無職転生・二次創作小説「エリスは流石だった」その8
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無職転生・二次創作小説「エリスは流石だった」その8

2015-04-27 10:16

    ヒトガミは驚愕していた。

    目の前の女のカタチをした、魂に。

    オモチャの成れの果て。
    肉体の無い、魂だけの存在。
    いずれ溶けて消える、儚い存在。
    無力なカタチ。

    それが、突然、鋭い剣に変わった。

    ありえない。
    この世界で、そんなの、見たことない。
    ここは魂の通過地点。

    死んだものは皆、ここに来て、消え失せていく。
    殆どの魂は、意思の無いまま、消えていく。
    時折、意志の強い者の魂は生前のカタチを成す。
    自分の存在を自覚する者も稀にいる。
    だが、何もできず、ただ狼狽え、そして世界に溶けていった。

    ヒトガミは、そんな光景が好きだった。
    蛍の光のように、淡く儚く消えていく魂を見るのは、なんとも言えず美しかった。
    美しさを愛でる、というよりは、幼子が線香花火を惚けたように見るのに似ている。

    ヒトガミ自身、この世界をすべて知っている訳ではない。
    だが、この世界に住み始めて数万年。何一つ齟齬は起きていない。
    ヒトは死ぬと魂となり、この世界に迷い込み。
    魂は魔力に還元され、世界に溶け込み、別の何かに生まれ変わる。
    その流れに澱みは無く、川の流れのように滔々と流れていった。
    何万年も、変わらない光景だった。

    いつしか、ヒトガミは、自分自身をこの世界の主だと思っていた。
    自分の存在こそが、この世界のルールなのだと。
    誰もこの空間に入っては来れず、自分を脅かす事など出来ないのだと。
    例えオルステッドがここに現れても、消耗しきっている龍神など敵ではない。
    それだけ、この世界は隔離された世界であり、ヒトの世界とは別世界なのだ。
    誰が来ても、何もできるハズが無いのだ。

    だが、目の前の女は、この世界の常識をアッサリ覆した。
    神である自分の常識を超えていた。
    なんだその大声は。
    なんだその剣は。
    生身でも無いのに、どうしてそんなモノを持っている。
    溶けも消えもせず、嘲る自分を逆に恫喝した。
    意味がわからなかった。

    ポツリと、胸の内に不安が生まれる。
    小さな不安の染みは、ジワジワと広がり、あっという間に染め尽くした。

    ヒトガミのココロは、数万年振りに、ある感情を思い出していた━━━。



    エリスはというと、右腕に握った剣を見て、驚いている。
    かつて喪った、己の愛刀。心から信頼する相棒。
    それを振るえば、鬼神だろうが魔神だろうが、すべてを斬り伏せる自信があった。

    ━━━だが闘神との決戦時において、相棒は逝ってしまった。

    50年間、休まず鍛錬を続けた今の自分なら、理由がわかる。
    自分の腕が、剣に追いついていなかったのだ。
    あの時の自分は、剣に頼りすぎていたのだ。
    だから、自分の実力以上の事をして、折れてしまった。

    その日以来、エリスはさらに己に厳しい鍛錬を課した。
    絶え間ない鍛錬につぐ鍛錬の毎日。
    練りに練り上げられた剣技。
    研ぎに研ぎ澄ました肉体と心。
    いつしか、エリスはかつての剣神、ガル・ファリオンを超えていた。
    だからこそわかる事もある。

    「鳳雅龍剣」に関して、かつて剣神はこう言っていた。
    「俺もコイツを使った事があるが、俺には合わなかった」と。
    初めは、体格や動きの癖に合わないのかと思っていた。
    そんなものは、剣を自分に合わせればいいのにと、思っていた。
    それが、傲慢な思い上がりであった事が、今にして思い至った。

    剣は、既に完成されていた。
    足す部分も、引く部分も何も無い。
    それを扱う自分たちに、力が足りなかったのだ。
    使いこなせていなかったのだ。

    ━━━五体を武器にする。
    ━━━武器になるまで、剣を振るう。
    ━━━いずれ、剣を持たずとも、肉体が剣になるような感覚を持て。

    そんな言葉を、ギレーヌもガル・ファリオンも口にしていた。
    だが、彼女達も、その域に到達出来ていたのか。
    恐らく、その域に到達していたのは、龍神オルステッド以外にはいない。
    彼は、二万年の永きに渡って、鍛え続けてきた究極の化物なのだ。
    その一挙手一投足、手刀すらが必殺の威力を持っていた。
    自分たち人族は、精々7、80年しか生きられない。
    彼ほどには鍛え上げられないだろう。
    そう思っていた。

    で、あるにも関わらず、今、自分の握り締めている剣はなんなのか。
    まるで、己の腕の延長のような感覚。
    これは、50年の間、剣を振り続けてきたエリスにも、初めての感覚だった。
    だが、その裏で、妙に得心がいっていた。

    これだ。これなのだ。
    かつて、剣神やギレーヌが言っていた感覚。
    己の五体を武器とせよ。
    到頭、自分はこの域に達せられたのだ。
    エリスの心に、自信と歓喜が漲っていた。

    だが、事実は異なる。
    五体を武器とする。━━━それは比喩でもあり、直接的な表現である。
    剣を持たずとも、人を殺められる技を習得する。そういう意味である。
    エリスのそれは、完全に逸脱していた。

    ━━━魂の純粋な剣化。

    ただひたすら、無心で剣を振るった結果、エリスの魂は、剣と一体化していたのだ。

    剣神より授けられ、振るいに振るった「鳳雅龍剣」━━━。
    迷宮にて自ら見出し、死の間際まで振るい続けた「凰牙龍剣」━━━。

    二振りの龍剣と一体化するほどに、エリスの魂は、純粋になっていた。

    ━━━ルーデウスのお陰ね!!

    なんとはなしに、エリスはそう思った。
    事実、彼の存在がなければ、ここまでの領域には到達し得なかっただろう。
    ルーデウスの居ない世界線での彼女は、所詮聖級止まりだった。
    ルーデウスが居たからこそ、自らを叱咤し、ここまで鍛え上げられたのだ。
    ルーデウスを愛すればこそ、自らを鼓舞し、この領域にまで達せられたのだ。

    エリスの心は、ルーデウスへの感謝と愛で、爆発した。


    ━━━ふと見ると、ヒトガミとやらは呆然と自分を見ていた。
    先ほどまでの無遠慮な態度と変わって、腰が引けている。なんとなく輪郭がボヤけている。

    ━━━ハッハーン?

    エリスの心に、余裕が生まれた。
    ヒュンヒュンッと、龍剣を片手で振り回し、無造作に脇に垂らす。重さは感じない。
    そのまま、ツカツカとヒトガミに詰め寄る。
    ヒトガミはギクリと身を引いた。

    「な、な、な━━━」

    狼狽した雰囲気。よく見えないが、慌てているのを感じる。輪郭がさらにボヤける。
    エリスは龍剣を、ヒョイと頭上に持ち上げた。
    それを目で追うヒトガミ。

    「ワァッ!!!!」

    耳元で、唐突に大声を出す。
    ギャッと叫んで尻餅を付くヒトガミ。
    呆然と、エリスを見上げる。

    「…アンタ、ケンカ弱いでしょ?」
    エリスが侮蔑の表情を向けた。
    「な、な、な━━━」
    ケンカ?ボクがケンカに弱い?
    ヒトガミは狼狽した。言ってる意味がわからない。

    「アンタさぁ、手を出してこない、手を出せない相手にばっか、チョッカイだしてたんでしょ。何万年も、ずっと一方的に嫌がらせしてきたんでしょ」
    断定する口調だった。

    「強いのはわかるわ。生まれつき、神様だったんでしょうから」
    「でもさ、今まで努力してこなかったでしょ」
    「今の自分を超えようと思ったことなんて、ないんでしょ」
    「ずっと安全なここに引き籠って、遊んでたんでしょ」
    「自分より強い相手から、逃げ回ってきたんでしょ」
    畳み掛けるように言う。
    「お、オマエにボクの何がわか━━━」
    「わかるわよ」
    攻守所を変えるとは、この事だ。

    「アンタさぁ━━━」
    エリスはヒトガミを睥睨しつつ、勿体ぶった。
    表情は、あのニマニマとした、気持ちの悪い笑み。
    そして━━━


    「童貞でしょ!」


    ━━━断罪した。




          ーその9につづきますー




    それでは、また。(店`ω´)ノシ


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