無職転生・二次創作 閑話「鬼の目にも…?」その4
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

無職転生・二次創作 閑話「鬼の目にも…?」その4

2015-06-15 08:15

    ━━━皿、皿、さら。

    目の前のテーブルには、一面の皿。
    皿の上には、色とりどりの肉片が乗っていた。
    薄く切り分けた、魚の切り身。
    つまり「SASHIMI」だよ。タンポポは乗ってないけど。
    ジャパニーズ・ソリッド・スラッシュ・スタイル。
    略してJSSS。うーん、イマイチ、ゴロが悪いな。
    アサシンだと、ASS ASS IN って感じで、ウホッとなるんだが(錯乱)。

    「どうですか、この中に、思い出の味はありましたか?」

    俺は無言で刺身を食べているオルステッドに声をかける。
    なんだろう、この光景。
    眉間に皺を寄せて、一心不乱にムシャムシャする世界最強。
    傍目から見たら、いつちゃぶ台返しするかわからない光景だ。
    しかし、別に彼は機嫌が悪い訳ではない。
    単に、数千年前の味を思い出そうと、四苦八苦してるだけなのだろう。
    いくつかの切り身を食べると、目を閉じ、唸り声を上げる。

    「━━━違う。この味では無い、…と、思う」
    自信無さそうだ。
    無理も無い。その時のループでは、食べた直後に毒殺されたらしいから。
    ……ん?刺身を食べて、毒で死ぬ?どっかで、よく聞く話だな。
    俺がその言葉にひっかかりを覚えた時。後ろから野太い声がした。
    正確に言うと、俺の頭上から、だが。

    「あんれま、おめさんら、随分と、とっちらかしてよぉ」

    仰ぎ見るように振り向けば、俺の遥か上に、厳つい顔が見えた。
    角の生えた、いかにもな顔。口元からは二本の牙。
    「鬼族」と呼ばれる魔族である。

    また、彼は新たな「鬼神」の継承者だ。
    先代の鬼神マルタの死により、急遽、一族の統率を引き継いだ人物である。
    まだ若く、体格もマルタより一回りは小さい。とはいえ、人族よりも遥かに巨体であるが。
    名前はなんだっけか。イワベェだっけ?とりあえず、二代目と呼称しておこう。

    新鮮な魚を求めて、俺たち三人は「鬼ヶ島」に渡ってきた。
    そこで、この二代目鬼神に事情を話し、協力をしてもらっているのだ。
    見た目に反して、彼ら鬼族は心優しく、誠実な部族のようだ。見習いたいね。

    「あ、すいません、汚しちゃって。でも、あとでスタッフが美味しく頂きますので」
    俺は慌てて謝罪する。確かに、あてがわれた部屋は、非常に見苦しい様相を呈していたと思う。(驚いた事に、オルスは呪い封じのメットを神速で装備していた)

    二代目はじっと俺を見ていたが、
    「ん、嘘はついてねな。食いもん、粗末にしたら、罰当たる」
    厳(いかめ)しい顔で、頷いた。ホッ、機嫌を損ねてはいないらしい。

    「んでな、そろそろ、網さ引く、獲れた魚、また、くれてやる」
    それだけ言うと、二代目は地響きを立てて、部屋から出ていった。
    どうやら、かけておいた地引網を回収するらしい。
    よしよし、新しい食材が入手できそうだ。

    「ランドルフさーん。とりあえず、魚を捌くのはそこまででお願いします」
    俺は厨房の方へ声をかける。しかし、返事はない。…まさか、ただの屍に!?

    ━━━と訝しんでいたら、戸口から屍が顔をヌッと現した。
    いや、屍みたいな顔の、死神さんでした。ややこしいな。

    「……魚の捌き方に、何か、問題でも?やはり、私には才能が無いと?失格と?」
    悲しみを湛えた目で、俺を見つめてくる。やめてくれ。そんな目で俺を見ないでくれ。

    「あ、いやいや、ランドルフさんの包丁捌きは流石です。さすが元料理人!」
    俺がそうヨイショすると、死神はその隻眼で、俺をつま先から頭の頂辺まで値踏むように眺め回し、それからニタァッと笑った。

    「ンフフフフ。刃物の扱いには慣れておりますれば。えぇ、それはもう」
    陰気な顔に、張り付いたような笑みを浮かべ、クルクルと包丁を手元で回転させる。
    怖い。まるで死体解剖が趣味の、狂った医学者のようだ。
    それに、異常に弁の立つ人だ。俺の取り繕った言葉も、見透かしているだろう。

    と、とりあえず俺は地引網のことを話し、部屋を片付けてから出かけることにした。

    -----

    浜辺では、大勢の鬼族がいた。
    老若男女、大きいのから、大きいの、さらに大きいのまで。
    男はみんな鬼顔だが、女性は美人が多い。いや、どうでもいい情報だが。

    地引網は、一族総出で引っ張るもののようだ。俺ら三人も参加する。
    俺たちが参加したのは、これで三回目。
    一緒に何かするのは、連帯感も強くなるようで、もうすっかり顔なじみだ。
    ガチムチな大男や、俺と背丈の変わらない子どもたちから、笑顔で迎えられる。
    ワッショイ、ワッショイと声を張り上げて、みんなで太い綱を引っ張った。

    なんだか運動会のようだ。スゲー楽しい。
    俺の学生生活はロクなもんじゃ無かったから、大勢で何かをすることが、こんなに楽しいものだというのを、今まで知らなかった。それだけでも、この旅は大成功と言える。
    オルステッドも、悪くないって言ってたしな。死神はニタァッって笑うばっかりだった。

    綱を引き終えると、網の中には沢山の魚が溢れかえっていた。
    大きな笊を持って、老人たちや子どもがそこに群がる。選別しているようだ。
    稚魚などは、海に返している。キャッチ&リリースだな。マナーが出来ている。

    魚を笊に入れ、子供たちが次々と俺に見せに来る。みんな、超笑顔だ。
    鯛に似た魚、鯵に似た魚。色んな魚がピチピチ跳ねている。
    「これ、ンめーぞ!食え食え!」
    「オラの、魚も、食ってけろ!ンめーぞ!」
    グイグイと笊を押し付けるようにしてくる。こいつら、ホント親切だな。魚臭いけど!

    ランドルフと俺で、魚を選ぶ。とはいえ、俺の知識ではどの魚がどんな味かはわからない。
    とりあえず、さっき選ばなかった魚を中心に貰っていく事にする。

    ふと、離れたところで妙な行動をしている連中がいた。
    ずんぐりとした魚を、棒で引っぱたいてから、海に投げ捨てている。

    「アレは、何をしてるんですか?」
    俺は近くにいた老鬼に聞いてみた。
    「んぁ?あー、ありゃ、ネゴマダギだぁ」
    「ネゴマダギ?」
    「ん。ネゴも食わね、魚、ぶったたいて、捨てる」
    ……ネゴ、あぁ、猫のことかな?日本でも、マグロをそう呼んでたとか聞いたことあるな。
    腐るのが早い魚は、猫も食べないから、跨いでしまうとか。
    ムツ○ロウさんのエッセイにも、卵に毒のある魚は犬も食べなかったってあったな。
    あの魚も、それ系なんだろうか。まぁ、そんなのは放っておこう。

    俺たちが魚を選んでいると、二代目が近寄ってきた。
    「おぅ。たんと、獲れたな。ええもん、あったか?」
    豊漁だったようで、ご機嫌だ。岩みたいな顔が、笑顔でほころんでいる。
    「沢山あるんで、選ぶのが大変ですね。どれも美味しそうですし」
    俺がそう言うと、二代目は満足そうに頷いた。
    「んっか。じゃじゃ、また、酒、飲む。みんなで、食うか」
    そう言って、盃をクイッと傾ける仕草をする。
    ━━━うっは、また宴会かよ。これで二度目だ。

    俺たちが鬼ヶ島に来た日、彼らは歓迎の宴を開いてくれた。
    丁度地引網を引いたところだったので、豊漁の宴も兼ねて。
    盛大な宴だった。まぁ、お陰でうっかり一日が潰れてしまったが。

    宴会では「男相撲」というのをやらされた。バーディもやったらしい。
    オルステッドやランドルフは、技で鬼たちを転がしていたが、俺はあいつらみたいな化物じゃない。あちらさんも、さすがに察してくれたのか、俺の相手は鬼族の子どもだった。
    しかし、子どもといえども、人族の大人並の体格と筋力。勝負はアッサリとついた。
    勿論、俺の負けである。魔導鎧が無いと、中の人はこんなもんです。

    少し悔しいが、楽しそうに笑う周囲を見てると、どうでも良くなってきた。
    段々、サービス精神が湧いてくる。
    俺は火魔術を操って、夜空に花火(みたいなもの)を何発も打ち上げた。
    それを見て、彼らは大喜びだった。特に子ども達や若い女性は大はしゃぎ。
    大勢に囲まれて、もみくちゃにされる。喜んで貰えて、こっちも嬉しいね。

    二代目も上機嫌で、俺に酒を勧めてくれた。俺はそれを拒まなかった。
    滅茶苦茶強い酒だったが、俺は必死で飲んだ。
    それが、誠意ってもんだ。
    みんなが仲良くすれば、それだけ世界が平和になる。
    そんな日が、早く来るといいな、と思いながら。
    思いながら━━━。

    ━━━俺は、酔いが回って、昏倒してしまった。

    翌日、俺は痛む頭に治癒と解毒魔術をかけ、鬼族の村を巡ってみた。
    鬼ヶ島は、鄙びた漁村だった。日本の昔の漁村と大差ないだろう。
    鬼族は、見た目やその強さに比べ、質素に暮らしているらしい。
    そこらへんは、日本出身の俺と気質が合うかも知れない。

    村人は、俺の姿を見ると、笑顔で声をかけてくれるようになった。
    花火が余程、楽しかったようだ。道すがら、子供たちからも、せがまれた。
    ポンッと一発打ち上げると、手を叩いて喜んでくれた。お安い御用だ。

    二日目から、ランドルフと一緒に魚を選び、捌いては試食を繰り返した。
    しかし、どれも美味しいが、これというのに巡り合わない。
    オルステッドも、首を縦に振らない。
    死ぬほど美味しい白身の魚。本当にあるんだろうか。記憶の美化じゃあるまいな。

    俺は段々焦れてきた。
    ペルギウスとの勝負の刻限は、徐々に迫ってきている。
    薄れた記憶の魚よりも、別の料理を持っていったほうが、いいんじゃないか。
    そう思い始めてもいた。
    そもそも、魚にこだわらなくても…。しかし、賽は投げられた。ルビコン川を渡ったのだ。

    ペルギウスは、奴はTKGを認めなかった。素材のみのシンプルな味を、愚弄したのだ。
    和食の極みは素の食材の旨みを生かす事。
    俺は、日本男児として、素の味を奴に認めさせたいのだ!

    「ん~、そろそろ、白身魚のネタも尽きてきましたねぇ」

    陰気な声が、俺を思考の淵から呼び戻す。死神の声だ。あ、なんか不吉な言い回し。
    彼はテキパキと笊の魚を選り分けている。その手つきは料理人のそれだ。

    「ランドルフさんは、魚には詳しいですか?」
    俺は今更な質問をした。
    「百年程前ですが、随分と捌きましたからねぇ。それなりには」
    彼は視線を魚から逸らさず、それに答えてくれた。
    「そもそも、魚の切り身を生で食べる、なんて食べ方は、この辺りくらいですからぁ。
     普通は焼くか煮るか、ですし……っと」
    選別を終えたランドルフは、自分の笊に魚を移し、抱え上げた。

    「さて……どうやらまた宴会のようですな。私もひとつ、腕を振るいましょうかね」
    クスクスケタケタと小刻みに笑いだした。どうみても毒殺しようって顔だ。
    ……毒殺。
    どうにも、引っかかる言葉だ。
    オルステッドなら、毒はあんまり効かなそうだし、解毒魔法だって使える。
    なぜ、毒と気づいた時に解毒をしなかったのか。うーん。
    俺は悩みつつも、網の後始末を手伝ったり、子鬼たちと遊んだりして過ごした。


    ━━━夕暮れ近くなって。
    村の広場で宴会が始まった。篝火を盛大に焚き、太鼓やら歌やらで大騒ぎだ。
    酒や料理もふんだんに出た。もっとも、魚ばっかりだけどな。
    とはいえ、この世界に生まれ落ちてから、久々の海魚だ。堪能しなくちゃ。

    ちょっと驚いたのは、鍋料理だ。
    これの味付けは、なんと味噌だった。
    こちらでは「豆腐」と呼ばれている調味料。実のところは味噌。
    若干、風味が違うものの、ひっさびさの味噌汁だ。俺は泣いた。

    「おめ、なに、泣いてる?どっか、痛いか?」
    若い鬼女(って言っていいのか?)が、俺を不思議そうに見ていた。
    「違うんや。懐かしゅうて、懐かしゅうて、泣けてきたんや」
    鼻水をすすりつつ、俺は熱々の海鮮味噌汁をすすった。
    中身はおそらく、交易には使わないような雑魚だろう。しかし、味わいが深い。
    海藻類や、ネギなんかの香味野菜も入っている。少し辛いが、蕩ける様に美味かった。

    他には、ランドルフの手による活け造り。ちょっと説明しただけで、器用にやってのけた。
    ホント、腕は確かなのに、どうして店を潰したんだろうか。

    醤油風調味料「鬼水」に刺身を一切れ浸し、パクリ。うーん、ウマイ。
    新鮮だから、臭みも無いし、舌触りも抜群だ。脂のノリもいい。
    キュッと酒を飲む。うわ、これ凄い合うな。

    「客人、これ、ウマイ。食え、食え」
    老鬼が、煮物を俺に勧めてくれた。昼間、俺の質問にアレコレ答えてくれた老人だった。
    甘辛く煮付けたカレイっぽい魚で、トロッとしてて、ご飯が欲しくなる味だ。

    そういえば、オルステッドはどうしたかと、周囲を見回す。
    いたいた。二代目鬼神の横に座り、黙々と酒を飲んでいる。
    彼のニューヘルメットは、口元を開けられる構造にしてある。呪いは漏れない安心設計。

    二代目は、どうも先代鬼神マルタの思い出を語っているようだ。
    「鬼水」を飲み、果てしなく涙を流している。鬼の目にも涙、ってか。
    つーか、醤油飲んで酔っ払うんだろうか。彼らの肝臓はどうなってるんだろう。

    ━━━ん?肝臓?
    まただ。また、頭のどっかに引っかかるキーワード。
    まとめてみよう。
    「食べたら死んだ」「毒殺」「何故か解毒出来ない」「肝臓」……あと「猫またぎ」
    食べると死ぬ、動物も食べない。うん。そして、肝臓。

    なんだろう、コレ。知識としてはあるが、経験が足りないというか。
    ギャルゲーをやり尽くして、リアル女を落とせると思い込んでるニートというか。
    前世の俺か!いや、俺はこの世界に転生して、文字通り生まれ変わったんだ。
    嫁は三人もいるし、色っぽい女友人も複数いる。うん、俺はダイジョウブ。リア獣。リア汁。
    ……ダメだな。完全に酔いが回ってきた。あはー。

    その後、俺は完全にヘベレケになり。
    調子に乗って、夜空に何十発も花火を打ち上げ。
    前後不覚に陥って、鬼どもに担ぎ上げられ、寝床に放り投げられた。
    うーん、頭がぐるぐるしてるおー。

    頭の上に、魚が何匹もぐるぐるしている。
    赤い魚、銀色の魚、縞々の魚。長い魚。さかなさかなさかなー。
    どれもこれも、美味かった。
    しかし、オルステッドの思い出の魚ではない。
    もう、この際、全部舟盛りにしてペの字に出してみるか。
    シルヴァリルに盛り付けたりしてなwwwwwwww殺されかねないが。

    なんて、酔った勢いで投げ出しかかったその時。
    とある光景がフラッシュバックした。
    それは、鬼っ子たちが、ずんぐりした魚を棒で叩いて投げ捨てていた光景。
    そういや、あの魚、まだ食ってなかったな。
    猫またぎ、っていうくらいだから、食ったら毒なんだろうけど。
    でも、毒が強いものほど旨いとか聞くし。美人ほど毒があるとか言うし。

    うーん、あの魚、どっかで見たことあるんだよなぁ。
    ずんぐりしてて、白っぽくて、食べたら毒で、最悪死ぬ。
    オルステッドですら、死ぬんじゃね。フハハハハ。傑作だな。食わせてみるか。






    ━━━あ。






    俺は思い出した。
    あの、ずんぐりした魚の正体を。

    あまりの衝撃に、思わず立ち上がり━━━。










    「おええぇぇぇ」

    ━━━吐いてしまった。





    -----



    きっかり一週間の後。
    俺は、再びペルギウスの待つ、空中城塞ケィオスブレイカーを訪れた。
    今度こそ、俺の料理で、奴の舌を痺れさせてやんぜ!!






               ーエピローグにつづきますー



    それでは、また。(店`ω´)ノシ


    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。