無職転生・二次創作小説「王竜王の迷宮」その16「 顎 」
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無職転生・二次創作小説「王竜王の迷宮」その16「 顎 」

2015-11-12 21:24

    -------

    (━━━ガリガリと、何かを齧る音がする。)

    そこは、一面の真っ白い世界。

    黒い雪があわあわと降る、優しくて暖かい、狂気の世界。

    俺はボンヤリと、真っ白い空から降る黒い雪を、いつまでもいつまでも見ていた。

    (━━━ズルズルと、何かを啜る音がする。)

    暖かいのかもしれない。寒いのかもしれない。よくわからない。

    多分、寒いのだろう。

    でも、今の俺には、体を抱える腕が無い。

    体温を維持するための、服も無い。

    ただ、黒くて、ドブ臭い肉がこびりついているだけだった。

    (━━━ゴキリと、何かをへし折った音がした。)

    それは、俺の首をへし折った音。ルーデウス・グレイラットの首の音。

    ありえない角度に捻じ曲がった顔が、俺を見て嘲笑う。

    「どうにも、意地汚い寄生虫だね、キミは」

    キセイチュウ━━━━虫。

    腹の中に潜む虫。脳の中に棲む異生物。本人に成り代わる━━━害虫。

    それが、俺なのか。

    「そうだよ。ボクの全てを貪っておいて、今更だよね」

    ニタリと笑う俺。不気味なほど、優しい笑顔。安心感を覚える微笑。

    それから、ゴポリ、と。

    その口から、目から、黒い水が溢れ出した━━━。

    嗚呼…と。俺は呻いた。

    腐っている━━━。

    俺が、腐っている。

    俺の姿をした、ルーデウス・グレイラットは、生きながらに腐っていた……。



    -------



    ルーデウス・グレイラット。
    異世界の人物。六人の子持ちであり、三人の妻を持つ男性。勝ち組、リア充。誠〇ね。
    ━━━つまりは、俺だ。
    俺思う、故に俺あり。俺は俺。俺ありはべりいまそかり。

    かつて紆余曲折の偶然により、地球世界からこの異世界に魂だけで迷い込み、縁あってこの体で生まれた。以来四半世紀以上、ルーデウス・グレイラットとして生きてきた。それは今も変わらない。変わってたまるか。

    愛する家族に囲まれ、幸せ満喫中。友人も多く、責任のある仕事を任され、毎日充実して生きている。前世では味わえなかった事を、今世では味わい尽くしている真っ最中です。
    人に生まれて良かった。ゴブリンやオークではこんな人生、経験出来ないだろう。
    人間バンザイッ!!


    ………。
    ……。
    …。


    ━━━然るに、アレはなんなのだ。

    目の前に佇立する、漆黒の肉塊。
    細く節くれだった無数の触手を大地に突き立て、ゆらゆらと揺れている。
    黒い肉塊の中には、赤く濡れたいくつもの眼。捕食者の眼。

    ━━━まるで蜘蛛だ。
    ━━━人よりも遥かに大きな、大蜘蛛だ。
    ━━━アラクニッドだ。

    ……その怪異な魁偉に、俺は畏怖を感じてしまう。
    恐れ知らずのエリスですらも、絶句している。

    それもその筈だろう。
    俺たちが先刻まで延々と戦っていた相手。
    それは、別の世界線、別ルートの俺。老いたルーデウス・グレイラットだった筈だ。
    こんな、悪夢が具現化したような、悍ましい存在では無かった筈なのだ。

    「ル、ルーデウス……」
    「なによアレ……なんなのよ……」

    エリスが震えた声を出す。気の強い彼女にしては珍しい事だ。
    俺は醜悪な塊━━━黒い大蜘蛛から、視線を外さずに、彼女に応えた。
    蜘蛛ですが、なにか?━━━違う違う、そうじゃない。

    「わからん━━━なんで、あんなになっちまったのかなんて、わッかんねーよ……」

    一体、何がどう作用して、人間が、俺があんなのになっちまうってのか。
    思いつくのは、魔導人形に使っていたであろう素材、不死魔族や竜族の血液。
    アレが、俺の放った火炎の熱で化学変化でも起こして、核である奴と融合でもしたのか。
    科学者でもなく、神ですら無い俺に解る筈も無い。

    大蜘蛛は俺たちを睨めつけながら、ゆらゆらと揺れている。
    何を思っているのか━━━それとも外見通り、虫ケラのようなココロに成り果てているのか。
    ……とにかく、先制攻撃だ。俺は岩砲弾を生成、大蜘蛛に向けて射出した。

    弾丸は過たず真っ直ぐ飛んでいき、大蜘蛛の胴体に突き刺さった。
    ドボッという濁った音がして、穴が開くには開いた。
    いや、めり込んだという方が正しいかもしれない。
    バーディガーディの時のように爆散するかとも思ったが、そんな事は無かった。

    「……?」

    胎内に弾丸を撃ち込まれたというのに、反応がない。
    黒い肉塊を凝視する俺とエリス。ゴクリと固唾を呑む音が、えらく大きい。

    十秒、二十秒。もしかしたら一分━━━。
    短いような、長いような。
    ━━━その実、一瞬だったのかもしれない。

    もぞり、と━━━。
    黒い大蜘蛛が、その時、動いた。
    全身の触手を、雲丹のように逆立てて━━━。

    「Kiiiiiiiiiooooooooooohhhhhhhhhhaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」

    耳をつんざくような、悲鳴にも似た叫び声。ガラスを擦り合わせたような響き。
    うわッ━━━俺もエリスも、同時に耳を塞いだ。それでも鼓膜を震わせる。
    その瞬間、視界がグラリと揺れた。━━━この感覚、覚えがある。
    確か、あれは、森の中の小屋。誘拐犯のアジトでの事。捕獲されていた聖獣レオを解き放った時の事━━━。

    「ルーデウスッ!来るわよッ!!」

    エリスの悲鳴にも似た怒号が響く。
    回想する暇も無かった。すまん、ギュエス。お前の腹筋は忘れない━━━いや忘れたい。

    「━━━うぉッ!」

    突然に、大蜘蛛は無数の触手を俺たちに向けて伸ばしてきた。先には鋭い鉤爪。
    だが俺もエリスも余裕を持って躱せる速度。
    触手系の魔物によくある、なんて事無い触手攻撃━━━。
    そう思った矢先、黒い塊が、視界いっぱいに飛び込んできた。

    「~~~~~ッッ!!」

    咄嗟に避ける。その真横を、恐るべき質量を伴った颶風が吹き抜けた。
    愕然となり振り返ると、もうそこには何もいない。
    見えるのは━━━黒い残像。

    大蜘蛛は激しく動いていた━━━上下左右、あらゆる軌道で。
    ……ありえない。正直、目で追うのすら難しい程の速さだ。
    残骸だらけの廃墟を、縦横無尽に駆け巡る。風魔術とは違う、物理を超えた異常な軌道。
    まるでピンボールのような動き。閉鎖空間で思い切りスーパーボールを投げたような感覚。
    どこから来るのか判然としない。なんだよ、コレ!
    そして唐突に、「一式」の機体にガガンと衝撃が走る。

    「がッ、ぐぁッ━━━」

    大蜘蛛は知らぬ間にすぐ近くを通り過ぎていた。目にも止まらぬ加速。
    そして、ついでとばかりに、触手の鉤爪で「一式」の装甲を引っ掻いていきやがった。
    衝撃のあった箇所を見て、俺はギョッとする。
    俺の作り出せる最硬度の素材で出来た装甲に、深い爪痕がザックリ付けられていた。
    ゾッとする程の攻撃力━━━。生身のエリスが食らったら、ひとたまりもないぞ。

    「エ━━━」

    大蜘蛛の接近を警戒しつつ、エリスを見やる。

    ━━━エリスは流石だった。

    ゴム球のように跳ね回る肉塊をちゃんと捉えているようだ。
    最小限の足捌きで躱し、隙を見て反撃している。ウチの嫁さんってスゲー。

    「Gyaaabaaaaaaaaaaa!!!!」

    エリスの足元に、ボタボタと黒い物が落ちた。蜘蛛の触手のようだ。
    一瞬、大蜘蛛の挙動が鈍る。それで判明した。
    大蜘蛛は触手を無数に伸ばし、それを周囲の地面や建物の残骸に突き立て、伸縮させて縦横自在に移動していたようだ。
    あの異常な機動力の正体は、これか。つまりウニボールか!!

    しかし、移動の手段を見切ったからといって、打開策が俺に浮かぶ訳も無く。
    そもそも、俺自身は奴の異常な加速に付いていけてない。
    大蜘蛛は自分を傷つけたエリスを目下の標的にしたのか、執拗に彼女を狙っている。
    俺は魔術でなんとか大蜘蛛の足を止めようとしたが、「泥沼」は接地面の少ない触手には効果が薄い。氷魔法で五体を固めようにも、そもそも、その魔術が当たらないのだ。
    広範囲に火炎魔術や氷結魔術を使えば、エリスにまで被害が及ぶ。手詰まりだ。

    ━━━クソッ!ガトリングもショットガンも失った今、俺に奴を捉える術が無い!

    エリスの剣技に頼るしか無いのか?少しずつでも、ダメージを与えられているようだし……。
    しかし、俺のその安易な考えは、すぐに否定された。
    確かに、触手は何本か斬り落とされている。胴体にも斬り付けてはいる。
    しかし、傷はすぐに塞がり、触手も次から次へと生えてきた。ファックなの!!

    くっそ、何か無いか、何か……。
    焦りだけが募っていく。打開策、俺に出来る事……。


    ━━━ふと、その時、あの老人の言葉を思い出した。


    『━━━お前もうすうす感づいていただろうが、この世界の魔術ってのは万能だ。そこに気づけば、大体なんだって出来る』

    ━━━そして、次に浮かんだのは、魔人の使っていた弾幕魔術。

    点ではなく、面での広範囲魔術。
    だが、俺にあんな器用な真似が出来るのだろうか。
    アレは、常に多勢と戦い続けていた魔人の編み出したオリジナル。
    文字通り、ボロボロに傷つき、血反吐を吐きながら習得した超高難度魔術だろう。
    引き換え、俺は常に仲間と共に戦ってきた上に、直線的な戦い方しか知らない。

    ━━━だが、やるしかない。

    その決意と共に、俺の脳裏には黒い笑みを浮かべたとある工作好きの、あの老人の言葉が浮かんできた。

    ━━━『できるかな、じゃねぇよ やるんだよ』……はい、その通りです。

    いよぉっし!!やったるぜ!!
    おっと、その前にエリスに声をかけておこう。俺の下手な横槍で、彼女のリズムを崩しかねないからな。

    気合を入れ直し、俺はエリスに叫んだ━━━。



                     *



    (━━━キモイ!キモイキモイ超気持ち悪い!!)
    (━━━なんなのよ!なんなのよ、この物体!!)


    黒い肉塊との何度目かの交錯。
    切り落とした触手は五本を数える。胴体にも何度か斬りこんだ。
    しかし、どうにも嫌悪感は拭いされない。剣が汚染されていくような感覚。

    私は背筋に走る怖気を抑える事が出来なかった。
    あたり一面を高速で動き回る黒い塊。
    細長い、節くれだった触手を何本も何本も生やしたその外見は、私の大嫌いな生き物にソックリだった。

    ━━━蜘蛛。

    あの生き物だけは、どうにも許容出来ない。

    それは、幼い頃のトラウマに起因する━━━。


    -------


    ……五歳くらいの頃の事だ。

    イタズラっ子だった私は、いつものように屋敷内や庭を走り回っていた。
    ちょっとした小国のお城並の大きさを誇ったボレアス邸は、じっとしていられない私にとって、格好の遊び場だった。

    使われていない倉庫、厩、暖炉の煙突の中、厨房、武器庫、納屋。
    どこもかしこも探検していて飽きなかった。
    お母様からは毎日小言を言われていたが、私は大人の目を盗んでは、服をドロドロに汚しては、あちらこちらを探索していた。

    ━━━今思えば、ソレはお母様の言いつけを守らなかった罰なのかもしれない。

    ある日、私は立ち入るなと言われていた裏庭に侵入した。
    そこは本館より遠く、使用人の目も行き届いていない場所だった。
    その裏庭の枯れた立木の中に、納屋が寂しく朽ち果てていた。
    私の目にそれは、お伽話の魔王の城のように映った。

    ━━━面白そうだ!

    棒っきれを剣に見立てて、私は朽ちた納屋に入り込んだ。
    中は想像以上に荒れ果てていた。
    梁は折れ、埃は積り、薄暗い室内は、あちこちに空いた穴から木漏れ日のように光が差していた。不気味な程に静かで、物音は自分の呼吸音以外、一切しない。
    小さな獣の死骸でもあったのだろう。鼻につく異臭もしていた。
    入り込んだはいいが、その不気味さに、私は怖気づいていた。それでも生来の負けん気が頭をもたげてしまう。━━━こ、怖くなんか、ないもん!

    棒ッ切れを振りかざし、一歩一歩足を踏み出す。その都度、埃が舞った。
    その時、納屋のどこかから、ガサリと物音がした。ビクリとして振り向く。
    そこには古びた椅子やテーブルが無造作に重ね置かれていて、蓆(むしろ)が被さっていた。
    その蓆の奥から、カサカサという乾いた音がした。
    よせばいいのに、好奇心が勝ってしまい、私は棒っきれで蓆を剥がしてしまう。


    そ・こ・に・は・・・・・・。


    拳大ほどの大きさの、真っ黒い蜘蛛が蠢いており、その背には無数の子蜘蛛が付着していた。
    蜘蛛は真っ赤な目で私を睨みつけると、お尻から大量の粘液を噴きかけてきた。

    ━━━ああああ!思い出したくもない、あの粘着質。

    頭からベットリと蜘蛛の粘液に塗れた私は、泣きながら本館に戻った。
    メイド達はお湯を用意して綺麗に拭いてくれたが、その後暫くの間はあの感触を忘れることは出来なかった。もちろん、あの薄気味悪い裏庭には二度と近寄らなかった。


    -------


    あの蠢く肉塊を見ていると、あのベタつく粘液を思い出してしまう。
    岩を斬っても手応えすら無い「喉笛」の切れ味すら、鈍っていくような錯覚に陥る。

    しかし、あの悍ましい肉塊は一体なんなんだろう。
    元はもう一人のルーデウスだった筈だ。
    それが、何がどうして、あんな気持ちの悪い魔物になるというのか。

    私の中の何かが、警鐘を鳴らしている。━━━カチン、カチンと音を立てている。

    怨念とか、恨みとか、そういうのを超越した何かがある気がする。
    その何かは解らない。解ったところで、私にはどうにも出来ないだろう。
    私に出来る事は、ただルーデウスの牙になり、盾になる事だけだ。

    ……そのルーデウスが、私の名前を叫んでいた。他には何も言わなかった。
    きっと、何か凄い事をするのだろう。彼の目が、そう語っていた。
    ルーデウスに任せれば大丈夫。それが私の信仰。私の誇り。

    一応、前後左右、どうとでも動けるように、スタンスは広めに取っておく。
    あの蜘蛛は素早いけど、見切ってしまえば直線的な動きだ。躱すのはそう難しくは無い。
    速さでいえばニナの方が、予測の難しさでいえばルイジェルドの方が遥かに優っている。
    迂闊に手を出せば、手痛いしっぺ返しの来るイゾルテの方が、余程やり難い。

    三人を思い浮かべながら、「喉笛」は脇構えに。いつでもカウンターを返せるように。

    そういえば、ギレーヌは居合が得意だった。獣族特有の勘で、最速の抜刀を誇っていた。
    彼女の強さと疾さ。そして彼女に鍛えられた事。それも、私の矜持だ。
    五体を、精神を、魂を刃とせよ━━━。ギレーヌの気高い言葉を思い出す。

    大蜘蛛は相も変わらず跳ね回っていたが、一旦距離を取った。恐らく、そこから力を矯めて、最高速で襲いかかるつもりだろう。作戦も戦略も無い、本当に虫か何かのようだ。
    私は身体の力を抜き、空気を感じる皮膚感覚に、全神経を集中させた。


    ━━━意識が研ぎ澄まされていく。時が見える程に。


    蜘蛛が触手を伸ばす。姿がブレる。周囲をジグザグに跳ね回る。
    目に映るのは残像ばかり。行くぞ行くぞと見せかけて、私の隙を伺っているのか。
    ━━━全てはフェイク。フェイントだ。本気の一撃は、必ずある。

    そうして、蜘蛛は襲いかかってきた━━━真正面から。

    「Kiiiiiiyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

    奇声を上げつつ、私に向かって一直線。
    余りにも無策。虫だからこその行動なのか、それとも何かの考えがあるのか。

    ━━━だが、そんなの関係ない。真っ向唐竹割りにしてやる。

    そう思い、私は構えを得意の上段にとる。剣神流「天火の構え」━━━。

    蜘蛛は凄まじい勢いで迫ってくる。まるで弩の矢のように。
    ━━━だが、遅い。
    私の瞳には、それすらもスローモーションの如く、ゆっくりと映って見えている。

    ━━━もう少し、もう一歩。
    私の射程圏内まで、あともう半歩━━━。全身の闘気を収斂する。


    ━━━と。


    あと僅か。あとほんの1ミリという距離で━━━

    大蜘蛛は、ビタリと静止した。恐るべき急制動。時間にして、刹那の間。
    しかし、その僅かな停滞が、私のリズムを崩した。
    収斂した意識に、揺らぎが生じる━━━大蜘蛛は、それを狙っていたのだ。

    ━━━これも、フェイク!?

    奴はこちらに攻撃を仕掛けると見せかけて、遥か後ろに触手を喰い込ませていた。
    私の射程寸前に来るや、それを一気に縮めて全速後退。
    そして同じ手口で、再突進してきたのだ。先程よりも、更に加速して━━━。
    意識の虚を突いたその速さに、私の五感は追いつけなかった。
    例え追いついたとしても、構えが居着いてしまっている。既に死に体。


    視界いっぱいに広がっていく、黒い肉塊━━━。
    禍々しく光る、赤く濡れたいくつもの眼━━━。


    その眼には、私を嗤う色が見えた。餌が網にかかったな、と嗤う捕食者の嘲笑。
    しかし、絶妙に間を外された私には、反撃をする好機も、構えを直す猶予も無かった。
    ただ、この肉食獣の牙を、死に体となった姿勢のまま、眺めるしかなかった。

    ━━━死。

    それが脳裏に浮かんだ。
    それを感じたのは、これが初めてではない。
    龍神との戦い。剣神との戦い。闘神との戦い。
    彼ら神級位との戦いの刹那刹那に、それを感じていた。
    どの瞬間でも、戦って死ぬ事を意識し、覚悟する事が出来た。━━━誇りある死を。

    しかし、コイツは違う。コイツはただの虫だ。意地汚い肉食の虫ケラだ。
    コレは戦いでは無いのだ。一方的な捕食か、屠殺するかのどちらかであり。
    そこに、一片の誇りなど、ありはしないのだ。

    「……ルー、デ ウ  ス」

    思った以上に、消え入りそうな声が、自分の口から漏れた事に驚く。
    視界は、やけにぐにゃりと歪んでいた。


    そして世界はゆっくりと。

    かつてないほどに、間延びした時間に包まれる。


    ━━━そのスローモーションの世界の中。

    ━━━私の目の前には、視野いっぱいに広がる黒い肉塊。

    ━━━その胴体に、ビシリといくつもの亀裂が入り、ぱふぁっと広がった。

    ━━━死神の鎌のごとく、毒竜の顎(あぎと)のごとく。

    ━━━肉塊の身体全体が、乱杭歯の生えた顎だった。

    ━━━てらてらと濡れそぼる内側は、驚く程に赤く。

    ━━━その中央には、水色の魔石が、ひとつ眼のように光っていた。




    (……あぁ、喰われるんだ、私)




    ━━━ぼんやりと、私は死を思った。




    その時、聞こえてきたのは━━━




    「━━━エリスッ!!」




    大好きで大好きで、世界一大好きな、あの人の絶叫だった━━━。









               ーその17につづきますー




    それでは、また。(店`ω´)ノシ




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