無職転生・二次創作 閑話「鬼の目にも…?」 ~終幕~
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無職転生・二次創作 閑話「鬼の目にも…?」 ~終幕~

2015-06-23 22:38

    ピンポンパンポーン。

    天気は晴れ。
    晴れのち豚。
    敵は本能寺にあり。
    我思う、故に我あり。
    ありおりはべりいまそかり。

    甲龍王・TKG愚弄事件より、一週間が経過した。
    俺ことルーデウス・グレイラットは、TKGを超える料理を持って、空中城塞に戻ってくる事を約束した。

    ━━━本日は、その約束の日。

    俺は料理人・ランドルフを伴って、ペルギウスの居城に赴いた。
    何故か、アイシャもくっついて来たが。

    「お前、なにしに来たの?」
    「ん?なんとなく?」

    ケロッとした顔の妹。最近、この子の考えていることが、お兄ちゃんには良くわからない。
    なんかラノベのタイトルみたいだな。
    まぁ、とっくに高校を卒業して働いてるようなもんだし。昔の俺より上等だ。

    さて、そんな事より。
    問題は、これからなのである。

    ━━━甲龍王・ペルギウス。
    こやつを、唸らせ屈服させる料理を、今日は提供しなくてはならない。have to。
    その為に、俺は厳ついオッサンズを連れて、ビヘイリル王国くんだりまで出向いたのだ。
    その成果は、あったけどな。
    よし、今に吠え面かかせてやんよ、ペルギウス!!


    -----


    勝負の場所は、以前と同じ、美しき白亜の空中庭園。
    奴は、12人の下僕と共に、俺を待ち構えていた。
    ついでに、久しぶりに目覚めたナナホシもいる。
    ナナホシは若干、いや、かなりウンザリした顔をしていた。
    が、俺の後ろからアイシャが手を振ると、照れ臭そうに小さく手を振った。
    なんだよ、可愛いじゃないか。

    「━━━ルーデウス・グレイラットよ!」

    黄金のオーラを纏った竜王が、迫力ある声で、俺の名を呼ばわった。

    「この七日間、我は随分と待たされた。我の苛立ちを解消出来る物を持ってきたであろうな?我は待ったぞ、随分とな!」

    なんつうか、オーラの割に、言ってる事がみみっちく感じるのは、俺の勘違いでしょうか。
    てか、七日間もジリジリ待ってたのかな。案外期待してた?暇人?
    しかも、倒置法まで使って二度も言いやがった。

    フッ、だが俺も大人。料理をディスる事に血道をあげるような奴に、いちいち反応はしない。

    「━━━大変お待たせいたしました、偉大なる甲龍王」

    アスラ王国式の礼をして見せ、俺は慇懃に挨拶をする。

    「あれから一週間、私は甲龍王に献上せし料理を持ってまいりました」

    俺の後ろから、メイド姿のアイシャが、キャリーに載せた皿を運んでくる。
    それを、静かにペルギウスの目前に置いた。皿には銀のドームカバーが被せてある。
    ペルギウスはそれをじっと凝視して━━━。
    ━━━それから、俺をギロリと睨む。

    「……これが、我を感嘆させ、唸らせる代物なのか?」

    その黄金の瞳には、憎しみも、怒りも感じられない。
    ただ、献上された美術品の真贋を見抜こうとする、芸術家の真摯さが垣間見えた。

    「━━━はい。私めが探して参りました、最高の逸品です」

    俺はアイシャに目配せすると、彼女はドームカバーをそっと外した。

    「━━━ウムッ!!」

    ペルギウスが瞠目し、思わず唸る。
    料理の盛り付けられた皿は、目の覚めるほどの群青。まるでサファイアの如き美しさ。
    この日の為に、探し出した物だ━━━ザノバん家の宝物庫から。
    だが、甲龍王が唸ったのは、皿の美しさのみだけの事ではない。
    そこに盛り付けられていたモノ。それと合わさった美しさに感嘆したようだ。

    「━━━これは…なんと、美々しい……」

    ペルギウスの脇に控えていたシルヴァリルも、思わず陶然とした声を上げてしまう。
    それ程、俺の料理は、この世界においても珍しい情景を、皿の上に表現していたのだ。


    ━━━俺が用意した料理。ペルギウスやシルヴァリルですら感嘆したモノ。



    それは、フグ刺しだった━━━。



    -----


    群青の丸皿の上には、透き通るほど薄く切られた白身の刺身が、咲き誇る花のように並べられていた。見るものが見れば、羽を広げた鳳凰のようにも見えたに違いない。

    俺は用意しておいた調味料を、フグ刺しの上にサッとかけ回す。
    翡翠で出来た、醤油差しだ。これもザノバの秘蔵品。本来は香油を入れる物らしいが。
    後でしっかり洗って返そう。醤油を入れるなんて、一言も言ってないしな。

    おっと、実は醤油(鬼水)も、生のままではない。
    ランドルフやオルステッドと一緒に、吟味に吟味を重ねた調合醤油━━━ポン酢醤油だ。

    -------
     
                     ~回想~


    世界各地を巡って集めた柑橘類を、この世界の住人の舌に合うよう、苦心して調合した。
    ある程度アタリを付け、それからフグの味に合うように調整。
    ビヘイリル王国で入手した味醂(っぽい奴)と昆布や鰹節も加味した。

    ランドルフには、フグの身は、透き通るほど薄く切ってくれと指示。彼はやってくれた。
    舞い踊る死神の刃。皿の上には、まるで天使の羽が舞い降りたかのよう。
    念入りに解毒魔術をかけ、俺たちは試食した。

    「━━━オゥフッ!」

    ~~~~ウマァァァアァアァいッ!!説明不要ッッ!!!
    俺は悶絶した。こんな刺身食ったことねーーーッ!!
    シャッキリポンと刺身が舌の上で踊るわぁ!

    そういえば。
    引き篭ってた前世での俺は、フグ刺しどころかマグロもロクに食ってなかった。
    そりゃ、フグ刺しを即座に思い浮かべられなかった訳だ。
    ヒントは何度も何度もあったのにな。経験の無い知識だけの奴はこれだから。

    ランドルフはと見れば無言。しかし、その顔は蕩けていた。オッサンのアヘ顔キモス。
    ビビったのは、我らがオルステッド社長。
    これは大成功!と俺が喜び勇んで彼に視線を向けた瞬間。俺の心臓は停止した。

    ━━━なんとそこには、涙を流す、鬼がいた。

    勿論、表情はいつも通り、厳しいまま。視線はやや空の彼方。
    そして、その双眸からは、果てしなく涙を流し続けていた。滂沱の涙だ。
    腰が抜けそうになったね。鬼の目にも涙っての、これが本物かよって。

    「……なんてものを、なんてものを、食わせてくれたのだ」

    ポツリポツリと、オルステッドが呟く。
    そして、そっと一切れ、口に運ぶ。

    「これだ。擦り切れた記憶の向こうにある、あの味。なんという旨さだ……」

    そう呟きつつ、果てしなく涙を流し、モグモグしていた……。

    俺は若干ビビりつつ、若干感動していた。
    人は、美味しいものを食べる時、素の自分を曝け出すという。
    あの鬼より怖い龍神が、あんなに綺麗な涙を流すなんて……。

    放心していると、肩をガシッと掴まれた。振り向けば、ランドルフがいる。
    彼は無言で、右手を差し出してきた。俺も無言でその手を掴んだ。
    やり遂げた男たちの晩餐は、静かに終わりを告げていった……。


    -------


    ━━━おっと、回想が長すぎた。


    ポン酢をかけたフグ刺しを適量、これまた洒落た小皿に移し、浅葱っぽいネギを散りばめる。
    そして、厳かにペルギウスの前に差し出す。

    「━━━ビヘイリル地方で今朝獲れました、新鮮な海魚です」
    「かけました調味料は、同じく彼の地の名産。それに手を加えし逸品」
    「使用した食器は、ザノバ氏秘蔵の品々。二度とは手に入らない物ばかり」
    「調理は七大列強五位・死神料理人ランドルフ・マリーアン」
    「あの龍神オルステッドですら涙した、我が至高の料理、とくとご賞味あれ━━━」

    滔々と口上を述べ、俺はアイシャのいる位置まで引き下がる。
    やるべき事はやった。あとは、ペルギウスがあの味を気に入るか、だ。

    ペルギウスはフグ刺しの載った小皿を静かに凝視していた。
    TKGの時は、まるで毒餌を嗅ぎ分けるかのように、アレコレと腐していたが。
    今回は、何も言わない。ただ、凪の海のように、穏やかだった。

    ━━━カチャリ。

    フォークを手に取る。本当ならば、箸で食べて貰いたいが、致し方ない。
    スッと、淀みなく刺身をすくい取り、じっと見つめる。
    それから、おもむろに、口に運んだ。
    顎がゆっくりと上下する。咀嚼している。ゴクリと飲み込む。
    その動作に俺の喉もゴクリと音を鳴らす。腹減ってきた。


    その瞬間はふいに訪れた。

    ペルギウスは、双眸をカッと見開くや否や、小皿に残った刺身を全て口に入れた。
    モグモグゴックン!
    それでは収まらず、群青の大皿にも手を伸ばした。
    あれよあれよと言う間に、刺身は全て、甲龍王の口中に放り込まれ、咀嚼されてしまった。

    呆気に取られる俺。呆然とする精霊たち。首をコキコキ鳴らすアイシャ。

    大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出すペルギウス。
    ━━━しばし、空白の時間が過ぎた。


    バシンッ!
    アイシャが、俺の背中を叩いた。俺は軽く意識が飛んでいたらしい。涎が垂れている。
    ペルギウスは腕を組んでいた。表情は伺い知れない。
    俺はおずおずと声をかける。

    「……あの、ペルギウスさm」
    「━━━美味かった」

    即答だった。
    思いもよらない返事が返ってきた。
    なんだよ、おい、えらい素直じゃないか。

    「美味しかった、ですか?本当ですか?」
    俺は恐る恐る聞きなおす。

    「━━━美味かった。我はこんなモノは食した事がない」

    唸るように言う。
    俺は心の中でガッツポーズをしようとした。
    しようとして━━━、

    「だが、認めないぞ、我は!!」

    ━━━ずっこけた。

    「━━━またっすか!アンタなんでそんな頑固なんですか!」
    「だって、コレも素材そのままではないか!」

    俺の憤りの抗議も、ペの野郎は子供じみた言い訳で聞こうとしない。

    「我は言ったぞ!料理とは手をかけるものだと!素のまんまなんか、料理ではない!」

    あー、言ってたな、精緻であるべきだとか、手をかけろとか。
    なんか、マンガで見たな。和食は手をかけてないって言い張る外人。
    そんな料理は無いんだけど。

    「いや、コレ相当手間暇かけてますけど?ねぇランドルフさn」

    ふと横を見れば。
    コック装束に身を包んだ、純白の死神が、幽鬼のような笑顔で、ユラユラ揺れていた。
    ━━━ヤバイ、死神が静かにキレてる。その両手の小剣はナンデスカ?
    この人、料理人状態だとステータスが跳ね上がるとかあるのかな。ライバックの血筋だし。
    俺は憤懣やるかたないが、ぺに助け舟を出すことにした。

    「あーっと!もう一品、もう一品あるんです!それは絶対に認めさせます!」

    俺はランドルフを羽交い締めにしつつ、喚いた。
    俺たちの更に奥に控えていたリニアとプルセナが、慌ててキャリーを押してくる。
    キャリーには、グツグツと煮える鍋が置かれていた。

    「これはSUKIYAKIです。ミリス特産の牛肉と新鮮な野菜を特製割り下で煮込みました」

    もうなんでもありだ。これはとある美食家であり陶芸家がコキ下ろした料理だが、俺にとっては最高の贅沢品である。
    ほどよく煮えた牛肉と野菜を、生卵の入った小鉢に入れ、ペルギウスに差し出す。
    ペルギウスは「また卵か!」と喚いたが、芳醇な香りに食欲をそそられたようで、即座に手を出した。モグモグゴックン。炊きたて御飯もムシャムシャ。
    よく食べる王様だな。
    しかし、これもお気に召さなかったようだ。

    「ノンッ!!野蛮だ!!」

    さすがの俺もトサカに来た。詰め寄って抗議する。
    そこにシルヴァリルと精霊たちが割って入り、もうモミクチャ。
    リニアとプルセナは、こっそりスキヤキを頬張っているし。
    「旨いもんだニャ」「美味なの」じゃねーよオメーら!!
    ナナホシの奴は、いつの間にかいなくなってるし。チキショーメェッ!!

    ワーワーギャーギャー。天空の城は、さながらデッドボールを受けた球場の様相。

    その後、小一時間ほど喚きあって、水入り。
    双方、息が切れるほどだった。
    ランドルフは、トラウマが発動したのか、ヘコんでいたので無害だった。
    しかし、俺もペルギウス側も、意固地になっていて、一歩も引かない。

    そんな、どうにも拉致があかない状況を打破したのは、うちの妹だった。
    馴れた手つきでお茶を淹れ、ペルギウスに差し出す。
    毒気を抜かれたペルギウスは、若干バツの悪そうな顔をして、お茶を飲んだ。

    「━━━ウマイ」

    ボソリと呟く王様。
    喚き散らして、喉が渇いていたのもあるだろう。鷹揚にグィ~と飲み干した。

    「このお茶は、見事である。アイシャ・グレイラットよ」

    なんか、急に寛大というか、尊大な態度を取り出しやがった。
    アイシャもアイシャで、シレっとした顔で、会釈。
    それから、俺を振り返って、バチコーンとウィンクをしながら、

    「さ、帰るよ、お兄ちゃん!」

    と、宣言した━━━。




                     *




    これが、TKG愚弄事件から連なる、一連の料理勝負騒動だ。
    キッカケが、俺の親切の押し売りだったとはいえ、決まりの悪い事件だった。

    しかし、怪我の功名もある。
    俺の異世界料理レシピに、フグ刺しとスキヤキが追加された。
    これで、また我が家の食卓が賑やかになること間違いなし。
    時々、オルステッドも食事に誘ってやろう。


    あ、そういや、ザノバの秘蔵コレクション、ドサマギでペの所に忘れてきたんだった。
    後日、ザノバからは、恨みごとを小一時間も耳元で言われた。
    今更、空まで行って、返してもらうのも恥ずかしい。
    仕方ないので、ザノバには俺の土魔術製の人形をやることにした。
    デフォルメした、ジュリ、ザノバ、ジンジャーの三体。
    出来上がった人形を見せると、ザノバの機嫌が目に見えて良くなった。ジュリも大喜びだったし、ジンジャーさんも、嬉しそうだった。
    とはいえ、暫くの間は、ザノバには頭が上がらないな。

    頭が上がらないと言えば、アイシャだ。
    みっともない醜態の場を、アイツの機転でなんとか乗り越えられた。
    どうもアイシャは、俺とペルギウスが噛み合わないと見抜いて、くっついてきたらしい。

    「お兄ちゃんも頑固だし、ペルギウス様もだし。絶対、揉めると思って」

    ノルンが好んでいたお茶を、こっそり持参していたのだ。
    なんとも、頼れる妹だ。俺は兄貴なのに、恥ずかしい……。
    そういえば、あれ以来、ペルギウスはアイシャを特に気に入ったみたいで、時々アルマンフィを差し向けてきては、お茶会に招待しているらしい。

    むむむ……。

    アイツ、400歳以上も離れた小娘に、邪な感情を抱いてやしないだろうな。
    もしそうなら、さすがの俺にも、考えがある。
    しかし、遠まわしにアイシャに確認してみた所、毛虫を見るような目をされた上に、

    「……バカじゃないの?」

    と吐き捨てられた。(´・ω・`)

    ━━━兄の威厳、ドコデスカ?
    ヤレヤレだぜ、まったく……。

    庭の片隅で、ひっそりとジローの腹を撫でつつ、俺は深いため息を吐いた……。




    甲龍歴431年、とある歴史的事件は、こうして終わりを告げたのだ━━━。






                   ~終~












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