もう一度君に会いたい ⑥
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もう一度君に会いたい ⑥

2016-11-27 11:51

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    このオハナシは続き物です。
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ひとたび寝れば熱を知り、
    ふたたび寝れば匂いを覚え、
    みたびも寝れば『クセ』見える。

    男と女の場合はこんなものだ。
    三回も一緒に寝れば心を許して油断してしまうもの、
    気を緩めた時に普段の『クセ』が出るものだと、
    この歌では謳っている。
    しかし、その『クセ』が良いものか悪いものかは、
    それはご自分の目で確かめて下さいよ、という塩梅だ。

    スリープのヨネコとは一晩二晩、
    そして三晩、四晩と回数を重ねた。
    相手はポケモンで僕は人間だ。
    それに何よりお互い『オス』なので、
    色事をうんせこらせと励んでいる訳ではないのだが、
    お互いの様々な面を知るには十分だ。

    ヨネコはどうも壁際が好きなようだった。
    最初の晩からずっとヨネコは壁の方へと体を寄せる。
    僕が先にベッドに入ってても、
    ちょっと、ソコどいてよ邪魔よとゴリゴリ体を割って入ってくる。
    いや、僕もそっちがいいんだけど…まぁ、良いよ。
    と僕は毎晩、ベッドの壁際はヨネコに譲っていた。

    余談だが、僕の寝相は芳(かんば)しくない。
    小学校、中学校の頃等はベッドからよく転げ落ちていたらしい。

    らしい、というのは僕に記憶がないからだ。

    高校も終わりの頃に、
    朝起きてみると掛け布団が綺麗に九十度回転している事があった。
    上を引っ張れば足が出て、足で布団を伸ばせば胸が出る。
    なーんかおかしいと思ったら、布団が回ってたんだよ、あはは。
    などと親に話したら

    「お前、昔から寝相は悪いからな」

    と言われ、身に覚えがない僕はそんな筈はない、と言ったのだが、
    親が、

    「そりゃお前、転げ落ちても寝てるんだもんよ。
     だから落ちてるお前を抱えて何度もベッドに戻した。
     その間も起きないんだもん、本当お前はよく寝てた。」

    と僕に聞かせ、
    そこでようやく自分の寝相の悪さを知るに至り、
    そこからベッドは壁に寄せ、なるべく壁にぴったりと寄り添って眠る様に。

    それから成長と共に僕の寝相は矯正されたのか、
    療養中にヨネコと一緒に寝ている時、
    僕だけ朝起きたらベッドから転げ落ちているなんて事は起こらなかった。

    いや、もしかしたら看護婦さんが戻してくれるのかもしれないが、
    でもまさかそんな、僕も体が大人になった。
    こんな大きな身体、担ぐのも一苦労、
    そうやってくれてる間に、僕の方も目が覚めておかしくない筈だ。

    ヨネコはヨネコで壁際で寝て、
    僕が起きる頃にはドアの近くまで赴いてやれやれと言った表情を毎日見せてくれる。

    ただ、ヨネコが僕の見た夢を、
    悪夢なのか、それとも良い夢か、
    それとは全く違って、僕自身、何も夢を見てないのか…それだけは良く判らなかった。

    そんな日がいよいよ十日ほど過ぎようとしていた、ある日だった。
    大学から家に戻り、ヨネコと寝る準備を携えて病院に赴けば、
    いつもは全く顔を見せない、最初に診察をしてくれた医者様がやってきた。

    「金森さん、最近の体調は如何ですが」

    なんだ、経過観察かと思った僕は「悪くないです」とだけ返したのだが、
    医者様の方はそれだけではなかった。

    「悪夢を見る事はありませんか?」
    「夢自体全く見ませんね…ヨネコが僕の悪夢を全部食べてくれているのか、
     それとも僕が全く夢を見なくなったのか…。
     あと少し気になっている事があるんですけど。」
    「はい、どうしました?」
    「その、ヨネコなんですが」
    「はい」
    「体調が悪くなったり…大丈夫ですか?
     僕も少しはネットで調べました、
     スリープは悪夢を食べるとお腹を壊してしまうんでしょう?」
    「ヨネコの事を心配してくれて有難う御座います。
     普通のスリープは確かにそうです。
     しかし療養に従事するスリープは悪夢に対する耐性を持つ種を採用しています。
     大丈夫、今日も元気にお風呂に入ってましたよ。」

    その言葉を「ああそうですか良かった」と受け流したのだが、
    二秒後に脳の片隅で眠っていた冷静な僕が「ちょっとまて」と飛び出してきた。
    元気にお風呂、と医者は言ったが、お風呂に『元気に』という副詞はつくのか。

    元気に遊ぶ、
    元気にはしゃぐ。

    しかし、元気にお風呂に入る?

    この病院のお風呂にはウォータースライダーでも付いているのか。
    あのヨネコが、

    ああ、その通り、この時の僕は「あのヨネコ」と思った。
    全く知らない相手じゃない、だから「あのヨネコ」って。
    その、「あのヨネコ」が元気にはしゃぎながらお風呂に入っている様が想像出来なかった。

    それが僕の感情のしこりになって一瞬外界からの刺激が遮断されたのだが、
    医者様の呼びかけにぐいっと意識を引き戻された。

    「先程、悪夢を見ているのか、
     それとも夢自体を見ていないのか判らない、と仰いましたよね。」
    「ああはい、そうです。」
    「ならば、ちょっとここいらで試してみませんか。
     今まで連続でヨネコと一緒に寝て貰ってましたが、一晩だけ、
     試しに離れてみませんか。」

    試しに離れてみて悪夢を見なければそのまま様子を見て、最終的には療法終了。
    まだ悪夢を見るようならば療法続行。
    医者様が言うにはそういう事だ。

    「本日で丁度一週間ですからね、如何です?」
    「ああ、そういう事でしたら、はい、判りました。」
    「そうですかそうですか、いや、良かった。
     実はヨネコの方にもちょっと用事がありましてね。」
    「 え?」
    「いや、金森さんに御迷惑をかける用事ではないんですよ。
     病院の仕事に関わる用事なんですけどね。
     それとどこかのタイミングで出来たらと思いまして、
     それで金森さんにちょっと近況を伺いたかったんですよ。
     金森さんの調子もよくて、都合がつくようだったらヨネコの方も調整しようかな、と」
    「そういう事でしたら、
     僕の方も全然大丈夫ですよ」

    僕がヨネコと一緒に寝ない夜を過ごしたのは,
    それから更に三日目の夜だった。



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    もしかすると本日の夜にまた更新するかも知れません。

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