無職転生・二次創作小説「エリスは流石だった」その4
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無職転生・二次創作小説「エリスは流石だった」その4

2015-04-23 19:46
  • 2

庭先に置いた揺り椅子に座りながら、俺は微睡んでいた。
夢を見ていた気がする。
内容は覚えていない。
…と言うより、思い出す暇が無かったというべきか。

肩のあたりを、軽く揺さぶられた。
気がついてはいたのだが、中々閉じた瞼を持ち上げる事が出来なかった。
そうするうちに、揺さぶりは強くなった。

「…ん」

目を開け、左肩を見る。焦点が中々合わない。
ボンヤリと、白くて細い手が見えた。
シルフィの手かな。
たおやかなその手が、今は俺の肩をギュッと掴んでいる。痛いくらいだ。
顔を上げて、手の持ち主を見上げる。
やっぱり、シルフィだった。
……やけに、表情が硬い。
俺は声をかける事が出来ず、シルフィの顔を見つめた。
彼女の白い顔が、いつも以上に白い。蒼白と言っていい。

「……ルディ」

シルフィは、一度、唾を飲み込むようにしてから、息を吸い込み、俺の名前を呟いた。
それから、若干喘ぐように息を吐き出しながら、
「……ちょっと、来て」
努めて、冷静な声を出した。
その視線が、少しだけ、震えていた気がする。

「…うん」
妙な迫力に気圧された俺はそう言って、揺り椅子から立ち上がった。
少しだけ、フラつく。
すぐにシルフィが支えてくれた。
「ごめん」
「うん、ボクも…ごめん」

俺は若い頃にムチャばかりしたせいか、最近立ち振る舞いに支障が出てきた。
膝に力が入らない事があり、腕にも痺れが若干ある。
何度も腕を斬られた後遺症だろうか。
この世界は魂を呼び戻す事以外は、大抵治癒魔術で回復する。
回復はするが、肉体の深部にはダメージが蓄積していくのか、大きい怪我を負った者ほど、後年になって後遺症が出るようだ。リーリャもそうだった。

玄関脇に立てかけておいた杖を取り、シルフィに軽く介助して貰いながら、家の中に入る。
そこで、俺は違和感を覚えた。
なんというか、空気が、張り詰めているのだ。

大家族である我がルーデウス邸は、増築を重ねて、結構広くなった。
ルーシーやララ、アルス達は独立し、家を出たが、彼らの子供や孫達が今ではこの家に住んでいる。俺自身が家族を大事にしていたせいか、独立したとはいえ、ルーシー達も定期的に様子を見に来てくれている。
また、このシャリーアで要職に就いた者もいるので、必然的にこの家を拠点としているのだ。なにせ、我がグレイラット一族は、各国の中枢に根ざしている。離れ離れになるよりも、集まっていた方がいろいろと便利だ。…ヒトガミの妨害も、怖かったしな。一緒にいた方が、守りやすいってもんだ。
なので、この家は常に人で溢れている。
走り回る幼い子ども達の喧騒。
それを注意する母親たちの声。
泣き出す赤ん坊の声。
それを見て、微笑む俺と、三人の妻たち。

なのに、今の我が家は、シンと静まり返っている。
俺が呆然と佇立していると、背中に回されたシルフィの手に力が入った。
「…ルディ」
「…ん」
思った以上に強い力に、俺は何故とは聞けなかった。

シルフィに誘われ、たどり着いた場所。
そこは、…エリスの部屋の前だった。
ドアが半開きになっている。

「…え?エリスの、部屋?」
意味が解らず、俺を支える妻の顔を見た。
さっきまで強い眼差しで俺を見ていたシルフィ。
…今は、青い顔をして、俯いている。
そして、無言のまま、扉を開いた。

「━━━ッ」

エリスの部屋には、大勢の人間がいた。
…正確には、エリスの眠るベッドの周りに、いた。
みんな、一様に硬い表情。
部屋に入ると、視線が一斉に俺に集中した。
その中の一人、赤い髪の女性が、口を開いた。

「…お祖父ちゃん」

この女性はアリス。俺の孫の一人で、アルスの娘だ。曾孫のフェリスの母親でもある。エリスに良く似た容姿をしており、普段は明るい肝っ玉母さんで、我が家に溢れる沢山の子ども達の世話をしてくれている。まるで保育園の保母さんのようだった。
そんないつも元気な彼女が、悄然としていた。

「お爺ちゃん。お、お、お祖母ちゃんが…」

消え入りそうな声。それから、震える指先で、ベッドを指さした。
その指先につられて、俺はベッドを見た。

ベッドの上には、エリスが眠っていた。
大の字だ。
掛け布団すらかけていない。
いつものエリスだ。
それがどうしたというのだろう。
寝ているだけじゃないか。
何を家族全員で集まっているんだ。
何かのドッキリなのか。

俺は訳が分からず、アリスの顔を見た。
目が合うと、アリスの目尻から一粒の涙がポロリと零れた。

「…お祖父ちゃん、お祖母ちゃんが、息、してないの」

「━━━ふぇ?」
我ながら、気の抜けた声だったと思う。
横たわるエリスを見る。
いつものエリスだ。さっき、会話した時のまま、変わらない。
でも、なにか、おかしい。
いや、おかしいとか、そういうんじゃない。
俺はなんとなく理解はしていた。
理解はしていたが、それを理解したくなかった。

「……エリス?」
俺は声をかけてみた。
━━━「なに?ルーデウス」
そう、応えてくれる気がして。

でも、エリスは目を閉じたまま。
俺は彼女の頬に触れてみる。
暖かい。
なんだ、生きてるじゃないか。嘘ばっかり。
俺をびっくりさせようと、みんなで企んだのか。
ほら、もう嘘はバレてるよエリス。
そんで、今にもムクリと起き出して、俺のほっぺをツネるんだろ。
━━━「アハハ!ビックリした?」
なぁ、そうだろう、エリス。悪い冗談はやめてくれ。

俺は周囲を見回した。
みんな、俺を見ていた。
アリスは目を真っ赤にしてボロボロ涙を流している。
他の家族も、涙を堪えていたり、口元を押さえていたり。
俺はもう一度エリスを見る。

「エリス…起きないと、おっぱい、触っちゃうぞ?」
俺はおどけたように、そう言ってみた。我ながら滑稽だった。
それから、痺れた手を、彼女の胸の上に当てた。
…心臓は、動いてなかった。
嘘だろう。
動いてない。
全然動いてないよ。

頭がグルグル回っている。脳みそが擦り切れそうなほどだ。
なんだかムカッ腹が立ってきた。エリスに対してではない。よくわからない。
「おい!エリス!ふざけんなよ!目を開けろよ!起きろよ!」
俺は唐突に怒鳴っていた。みんながビクリとする。だがそんなのはお構いなしだ。
俺はありったけの魔力を胸に当てた手に込めて、治癒魔術を詠唱した。
初級、
中級、
上級、
聖級、
王級。
覚えている限りの治癒魔術を詠唱しまくった。
王級まで唱えると、また初級から。それを何度も繰り返した。
「起きろ!朝だよ!もうすぐご飯だよ!早く起きないと全部食べちゃうぞ!」
俺は無我夢中で叫んだ。自分でも意味がわからない。
詠唱を終える度に、手元が光に包まれる。
だが、エリスが再び目を開ける事は無かった。
それでも、俺は治癒魔術を使い続けた。
ふざけんな!畜生!
こんな事、許されるものか!許してたまるか!

「ルディ!ルディ!」
突然、後ろから泣き叫びながら抱きしめられた。
シルフィだった。
さっきまで冷静だった彼女の端正な顔は、涙と鼻水でグシャグシャだった。
俺はそんな彼女に向けて怒鳴った。
「シルフィ!お前も手伝え!治癒魔術を使うんだ!」
「やったよぅ…何度もやったんだよぅ…!」
「うるさい!二人ならなんとかなるかも知れないだろ!!」
「やったんだよぅ…!ボクもローランドも!治癒魔術使えるみんなでやったんだよぅ…!」
シルフィの泣き声は、まるで駄々をこねる幼子のようだった。
こんな、泣き喚くシルフィを見るのは初めてだった。
何かを思い出して、俺の胸はズキリと痛んだ。
「シルフィお祖母ちゃんは、魔力切れ寸前まで頑張ったんだよ、お祖父ちゃん」
ルーシーの息子、壮年のローランドがそう話しかけてきた。彼は優秀な治癒術士で、俺の家族では、彼以上の治癒魔術を使える人間はいない。彼も魔力切れ寸前でフラついていた。

俺は俺自身に絶望していた。
俺の魔力はまだタップリある。
魔神ラプラスを超える魔力総量なんだ。
これまで使った治癒魔術程度じゃビクともしない。
その自慢の魔力総量が、まるで意味を成さない。
なんだよこれ。
なんだよそれ!
ふざけんなよ!!
人を殺す事は簡単に出来る癖に、人を生き返らす事ができないなんて!
なんだよ!おかしいだろこれ!

俺の怒りは俺自身に向けられていた。
表面上は呆然としていたように見えたらしいが、俺の脳みそはブンブンと唸りを上げて回転していた。だが論理的な思考は出来なかった。支離滅裂だった。
俺を背中から抱きしめるシルフィの暖かさが、今は鬱陶しい。

その時、風が窓を揺らした。
一瞬、俺は冷静さを取り戻した。…自分ではそう思った。
窓の外には、青空が見えた。
一つの考えが浮かぶ。

「━━━ルディ!!」

シルフィの叫び声が上がる。
その時俺は、フラつく足取りで、部屋の外に飛び出していた。




          ーその5につづきますー




それでは、また。(店`ω´)ノシ
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ああああ!!!作中では軽く回想だけで終わってしまったこの部分ありがとうございます!(T_T) 次話に行く!
32ヶ月前
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>>リョウ様

(店`ω´)原作ですと、ほんの一行かそこらですが、膨らましました。
また、この四話からは自分の体験を元に書いてます。実は。
なので、読み返すと胸が苦しくなりますね……。
32ヶ月前
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