無職転生・二次創作小説 閑話エピローグ「いくつもの道 交わるひとつ」ナナホシ+ウルペン編
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無職転生・二次創作小説 閑話エピローグ「いくつもの道 交わるひとつ」ナナホシ+ウルペン編

2015-05-10 22:46

    ━━━チュン チュン

    小鳥の囀りがうるさい。

    絶えて久しい、早朝の恒例行事。

    そのうち、お母さんが私を起こしにくるんだろう。

    もう少し、寝たい。

    学校なんて、いつでもいけるんだから。


    ━━━ん?学校?

    なんだっけ、それ。

    朝。寝坊。お弁当。

    友達。HR。宿題。

    つまらない授業。お昼ご飯。

    ……それから、なんだっけ。

    私は大事な事を忘れている気がした。

    ……そう。

    ━━━アイツの顔。アイツの声。
    ━━━いつもうるさい、アイツの。
    ━━━大好きな、アイツの。


    そこまで思い至って、私はガバと跳ね起きた。



    ……眩しい。


    そこは、記憶の片隅にある、見慣れた風景でも無く。
    住み慣れた、でも、未だに好きになれない風景でも無く。

    ありふれたような、でも、とても、温かいような。
    そんな、一室だった。

    ふと、傍らを見れば。
    ひよこのような、ぽわぽわの髪の毛をした、女の子が眠っていた。
    ━━━ルーシー・グレイラット。
    知人の娘。恩人の家族。……大切な、存在。

    その横には、白い髪を持つ女性。
    少女と言っても差し支えない程に若い女性だ。
    ━━━シルフィエット・グレイラット。
    知人の妻。大切な友人。……新しい、家族。
    こちらもすやすやと眠っている。

    私は茫としつつも、記憶を整理してみる。

    此処は何処か。
    ━━━知人の、ルーデウス邸。

    私は誰か。
    ━━━日本から、この異世界にやってきた、闖入者・七星静。

    うん、よし、頭は正常だ。
    さらに私は、記憶の正確性を求める。

    何故、私は此処にいるか。

    ━━━昨日、故郷の料理をご馳走しに、やってきた。

    理由は?
    ━━━転移魔法の研究の為、住処としている空中城塞。
    ━━━そこに、ルーデウスとエリスさんが現れた。
    ━━━私はそれを好機として、グレイラット家にお邪魔しに来た。

    うん、間違ってはいないと思う。好機、ってのが、微妙に違う気もするけど。

    だんだん、惚けた頭に、血が巡ってくる。
    ……とりあえず、記憶の整合性はとれた。
    ひとつ、伸びをしてみる。…うん、若干スッキリした。
    それから、傍らのひよこを撫でてみる。

    「…うにゅ~」
    ルーシーちゃんが、むず痒そうに、うにうにしてる。可愛い。
    私はさらに、髪の毛の匂いを嗅いでみる。くんかくんか。

    ……そこで気が付く。私をじっと見ている視線に。

    「━━━おはよ、ナナホシ」
    シルフィが、私を見ていた。……いつから!?

    「オ、オハヨゥ、ゴザイマス……」
    固まる。恥ずかしい。シルフィはニマ~と笑っていた。

    「フフ、なんだか、ルディとそっくりだね」
    微笑むシルフィ。え、何が。どこが似ているって?

    「ルディもね、ルーシーと一緒に寝ると、朝、そうやって匂いを嗅いでるんだよね」
    寝そべったまま、シルフィは言う。表情は、悪戯っぽい笑み。くふふ、と含み笑い。

    「あ、あとねぇ」

    気だるそうに起き上がる。そして━━━

    「ボクの胸を、こうするんだよね」

    ━━━私の胸を、

    ━━━シルフィの両手が、


    「ギャーーーーーーーーッ!!」



                    *

    「アハハー、ごめんねナナホシ。ちょっと寝ぼけてて」

    シルフィがポリポリと頬を掻いている。謝罪してる顔では、勿論無い。
    ……もう、どうでもいいけど。

    「そういう事に、しておくわ……」
    大仰にため息をついておく。ポーカーフェイスを維持。

    少々、私は油断をし過ぎていた。気を許しすぎた。
    ……居心地が良すぎたのだ。この家は。
    それも、悪い気はしないでもないが。

    朝食を頂いたあと。
    淹れてもらった紅茶を飲みつつ、私はリビングでくつろいでいた。

    前にはルーシーちゃんが座り、昨日に引き続いて絵を書いている。
    大きな犬のレオが、それを横から覗き見ている。
    画用紙には、犬の顔が大きく描かれている。レオはそれを見つつ、首を傾げていた。
    その仕草が面白く、ついつい、私はのんびりとその光景を眺めていた。

    ━━━空中城塞に戻るタイミングを、理由をつけて、引き伸ばしていたようなものだ。

    一度ついた里心は、中々に断ち切り難く、私の腰を重くする。
    ちょっと、お風呂を借りに来ただけなのに。
    ちょっと、お礼をしようと思っただけなのに。

    でも、それは、言い訳。
    自分でも、それは知っている。

    私は、この家が気に入っている。
    この家に住まう家族が、好きなのだ。
    ━━━本当は、ずっと、一緒に、のんびりとしていたいのだ。

    でも、それは無理な願い。儚い夢。
    私には、時間が無い。
    異世界転移者である私には、この世界に滞在するには、不向きなのだ。
    魔力中毒━━━ドライン病に犯された身であるから。
    その現実が、私から希望を奪ってしまう。
    それが悲しい。それが寂しい。
    ━━━でも。

    「なーしー。みちぇみちぇ」
    目の前の幼子が、私に笑顔を向ける。
    一生懸命に描いた絵を、私に見せてくる。
    とても愛らしい存在。とても、大事な時間。
    ━━━でも。

    「とってもよく描けてるね。これはなーに?」
    胸の痛みを押し殺し、私は努めて明るい声を出す。
    幼子は、にっこり笑って、頭上に画用紙を差し上げる。

    「これはね~れおー!」
    「わふ」

    レオが一声鳴く。特段、意味は無さそうだ。

    「れおはね~ららのおうじさまなんだよ~」
    「わふ!」
    顔を見合わせる、一人と一頭。
    今度のレオは、キリッとした顔つきだ。案外、言葉を理解しているのかもしれない。

    「そっかー。レオは格好いいね~」
    「うんー!」
    ルーシーはにぱっと微笑み、新しい画用紙に絵を描き出す。

    私は、周囲を見回す。
    リーリャさんとアイシャちゃんは、家事をテキパキとこなしている。
    シルフィは、少し離れたところで繕いものをしている。
    ロキシーさんは、ララちゃんにおっぱいをあげている。

    ……ここには、家族の営みがある。

    ボンヤリと、そう思った。
    そう、ここはひとつの、完成した世界なのだ。

    ルーデウスが家長であり、シルフィがその傍らに。
    ロキシーとエリスはそれぞれ、ルーデウスを導き、護る役目を負っている。
    リーリャとアイシャ、ノルン、二人の娘たち。
    誰も欠けてはならない、かけがえの無い世界。

    ━━━ここは、ルーデウスの大事な場所なんだ。
    あの恐ろしいオルステッドに戦いを挑んでまで、守ろうとした存在たち。
    ヒトガミという、オルステッド以上に恐ろしい悪神から、護ろうとする存在たち。

    彼は、この世界に、自分の居場所を見つけ、それを守ろうと必死に足掻いている。
    夫として。父親として。自分の全存在を賭けて、戦っている。

    ━━━私はどうか。

    私を必要としている人はいる。
    私の能力を欲する者もいる。
    でも、私の居場所は。恐らく、ここにはない。

    ━━━元の世界に、あまりにも大切なモノを、置き忘れているから。

    だからこそ、この世界に、大切なモノを、作ることが出来ない。
    作ったが最後、離れる事が出来なくなるから。
    だからこそ、私はこの8年以上を、孤独に過ごしてきた。
    ━━━でも。

    でも。
    私は弱い存在。
    肩肘を張って、気丈に振舞ってきた。
    だが、病に冒され。自分の限界を悟った。
    他人に助けられ、支えられて、生き延びた。

    だからこそ。
    私は、元の世界に戻らなくてはならない。
    いつか、この場所を、巣立たなくてはならない。
    ━━━この幼子が、いつか、親の手を離れて、独り立ちするように。
    自分の意思で、居心地のよい、親の腕の中から、飛び立たねばならない。

    それは、誰にも訪れる瞬間。
    その機会を逃したら、永遠に、私は己の翼で飛べなくなってしまうだろう。
    それでは、ダメなのだ。
    私は、自らの意思で、旅立つべきなのだ。
    自らの脚で立ち、自らの武器で、戦うべきなのだ。

    ━━━私を、育ててくれた、護り支えてくれた人達に報いるためにも。

    「━━━ルーシーちゃん」
    私は、意を決して、話しかける。
    ルーシーは、私を見て、きょとんとする。

    「━━━パパと、ママの事が、好き?」

    ひよこのような髪の毛の幼子は。
    私の言葉を吟味するように。
    私の瞳を、身じろぎもせず、見つめていた。
    そして━━━。

    「━━━うん!るーしー、ぱぱとまま、だいすきー!」

    会心の微笑みで、私の望んでいた答えを紡ぎ出す。
    私は、微笑む彼女を見て、彼女を産んだ女性を見て。

    私は、私を肯定することが、やっと出来た━━━。



                    *


    お昼を過ぎ、昨日の残りの小麦粉を使って、私はクレープを作った。
    中身は、ミリス地方の名産である、果物のジャム。
    予想外に、目を輝かせたのはロキシーだった。
    彼女は、こんな美味しいお菓子が存在するとは、と感動していた。
    シルフィも、ルーシーも、そっくりな顔をして、クレープを頬張っていた。
    リーリャとアイシャ。彼女達も、寄り添い、微笑みながら、食べていた。

    これでいい。これで満足だ。
    私は、何とはなしに、充足していた。

    私の戦場は、ここではない。
    生まれ育った場所がある。
    そこに、私の世界を築くべきなのだ。
    彼らとは別々の道を、別々の世界を歩む事になる。
    だが、それは誰にも訪れる事なのだ。
    それを否定していては、永遠に大人には成れない。

    「━━━わふ!」
    レオが耳を立て、嬉しそうな声を上げる。
    玄関から、荒々しく扉を開く音がする。

    「━━━ただいま!お腹すいたー!」
    エリスの声だ。いつも以上に、意気揚々としている。

    「アハハ、帰ってきたね━━━おかえりー!おやつがあるよー!」
    シルフィが負けじと声を返す。
    私は彼女の横顔を、脳裏に焼き付ける。

    今すぐ、旅立てる訳では無い。
    でも、いつかは旅立つ日が来る。
    だからこそ、今この瞬間を、焼き付ける。
    いつか、誇らしさと共に、追憶出来るように━━━。


    「うわ!なにこれ美味しい!なにこれ、凄い!」
    エリスがクレープを頬張り、モッチャモッチャ食べつつ感想を述べる。
    素直過ぎて、面白い。
    やっぱり、彼女は流石だ。見ていて楽しくなってくる。

    ━━━気が付けば、たこ焼きと、お好み焼きが、皿の上から消えている。
    確か、シルフィがルーデウスの為にと、温め直して出していたモノだったが。

    「━━━うん、この丸っこいのと平べったいのも、イケるじゃない!」
    うん。やっぱり、彼女は流石だ。一瞬で口の中に入れてしまったようだ。

    ルーデウスは、と見れば。
    ……なんだか、15R戦った、伝説のボクサーのように、真っ白な灰になっている。
    反対に、エリスの顔色は艶々としており。
    ……うん、深く追求はやめておこう。どうせ、私はおこちゃまだ。

    我知らず、口元が緩む。
    本当に、この家は居心地が良い。
    いつまでも、彼らを眺めていたい。
    でも━━━。

    私は意を決して、席を立つ。
    ━━━風に立つライオンのように。


    玄関にて、みんなに見送られる。照れくさい。

    「また、おいでよ。ルーシーも喜ぶからさ」
    シルフィがそう言ってくれる。

    「なーしー、またきちぇね」
    「次は、貴女の話を聞かせてね!」
    ルーシーは、エリスに肩車されている。

    ルーデウスは……壊れたポリゴンのようだった。

    「はい。また、お邪魔しに来ようと思います」
    屈託なく答える。うん、また来よう。
    ━━━自らの手で、目的を達成した時に。
    それは、遠くない将来。いずれ訪れる未来。

    「……お世話になりました」
    感謝を込めて、お辞儀をする。
    それから、一人一人を視界に収め。
    踵を返し、トレントの開けてくれた門から街道に出る。
    後ろは振り向かない。別れはまだ先のこと。

    ━━━今は、前だけを。

    街道には、通り過ぎる人々。
    いくつもの道を歩む人達。

    ━━━でも。

    道は、どこかで、ひとつに交わっている。

    私は歩いてゆく。
    後ろを、振り返らずに。


    真っ直ぐ、空を見上げ。





                  ー完ー
































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