に無理やり送り出すとか。
    顔立ちは十人並みだけど何よりおっぱいがデカい。おっぱいは正義でしょうに。

    で、このおっぱい・パープルホース(仮名)さん。
    名目上は隊長なんだけど、実戦経験は無い。もちろん剣も魔術も使えない。
    「彼女を頼んだぞ」とか魔法騎士に言われたけどさ、どうしろと!

    「……あ、あの、ルーデウス様?」

    「どうしろと!」

    「ひぃっ! ご、ごめんなさい……」

    おっと、うっかり心の声が漏れて怖がらせちゃった。

    「あ、ごめんごめん、おっぱ、じゃない、隊長さんに向けた言葉じゃないです」

    「おっぱ……?あ、いえ、そうですか……」

    小柄な身体を一層縮こませ、右手で左手の二の腕あたりをぎゅっと掴んでいる。
    そういうポーズ取られるとおっぱいがぎゅっとなって余計アレなんですが!?
    おーっと、エリスから殺気が向けられている。ハウス、ハウスよエリス。

    「えっと、それで俺に御用でしょうか」

    「あ……、あの、帝国の軍勢は、いかがだったんでしょうか……?」

    「あー、はい。まだ2~3キロ先でしょうけど、布陣は完了してるっぽいです」

    俺がそう答えると、彼女は「はぅ……」とさらに小さくなってしまう。
    かたかたと小刻みに震えているのが見て取れた。
    そりゃ、暴力と無縁だった貴婦人にとって戦争なんて死ぬほど怖いよな。

    「あー、まぁ、大丈夫ですよ。なんとかなります」

    「ふぇ……ほ、本当ですか」

    適当な事を言ってみた。
    仕方ないよな。こんな気弱な女性をビビらせても何が変わるって訳でも無いし。
    そうこうしているうちに、彼女の周囲に男の騎士達がわらわらと群がってきた。
    「大丈夫っすよ」「俺らが隊長をお守りします!」「ぐふっぐふっ…好き…」とかそれぞれが好き放題言ってたけども。ってか最後の奴、なんなんだ?

    「……で、実際どうなのよ」

    取り巻きに囲まれて去っていったおっぱい(隊長)を尻目に、エリスがそう話しかけてきた。なんとなく目が冷やかなのは気のせいでしょうか。

    「ん~、まぁ、どうにかなるだろ?」

    「ふーん。どうだか……」

    俺が他の女(おっぱい)に気を取られていたせいか、エリスの態度が冷たい。
    ふ~っと一呼吸置いてから、彼女を眺めてみる。そりゃもうじっくりとな。
    エリスはいつものように腕を組んでふんぞり返っていたが、俺の視線を受けてたじろいだ。

    「……な、なによ」

    照れて身構えるエリスだったが、このルーデウス、容赦せん!!
    舐めるような俺の視線からは逃れられぬと知れぃ!!
    じろじろじろ……。

    鍛えられ、ぎゅっと締まった腰つき。薄っすら脂肪の乗ったシックスパックな腹筋。
    絶え間ない素振りによって鍛えられた二の腕や肩。
    女性にしては長身だが、均整の取れた肢体。
    弾けんばかりに熟れた胸。地元農家自慢の最高級・完熟ジューシーフルーツ。
    おっぱい、それはバスト。ボインボイン、マイルドブレンド・ダブル焙煎。
    さらには気品のある勝気な美貌。いやマジで美人だよなーエリスって。

    「ん、エリスが嫁さんで、俺って本当に幸せだなーって」

    俺がそう言うと急にモジモジする。可愛いかよ!!
    さーて(棒)、偵察と視姦も済んだし、俺達も腹ごしらえすっかね。
    おーい隊長(ボイン)さーん、一緒に食べましょうよー。



    -------



    「うーっし、食った食った」

    満たされた腹をさすりさすり、俺の足はとある場所に向けて動いていた。
    そこは様々な物資を運搬している荷馬車群。

    「ひょっほ まっへよ うーでうふ(ちょっと待ってよ、ルーデウス)」

    エリスが焚火で炙ったアスラン牛の塩漬けスペアリブを齧りながら追いかけてくる。
    さっきまで5~6本食べてたはずだが、アレは何本目の骨付き肉なんだろうか……?
    まぁそれはそれとして、エリスが追いつくのを待ってから一緒に歩きだす。

    「どこに行くの?」

    「おん、俺の装備を取りにな」

    「ふぅん」

    気の無い返事を返しつつ、エリスは食べ終わった骨をポイ捨てした。ゴミはゴミ箱に!
    それはそれとして、俺は「R」と記された荷馬車の方にテクテク歩いていく。
    荷台を覗いてみると、そこには布に覆われた一抱え程もある何かが鎮座していた。
    布をばさりと剥がせば、黒っぽい、やや軽装な金属鎧が姿を見せる。

    「それ、ルーデウスの鎧なの?」

    「うん。うまい具合にリット星人用のチビサイズがあったんでね」

    「りっと……なによそれ」

    おっと、前々世のネタは通じないか。これ読んでる人にも通じないかもだけどな!

    「ゴホン、あー、魔法騎士の予備装備を、俺用に誂えなおした奴だ」
                             ウォー・フレーム
    そう、これは魔法騎士ファクティス謹製。その名も『戦闘用動甲冑』という。

    俺はこっちの世界に素っ裸で召喚されてしまった。
    だから前の世界で愛用していた武装、魔道鎧やアクアハーティアは当然無い。
    魔杖くらいは望めば与えられただろうけど、今の俺にそれは必要性を感じなかった。
    だが魔道鎧を0から造るには時間が無いし、ノウハウを知り尽くしてるザノバもいない。
    どうしたものかと思っていたけど、魔法騎士から自分の鎧を貸し出す申し出があった。

      ウォー・フレーム
    『戦闘用動甲冑』

    ――魔法騎士独自の魔術理論で組み上げられた、いわばこっちの世界での汎用魔導鎧。
    パッと見は軽装甲の全身鎧だけど、装備すると聖級剣士並みの戦闘力を得ることが出来る。
    俺が造った魔道鎧二式改と大差の無い性能といえるがこっちのが軽い分、扱いやすい。

    また二式改は俺の魔力で作動するが、こいつは胸部に魔力結晶を装填して作動するタイプ。
    なので俺より魔力総量の少ない魔法騎士が一日中着ていられたって訳だ。
    起動させていない平常時には少し身体能力が向上する程度。
    無論、魔力消費も微量の省エネ設計。 
          ブート・オン
    戦闘時には『起動開始』というキーワードで全力起動する。
    日常生活を送る分には過剰なパワーは邪魔になるからな。この機能はナイスだと思う。
    ……ってか、そもそも一日中着てるのがどうなんだって感じなんだけども。
    まぁ、政敵も多そうな奴だし、護身用と思えば納得も出来る。備えあれば嬉しいなってか。
    それに奴は不健康そうだったし、介護マシン代わりだったんかしら。ま、いいか。

    「よっし、装備するか。エリス、ちょっと離れててな。危ないから」

    「そうなの?わかったわ」

    エリスが数歩下がったのを見届けてから、俺は荷台に向き直る。
    それからおもむろに「『鎧化(アムド)』!」と叫ぶ。
    すると荷台に鎮座していた『戦闘用動甲冑』の各部位がパーン!と弾けるように分解し、俺に向けて勢いよく飛んでくる。いわゆる聖なる闘衣の装着シーンと思ってくれ。
    ガチャガチャと腕や足、胴体に甲冑が装着されていくのは割と爽快だったりする。

    「ジャキーン!ルーデウス・ウォーリア、ここに見参!!」

    完全武装となった俺は前々から考えていた決めポーズをとった。ギャ〇ン的な。
    エリスは「おー」と素直に感心し、小さく拍手してくれていた。照れるぜ。

    「すごい、格好いいじゃない!」

    「ふっふーん、せやろ?」

    今の俺は鼻がビンビンに伸びているかもしれない。ちょっとした変身ヒーロー気分。
    でもこれ、最初はパーツが頭にぶつかったり股間直撃したりで悶絶したもんよ。
    まぁ、普通の金属鎧は装着に手間がかかるから、この機能はすんごい便利だよな。

    「でも、そんな装備で大丈夫なの?」

    「大丈夫だ。問題ない」

    俺は例の顔で返答した。するとエリスは少し悩ましそうに眉をひそめる。
    彼女は前世での魔道鎧の性能を知っているだけに、この動甲冑に不安があるようだ。
    その不安は、これを装備した魔法騎士の剣を受けて「まぁまぁね」と言っちゃう彼女ならではだろう。聖級剣士程度じゃ、今のエリスの肩慣らしにもならない。

    「平気だよ。フィン・ファンネルで勝てるさ」

    俺が続けてそう言うと、エリスは一瞬変な顔をしたものの、頷いた。

    「そうね、ルーデウスだもの。平気よね!」

    そんなやり取りの後、俺は動甲冑の具合を確認したり、エリスはそれを満足そうに眺めたり。
    そうこうするうちに、全軍出立の時間となった。


    -------


    ――それから二時間ほどして。

    ぞろぞろと歩き、辿り着いたのは、開けた平野を一望できる丘の上。太陽はまだ高い。

    「うへぇ……」

    先ほどは魔眼で望遠した帝国軍を肉眼で目の当たりにする。
    地平まで埋め尽くしているのではというくらい、物々しい軍勢で一杯だ。

    「…………」

    隊長さん(おっぱい)は声も出ないほどに血の気が引いている。
    お付きの中年騎士たちも似たようなもんだ。
    「腕が鳴るわね!」とか言ってるのは約一名くらい。
    俺はおっぱいに向けて、じゃなくて隊長さんに向き直り、改めた口調で話しかける。

    「隊長さん。作戦はさっき言った通りです。いいですね?」

    俺がそう言うと、隊長さんはやや虚ろな眼差しをこちらに向けた。
    無理だ、絶対死ぬ、逃げたい、叫びたい。彼女の顔にはそう書いてあった。
    そりゃそうだろう。俺だって、人より秀でた魔力が無ければこんな役目、投げ出してらぁ。

    「大丈夫。もし俺とエリスがヘマをしたら、逃げてもらっても構いませんよ」

    魔法騎士からもそう言われている。お前が失敗したら彼女らを逃がしてくれと。
    無理もない。そもそもが、人数的に無理のある迎撃戦なのだから。

    俺とエリスが無茶をして帝国軍の足止めをし、さらには追い返せれば良し。
    よしんば討ち取られたとしても、時間を稼いでいる間に魔法騎士が本国をまとめ、戻ってきた決死隊と共に、今度こそ王国の総力戦にて帝国軍を叩き潰す。
    まぁ、追い返せなかったら、その後は無いんだけどな。ジ・エンドだ(cv:阪脩)!

    『どちらにせよ、救世主が負ければすべては終わりだ。抗う意味も無い』

    自嘲気味に、魔法騎士は嗤っていた。
    護国の鬼として召喚した存在が負ければ、戦意もへったくれも無い。そういう事なんだろう。
    だから、俺の両腕には王国に生きるすべての人民の命が乗せられている。
    んな重いもんを抱えたい訳では無いが、行きがかり上、やむを得ない。

    そうは言っても俺のキャパシティを超える事は出来ない。出来っこない。
    出来はしないが、こちらとしても任された以上、それなりにはやりたい。
    幸い、俺にはエリスがいる。ジョーカーがこちらの手札にあるのだ。やりようはある。

    「さーて……」

    首をコキコキと鳴らしつつ、俺は目の前に広がる光景を眺める。
    そこには地平の果てまで蟻のごとき軍勢がひしめいている。
    いやー、マジでシャレにならないわ。今からでも逃げていいかねえ?
    そんな事を考えていると、傍にいたエリスが俺に囁きかけてくる。

    「フフ……今日という今日は、本気を出してもいいのよね?ルーデウス」

    ちらりと見れば、ニマニマと凄絶な微笑みを浮かべるエリスがそこにいた。
    長年連れ添った彼女だが、その顔はちょっと、いやかなり怖い。
    思わず「えーっと、それなりに、お願いします」と言ってしまった。
    しゃーない。あちらさんも立身出世目当てだ。信賞必罰は世の常でもある。
    自ら参加した戦争なんだ。不幸な目に遭ってもこっちを恨まないでくれよ?

    「――わかったわ!」

    本当にわかったのか、そうでないのか。
    エリスは俺が造った石剣を片手に、舌なめずりをしていた。
    この戦いを前にせがまれて作った俺製の頑丈な石剣である。ちょっとやそっとでは壊れない。

    「……よし。んじゃ、エリス」

    俺が右拳を出す。
    エリスはそれを見ると、左手の拳をこつんとぶつけた。

    「……後でな」

    「――! 後でね!」

    靖国で会おう――じゃないけども。
    ここで散華するべきではない。俺はなんとなくそう思って。
    必ず生きて帰る――エリスと共に。
    そう思い定め、両の手に魔力を込めていく。

    「ん~……」

    狙いは中央の軍――二万を超える大軍団。
    両掌をそこに向け、俺は射程を捉える。
    作り出すのは一番慣れ親しんだ魔術。俺の代名詞とも言える奴だ。

    形成。
    魔力を練り上げる――いつもより広範囲で。
    深度――そこそこ。相手は北方混成軍。いわば被害者だ。殺しては寝覚めが良くない。
    とにかく時間稼ぎを念頭に。プラスちょっとしたサプライズ。

    徐々に魔力が練り上げられていく。
    精密な術式精製は久しぶりだが、まぁ適当でも大丈夫だろう。
    あちらにもそれなりの魔術師はいるだろうが、こっちだってそれなりだ。
    簡単にレジストされないよう、複数の魔術を複雑に混合しておく。

    この魔術にここまでの魔力をつぎ込んだ事は無い。
    これだけの広範囲に使ったことは無いし、実戦においては、ほぼ対一だったからだ。
    ぶっちゃけ、これを一人に放ったら大抵はオーバーキルになるだろう。
    だが、二万人相手ならそこまでにはならないはずだ。
    なんにせよ、人殺しは出来得る限り避けたいのが俺の本音である。
    死んで恨まれるのだけは嫌だからな。

    「んじゃ、行くぞ」

    「わかったわ!!」


    そうして、俺は最も得意とする魔術を放った。





    「――『泥沼』」








                   ー「破」につづきますー 







    それでは、また。(店`ω´)ノシ








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