あの舌抜きをもう一度
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あの舌抜きをもう一度

2017-02-15 20:54
  • 2

ここは地獄。
閻魔様が死んだ罪深い人間達を砂漠。

ん、なんで砂漠やねん、乾燥地帯ちゃうねんぞ。
閻魔様は裁くのや、偉いお方やねんから。

「次の方どうぞー」
「あ、はい私です」
「そこの白線までお進み下さい」
「ここですか?」
「はい、では前を見て背を真っすぐに。こちらの御方が閻魔大王様です。」
「初めまして。お世話になります。」
「うむ、人生のお勤めご苦労様。えーと…お前は何で死んだのかな?」
「あ、ちょっと自殺を。」
「あー自殺かー。」
「会社が本当辛くて」
「あー会社かー、最近多いんだよそのパターン」
「でも、死んでよかったです。」
「それ皆言うんだよなー生きてりゃ良い事あるのにー」
「今かなりスッキリしてるんですよ。やったあ!もう働かなくても良いんだ!って。」
「働くどころか息すらしなくていいからね。
 はい、じゃー取りあえずこれまでの罪状を読み上げましょーかねー」

下働きがそそっと閻魔様に紙の束を差し入れる。
どれどれ、パラパラ。

「えーとなになに」
「結構控えめに生きて来たつもりなんですけど」
「まーまー、ちょっと待ちなさいよ。
 えーと暴力値は検出限界以下、暴食値も検出限界以下、
 助力放置値も検出限界以下、と…。」
「検出限界以下ってどういう事ですか?」
「セーフってこと」
「あ、そうですか」

説明しよう、人間の罪とは人生を通じて積算されるのである!
故に死ぬまでの人生で犯した罪は合計して数値化され、
定められた数値を越えている場合は項目ごとの地獄に送られる!
要するに、これまでの人生における罪の健康診断のようなもの!
しかも、一回こっきり!
次からはビールや煙草を控えましょうとか、
そんな結果表を与えられて同僚とキャイキャイ言う事も出来ない!

「えーと……ん!ありゃ!」
「え!?」
「ウソツキ値が規定値オーバーしてるねぇ!」
「なんですかその判りやすい値!」
「いやー嘘でしょ、去年の改定でこの項目、規定値結構上げたのに!」
「いやー…!いやいや、私、そんなに人生で嘘ついてませんよ!」
「ワシとしてもこれはちょっと勘弁して欲しい…。
 ちょっと待ってねー……今内訳を確認するから。」
「いやー……ちょっと待って下さいよ…。」
「なにー、奥さんに色々と隠し事して嘘吐いたの?」
「結婚どころか彼女がいた事も無いんですけど!」
「じゃあ会社の飲み会を断る口実に彼女とデート、とか言ったの?」
「会社の飲み会を断った事も無いですよ!
 うち、そう言うの結構後々響く会社体質なんで、毎回出てました!」
「んー~…?お!」
「え!」
「……小学二年生の時に、おばあちゃんが死んだという理由で学校を欠席、
 しかもその当時既にお前の祖父母は母方父方ともに死去…」
「ああ~そんな事もあったかなぁ……」
「これはマズイよね~」
「え、何がですか」
「『祖父母の死に関して嘘を吐く』はねぇ、
 去年の制度見直しで点数が滅茶苦茶上がったんだよね」
「なんですか点数って!」
「ちなみに『水泳の授業を休む為に風邪だと嘘を吐く』の1200倍の点数だ」
「ああああ私は泳ぐの大好きでした!」
「お前の水泳事情なんぞ知らんよ」

「小学二年、三年、四年の時に祖母が死んだと嘘を吐き、
 五年と六年の時には祖父が死んだと役者をチェンジ…?」
「うう……。」
「中学一年でまた祖母、二年で祖父、三年でまた祖母。
 まるでサンドイッチみたいな嘘の吐き方をしているなお前。」
「いや、流石に同じばあちゃんを二回死んだ事にしたらまずいと思って」
「でも小学二年の時から毎年死んでるぞコレ。
 更に高校一年でまた祖母、二年で祖父、三年で祖母。
 なに、サンドイッチ形式ならいけるとか、そんな事を覚えたのかコレ?」
「同じ親族が連続しない方が良いかなと……!」
「それから……ん?大学時代にも一度だけ同じ手口で嘘ついてるな。」
「それは……!」
「……女から誘われたデートを断る口実?」
「いや、そうなんですけど!」
「……お前さっき、彼女はいた事がないと言ったはz」
「好みじゃ!無かったんです!しかも押しが強くて!
 一回良いよとは言ったんですが、でも冷静に考えると凄く行きたくなかったんです!
 良いじゃないですか、彼女を傷付けたくなかったんですよ、
 優しい嘘って言葉もあるでしょう!?
 私は!本当に!あの女が好みじゃなかっただけなんですよぉお!」

閻魔による裁き。
それを待つ為に並んだ長蛇の列。
なんだ、なんか知らんが男が咽(むせ)び泣いとるぞ。
おいおい、一体どんな裁きを閻魔様から下されたってんだ。
ザワザワと待機列の死人達が声を交わし合う地獄の入り口、黄泉(よみ)の淵。

「……理由はどうあれ数えた所、お前の祖父母は合わせて1ダース分死んでおる。」
「はい……。」
「舌抜き地獄!決定!」

舌抜き地獄とは!
説明は多分要らないと思うので省きます。死人は舌を抜かれるのです。

しかし、この舌抜き地獄、なんとも珍しい事であった。
何が珍しいかと言うとその刑が行われる事である。
この三十年、制度改革によって舌抜き地獄の規定値は当時の25倍、
要するにガバガバになっていたのである!

最後に舌を抜かれたのは今から23年と四か月前の事。
拷問器具もそれから全く手入れをされてはおらず、
まずその埃を拭う事から刑が始まる!

どうせだからと祖父母を1ダース分殺した嘘を吐いた男に器具を洗わせ、
その横で閻魔大王が裁きを淡々と続けている。
洗い終えましたと暗い顔で男が報告すると、
閻魔大王もまた暗い顔でもう洗ってしまったかと返す。

「ワシもやりたくはないが、仕方がない」

と閻魔帳を右手で閉じて、椅子から立ち上がった。

閻魔大王自らが舌抜き地獄の刑を行うのか?その通りである!
死人の裁きで忙しい筈の閻魔大王が直々に行うのか?その通りである!

『舌抜き』の免許を持っている地獄の獄卒共が、
全員免許を失効してしまっていたのである!
滅多に行われない刑の上に二十年も放っておかれたので、
誰一人更新せずに今年を迎えてしまったのだ!
なんたる体たらく、なんたる無様!ガバガバではないか、ガバガバ!
ええい誰か、誰か一人でも免許を更新している者はいないのか!
そう閻魔大王ががなり立てると、
秘書がツカツカとやってきて拷問器具を差し出した。閻魔大王にだ。

「今、執行権利を持っているのは、大王様だけです。」
「なんだと……!」

閻魔大王とは!
地獄の全権を担うとても偉い御方である!
故に!その権利は地獄全土に及び、刑の執行に於いてもまた同じ、
要するに免許なんか無くても好きに刑を行える唯一の存在なのだ!

それが仇となった!

「……えぇ~~……」
「嫌な顔してないで、ほら、刑具持って下さい。」
「アケミちゃんやってよ~~」
「今度その呼び方したらセクハラでモラル課に訴えますよ。
 そもそも権利保持者以外が刑を行ったら監査課から睨まれます。
 ただでさえ去年、血の池担当の鬼の酒の横領で大変だったのに……!」
「わかった、わかった!やるから……」

罪人の舌を抜く!
それは本当に嫌な仕事、地獄内でも筆頭に挙げられる嫌な仕事なのである!

地獄の鬼千人に聞きました、
一番嫌な仕事は何ですかアンケートのトップ5!(30年前調べ)

1位 舌抜き地獄

2位 ノコギリ引き

3位 接待カラオケ

4位 針山地獄の管理

5位 血の池地獄(浮いてくる死人を沈めるのが面倒臭いという声多数)

という堂々の一位!

舌抜き地獄は全手動である、
故に舌を引き抜く時、抜かれる側の人間と常に目が合うのだ!
その目というのが誰一人として瞑る事無く、なぜか皆かっぴらいたまま!
その上人間の舌がなんとも器具で掴みにくいときたからさあ大変!
熟達したものでも一度で引っこ抜くのは至難の業、
その間ずっと人間の筆舌に尽し難い眼差しで見られ続けるのだ!
非常に精神衛生的に悪い!これはいけない、労働者側の精神が危ない!
という事で前述の様なそもそもの規定値をごっそり上げるという措置が取られたのである!

また、
この事情は閻魔大王とて例外では無い!

閻魔大王は渋りたくて男の洗った『舌抜き』にケチをつけようとしたが、
どこをどう見ても綺麗に洗われてしまっているではないか。

「……随分と綺麗に洗ったな、お前」
「いや、これから自分の口の中に入れられる代物ですから……」
「まぁ、そうだな……」

男の方はある程度覚悟が出来ているのか、
閻魔大王の前で両足を合わせ正座を構える。
だが一方の閻魔大王は何とも往生際が悪い態度を見せている。
別の部下をチョイチョイと呼び寄せて、

「この数値、本当に合っているかもう一度計算してくれる?」

とボソボソと耳打ちする始末。

人間の心理と言うのは不思議なもので、
『嫌な事』とというのは待たされるよりもサッサとやって貰った方が良い、
良いから抜くなら抜いてくれ、男の心はモヤモヤが溜まり始めた!

「……あの、舌、抜くんですよね?」
「ん?んん、今ちょっと調べてるから待ってろ…」
「はぁ……」

そこで先程計算を頼んだ部下が戻ってくる。

「計算に間違いはありませんね。」
「……本当に?」
「……ちゃんと仕事してますよぉ」

いやごめん、お前の仕事をな、不出来だと疑っている訳じゃないんだよ。
あーでもごめん、ダブルチェックは大切だから、ちょっと計算機もってきて。カシオの。
死んだ男が正座をしている横で閻魔大王が胡坐をかいて座り込み、
股の上に舌抜きを横たえ、帳簿片手に計算機を叩く。

「……なにをしてらっしゃるんでしょうか?」
「あーいや…計算が本当に合っているのかどうか…」
「……どうですか?」
「……うん、間違いは無いな、やっぱり…。」
「どの値ですか?」
「ん?この列の数字なんだが…」
「あ、計算機良いですか。」

今度は男までが計算機を叩く。トリプルチェック。

「……間違いないですね。」
「……じゃあ抜くか。」
「はぁ」

帳簿と計算機を机に置き去りに、
ようやく舌抜きの持ち手に指を通した。

口を開けろという閻魔、
いざや開口する男、
長蛇の死人がそれを見る。

せや、と閻魔が舌抜きで男の舌を掴んだが、
つるんと滑ってカチンと空を鳴らすだけになってしまった。
難しい顔をして再び閻魔が舌抜きを突っ込む。
今度は滑らないようにと握る掌に力を籠める。
うりゃ、と舌抜きを引っ張るが今度は男の身体が舌につられて宙に浮く。

痛がる男、
歪む閻魔。
裁きを待つ者達の顔が一気に曇り始める。

男は舌を摘ままれながら閻魔に教えた。
からだ、身体を抑えて。そうしないと舌が抜けない。
言われた閻魔も判ったと舌抜きを持たない手で男の肩を押さえつけ、
さあ今一度と力を籠める。

にゅぐっ、
と喉の奥で今まで聞いた事も無いような音を男が聞く、
閻魔も「みちっ」と、久しぶりに聞きたくない肉が裂ける寸前の音を聞く。
その音が閻魔の腕を鈍らせた。
ああ、だめだ、ちょっと一息入れよう。
そう言って閻魔が男の口から舌抜きを引き抜いて間髪入れず、
今度は男が噛みついた。

「ちょっと、どうしてやめるんですか!」
「いや、おまえ」
「やるならさっさとやって下さいよ!
 こっちはタダでさえおっかない目に遭ってるのに!」

それを聞いた閻魔も草臥れた顔で言い分を返す。

「お前、舌が引っこ抜ける時の音って聞いてて本当に嫌なものなの」
「抜かれる私の方が嫌な音聞いてますよ!」
「それにお前がそんな目でじっと見てくるだろ。
 正直それが本当に嫌でな、俺もコレするの、本当に嫌なんだよ。」
「うるさいなぁ!アンタ閻魔大王でしょ!?偉いんでしょ!?
 それなら仕事の一つや二つ、ぶつくさ言わずにしなさいよ!
 上がそんなんじゃ下もたかが知れてるわ!
 それとも地獄ってのは下の有能が上の無能を補ってるのか!?
 人間がやってる事と変わらねぇな!」
「……この舌抜きはな、何人もの鬼がノイローゼになって休職をした仕事なんだ、
 わしだってこんな仕事、もう金輪際しないだろうと思ってたんだよ!
 判るか?わし達は好き好んでお前達に拷問をしてるんじゃないんだよ!
 そもそもお前達が悪い事なんかせんどきゃ、こんな事にもならなかった!
 お前こそなんだ、祖父母を1ダースも殺しおって!
 挙句は好かれた女に嘘を吐いてデートをすっぽかすだと!?
 自分の身の程を知れ!童貞め!」
「今言っちゃあいけない事言った!いっちゃあいけない事言ったよアンタ!
 童貞だからどうしたってんだ!
 ああ、俺は童貞だよ!?童貞だから悪いのか!?
 童貞は女の好みも立てちゃ駄目だってのか!
 童貞だってバレンタインにはチョコを貰うし、
 童貞だって好きな女を見ればあの子と付き合ってみたいって思ったりするんだよ!」

そーだそーだ、兄ちゃんもっと言ってやれー。
長蛇の外野からヤジが飛ぶ。

一瞬頭に血が上った両者だったがふと冷静になった。
閻魔はとにかく自分の仕事を果たさねばならぬし、
男は自分の罪の清算をしなければならない。

嫌な仕事でも、やれば終わります。
私の尊敬する上司が言ってました、終わらない仕事はこの世に無いと。
どんな仕事であれ、やったらいつかは終わるんです。
そう言って開かれた口から差し出された舌は綺麗な色をしていた。

罪人にこうまで潔くされては閻魔の立つ瀬がない。
無言で覚悟を決めると、再び舌抜きに指を通し、
男の肩をぐっと抑え込んだ。

さぁ、舌を抜く。

男と閻魔、お互いの視線が固まった瞬間に、
閻魔の筋肉が隆々に締まった腕が、更に締まり上がった。

「あ!ちょっと待って!」

計算機を持ってきた部下が大声を上げる。
まだ、舌は体に付いている。

「この値、改定原案書の数値と違う。」

どの数値が違うんだ。そう聞く閻魔。
この数値です、この数値。そう言って書類を持ってくる部下。
男が舌を握られたまま一緒に書類を見る。

「これ、この『祖父母の死に関して嘘を吐く』の点数、
 桁が間違ってますね。原案の百倍になってます。」
「……それが原案通りだったらどうなる?」
「刑は無しですね。急いで刑法改定委員会に電話します。
 あ、もしもーし、あ、すいません入口部の池田ですけど、
 はーいどうも御無沙汰しておりますー。
 あのねー、ちょっと確認したい事があってねー。
 うんいや違うのー、舌抜きの数値の事でねー。
 あの改定原案書のー、うん、357ページのー」

男が見つめる、閻魔が見つめる、
長蛇の列を成している裁判待ちの死人達も一緒になって、
一つの電話が終わるのを今多くの魂が待っている。

「……やっぱり百分の一の値が正しいみたいですね。
 なんかどこかでミスが起こったみたいです。」
「…と、いうことは?」
「この刑、無しで。」

パチパチと列に立っていた一人の女が拍手をし始めた。
何が目出度い訳でも無い、何が目出度いか誰も知らない。
だが一人、また一人と拍手の渦に巻き込まれ、
地獄の入り口は多くの死人の拍手に包まれた。

「……良かったですね、私も舌を抜かれずにすみました。」
「嫌な仕事をしない、これに勝る終わりはない。」
「結局私の罪は?」
「他は全て検出限界以下、お前は極楽行きだ。」
「なーんだ、そうですか……あの、引き続き、お仕事頑張って下さい。」

折角なのでと、
閻魔大王と秘書が極楽行きの船着き場に男を見送る。

「色々と有難う御座いました。」
「いや、こちらも。埃の被った器具も綺麗に洗ってもらったしな。」
「あ、それで思った事が、一つ。」
「なんだ、言ってみろ。」
「電話がある位だから、舌抜きも全自動化しては?」
「……伝統が、あるのだよ。」

船でゆらりゆらりと遠くなっていく男を、
閻魔大王が手を大きく振って見送った。

「あのさ」
「はい?」
「舌抜きの全自動化の案、今期中に上に挙げといてアケミちゃん」
「今度その呼び方したらブン殴りますよ」


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ペロッ、このノリは以前おっぱいの女の子を書いた時のノリ…!
通常回に戻る(ネジが外れる)
あー、楽しかった。そういう時こそ本人らは大真面目。知ってる。
いつもごちそうさまです。林檎の話も面白かったです。元のイラストはイイハナシダッタノニナーなのを、上手くまとめられていて。リクエストは後どれくらいあるのでしょうか。完遂したかしら。レポートみたいなのも興味深かったし、これからも応援しています!
32ヶ月前
×
>>1
Tyrol様

おっぱいのオハナシ、あれは本当に良く書けてました。今読み返しに行ったのですが今読んでも面白いです。こちらですね。

http://ch.nicovideo.jp/there-is-no-doubt-awesome/blomaga/ar1002369

この頃は本当に好き勝手書いてましたね。
今は実はそうでもないです。
来てくれる人に「面白い」と思ってもらうオハナシを書かなきゃと思い、色々と空回りしているのが自分でも判るのです。
一番良いのは私本人が楽しいと思う事なんでしょうが、私も変に年を取ってしまったものです。
32ヶ月前
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