魔女の末裔
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魔女の末裔

2016-07-18 22:10

    西の森の中には魔女が住んでいるのだと母が言った。
    だから西の森に入ってはいけないとも母は言った。
    お前の事だから釘を刺しておかないと入ってしまうだろうから。
    そうとも、母は言った。

    そんな訳で、
    僕は西の森に入る事にした。

    「やるな」と言われて、
    「はいそうですかやりません」等と引き下がる子供は子供じゃない。
    多少の危険は当たり前。
    それでも挑むのが子供の仕事。

    西の森は別名『迷いの森』。
    一度足を踏み入れれば何処を歩いているのか判らない。
    生きてる者は死んでも出れない。

    そんな事を怖い口調で、
    街角の大道芸人が歌ってた。

    西の森には誰も近づかなかった。
    迷いの森である事もその原因だが、
    何よりも先ほど言ったとおり、
    「魔女」が住んでいるからだ。

    小屋を一軒見つけた。
    西の森の奥の奥。
    突然、木の葉で出来た緑の天然屋根が一部だけ切れたかと思うと、
    そこには小さな小屋がぽつんと立っていた。

    「あら、やだ。」

    そして、

    「どうしてかしら。」

    女が一人、切り株の上に座ってコップを持っていた。

    「……君、何処から来たの?」
    「……いえ。」
    「家?自分の家?
     君のおうちは何処にあるの?」
    「…ペルガーラ。」
    「…それって森の外?」
    「うん。」
    「そうよね…当たり前よね。
     アタシったら何を聞いてるのかしら。」

    女は何かに呆れたようにふふふっと笑い、
    切り株から腰を上げ、
    僕の所に歩み寄ってきた。

    「お前!」

    僕は怖くなって腹の底から出来るだけ大きな声を張り上げた。
    女は驚いて身体を少しびくつかせた。

    「魔女か!?」
    「……ええ、…そうね。
     魔女よ?」
    「うわー!」

    来た道は、
    そのまま辿れば帰り道。
    僕は西の森には確かに魔女が居る、
    その事を確認しただけで満足、
    一目散にこれまで歩いてきた道を走って戻った。

    筈だったが。

    「ああああああ!…
     あれ?」

    何故か、小屋のある場所まで戻ってきてしまった。

    「…ふー困ったわね。
     本当に調子が悪いみたいだわ。どうしましょ。」

    魔女が頬に手を当てながら歩いてきた。

    「うわ!寄るな魔女!」
    「まぁ、落ち着きなさいよ、大丈夫だから。
     それに君に謝らなきゃいけないわ。
     ほんのちょっとだけ、君にはここに居てもらわなきゃいけないから。」

    一通り騒いでみた。
    でもそれは僕の身体を疲れさせるだけだった。
    魔女の小屋になんて入っちゃいけない。
    きっと釜の中で茹でられて食べられちゃう。
    僕はそう思っていたのだが、魔女は思いの外良い人そうなので小屋に入ってしまった。

    「クッキーもあるよ?」

    そう言われた言葉が決め手って訳じゃない。
    断じて。

    「…うわー、すげぇ。」

    僕にクッキーとお茶を出してくれた魔女。
    そして取り出したのは一本の綺麗な鉄の棒。
    その鉄の棒の先で自分の腕をチョコチョコと弄ると、
    何か変な音がして魔女の腕が開いた。
    覗き込んでみると何かが沢山キラキラ光っていた。

    「ちょっと待ってねー…。
     何で空間制御が変になっちゃったのかしら…。」
    「すげぇ。魔女ってすげぇ。
     それも魔法?」
    「ええ、まぁね。」
    「すげぇ!火とか出せるの?」
    「ええ。」
    「へー!すげぇ!じゃあお金とかも出せるの!?」
    「それは無理ね。」
    「………。」

    魔法を使える魔女でも無理な事がある。
    それは子供の僕にとって拍子抜けな事実だった。

    「…その腕の中でキラキラ光ってるのも魔法なの?」
    「これは機械っていうのよ。」
    「きかい?」
    「そう。これで魔法を使えるのよ。
     それに私の事、もっとヨボヨボのおばあちゃんだと思ってなかった?」
    「うん、思ってた。」
    「この機械のせいでね、年を取らないの。」
    「へぇー……。」

    魔女は右手に持つ綺麗な鉄の棒の先で、
    左腕の中の「キカイ」を弄くっている。

    「その機械があれば、僕も魔法、使えるの?」
    「そうよ。
     でも止めた方がいいし、
     そんな技術、今ではもう無いわ。」
    「ギジュツ?って何?」
    「…少し昔話をしてあげようか。
     大体二千年ぐらい前かな。
     大きな戦争が起きたの。
     戦争って判る?」
    「?さぁ。」
    「沢山人が大勢で殺しあう事を戦争って言うのよ。
     私は普通の女の子だったわ。
     でも親が色々厄介な事をする人でね。
     私は親がした厄介な事をした尻拭いの為に、
     変な研究所…沢山の魔法がぎっちり詰まってる場所に連れて行かれたわ。
     そこで色んな魔法を身体の中に入れられたの。
     沢山の人をね、殺す為よ。

     でもね、記憶が無かったのよ。
     というか、自分が何をしてるわ判らなかった。
     だから、沢山人を殺したわ。
     でもある日、頭を打った衝撃で正気に戻ったの。
     周りには私みたいな『魔女』が何人か居てね。
     皆私を殺そうとしたわ。
     私は正気を取り戻しちゃったから。
     死にたくなかったから、他の魔女は全部殺したわ…。

     そしたらある日、
     世界中が滅茶苦茶になっちゃうくらいの大爆発が起こったの。
     とても大きい火が世界に広がったのよ。
     私は辛うじて逃げ切ったけど、
     他の魔法使いや魔女や、魔法はそれで全部なくなっちゃった…。

     だから、もう魔法は無いのよ。」
    「でも、お前が居るじゃないか。」
    「…そうね、私が最後よ。」

    魔女が言うのは笑いながらだった。
    でも、その顔は全然楽しそうじゃなかった。

    「はい、もう大丈夫な筈よ。
     家に帰れるわ。」
    「また来るぞ!」
    「もう来ちゃ駄目よ。
     今度来たら君の事、食べちゃうわよ?」
    「それは無いね!
     だってお前優しい魔女だもん!」
    「ははは…改造されて『優しい』なんて言われたの、
     君が初めてだよ…。」
    「え?」
    「ううん、そうだね、またおいで。
     私がその気になったら相手してあげる。」
    「そうか、また来るぞ!じゃあな!」
    「ばいばーい。」

    それから毎日西の森に入ってみたが、
    魔女の住んでいる家は見つからなかった。
    気付いたら入った場所へと戻ってきてしまう。

    その代わり、変な事を言う子供がちらほら村には増えた。

    「西の森には小屋があって、
     そこには金色の髪の綺麗な魔女が住んでいる。」

    けれども大人は誰も信じなかった。

    何時の時代もそうだ。
    本当の事を知っているのは、
    子供だけ。



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