無職転生・二次創作小説「王竜王の迷宮」その15 「異形」
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無職転生・二次創作小説「王竜王の迷宮」その15 「異形」

2015-10-13 22:07

    「王竜王の迷宮」空間内に出現した、いつかどこかの城塞都市━━━。

    かつては高層建築物が整然と林立していた美しい街並み。
    様々な色のレンガや大理石を敷き詰められていた美しい街路。
    恋人たちの集ったであろう、美しい噴水広場。
    夜には街並みを艶やかに照らす街灯。

    ━━━それらは今や、文字通り灰塵と帰していた。

    まるで、幾万の焼夷弾を落とされ、燃やし尽くされたかのように、見る影も無い。
    無数に開いたクレーターからは噴煙が上がり、そこかしこに瓦礫が転がっている。

    それは、ビヘイリル王国・第三都市ヘイレルル消滅の再現と言えた。

    ヒトガミとの最終決戦━━━敵となったギースや北神、剣神らの脅威。
    それらは、今思い出しても身震いがする。
    更にはヒトガミの奥の手━━━七大列強三位「闘神」の出現。
    あの時、「闘神」となったバーディの猛威で、街が地図上から消え失せた。
    今、俺の目の前で繰り広げられる光景は、それと等しいものだった。


    未来の俺が召喚し、誕生した新しい魔導鎧━━━「魔王鎧ザッハーク」。

    9体の魔導人形の部品を強化装甲として召喚・合体。
    まるで複数体の竜が融合したような、悪夢のような形態(フォルム)━━━。
    体長が三メートルを超える俺の一式ですら、見上げてしまう程の巨体であり、異形。

    奴が腕を振るうと、まるで台風が吹き荒れたかのように建造物がなぎ倒され。
    奴が突進すると、大地が抉れ、爆発四散した。
    両肩と下腹に付着した人形の顔からは、破壊魔法が放射され。
    胸部装甲を展開して放たれる雷光は、あらゆる物質を塵に変えた。

    まさに破壊の権化。存在そのものが暴力。
    俺とエリスが未だに生きているのが、信じられない程の恐るべき脅威。
    俺自身の膨大な魔力総量が炉心であるにせよ。
    ペルギウスとザノバは、とんでもない化け物を産み落としたものだ。

    しかし、未だに俺たちは生きている。凌いでいる。
    理由はある。
    魔王鎧ザッハークは、その恐るべきパワーを持て余していた。
    とりわけ、その巨体をだ。

    俺の一式は直線機動は元々速かったし、今では風魔術による立体機動もラーニングした。
    エリスはエリスで、ギレーヌもかくやというその野性的な疾さで、奴を攪乱していた。
    街並みは犠牲になったが、その破壊の矛先は、まだ俺たちを捉えてはいない。
    ━━━なんとか、付け入る隙のあるうちに、奴を攻略しなければ。
    しかし、それも今は難しかった。

    「闘神」の時は、頼れる仲間が大勢協力してくれていた。

    メイン盾に「ミリスの神盾」イゾルテ・クルーエル。
    その流麗な技で、「闘神」の超暴力を流水の如くいなしていた。

    牽制役に「黒狼」剣王ギレーヌ・デドルディア。
    野獣のごとき疾さを持ち、餓狼の牙のごとき刃を振るって闘神を翻弄していた。

    久々に「無言のフィッツ」に戻って、シルフィは戦場を風のように疾駆してくれた。
    その無詠唱治癒魔術は、瀕死の戦士たちを瞬時に癒し、戦線復帰させた。

    その他、「怪力の神子」ザノバ、「北帝」ドーガ、「デッドエンド」のルイジェルド━━━。
    誰も彼もが一騎当千。死線を潜り抜け、勝利の立役者となってくれた。
    しかし、今の戦力は俺とエリスの二人だけ━━━。

    だが、この戦いは、この戦いだけは、俺たち二人で生き延びねばならない。
    相手はルーデウス・グレイラット━━━失敗した世界の俺なのだ。
    あちらの世界のエリスは、そんな奴を止めようとして、つい先刻敗れ去った。
    攻性魔術で吹き飛ばされて、生死不明だ。或いは、もう……。

    「━━━ルーデウスッ!!」

    エリスの声で、ハッとなる。
    視界一杯に白い巨体━━━魔王鎧が飛び込んできた。

    「うおッ!」

    急制動、風魔術の『爆風』で一式の重い体を、無理やり捻じ曲げるようにして機動させた。
    ドンッ!という爆音のすぐ後に、質量を伴った暴風が通り過ぎる。
    危ないところだった。あんな暴走トラックみたいのと正面衝突したら、こっちがオシャカだ。

    魔王鎧も急制動をかけるが、地面が大きく抉れ、体勢が崩れる。そこを狙って、ショットガンを撃ち込む。一発、二発、三発━━━。
    しかし弾丸は鎧の分厚い装甲に虚しく弾かれてしまう。いや、アレは魔導人形の鎧に元々備わっていた、水神流の防御機能かもしれない。どういう理屈か解らないが。
    とにかく、遠間では威力が減衰させられてしまう。やるなら零距離射撃だが……。

    『バオオオオオォォォォォォォッ!!』

    魔王鎧が吠える。下腹部の顔が口をガパッと開き、そこから衝撃波が放たれた。

    『ザッハーク・バスターッ!!』

    無色透明の破壊の力が、地面を抉りつつ俺に迫る。

    「クッ━━━」

    身体が引っ張られ、押し潰されるような重力。ミシミシと身体が悲鳴を上げる感覚。
    魔術を併用し、衝撃波を避ける。急制動の繰り返しで、流石に身体にG負荷がかかりすぎだ。
    どれだけ魔導鎧の性能を向上させたとしても、中身の俺は闘気を纏えない。
    このジレンマは、いずれ何らかの方法で解消せねばならないだろう。

    ━━━などと意識がブレた隙を突かれた。

    『ザッハーク・バルカンッ!!』

    魔王鎧の両肩の顔も口を開け、まるでガトリング砲のような岩砲弾の連射。

    「うォッ!」

    一式の両腕で操縦席、とりわけ俺の頭部を防御する。
    鼓膜が破れそうになるくらいの連続した金属音。
    弾丸が魔導鎧の装甲に弾かれている音だ。
    外装を貫くほどの威力では無いようだが、喰らいすぎはマズい。

    「ガアアアアァァァァァッ!!」

    俺に向けられている魔王鎧の隙を突いて、エリスが背後から斬りかかった。
    パッカーンという、乾いた薪を割ったような甲高い音。
    こちらからは見えないが、鎧の背部を大きく斬り込めたようだ。
    着地し、一旦距離を取ってから、もう一度エリスは斬撃を放とうとする。
    その瞬間、俺はザッハークの全身が、モゾリと大きくなった錯覚を覚えた。

    「━━━ッ!?離れろ、エリスッッ!!」

    咄嗟に俺は叫んだ。エリスはそれに反応したのか、踏みとどまって横っ飛びに跳んだ。
    その寸前、魔王鎧の背部装甲が展開する。

    『ザッハーク・フレアッ!!』

    くぐもった声が響く。
    展開された背部から、炎を含んだ灼熱の熱風が爆発的に放射され、一帯を焼いた。

    「━━━エリスっ!?」

    爆風に巻き込まれたか!?一瞬、心臓が嫌な鼓動を打った。
    しかしエリスは両腕で顔をガードしつつ、転がるようにこちらに駆け込んできた。

    「━━━ブハッ!!」

    腕や顔の一部が、真っ赤になっている。若干、熱風に巻き込まれたようだ。
    俺は即座に近寄って治癒魔術をかけ、魔術で冷水を生み出し、エリスにぶっかけた。

    「冷たッ!!━━━ちょっと、ルーデウスッ!!」

    ビックリしたのか、非難の目を俺に向ける。
    いやしかし、服もブスブスと煙を上げてたし、判断としては問題ないんだが。
    しかしエリスもそれを理解したのか、反抗的な態度も一瞬だけで、まるで獣が身震いするように、身体と髪に付いた水気を振り払う。

    「ふう━━━なによアイツ、背中からも炎を出してきたわ。あれも、魔術なの?」

    油断なく魔剣を構え直し、エリスは俺に問うた。良かった、アフロになってない。

    「いや、あれは多分、鎧内部に篭った熱の排出行動を兼ねているんだと思う」

    俺は明確では無いものの、思いついた事を喋った。エリスは変な顔をする。

    「……じゃぁ、魔術じゃないの?」
    「うーん、連続しては出せない……のかもしれない」

    ハッキリ言って、よくわからない。しかし、背後からの攻撃は得策では無いのは明らかだ。

    「ふぅ…ん?とにかく、背中からは攻撃しない方がいいのね?」
    「ああ……どちらにせよ、体幹部は装甲が分厚すぎて、いくら『喉笛』でも、中にまでは届かないかもしれない。下手をすると、折れる━━━」

    そう言って、俺はあの悪夢のような情景を思い出す。

    半壊し、擱座した奥の手「魔導鎧・零式」━━━。
    腕を強化し、圧倒的な破壊力を見せつけた「闘神」━━━。
    一撃、あとほんの一撃で、俺は殴り殺される、そんな刹那に、エリスは飛び込んできた。
    俺と「闘神」の間に割り込み、その丸太のような腕を斬り落とした。
    しかし━━━その際に「鳳雅龍剣」は折れた。硝子細工のごとく。
    エリスはそれにも関わらず、俺と「闘神」の間から動こうとしなかった。
    それどころか、子を守ろうとする野生の獣のように、牙を剥いて吼えた。

    その光景は、俺にとってエリスの事を惚れ直す光景でもあり━━━
    闘う牙を失い、それでも虚勢を張って、自らを犠牲に子を救おうとする母犬の姿だった。

    あの日以降、時折夢に見てしまう。
    もし、あそこでイゾルテやギレーヌら援軍が駆けつけていなければ。
    シルフィたちが間に合っていなければ。
    俺は永遠にエリスを失っていただろうし、俺自身も命を落としていただろう。
    あんな思いは、二度としたいものじゃない。させたくもない。

    「━━━胴体部分では無く、腕や脚を狙っていくんだ。俺は俺で頑張ってみる」
    「わかったわッ!!気をつけなさい、アイツの攻撃、掠っただけでもヤバいわよ」
    「お互い様だ。エリスも気をつけてくれ」
    「ええッ!━━━行くわよッ!!」




    -------




    ━━━そこが何処かは、わからない。

    ただ、音のズレたオルゴールが鳴っていた。

    不協和音━━━人のココロを不安にさせる旋律。



    ━━━シクシク、シクシク。


    どこかで、誰かが泣いている。

    どこかは、判然としない。

    前なのか、後ろなのか、上なのか、下なのか。

    近いのか、はたまた遠いのか。

    この万華鏡ような世界は、距離感が掴めない。

    ━━━シクシク、シクシク。

    それでも、誰かが泣いていた。

    俺は周囲を見渡す。

    世界は反転しているようであり、暗転しているようでもあった。

    見たことも無い世界。既視感すら覚えない世界。

    ━━━シクシク、シクシク。

    気が付けば、すぐ近くで、誰かが泣いていた。

    ソイツは、よくわからない何かだった。

    黒くて、細くて、腐った水の臭いがする。

    ソイツには、足が無かった。

    だから、細くて長い触手のようなものが、無数に生えていた。

    ソイツには、腹が無かった。

    だから、自分の体をボリボリ貪っていた。

    ソイツには、背骨が無かった。

    だから、自分が何によって成り立っているのか、理解出来なかった。

    薄気味悪いソイツは、だから泣いているのだった。

    「━━━薄気味悪いって、酷いことを言うね、キミは」

    ソイツが、突然声を発した。少年のような、女の子のような声だ。

    「よく見てみなよ。キミの姿。キミ自身の醜さを」

    クスクスクス━━━。ソイツは俺を嘲りながら、ギョロリとした眼で俺を見た。

    俺は両手を見る。黒くて、細くて、水が腐ったような臭いがする。

    ひどく腹が減っている。なんでもいいから、何かを齧りたい気分だ。

    ひどく不安定なココロ。まるで、背骨が無くなって、自分が一体何者かも解らない。

    「キミはボクだよ。ボクはキミだよ」

    ソイツはニヤニヤしている。ニヤニヤして、ユラユラ揺れている。

    ━━━こワイ。オソろシィ。空っぽの腹の中で、俺は恐怖を感じていた。

    オマエは一体何者なんだ。俺は一体ナニモノなんだ━━━。

    クスクスクス━━━。ソイツは本当に愉快そうに笑う。

    「酷いなぁ。キミが、ボクを食べちゃったんだろう」

    ソイツが、血まみれの顔を俺に向けた。

    茶色い髪の毛。左目の泣きボクロ。まだ成長しきっていない、少年の身体。
    ぽっかりと穴の開いた胸からは、止めど無く黒い血が、だらだらと流れ続けている。

    ━━━俺が、おマエを、食べタ、だと……?

    「そうだよ『━━━━』。……長い付き合いなのに、随分と冷たいじゃないか」

    ゴボリと━━━。
    口から黒い血を吐き出しながら、ソイツは顔を愉快そうに捻じ曲げた。




    「ボクの魂を━━━ルーデウス・グレイラットの存在全てを食い散らかした、寄生虫め」




    -------




    どれくらいの時間、戦ったのだろうか。
    恐らく、ものの五分、十分だと思う。
    しかし、体感的には、一時間以上戦い続けているような気がする。
    勿論、一式を全力稼働して一時間もすれば魔力が枯渇するので、あくまでも体感的にだ。
    それ程に、この戦いは密度が濃かったと言える。

    とにかく、「魔王鎧・ザッハーク」はしぶとかった。
    エリスが腕や脚に何度も鋭い斬撃を放ち、俺が一撃離脱で「ショットガン」をブチ込む。
    奴の右肩と下腹部の顔は「ショットガン」で潰した。
    エリスも六本ある腕のうち二本を斬り飛ばしていた。
    勿論、こちらも多少の傷を負った。だが致命傷という程でもない。

    「エリス、傷は大丈夫かッ!?」
    「ええッ!そっちこそ、どうなの!?」
    「大丈夫だ!魔力もまだイケる!」
    「わかったわッ!!」

    お互いの無事を確認しあう。そして、また魔王鎧に向かって突進する。

    エリスが牽制し、俺が接近して射撃。或いはその逆。
    息合った連携。止まらないコンビネーション。
    それは変わらない。変わったのは、奴━━━魔王鎧のほうだ。

    一見、徐々にダメージを与えているように見える。
    「闘神鎧」と違い、奴は受けたダメージを回復する事は出来ないようだ。
    動力源が「俺」の魔力である以上、いずれ枯渇して、機能停止に陥るかもしれない。
    人形9体分の魔力結晶炉を吸収したとはいえ、どう考えても、今の俺以上に、奴のガス欠は時間の問題だ。

    ━━━それなのに、奴は徐々に強くなっているように思えた。

    思い過ごしか━━━いや、明らかに様子が変わっている。
    威力は凄まじいが鈍重な突進が、段々と避けにくく正確になりつつあり。
    闇雲に振り回していた幾本もの腕が、今は明確に俺とエリスだけを狙ってくる。
    先ほどまでは、まだ人間らしさの残っていた動きが、今はまるで野獣のような鋭さだ。

    正直、読めない。どう動くか━━━いや、何を考えているか。
    ……人間性を失っている?鎧に、人としての理性が奪われている?
    それはまるで、あの━━━

    『バオオオオオオオオオッ!!』

    魔王鎧が吼えた。その瞬間、胸部装甲が展開し、電光を伴った凄まじい光量が迸る。
    その破壊の矛先は、俺ではなく、エリスだった。

    「━━━やばィッ!!エリスッ!!」

    俺は咄嗟にエリスを抱え込んで、奴の射線上から飛び退く。

    『ザッハーク・コレダーッ!!』

    魔王が叫んだその直後、光と轟音の奔流が、背後を舐めるように焼き尽くしていった。

    「ウ、ウグッ━━━」

    激しい振動が、「一式」内部にまで響いてくる。
    抱え込んでいるエリスを抱き潰さないよう注意を払いつつ、俺は着地した━━━つもりだった。

    「おッ……」

    ━━━ガクンと。視界が斜めになった。咄嗟に片腕を地に着けて機体を支える。

    「キャッ!」

    エリスが小さく悲鳴を上げた。抱えっぱなしだったので、衝撃が彼女にも響いたからだ。
    俺はそっとエリスを解放した。トトンッと軽やかに地面に降り立つ。
    振り向いて、そして━━━息を呑む。

    「ルーデウス……、その脚……」

    そう言われて、足元を見た。
    ━━━無い。ごっそり、「一式」の左脚部の膝下から先が消え失せていた。
    道理で姿勢制御が出来なかった訳だ。だって足が無いんだもん。
    ……って、他人事みたいに言ってる場合か。この場合、凄くかなりヤバくないか?
    チラリと魔王鎧の方を見やる。
    奴は展開した胸部装甲を収納し、後方に排熱をしていた。
    そして、グルリと首を回し、俺を睨めつける様な仕草をした。

    「くそッ、エリス、逃げ━━━━」

    全てを言う前に、俺はトラックと正面衝突したかのような衝撃に襲われた。
    既視感……いやそれ以上の衝撃。魔王鎧のぶちかましを正面から食らったのだ。
    ━━━ふざくんなッ!!人生で何度もあるか、そんな衝撃!!
    意識が一瞬遠くなる。視界がグルグル回っている。……俺は宙に吹き飛ばされていた。
    激しい遠心力。その少し後に、さらに激しい衝撃。
    二転、三転とゴロゴロ転がる俺と「一式」。

    「ガハッ━━━」

    受身を取って、なんとか止まる。……目の前が幾重にもダブって見える。
    機体の治癒魔法陣が起動し、身体のダメージ自体は薄れていく。
    しかし「一式」のダメージはそのままだ。外装は修復するが、失った脚部は……。

    「ルーデウスッ!!」

    エリスの叫び声。その悲痛な声音に深刻さを感じる暇も無く、俺はまたも吹き飛ばされた。
    魔王鎧は執拗に俺を狙っていた。ぶちかましで吹き飛ばし、追いすがりつつ、残った四本の腕で「一式」を無造作に殴りまくる。

    (うわああぁぁぁぁぁ~~~~~~~~ッ!!!)

    巨体かつ高重量の「一式」が、まるで紙細工のように振り回されている。
    まるで、大きなミキサーに入れられた気分。ハリケーン・ミキサーだ。
    コイツ、1000万パワーくらいあるんじゃねーか?ってくらい、パワフルな打撃。
    余裕があるようなセリフだが、人間、揉みくちゃにされていると却って素になるらしい。
    デンプシー・ロールを食らってる奴も、なんかこんな感じだったし。
    いやいやいやいや、落ち着け。このままじゃヤバいのは確かだ。

    魔王鎧はパンチの連打こそ激しいが、威力は「闘神」の一撃ほどでは無い。あれは一発食らっただけで、外装ごと中身をオシャカにする。
    外殻の強固さも、俺の「一式」と同じくらいか若干低い程度。物理攻撃が通じないほどではない。
    攻撃は、多数の腕による物理攻撃か、残ったバルカンと胸部からの破壊砲、背中の排熱。
    今現在、コイツの主武装はこれだけだ。それらを潰していけば、なんとかなるか。
    とりあえず俺は「一式」の削られた脚部に土魔術でガワだけ作って応急修理とした。
    そしてその脚で踏ん張る。義足みたいなもんだが、つっかえ棒になればそれでいい。


    「━━━うおりゃッ!」

    「一式」で抱え込むようにして魔王の動きを抑える。乱戦ならいざ知らず、近接ともなれば、自らの大きすぎる鎧が邪魔をして、腕も届きにくい。何発かは喰らうが、腰の入っていないテレフォンパンチなので、パワフルな見た目とは裏腹に、威力は低い。

    「ガアアアァァァッ!!」

    追いすがったエリスが魔王鎧の腕のひとつに斬撃を放つ。カァンと甲高い金属音を響かせ、腕一本が斬り落とされた。

    「ガッ━━━」

    魔王鎧は邪魔な虫を振り払うように、腕を回した。斬撃直後のエリスはそれを辛うじて刀身で受け流す。吹き飛ぶエリス。そこをさらに追撃が襲った。
    連続する破裂音。残った左肩のバルカンだ。弾丸はエリスに向けて斉射された。

    「━━━━ッ」

    エリスは野獣の如き凄まじい回避運動で、弾丸を避けた。
    しかし、避けきれなかった弾丸が、彼女の肩や二の腕、太腿を掠めていく。吹き上がる血飛沫。千切れ飛ぶ赤毛。

    「クッ━━━そ、こんにゃろうッッ!!」

    俺は「一式」の腕でバルカンを放つ顔面を鷲掴みにした。グイグイと無理やりに砲口を捻じ曲げる。エリスに攻撃させてなるものか!!

    『グギャギャギャギャギャッ━━━』

    まるで魔獣のような苦悶の叫びを上げる人形の顔面。暴れまわる魔王鎧にしがみつき、俺はあらん限りの力で、バルカン砲頭を握りつぶした。
    グシャリ━━━。血液のようなものがドロリと吹き出す。これで武装のひとつは潰した。

    『グアアアァァアァァァァァァアアァァァッ!!』

    魔王が叫ぶ。残った頭部の赤く光る双眸が、俺を睨みつける。
    ━━━ニクイ、コロシテヤルッ!!まるでそんな怨念を浴びせられているような視線。
    しかし、なんだってこんなに憎まれなければならないのか。
    ロキシーを、シルフィを殺したのはヒトガミなのだ。俺やエリスじゃない。
    ついさっき、そう伝えた筈だ。なのに、コイツは━━━

    「うあッ━━━」

    魔王の赤く光る両目から、レーザーのようなものが発射された。すんでのところで避けたが、頬を軽く掠めた。肉の焼ける嫌な臭いがする。……コイツめ!!

    「こんの……『ショットガン・トリガー!!』」

    頭部を岩散弾で爆散させる。仰け反る魔王鎧。……鎧の癖に、痛みでも感じているのか?砕けた頭部を両手で押さえて後ずさってやがる。

    「━━━おいッ!聞こえているなら抵抗はやめろ!」

    俺はここぞとばかりに叫んだ。奴が怯んだ今が攻め込むチャンスだとは思うが、出来れば戦わずに矛を収めさせたい。甘いとは思うが━━━。

    「お前の運命を狂わせたのは、ヒトガミだ!俺たちが闘う意味は無いんだ!」
    「俺かお前か、或いは両方共倒れになれば、あの野郎がほくそ笑むだけだぞ!!」

    あらん限りの大声を出したつもりだ。奴に届いているかはわからない。
    俺は油断なく「一式」を身構えさせながら、魔王鎧を見据える。
    エリスも近くで身構えていた。あちこち出血はしているみたいだが、擦過傷程度のようだ。

    『グ……グぁウ……』

    果たして、魔王鎧の反応はあった。━━━反撃として。

    『ギャボオオオオォォォォォォォォッ!!』

    またも突進。凄まじい勢いだが、それが判っていれば、対処のしようはある。

    「『ショットガン・トリガーッ!!』」
    「━━━奥義・影縫い!!」

    俺とエリスは同時に奴の脚部を狙った。俺は岩散弾、彼女は剣による脚払い。
    右脚を散弾で吹き飛ばされ、左脛を魔剣に両断され、魔王鎧は姿勢を維持出来ず、俺たちの脇をそれこそ弾丸のように吹っ飛んでいき、地面に激突した。

    ━━━なんだ、アイツ……。

    ヤケになったかのような、捨て鉢の体当たりか?
    しかし、今、姿勢を立て直そうと踠いている魔王鎧の動きには、意思というか人間的なイメージが感じ取れない。動物的━━━いや、どちらかといえば虫のような……。

    『ガッ……ヴぁぅ!』

    ぐりんと腹這いになり、残った三本の腕と欠けた両脚をガサガサと動かし、こちらに向かってくる。本当に虫のような動きになっている。正直、キモい……。
    俺は『ガトリング』を構えて、向かってくる奴に向けてぶっ放した。

    「『撃ち抜けッ!』」

    フィィィィィィィィンという乾いた駆動音。
    発射された岩砲弾は、吸い込まれるように魔王鎧に向かって行く。
    砲弾の大半は外装で弾かれるが、ジワジワと少しずつ削っていく。

    「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」

    気合を発しつつ、俺はさらに魔力を込めて『ガトリング』を撃ち続ける。
    徐々にだが、弾かれる砲弾が減ってきた。どんどん奴の外装が砕けていく。

    『ガヴぁオォォロオォぉオオるォおオッ!!』

    ボロボロになりつつ迫る魔王鎧。最早、魔王とか鎧とかというよりも、何か巨大な生物の死骸が蠢いているかのようだ。

    その時、ガラスが割れるような音を発して『ガトリング』の砲身が砕け散った。散々殴られた後に、一気に撃ち過ぎたのか!?
    それならばと『ショットガン』に切り替える。こっちもいつまで撃てるか解らないが。

    「『ショットガン・トリガーッ!!』」

    一気だ。一気に決めなくては!
    バァンッ!!バァンッ!!バァンッ!!バァンッ!!━━━。
    激しい破裂音を轟かせて、岩散弾が発射される。
    散弾は一発ごとに魔王鎧の各所をごっそりと削っていく。
    魔力消費は大きいが、今はコレで決めるしかない。俺は一気呵成に散弾を叩き込んだ。

    バァンッ!!━━━腕の一本を粉砕した。
    バァンッ!!━━━脚を根こそぎ吹き飛ばした。
    バァンッ!!━━━肩から背中にかけて、ごっそりと削った。
    バァンッ!!バァンッ!!バァンッ!!━━━無我夢中で撃ちまくった。



    -------



    ━━━気が付けば。

    『ショットガン』の砲身は砕けており。
    魔王鎧は全身ボロボロになって、俺とエリスの目の前数メートル先で、ぐったりと突っ伏していた。シュウシュウと、身体のあちこちから白煙を上げている。

    「━━━ハァッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!……」

    呼吸の仕方を忘れていたように、俺の肺は酸素を求めて喘いだ。
    全身がぐっしょりと汗に塗れている。操作球を握り締めた手が硬直してガチガチだ。
    額の汗を拭おうとして、操作球から手を引き剥がすのに苦労した。どんだけ緊張していたってんだ。前腕部が引きつったように痛い。
    猟銃一丁で羆に立ち向かっていたマタギ達の気持ちが、なんとなく理解出来た気がした。
    まぁ、魔剣ひと振りで羆退治が出来そうな嫁さんが一緒だけどさ……。
    そのエリスが近寄ってくる。油断無く、魔剣の切っ先を朽ち果てた鎧に向けつつ。

    「━━━倒したの、コレ」
    「うーん……わかんね」

    骸のような魔王鎧はピクリとも動かない。
    あれほどの威容を誇った巨体も、今や見る影もなく崩壊している。
    三対六本の腕は全て吹き飛び、或いは斬られ、両脚も千切れ飛んでいる。
    物理攻撃を跳ね返し、或いは受け流していた純白の外装甲もほぼ剥げ落ちていた。

    ロボアニメ的に言えば、完全に沈黙しているって感じだ。見た目、アムロにボコられたサザビーよりもボロボロだもん。どちかというと、ニューネッシーっぽい。

    「…………」

    魔王を━━━俺を倒した。それは、なんとも後味の悪い事だ。
    完全な悪と言えるほどでは無く、かといって看過出来る存在でもない。
    なにせ俺を殺して、この世界のルーデウス・グレイラットとして成り代わろうとしていたんだから。そんな事をしたって、俺になれっこ無いのに……。

    俺はボロボロになって横たわる、魔王の成れの果てを見下ろして、つくづくと考える。
    人というのは、それぞれの役割があって、生まれ死んでいくんだと、今は思っている。

    ━━━生まれ生まれて、生のはじめに暗く、死に死に死んで、死の終わりに冥し。

    俺たちは、何かを為すために生まれ、その何かを理解する為に死に向かっていく。
    決して妄りに他の誰かの生を奪ったり、死を弄ぶためでは無い。
    自分の人生は自分だけの物。それを放棄してはならないんだ。

    俺はこの世界に何を為すために転生したのか。それは未だに解らない。
    いずれは、オルステッドにならわかるかもしれない。或いはララになら━━━。

    「━━━ルーデウス」

    ハッとなる。エリスが俺のすぐ傍まで来ていた。心配そうな顔だ。

    「……大丈夫?顔色が優れないわよ」
    「あ━━━うん、平気だよ。ゴメン」

    うん。難しく考えている場合じゃなかった。
    とりあえず、この残骸をどうにかしないとだな。
    あと、何か忘れているような……。

    「ルーデウス。あの子を探さないと……」

    エリスが顔を曇らせて、そう言った。
    そうだそうだ、もう一人のエリスが居たんだった。
    魔術でどこかに吹き飛ばされている筈だ。俺たちの戦いの場周辺には見当たらなかったから、相当遠くまで飛ばされたのかもしれない。

    「おっと、その前に━━━」

    俺は魔王鎧の残骸に向けて、火魔術を放った。
    ボンッという音と共に、かなり大きい火炎が発生する。
    コイツは魔獣では無いが、下手に死骸を残しておきたくない。焼くのがベストだ。
    しかし、鎧の四肢は全て千切れているとはいえ、まだ二メートル以上はある。
    それを覆う規模の火炎だ。かなりデカい。濛々と炎と煙が吹き上がる。

    ━━━成仏してくれよ。未来の俺。

    両手を合わせて拝んでおく。この世界の神は胡散臭いのしかいないが、とりあえず。

    「……行こうか。見つけたら、すぐにでも治癒魔術をかけてやらないと」
    「ええ、頼むわね」

    炎に背を向けて、俺とエリスは歩を進めた。

    ━━━その後ろで。モゾリと炎が盛り上がった。

    「「━━━!?」」

    俺たちは同時に振り返る。

    そして━━━絶句した。

    確かに、魔王鎧の「残骸」は、燃えていた。
    それだけの魔力を込めた炎なのだ。

    しかし、俺たちを見下ろすように立ち上がったソイツは━━━。


    「ル……ルーデウ、ス」

    エリスの絞り出すような声。呻いているようにも聞こえる。
    ひきかえ、俺は声も出せなかった。


    ソイツはまるで、━━━━黒い大蜘蛛。

    外装は確かに全て剥げ落ち、或いは焼失している。
    しかし恐らくは中枢のフレーム……剥き出しになった内臓骨格とでもいうのか。
    黒々とした躯体は、最早、人のカタチを喪失しており。
    無数に生えた細長い節くれた触手によって胴体を支え、ゆらゆらと立っていた。
    黒光りするその表皮は脈打ち、まるで生命体のように蠢いている。
    そして中央部分にある、赤く不気味に濡れた。大小様々ないくつもの眼……。
    そのすべてが歪であり、禍々しい異形さだった━━━。


    「アレ……何よアレ━━━」

    エリスは呻いた。どんな手強い相手でも怯まない彼女が、畏れている。
    魔剣を構える事すら忘れ、ただ凝然と、その異形を仰ぎ見ていた。

    最早、人でも魔人でも、魔王でも鎧でも無い、別の何かは。
    赤く濡れたいくつもの眼をこちらに向け。


    ━━━━ニィ。


    っと、嗤った━━━。







               ーその16につづきますー





    それでは、また。(店`ω´)ノシ



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