あなたの重さを知る者達と
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あなたの重さを知る者達と

2016-10-16 07:21
    ファカラット、
    スウィラ、
    セルゲン、
    ウォムトン、
    マッカス、
    ベルリア、
    メスモセ、
    トトモルア、
    セルケー。

    全て奥様の知り合いのお名前。

    ここで話は打って変わって靴の事。
    いざ足下に視線を落とすと、靴というものの個性の広さが伺い知れる。
    普段生活している上で、目の高さが足の位置まで下がる事等まず無いのに、
    何故人はこうも足下に個性を入れたがるのか。

    大人になればある程度人間は自然を恐れ、そして嫌う。
    雨に濡らされる事も、
    裸足で大地を踏む事も。

    人の体はきっと大地を忘れてしまったのだ。靴によって。

    私は大奥様付きの使用人。
    大奥様が散歩に行くわ、と言ったらそれに付き従う。
    どちらまでと訪ね、その行き先がナナリアという野原である時、
    私は一枚のタオルを用意する。

    ナナリア原の一角に地面が禿げて土肌が露出している場所が有る。
    ナナリア原に大奥様が行くと仰った時、それはその土に用が有るという事だ。

    「さてと。
     手を貸して。」

    昼を過ぎる前に出かけた私と大奥様。
    ナナリア原に着き、土が出ている場所まで来た大奥様はそう言って私の手を取った。
    奥様は靴をお脱ぎになる。
    靴をお脱ぎになった後は靴下を脱がれる。
    それはどういう事か。
    裸足になるという事だ。

    「はぁーあ、最近いよいよ体が老け込んできたわ。」
    「そんな事はございませんでしょう。
     こんな所まで歩いて来れる様なお体です。お若いですよ。」
    「若いと言われる事はもう若くない、と言う事よ。」

    私の手を支えにして、大奥様の足から取り払われた靴と靴下。
    私は靴下を靴の上に置いて、後は眺めるだけ。

    「はいはい皆、元気かしら。」

    大奥様が、裸足で土に立つ。

    私は大奥様付きの使用人だが、大地を裸足で踏みしだく様な真似はしない。
    大奥様は旦那様の愛しの君。
    その愛しの君がその足の裏で直に大地に乗る。
    まだ私が大奥様の使用人を初めて間もなくの頃、
    それはまだ大奥様が女の子だった時から。

    「こんにちはベルリア。
     そうよね久しぶりよね。
     あら何かしら。
     へえ、リスがこんな所まで?
     そうなの、今日も来るかしらね。」

    大奥様が大地をゆっくり、一歩一歩踏みしめる。
    口からは知り合いに会う時にかける挨拶の様な言葉。
    私はそれを、じっと少し離れた所から眺めるだけ。

    「  まあ。」

    と、ふとした時に裸足の大奥様がこちらに目を向けた。

    「また求婚されたわ、ケリッド。
     結婚しようよ、だって。メスモセはいっつも。
     相変わらずせっかちね。
     きっと恋なんて知らずに、愛する事しか知らないのね。」

    と奥様は犬程の大きさが有る石の周りの土の上に立ちながら私に言った。

    奥様が裸足になり、その足の裏を大地に付けると会話が出来る。
    土と。奥様が。
    いつ頃から土と会話するとか言う奇想天外なお力を身につけたのかは知らないが、
    恐らくは、大奥様と私がしきりに何処かの野原に行く様になった時分から。
    あの頃の大奥様はただ笑いながら土の上を裸足で走るだけで、
    何も教えては下さらなかった。
    全ては、私達が少し年老いてから。

    「トトモルアも久しぶりね。
     どうしたの。え?
     ブドウの汁が吸いたい?
     今はまだ季節じゃないわねぇ。」

    位置を変えながら歩く度に、
    大奥様は知り合いの名前を呼びかけながら大地に向かって喋る。

    大奥様と土の間でやり取りされる真実を知る術は無し。
    されど大奥様は土を踏む時に他では見せない顔を見せる。
    笑顔にも適材適所は有るだろう。
    ご子息の前の笑顔、旦那様に見せる笑顔、私に見せる笑顔。
    笑顔は心の色に依るものだから、
    各々の人に対する思いが別ならそれぞれに見せる笑顔も違うもの。
    多く様は一体何を心に揺らしながら、あの様に土に向かってお笑いになるのか。

    「まだ時間、大丈夫かしら。」
    「大丈夫でございます。」

    野原に行く時に必ずタオルを持っていく。
    大奥様が靴を履く為に。
    土と一旦別れる為に。
    今まだタオルは、私の鞄の中。

    「大奥様、一体どんなお話をされているのですか?」
    「貴方も裸足になってご覧なさいよケリッド。」

    そう言われて私は靴と靴下を脱いだ。
    ズボンの裾を二回折り返してゆっくりと土の上を歩いてみた。

    「大奥様、どうやらこの土達、男嫌いのようでございます。」
    「あら、どうして?」
    「うんともすんとも喋りませんよ。」
    「本当?あはは、初対面だから人見知りでもしてるのかしらね。」

    思う事、一つ。
    きっと私の足の裏が感じる土達は、
    奥様が裸足で踏む時よりも固く強張っているに違いない。
    大奥様の笑う顔を見ていたら、そんな気がした。




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    →本日の御愛読有難う御座いました←

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