アルキューステイル
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アルキューステイル

2016-04-25 07:11
  • 4

(2/19)

砂糖、塩を筆頭に、
醤油に、
味噌に、
みりんにケチャップ、

加えてサルサ、
マスタードにチリソース、
マヨネーズに、
ハーブに、
豆板醤。

料理に加えられる『調味料』の種類というものは、
手足の指を使っても、その全ての数を追い切る事は出来ないだろう。
鍋やフライパンの中で、食材は様々な調味料の洗礼を受ける。
それはまるで生まれた直後に、へその緒を切られる様な物である。
決まり事なのだ。

数ある調味料の中で、
二つの無くてはならない『それ』がある。

一つが、『温度』。

火なり氷なり、
これらの物も昔は『調味料』として位置づけられていた。
実のところ料理に於いて温度は命である。
温かい時に本領を発揮する食べ物もあれば、
冷たい時に真価を問われる食べ物もある。
現代の料理人達は今でも『温度』を『調味料』として見ているのかは知らないが。
しかし、時はうつろえど、事実だけは変わりない。
『温度』は重要な『調味料』の一つである。

では、もう一つは何か。
勿論皆様方、一度は目にした事がある品である。
『調味料』に於いて、『温度』に肩を並べるもの。

それは、『テーブルマット』。

昔の言葉に、このようなものがありました。

「テーブルマットは広げてみるまで判らない」

マルクライド、
ナーカルキャ、
モックス。

もうどれもこれも聞かなくなったブランドの名前ですが、
これらは全部テーブルマットのブランド名の名前です。
その中で事実上頂点に君臨していたのがアルキューステイルという会社でした。
しかし、このアルキューステイル。
とても小さな会社で、夫婦二人だけで経営しているものでした。
夫がマットを作り、それを妻が売っている。
そんなこじんまりとした二人だけの会社でも、作られる品は一級品。
明らかに生産が追いつかない程の注文がアルキューステイルには殺到していました。

テーブルマットというものは、
今ではかなりその重要性が変わってしまったようですが、
昔は料理に於いて大きなウエイトを締める要素でした。

料理人が手間暇かけて作った料理が最後に出される、
それが、テーブルマットの上です。

同じ料理が出されても、
乗せるテーブルマットの種類が違うと、
何とも面白い物で、料理の味が違って感じる物です。
試しに皆様も自宅でやってみるとよいでしょう。
ただし、手作りの物、しかも、布製の物に限ります。
プラスチック性のものでは『効果』がありません。

人間が編み物をする時、
余り知られていませんが、ペッキュという熱に似たエネルギーが放出されます。
このペッキュを受けた編み物は、機械製の物とは違うのです。

ペッキュには人の想いが乗ります。
冗談だと思いますか?メルヘンだと笑いますか?
ならば一度是非試してみて下さい。
きっと判ります。

このペッキュ。
或る程度時間をかければ、理想のそれを出せるようになるらしく、
それを利用して昔の大きなテーブルマット会社は大量生産を可能にしていました。

話がややそれましたが、
熟達者のペッキュで作られたテーブルマットは、
言わずもがな、乗った料理に影響を与え、
それは、『最後に加える調味料』になるのです。

アルキューステイル社は、何も最初から頂点に在った訳ではありません。
生産力も乏しく、尚且つ見た目に「花」が無い。
しかし、注文が途切れる事はない。
大手のテーブルマット会社が幅を利かせる中、
それでもアルキューステイルは頑張っていました。

そんなある日の事、国の王が品評会を開こうと言いました。
テーブルマットの品評会。
そこに出品されたテーブルマットの中で、優秀なものは王室御用達にする、と。

意気込んだ各社は力を入れました。
かつて無い程に時間をかけ、
かつて無い程に糸を厳選し、
かつて無い程のテーブルマットを仕立てて王宮に持って行きました。

王の前に用意されたテーブルの前に、
巻かれた状態で置かれたテーブルマットが並び、
王はそれを開き、手前に用意されてある料理を置いて、それを食べました。

名だたる大企業のテーブルマットが開かれる中、
一つだけ、随分とシンプルなマットがありました。
他のマットは金糸等が惜しげもなく使われており、
王の目にはそれが見劣りして映りました。

「王家の食卓には相応しくない」

そう言って、そのマットは開かれる事無く、
そのまま丸められたままでした。

王が全てのマットを試し、
一旦自室に戻られた後、各社の代表も全員料理を食べてみました。
そして、ある一人がアルキューステイルのマットを開いたのです。

王様が戻ってきて、こんな事を言いました。

「どうしても決められない。
 実は、もう二つに絞っているのだ、一番良いと思うものは。

 しかし、どうにも決められない。」

そんな中、ある代表がこう言いました。
王様、こうしてはどうでしょう。
見栄えに捉われる事無く、味だけを吟味しては如何でしょうか。
料理は見た目も大事ですが、何より問いただすは味。
味覚だけをたよりに、お決めください。

王様は目隠しをして、
部下に目の前に料理を用意するように言いました。

まず、一つ目のマットが目の前に敷かれます。
料理を口に含み、王様は「素晴らしい」と言いました。
「目を封じるだけで、こんなにも味が際立つのか」とも言いました。

そして二品目の料理。
新しいマットが目隠しをしている王の前に敷かれ、
料理が口の中に運ばれました。
そして王は言いました。
「うん、なるほど」

そこで、声が上がりました。
とある会社の代表です。

「王様、実は王様がお悩みになった二社以外に、
 もう一つ、我々自身が推したい会社の物が御座います。
 ですので、合計三品、是非お召し上がりください。」

そして三枚目のマットが王の前に敷かれ、
料理が口に運ばれました。

「うーん、確かに悪くない。
 しかし、一番ではない。
 二番目に食べた物と同じくらいの美味しさだ。
 決して不味いわけではない、決してだ。

 しかし、一番初めに食べた物が美味過ぎる。

 一番最初に食べたものを、持って参れ!!」

眼の前の料理が下げられ、
目隠しが取られた王様の前に、一枚のマットが持ってこられました。

「何だこれは。」

それを目にした王は思わず口にしました。
思っていた物と違ったのです。

「なんだこれは、どこの会社のだ。
 マルクライドのものでも、ナーカルキャのものでもないではないか!
 なんだ、この質素な作りは!」

王の声が部屋の中に響いた後、
一人の代表が王様に答えました。

「王様、私ども、実は王様が自室へお戻りになった時、
 皆が皆、全てのマットを敷いて料理を食べました。
 一つ残らずです。
 その中に、王様が開かれなかったマットがありました。
 それがその品で御座います。」

他の代表も口を開きました。

「口にして、我々全員舌を巻きました。
 お食べになった王様もお判りかと思いますが、
 そのマットのなんと恐ろしい事。
 我々が用意したマットなど、到底敵わない程の作りで御座いました。」

もう一人の代表が口を開きました。

「先程小細工をして、一番最初に用意させて頂いたのには訳が御座います。
 もし、私どもの訴えが退けられ、
 王の心にかなった二社のみでお選びになられた場合、
 このマットを敷く機会が無かったからで御座います。

 しかし、全ての中でそのマットが最も優れている事は明白。
 ですので………。」

そう言って言い淀むと、
最早部屋の中の誰も口にせず、言葉を発せず。
王様までもが黙っていました。

そして、各社の代表の中でも、一番年長の老人が足を一歩前に出しました。

「王様、剣を手にした時、
 どうしますか。」
「それは、剣は抜くものであろう。」
「その通りで御座います。
 どんな古びて見目に悪い鞘に入っていても、
 剣は抜いて斬ってみねば真価が判りません。

 我々が作るテーブルマットも同じで御座います。
 如何に見た目が他より劣っていようとも、
 テーブルマットは広げてみなければ判りません。
 その上に料理を置いて、食べてみなければ、判りません……。」

そこまで聞いて、王様は尋ねました。

「先程のマットは、何処の会社の物か。」
「アルキューステイルで御座います。」
「代表はどこに?」
「恐れながら、只今自宅に……。」
「じたくに?」
「ええ、彼は一人で全てのマットを作っているもので。
 その上、何でも明日は二軒隣の男の子の誕生日らしく、
 ちゃんと良い物を作ってやらねばいけないので、
 失礼ながら、本日はマットのみで失礼を、と……」

そこまで聞いて、王の目が細み、
そして口元が笑い、

全てを見た代表たちは、溜息を。

敗北を悟った溜息を。

「なるほど、
 何故に一番美味いか、今しかと判った。」

その日、アルキューステイルは王室御用達のテーブルマット会社になり、
一先ず20枚の注文を王から受けました。

しかし、その知らせを妻から受けた夫は、

「注文が混んでるから半年は別の会社のを使ってくれ」

と返事をし、
今度こそ、王を苦笑いさせたとか。

しかし、どうして今ではテーブルマットが料理に於いてそこまで重要では無くなったのか。
時代のせいもあるかも知れませんが、
皆さん、昔に比べて少しばかり、色んな事に時間を奪われ、
手間暇かけて『誰かの為に』、糸を織ったり編んだりする事がなくなったからでは。
今はなんでもかんでも機械仕掛け。

ペッキュを出せる心の余裕も、
さぁ、今では。

悲しいかな全て、
いまはむかしのものがたり。



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けんいちろうです、読了有難う御座います。
先日行った誕生日企画が無事に終わり、
19日間連続で更新させて頂く事に相成りました。
企画にお付き合い下さった皆様、誠に感謝申し上げます。
お祝いのコメント下さった皆様も温かいお言葉有難う御座いました。
不肖けんいちろう、今年も頑張っていきます。

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全てが大量機械生産で消費社会、経済が・・・となっている現代の中にある職人技が大好きで、その跡継ぎもいないこの時代が寂しいですね(´・ω・`)
41ヶ月前
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後継ぎがいないってどういう事なんだろうって私も思った事があります。
良い物作ってるのにそれを近くで見ていた人間達から継承者が生まれないって…。
なんとも歯がゆいものです。
41ヶ月前
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種子島の包丁などは廃れる事がすでに決まっているそうですね、次の代が育つまで三十年掛かるそうで
29ヶ月前
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>>3
三十年…!?
包丁の技術ってそんなにかかるんですね…一体何を教えるんだろ…
29ヶ月前
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