笑みの代わりを召しませ
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

笑みの代わりを召しませ

2016-07-23 15:12
  • 2

(約5800文字。いつもより少し長いです。)



笑うと腹が崩れる。故に笑ってはいけない。
腹を抱えて笑うなど言語道断、
口を開ける程に笑う事はあってはならない。
笑えば腹が崩れてしまう。
とかく、笑ってはならず、
それを引き起こす物事に近寄る事、禁ず。

ボンヤリと光る裸電球の下、家族そろって夕食を囲む。
母、父、娘の三人で全員の食卓。
夏なので窓を開け放っているのだが、そこを通って微かに物音が聞こえてくる。
布が勢いよく敷かれる音、木材と木材がぶつかる音に、人の声。
人の声はよく笑い声が混じっている。

「そろそろだね」

と茶碗の中を空にした母親が口から言葉を零した。
父親の茶碗の中もすっかり空になっており、爪楊枝で歯を掻いている。
娘のユキ子は未だゆっくりと米を噛んでいる。

「ユキ、自分で片づけ出来る?」

と母親が尋ねると、娘はコク、と頷いた。

「牧美ちゃん、多分もうすぐ来るから」

空になった食器をカチャカチャと重ね、
座布団を少し足に引っ掻けつつ母親が台所に立った。
水のはったタライに食器を沈めていると、
窓の外が賑やかだと一層知り伺える。
前掛けで濡れた両手をふきふき、
母親は浴衣が掛けてある部屋にいそいそと入り、手早く服を着替え始めた。
娘は少し開いた襖の間から着替える母を見つつ箸を動かし続ける。

「それじゃあ、お母さん達行ってくるね」

父親も母親もすっかり浴衣に着替え、
居間でご飯を食べ続ける娘に言葉を放り投げた。
我関せず。そう言った様子で娘が食べ続けていると、
家のすぐそこで母親の声が聞こえる。
あら、丁度今から行くのよ、だの、
ユキの事お願いね、だの。
その声が聞こえるや否や食卓に一人残った娘は玄関の方へぐるっと首を回した。

カラカラと玄関が開く音が鳴り、
靴の脱げるタンタンという音が聞こえる。
床が誰かの足を交互に乗せられキシキシとなると、
娘のいる居間に一人の浴衣の女が一人、入って来た。

「ユーキちゃん」
「マキちゃんっ」
「まだご飯食べてたの?」
「もう食べ終わるからっ」

それまでの勢いは何処へやら、娘、ユキ子が箸を勢い良く動かす。
茶碗と皿に残っている夕食が凄い勢いでユキ子の口の中に突っ込まれた。

「慌てなくていいよ、ゆっくりゆっくり」

言われずともユキは速度を緩める。
急いで掻き込んだ夕食達が口の中で混雑しているのだ。
口をほお張らせながら一生懸命噛んでいると、
ユキの湯呑の中が空なのを見てか、
マキが急須に手を伸ばした。
しかし傾けるも茶が出てこない。蓋を開けて見ると茶葉しか残っていなかった。

「もう、水で良い、熱いから」

口をもぐもぐさせながら断続的に喋るユキの肩を二回ポンポンと叩き、
湯呑片手にマキが台所へ向かうと、
いよいよ窓の外の世界では祭りが始まるらしかった。
パチパチという拍手が風に乗ってマキの立つ台所まで届いてきた。

少し気を取られた後に水ガメに溜めてある水を柄杓で湯呑に掬うと、
そこにまだ口をモゴモゴさせているユキがやってきた。
口を動かしながら手にある食器を全てタライの中に突っ込む。

「もう、そんなに急いで」
「だって、マキちゃん、来たんだから」

相変わらずのモゴモゴ口でユキが喋ると、
いよいよ口の中が片付いたのか一つぐっと喉を震わせ、
口の中のものがすっかり綺麗に片付いた。

「ほらっ」

口をカパッと開いて見せるユキに笑ってしまいそうで、
マキは口を堅く食いしばって湯呑を渡した。

「まだ食器洗ってないのなら、洗おうか」
「えっ、いいよそんな事、あとでお母さんがやるよ」
「まぁ、いいからいいから。そうした方がおばさんも助かるでしょ」
「そんなの、本当に良いんだって。」

しかしマキがタライの中に腕を差し込む。
たわしの位置も知れたものだ、マキはこの家にちょくちょく遊びに来て、
家族ぐるみの付き合いも随分前からしている。

「家を出るおばさん達にあったよ、
 おばさんの浴衣綺麗だった」
「マキちゃんの浴衣も綺麗だよ。
 ねぇ、だからそんな、洗い物とかしなくてもいいって。」

そこまで言われてようやくマキが察した。

「今日はずっとここにいるよ。」
「えっ、でも」
「これ(浴衣)はね、お母さんに無理に着せられたの。
 今日はユキちゃんと一緒にいるって言ったのにね。
 それでも一応祭りだからって、折角だからって。」
「…なんだぁ、そうかぁ。
 あっ、でも本当に似合ってるよ」

ふふ、ありがとうと言いつつマキが食器を洗い続ける。
安堵したのか、ユキも更に「そんなのいいのに」とは言わなかった。
窓の外からは、『出し物』が始まったのか、大声で笑う人の声が聞こえる。

祭は、笑いだ。
村の者達が一堂に集まり、芸が出来るものはそこで披露する。
決して恰好を付けるような芸ではない。人を笑わせるものに限る。
踊りや話し、それを皆が聞いて皆で笑う。
それがこの村の祭りである。

祭で笑うのは、ただ面白いから、ではない。
この祭りは「労い」である。

笑ってはならない。
笑っては腹が崩れる。
腹が崩れては、『縛り』が解けてしまう。

解けてしまっては放たれてしまう。
放たれてしまえば村が一晩のうちに食い殺される。
故に笑ってはいけない。

食器がぶつかり合う音を聞きながら窓から図々しく入ってくる笑い声に、
マキは腹の底にのしかかる様な気持ちを抱えていた。
祭の場所には村の人間が残らず集っている事だろう。
此処にいる二人を除いては。
祭で集った村人は全員一人残らず腹を抱えて笑ってる事だろう。
この台所で食器を洗っている二人を除いては。

「…さて、と」

手を拭うマキの横でユキがゆっくりと食器を拭いていた。

「じゃ、居間に行って遊ぼうか」

ユキの髪は額の前で左右に分かれている。
どうぞ、ここに、と主張しているようなその額に、
マキが一つ、唇を添えた。

「今日のマキちゃん、本当に似合ってるよ」

マキに手を取られ、ユキが少し後ろを歩きながらそう言うので、
笑いながらマキがこう提案した。

「私もユキちゃんの浴衣見たいな。
 タンスに入ってるの、引っ張り出そうよ。」
「私、浴衣多分もう着れない…。」
「え?」
「だってもう三年も前のだもの…」

三年前である。
ユキが笑ってはいけないと禁じられたのは、三年前の事。

「…試しに、探してみない?」
「うん、わかった…。」

タンスの奥から引っ張り出した浴衣は一目見て小さいと判った。
十二の時にぴったりだった浴衣は、
三年経って成長したユキの体を不自然なく賄える役目を終えていた。

「ほら…これじゃ足がちょっと出過ぎる…。」

体に浴衣を合わせたユキの顔が曇る。
タンスの部屋の電球は付いてない。
開けたフスマから御裾分けの明かりが差し込んでいるだけで。

「…ねぇ、ユキちゃん」
「ん?」
「この浴衣、綺麗って言ってくれたよね。これ、着てみる?」

何も見えないほど暗いというには光があり、
何もかもが良く見えると言うには影が漂っている。
隣の部屋からの光だけが差し込む中、
マキが浴衣の帯を解き始めた。
外の祭りの太鼓の音と笑い声が、少しだけ聞こえる。

祭の始まりは労いだった。
これまで笑わずにずっと耐えていた者への労いだった。
次の世代に役目を渡した者へ、さぁ今日は今までの我慢の分、たんと笑ってくれと。
そうして始まった祭が、もう何十年続いているのだろうか。

「はい、ユキちゃん」

浴衣を取り払ったマキは下着だけ。
暗がりの中でマキが浴衣を脱ぐ間、それをじっとユキは見ていた。

「この上にそれ着ると、ごわごわしちゃうから…。」

浴衣を腕に持つマキの前でユキも服を脱ぐ。
スカートを外し、上着を脱ぐ時に、少しだけユキの腹が見えた。

ユキの腹には封印の紋がある。
笑ってしまっては、この紋が崩れ、封印が解けるのだと言う。
故に一度たりとも笑ってはいけない。
笑っては、この腹に封じた化け物が放たれる。

服を脱ぎ終えたユキがマキの腕から浴衣を引き取った。
ユキの浴衣を取る指が細い、小さい。
下着が少し透けて、腹の紋も見える。
ユキは暗がりなので気が付かなかったが、
眉間にしわを寄せたマキが、じっとユキの腹を見ていた。
ユキの腹、笑ってはいけない腹。
ユキは今、十五である。

子供が十二になった時、親の代は子に封印を譲渡する事が許される。
許されるだけであって、そうしなければならない訳ではない。
しかし代々子が十二になると親は子へ、化け物を封じた紋を移してきた。
そうして晴れて笑ってもよい体になった親は、年に四回開かれる祭りで大笑いするのだ。
ようやく、村の人間達と笑う事が出来る。
村の人間達も、今までよく耐えた、と笑わせる。

しかし、移された子は笑う事を許されない。
笑ってはいけない長い時間が始まる。

ユキは浴衣に腕を通す時に、
蒸気の様に香るマキの匂いに当てられていた。
至る所にマキの匂いが染みついた浴衣をすっかり羽織ったユキが、
最後に帯を自分なりに結ぼうとしてみる。

「はは、こうだよ」

こうだろうか、と結んでいた手を取って、マキがユキの腰に手を回した。
帯が締められると浴衣に残っているマキの温度が一層体に染み渡る。

帯も締めて貰い、ユキが浴衣をくるんと一回りさせてみると、
裾の部分が少し足の爪先に触れてしまった。

「丈が長いかも」
「でもユキちゃん似合ってるよ」
「ほんとう?」

薄い暗がりの中、立ち鏡の前に行ってみる。
少し畳を浴衣で擦りながらユキの後を微笑ましくマキが追った。

「…似合う?」
「似合うよ。電気付けようか?」
「ううん、このままでいい…。でもやっぱりちょっと大きい…。
 マキちゃん、今年で十九だっけ。」
「うん、もう十九だよ」
「あと四年で私もこの浴衣が似合う身長になるかな」
「私、結構背が高いからね…。
 ユキちゃんも私みたいな背になれば似合うかもしれないけど、
 ユキちゃんは今の背の高さの方が可愛いかな…」

十五。
十五歳なのである。
この村は、この十五歳の少女に全てを押し付け、
今夜は皆して知らぬ所で笑っているのである。

その上、夏である。
窓を開けない訳がない。
その窓から笑い声が流れてこない訳がない。

三年前の春に、初めて笑ってはいけないユキにマキは会いに来た。
祭の最中である。
笑えなくなるというユキが心配で、マキが祭りの間に相手をさせて欲しいと願い出た。
家に入ってみると、浮かばない顔をしたユキが、じっと暗い窓の外を見ていた。

この、年端も行かぬ少女の『笑い』を奪い、
それでのうのうと生き、あまつさえこんな祭りまでやり、
その不条理さに、村の者、誰一人として何も思わないのか。

「でもね 笑わなくても 楽しめる事はあるでしょ
 マキちゃん 私に楽しい事 教えて」

とその祭の夜、ユキは言った。
言われたマキは様々な事を教えた。
まず家族以外の肌の温もりを教えた。
掌の温度が他の部位よりもかなり暖かい事も、
唇には神経が沢山走っている事も、
唇を合わせる作法も、
舌の入れ方も、
体の事も、
ゆっくりと無理強いする事無く、上手く教えた。

それから三年、マキはユキに教え、
ユキも自分の体を知り、そしてマキのそれも十分に知ったのだった。

なぜか。
なぜマキがそんな事をしたのか。

ユキに歪んだ望みを持ったからだ。

「…ごめんねマキちゃん、
 寒いよね、浴衣貸してくれてありがとう、もう返すね」

立ち鏡の前で帯を解くユキの手が、
するりと帯を腰から抜いて、浴衣が体の前で左右にハラリと開いたところでマキが言った。

「そのまま、ユキ」

言われたユキが後ろに居るマキに振り返るが、
マキがこう促した。

「鏡見て」

ユキが鏡を見ると、
マキの薄い水色の地の浴衣が体の前で割れ、
薄暗がりと言えども開いた間から見えるまだ幼い肢体が判る。
下着から長く滑らかに生えた二つの足。
乳房は下着を少しだが押し上げる。

「今のユキ、綺麗。
 凄く綺麗。」

着崩れたままの服を恥じらいで直そうと言う気持ちが沸くよりも早く、
マキがユキの首を指で自分の方へ回させ、唇に唇を重ねた。

マキはユキに好きな男がいるかと聞いた事がある。
それにユキはいないと答えた。
腹の中に怪物を住まわせている怪物女とからかう奴なんて大嫌い、と言った。
じゃあ私の事は好きか、と尋ねると、
マキちゃんの事は大好き、一番好き、と答えた。
じゃあ、大きくなったら私と一緒に村の外に出よう、
こんな村から出て、もっと都会で二人で暮らそうよ。
ユキがその言葉にうん、そうしたいと答えた夜、
マキはユキに他人の舌の柔らかさを教えた。

それを今晩も覚えるのである。
薄暗い部屋の立ち鏡の前、
着崩れた浴衣のまま、片方は下着のまま舌を絡めた。
方や十九、方や十五。
十五の娘の親は、
自分の娘と遊びに来てくれた近所の娘がそんな事をしているなど微塵も知らない。
今は祭で自分が笑う事に夢中なのだ。

お前達がそんな事に夢中になっている間に、
この娘を私が夢中にさせてやる、中毒にさせてやる。
腹を抱えて笑う事よりも断然楽しいこの快楽の中で、
私に夢中にさせてやる。
おばさん達は御存じないだろうが、
このユキの体で私が触れた事が無い場所は一つも無い。
言うのを恥じるような場所さえ優しく触ったのだ。
貴方達が、もう自分の役目は終わったと、そこで笑っている時に!

マキは理不尽が許せなかった。
幼い少女に全てを押し付けて、他は全員笑っているという。
正気か。全員正気か。
なぜ、全員でこの少女が禁じられている事を、わざわざするのか。

「だめ」
「 え?」
「マキちゃんだめ おなか だめ
 もっとゆっくり」

崩れた浴衣に堂々と差し入れたマキの手がユキの腹部を触ってしまっていた。
ユキは自分の役目を知っている。知った上で紋を背負った。
故に激しく腹部を触られる事を咎める。
例えマキが相手だとしても、それは絶対なのである。

「ごめんね。ユキ」
「  え」
「手、ついて」
「え?」
「そこの壁、手をついて」
「こう?」
「そう、良い子」

マキが24、ユキが19になったら、村を出る。
村の者は大層探すだろうが、きっと早々に諦める。
災いが去ったのだ。災いがいなくなったのだ。
寧ろ胸を撫で下ろすだろう。
そして忘れた頃に二人でこの村に戻ろう。
この村の薄情な皆が忘れた頃に戻って、
そしてマキがこれでもかとユキを笑わせる。
どうせなら、この夏の祭りに紛れて笑わせる。
そして、ユキが大笑いをした顔を、マキも満面の笑みで見届けたい。
そうやってこの村の全てを終わらせよう。

それが、マキの願い。


「マキちゃん  ん」
「ゆっくりするね」
「うん  あ」

薄暗がりの部屋の中、
年端も行かぬ少女の吐く暖かい息と、
外から流れてくる村の人間の微かな笑い声が混ざりあう。

それを立ち鏡だけが、
じっと見ていた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

五歳差位の少女達の薄暗い百合を
ただ書き殴りたかっただけ
私が

満足しました

→twitterでリツイートして頂ける場合はこちらから←

広告
×
湿度が高いエロス
28ヶ月前
×
>>1
汗ばんでる光景を御想像下さい…!
28ヶ月前
コメントを書く
コメントをするには、
ログインして下さい。