もう一度きみに会いたい ⑦
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もう一度きみに会いたい ⑦

2016-12-03 10:38
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このオハナシは続き物です。

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その日の夜、僕が一人で眠る時がやってきた。

ヨネコはいない、
朝起こしに来る看護婦もいない、
病院からわざわざ僕の家になんて来てくれない。
それまでずっと僕に『療法』を施してくれていた場から、
初めて離れてその効果を見るのだ。

『医療』とは結果が問われるものである。
それから免れる『医療』など無い。

同日の朝、
僕が目を覚ますと案の定ヨネコの方が先に起きていた。
ずりずりとベッドから降りようとしている所だった。
相変わらず悪夢を食べてくれたのか、それともただ寝ていただけか、
判断尽きがたい表情をしている。
そもそもスリープの表情なんて、良く判らないのだが。

表情豊かなポケモンはいる。
寧ろ、多いと言っても良いのではないか。
表情筋が発達してるのか、喜怒哀楽がはっきり判る種はそこそこ多い。

しかしスリープに関しては、
僕はよく判らない。

目は口ほどに物を言うなどと言うが、
スリープという輩達は一様にエロ目の形をしているもので、
一体何を考えているのかよく判らない。
確かにヨネコはタレ目がちだがそれでも三日月型の瞳。
これの変化が殆どないので、目から気持ちなんて読み取れないのである。

今日の夜はね、おまえと一緒に寝ないんだよ。
そう言わなかったが、ヨネコの方も何かは聞いているんじゃないのか。
僕は勝手にそんな事を思っていたので、
いつもと変わらず出ていくヨネコが憎かった。

病室から出て朝のフロアを歩いていると、
もう病院という空間は動き出しているらしかった。
待合所でのテレビも朝の光に負けじと輝いており、
流れているのは隣の市で空で移動中のオニドリル同士が衝突したというニュース。
二匹の高さの調整が間に合わず、直角に突っ込んだらしい。
気の毒に、ピジョットだったらまだマシかも知れないが、
あのオニドリルの嘴を腹に受けては、ただでは済まないだろう。
そのオニドリルは何処の病院に、もしくはポケモンセンターに運ばれたのだろうかと、
そんな事を考えながら外にまで出ると、
病院の中だけではない、外の世界もすっかり動き始めている様だった。

今日は一人で寝る。
そんな事を考えると時間が転げていく様は激しいものだった。
朝が昼に代わり、昼の日差しが夕日に化ける。
あっという間に夜の時間がやってきて、
僕の身体は自宅のベッドに横たわっていた。

身体を覆っている掛け布団の感触も朧げになり、
頭を預けている枕の匂いもかすれ始め、
自分の瞼の重さすらも判らなくなった頃、
僕は久しぶりに夢を見た。
何処かのバーのカウンター席に座っている夢だった。

僕は酒が得意ではない。
あの頃はもっと得意じゃなかった。
そんな僕だから何処かのバーになんてお酒を飲みに行った事は無かったし、
脳味噌のどこにも『バーで飲んでる』なんて記憶は無かった筈なのに。

バー独特の明るすぎない照明、
木目だがガラスの様に艶やかなカウンター。
座ると足に地面が届かない赤基調の椅子。
これはバーだ、バーに違いない。
夢が僕の意識と『違和感のすり合わせ』を行っている最中、
ふと、店員の一人が僕の目の前にコップを出してきた。

「お待たせいたしました」

待ってなぞいないのだが、
そう言われたら「ありがとう」と答えてしまうのがこの国の人間だ。
出されたコップに口を付けてみると、
午後の紅茶レモンティーの味がした。
映像は何かしらの媒体で情報を得られるが、
味覚の情報は流石に既存の経験から持ってくるしかなかったらしい。

こんな味の酒があるのか?
と思っていた僕の横にススス、と一人女性が近づいてきた。
見た事があるような、無いような。
その人がこう尋ねる。

「そのポケモン、モンスターボールには入れないの?」

女性の人差し指が席の下を指さすので視線を向けると、
そこには地べたに座るヨネコが居た。

なんだ、お前、ここにいるじゃないか。良かった。

「ああ、これ…これは僕と仲の良いポケモンなんですよ。」

と答えると「あら、貴方のポケモンじゃないの?」と返ってくる。
僕のじゃないんですけど、でも凄く仲が良いんですよ、とまた返事すると、
「じゃあじゃあ捕まえても良いわよね?」と女性が懐からポケモンボールを取り出した。

ちょっと、待って下さいな、
このヨネコは僕ととても仲が良いって、そう言いましたよ。
僕が慌てた口調で椅子から降りてヨネコの横に立つと、

「でも貴方が捕まえた訳じゃないし、
 貴方のボケモンでもないんでしょう?
 じゃあ私が今ここで捕まえても問題はないわよね。」

ポケモン捕獲条約の第三条、
ポケモンの所有を論議する場合、
それはポケモンボールの類で捕獲した順に準ずる。

ポケモンボールの類は、使い回しが出来ない。
一度使ったポケモンボールは最初の捕獲を記憶し、消去できない。

しかしそもそも僕はポケモンボールを投げた事すらなかった。
今でもそうだ。

夢の中だったがその事を覚えていた僕はこれは不味いと思い、
座っているヨネコの手を引っ張って慌ててバーから飛び出した。
流石に抱っこは無理だった。
何せ育ち切ったスリープの体重は30kgある。腕もげる。

ヨネコと一緒に逃げ出したバーの外には夜が広がっていた。
夜天はあまりよく見えない。
道に刺さっている街灯の色が強すぎるのだ。
街灯達は誰に謝っているのか、みんな首を項垂れて橙色の光を発している。
仲間の誰かがコンタクトレンズでも落として探しているのだろうか。
しかし誰も動かないので助けようもない。

「帰ろうか、ヨネコ」

項垂れる街灯達を見るのは二秒で飽きる。
僕はそう声をかけて夜の道をヨネコと歩き出した。

歩いて気付く、街灯の間隔は大体15メートル。
明るくなって、ちょっと暗くなって、また明るくなっての繰り返し。
その繰り返しを淡々と歩いている僕らの横を一台の車が追い抜いて行った。
ウゥオンと唸りを上げて追い抜いている車。
それも一台だけではなかった、
一台去ってまた次の一台、それが去ればまた次の。
それまで静かだった夜の道が車の疾走音で満たされ始めた。

「   ヨネコ」

「ねぇ、ヨネコ」

「これ、僕が夢を見ているの?」

「お前…お前、俺の夢、これ…」

ヨネコは僕の言葉を理解してくれる。
しかし僕がヨネコの発する伝達の手段を理解する事は無かった。

夜の道、通り過ぎて行く車。
見覚えがある。
僕は街灯と街灯の間の暗闇で遂に足が止まった。
ヨネコも僕の横で立ち止まった。

そして目の前で車が街灯に突っ込んだ。
見覚えのある車だった。
赤い色で、角ばった車体をしている。少し前の型の中古の車だ。
『アイツ』も、こういう車に乗っていたし、
この車が、何度も事故に遭うのを、僕は何度も夢で見たんだ。

街灯に突っ込んだ車は徐々にしぼんでいくエンジン音だけを鳴らし、
その車体は寸分たりとも動こうとしない。
僕はヨネコの横から離れ、少し傾いたその車体に近寄った。

何度も何度も、事故をした車に近寄って、
運転手が無事なのか確認をした。
その度に運転席にはアイツが酷い有様で転がっていて、
それを見る度に目が覚め、体には汗をかいていた。

また、同じ夢を見るのか。

見なければいい、
運転席を見なければいい、
それは判っている、

でも見ずにはいられない。

大丈夫なのか、もしかしてまだ生きてるんじゃないのか。
何を期待しているのか正確には判らない、何せ夢の中だ、
そういった気持ちに支配されて、これまでの夜も、
この夜も、事故をした運転席を見てしまった。

「…………」

覗きこんだ運転席。
車体の前方に食い込んだ街灯が衝撃でフロントガラスも割り砕き、
零れ落ちたガラスの破片が運転席に降り積もる。
エアバッグが一瞬の役目を果たしたのか、
ハンドルからやる気のない幽霊のように前方に垂れ下がっている。

しかし、
運転席には、運転手の、
人間の体が、無かった。

「……誰もいない…アイツの…ヨシヤは…おい、どこだよ
 ヨシヤ、どこ行ったんだよ、おい、ヨネコ」

車のガラスにこれでもかと顔を近づけて中を舐めるように見た後、
ヨネコに首がもげる速さで振り向いた。
ヨネコは相変わらずのエロ目で、
じっとこっちを見ていた。
いつもはそれだけ。
ヨネコが僕の判る言葉を喋ってくれるなんて、一度も無かった。
現実では。

「お前の友達はもう死んだよ。」
「………」
「一度死んだ生き物は、二度は死なない。
 ポケモンもそうだし、人間もそうだ。
 お前の友達が実は神だったってんなら話は別だが、
 お前の友達も、お前と同じ人間だろう。」

喋ってる。
ヨネコが。
夢の中だからかヨネコの言葉が理解できる。
否、ヨネコが僕の判る言葉で喋ってくれてる。

「人間は何度も死ねない。
 人間が死ぬのは一度きり。
 お前の友達はもう死んでるし、もう会えない。」
「……ヨネコ…お前…」
「もう、受け入れろ。
 お前の友達は、もう事故で随分前に死んだ。
 もう同じ事故は起こらないし、もう会えないんだ。
 
 いい加減に受け入れろ。」

スリープは、
通常温厚なポケモンとして周知されている。
そのスリープのヨネコが、
口を大きく開けて、僕の顔面にとびかかって来た。

抵抗する暇なんて与えてくれなかった、
そのまま成すがまま、ヨネコに頭から喰われ、
僕は現実に引き戻された。

まだ朝が明けきってない部屋の中は冷たくもなく、暖かくも無かった。
ただ掛け布団の重さと布団の匂いを感じるだけで、
服の下の僕の体は、一滴の汗もかいてはいなかった。

ケータイを見た。
やはり朝と呼ぶには時間が早いらしい。

電話帳を見た。

まだ、アイツの、ヨシヤの番号が残っている。

アイツの番号、何度もかけようとした番号で、
何度もかける事が出来なかった、手が止まった番号で。

この朝と呼ぶにも疑わしい時間の中、
初めてアイツが死んだ後に電話をかけてみた。
あの時の事は恐らくずっと忘れない。
一つのコールも鳴らずに、
ただただ、機械的な、

「お客様のおかけになった電話番号は
 現在使われておりません」

という女性の声が連呼されるだけで、
それを聞きながら、僕はようやく自分の唇が静かに震え始める事を自覚した。
ようやく、親友が死ぬという事がどういう事かを理解した。


とても長い朝だった。




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私の精神的体力を考慮しても恐らく次回が最後です。

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オニドリル事件で腹筋割りかけてゆるしてつのドリル

この世に幽霊があるのは人間がその存在を信じているからという見解を聞いたことがあります。だから幽霊の方も呼ばれるのだと。そうか、死んだ彼を夢の中に引きずり込んでいたのは主人公自身だったのか…。それじゃあいつまで経っても成仏できないよね。
話は逸れますがモンスターボールの存在を認知しておらず、そのままポケモンと協力関係を築いている地方もあります。外伝+コラボ作品なのでパラレルかもしれないですけど。…新作出ないかなあ

MP…PPだいじに、です。のんびり待ってます。
36ヶ月前
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Tyrol様

ずっと思ってたんですよ。
「そらをとぶ」で飛行しようにも上空交通整備されてないと絶対に事故るでしょう、と。
モンスターボールが捕獲に要らないとは…どうやって絆をつくるのか夢が膨らみますね。毎日通い詰めてみそ汁でも作ってあげたら仲良くなれるのかしら。
36ヶ月前
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