マダボクハ コドモデス
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マダボクハ コドモデス

2017-02-19 20:07
  • 2

緑谷町は呪われておる。

老人達の中でそう口にする割合は多い。
なら何故貴方達の代で他所の土地に移り住む事をしなかったのか。
そうすれば呪いも愛想を尽かされ消えたりしたかも知れないのに。

緑谷町の呪いは数値化されている。
5センチ以上だったら『呪われている』と認識される。

この地域、緑谷町の呪いは『舌』に出る。


朝起きたら口の中がカラカラだった。
冬の季節は乾燥するとはよく聞くけれど、
今までにない乾燥の仕方だった。
歯磨きをする前に思わずコップで水を一杯飲み下す。

そんでもって、朝ごはんで舌を噛んだ。
先っちょのほうだ、ガブリとやってしまった。

お母さんには悪いが舌が痛くてこれ以上食べたいと思わない。
半分以上残っている齧りかけのパンを皿においてけぼり。
腹の虫はもっと寄越せと言っているけど、
口の門番である舌がもうアカンと言っている。
僕はハラペコという不健康な朝状態のまま登校した。

「舌、かんじゃってさ、思いっきり。
 だから今日昼飯もあんまり食べたくない。」

同じクラスの上林にそう言うと、どこよ、と言われた。
言葉につられてこれだよ、と舌を出して見せたのが始まりだった。
上林が僕の舌を見てこういうのだ。

「お前、舌伸びてない?」

ちょっとトイレ行って鏡見てくる。
少し早歩きで、くっさい一階の男子便所へと転がり込んだ。

ベロンチョと舌を鏡の前で伸ばしてみると、
ベロリンコと自分の舌が長く垂れ下がった。

こんなに、伸びる舌だったっけか。

一回口の中に仕舞い込んで、またベロンと出してみる。
三回同じ事をやったが、三回とも同じ長さの舌が出る。

長い。
どうも長い。
いつもの自分の舌の筈だが、どうもいつもよりかなり長く見える。

上林もトイレにやって来た。
鏡見たかと聞いてくるので、今見たところ、と返事する。

「もう一回出してみ」
「んべ」
「やっぱり伸びてる。
 試しにそれで鼻の先、舐めれるかやってみ。」

上林の御所望通りに舌をペロンと上に向けると、ベチョ、と鼻の頭が湿る。
鼻先のほんのちょっとの部分が濡れる、とかそんなケチなもんじゃない。
まるで小学生の時にクラスでやったお化け屋敷で顔にくっついた蒟蒻。
そう、その感触に酷似している。

「うわ、キモ」
「やれっていったのお前だろ」
「うわー、牧村おめでとう、お前ベロリンガだな。」

ベロリンガとはポケットモンスターに出てくるポケモンの一種である。
それ以外に、舌筋伸長症に罹った患者の事を俗称としてそう呼ぶ。
あくまで、年若い者の間での俗称である。
年配の方になると「垢舐め」とか「犬舌」とか、妖怪みたいな呼び名をする。

「保健室、取りあえず行ってきな。」

上林がそんな気遣いをしてくれたので、
授業のチャイムが鳴るのを聞きながら保健室へと向かった。

「すいません。」
「あら、どうしたの。授業は?」
「いや、ちょっとベロリンガになっちゃったみたいで。」
「ああ、呪い?」
「はい」
「ちょっと見せて」

学校にも既に呪いに罹ったベロリンガはいる。
僕の学年である二先生でも三人、下の一年生に四人、三年生には六人もいる。

「おおーながいねぇ」

んべ、と出した舌を見て保健の先生がほほう、と視線をくれる。

「やだなー、絶対一回はからかわれる。」
「なっちゃったもんは仕方ない、取りあえず担任の先生にも報告しないと。
 君、二年何組?」
「三組です。」
「だれ先生かなー…奥山先生?」
「はい」
「じゃー今から行こう」

白衣を着た保健の先生が廊下を歩く姿を見るのは珍しい。
何せいつもは保健室にいる先生だし、真っ白な白衣は目に留まる。
ペタペタと二人で廊下を鳴らし、教室にやってきた。
横に流すとガラガラと扉が唸る。

「おっ、牧村どうした?」
「牧村君ね、舌筋伸長症になっちゃいました。」
「おーそうか。なっちゃったか。
 先生の兄ちゃんも呪いにかかってんだ、気持ちは良く判る。」

気持ちってなんだよ。
別に悲しいとか嬉しいとか、喜怒哀楽みたいな判りやすい気持ちにはなってないよ。
何て言ったら良いのか、言葉に出来ないような気持ちになってんだよ、今。
僕本人でもこんな手こずるのに、先生、それでも判るっていうの。
大人のこういう調子の良い事いうところが本当に嫌い。

「じゃあ牧村君、今日放課後にまた保健室に来て。」

僕の肩を叩いた保健の先生はそう言ってまたペタペタと戻って行った。

「おい、みんなぁ。
 牧村がこの地方特有の病、舌筋伸長症になっちゃいました。
 もう何度も聞いてきた事だと思うが、
 決して冷やかしたりからかったりしないように。
 判ったかー、返事ぃ。」

はぁい。
朝の学生は、みな気怠い。
社会人になるともっと大変だと聞くが学生は学生で大変だ。

僕の席は一番後ろ。
机に乗せっぱなしのカバンを横に引っ掻けると、
隣の席の水上が声をかけて来た。

「ねっ、牧村君。」
「ん?」
「舌見せて。」
「んべ」

女の子に舌を見せるなんて小学生の時が最後だった気がする。
思いっきりアッカンベーと舌を出して、サービスで左右にプリプリと振って見せた。

「うわ、ながー」
「ベロリンガだよ。」
「綾子と同じくらいかもね」
「アヤコ?」
「綾子よ二組の。堀綾子。」
「あー堀さんか。アヤコって名前だったんだね。」

二年にいる僕以外のベロリンガは男が二人、女が一人。
男二人は昼休みに教室までやって来た。

「おめでとう牧村、ようこそこっちの世界へ」
「お気の毒さま。」
「うるせー」

どうだよ、どんなんだよ。
そうしきりに言われながら舌をベロンと出すと、
他の二人も舌を出して長さ対決が始まった。

もうやめなよーきたなーい。
こっちはご飯食べてるんだよー。
と真面目ぶりの林が案の定大声で言って来た。
アイツはいつも無駄に五月蠅いから嫌いだ。

放課後に保健室に行くと、地図を渡された。

「なんですかコレ」
「沢渡さんの家の地図。」
「さわたりさん?」
「呪いにかかったらね、同じく呪いに罹った先輩の所に話を聞きに行くの。
 この町の条例でそう決まってるのよ。
 もう連絡は入れてるから、どう、もし良かったら今日行ってみる?
 なんか予定ある?」
「いや、ないです。」

じゃあ行ってきます。
自転車を漕いで中学校を出て、坂を下り、踏切で電車を待って、
入った事も無いポツンと建ってあるラブホテルの前を横切り、
古本屋の角から横道に入って、シャカシャカと地図の場所を目指した。

「ごめんくださーい」
「はーい」
「牧村といいます、今日ベロリンガになっちゃった者なんですけど」
「ああはいはい、ちょっと待ってねー」

ガチャガチャと目の前のドアが呟くと眼鏡をかけたお姉さんが出て来た。
かなり僕の好みの顔をしている。美人である。お姉さんですか、ラッキー。

「いらっしゃい、大変だったね」
「あ、いえ」
「どうぞあがって」
「あ、はい。お邪魔します。」

スリッパだ。
凄い、なんかお客さんみたいな持て成し方をしてくれるんだ。
うちのスリッパなんて殆ど使われないもんだから埃被ってるし。

さらにこのお姉さん、お茶は何が良い?なんて聞いてくれるよ。
お茶は、何が良い?お茶はお茶じゃないの。
なんて事をそのまま言ったら何かカッコ悪い気がしたから、

「あ、水で良いです、水道水が好きで」

と要求すると、

「あはは、君面白いね。ミネラルウォーターにするね。」

と優しい感じの声がしたあと、冷蔵庫が開く音がした。

「さて、と。じゃあ見せて貰おうかな」
「え?」
「べーってやって。べーって」
「あ、はい」

出された高級な水で潤した舌を、べーっとお披露目。

「ほぉ~…おめでとう。」
「おめでたいんですか?」
「身体の一部が成長したんだよ、おめでとうと言いたいね、私は!」
「あ、ありがとうございます。」

ちょっと変わってるのか、この人。
手に持ったコップをもう一回口につけて、
よこのテーブルに置きながら気になる事を聞いてみた。

「……これ、呪いなんですよね。」
「うん、呪いだね。少なくとも私はそう教えられた。
 でもね、科学的な研究も結構されてる。
 だからほら、規定もあるでしょ。」
「5センチでしたっけ。」
「5センチだね。」

5センチ。
舌を伸ばした状態で上下を歯で挟み、
歯で挟んだ個所から舌頭までの長さが5センチ以上になる場合、
その者を舌筋伸長症とする。

簡易的な確認法として鼻先に舌頭部が届くかどうかで判断する事もある。

「えーとじゃあね。」
「はい。」
「むかしむかし、この土地に大きなカエルがいました。」

そのカエルは本当に大きくて犬や猫、果ては鶏なども、ぺろりと食べてました。
しかも悪い事に日に日にカエルは大きくなります。
遂には牛を喰う所を見たと騒ぐ者も現れ、退治せねば、こりゃ危ない。
それで雇われた腕の立つ者が狩りに行こうとしたところ、
なんと、幼い子供が一人喰われたとお母さんが泣いています。
血相を変えた狩人は仲間も集めてカエルを探し、
子供が腹の中で溶かされる前にザックザクと斬りつけて退治したのです。

しかし話はそれで終わらなかった。
それから助け出した子供の舌を見てみると、
なんとカエルのように長かったとか。
これは退治したカエルの呪いだと皆は口々に囁き合い、
その土地ではその後も舌がベロンと長くなってしまう者が後を絶ちませんでした。

「――とな。
 まぁ、アタシはこれ、カエルってよりもアリクイだと思うんだけどね」
「…どこからどこまで本当なんですかね?」
「いやーどうだろうね、
 『呪い』は一応風土病だって事でかたがついてるし、
 それでもこの土地には人が住み続けてるし。アタシもそうだし。」
「おねえさん、今何歳なんですか?」
「お姉さんはサユキさんです。」
「サユキさんは今何歳なんですか?」
「今年で26歳です。舌が長いのは結構早くて三歳かららしいよ。
 アタシはあんまり覚えてないんだけど、親がそう言ってる。」

それからサユキさんはこれ以上舌が長くなった場合の対処法、
いざとなったら手術で舌を短くする事も出来る事など色々教えてくれた。
舌を短くした人は滑舌が悪くなって手術したとの事。
しかし過去の二件しか例が無く、実は切らない方が良いらしい。
手術の実例が極端に少ないのはそのせいかも知れない。

「サユキさんは」
「ん?」
「どれくらい長いんですか?」
「んふ。
 アタシ、今この町で二番目に舌が長いんだー。」
「まじっすか!?」
「見たい?」
「見たい、見たいです!」
「それじゃあアンコールに答えまして」

くいっと顎を少し横に傾けて、
口元をニヤリとさせたサユキさんの口からニョロニョロと舌が出て来た。
ニョロ、ニョロロ、ニョロリンコ。
まるで手品で出てくる国旗の連なった糸の様に、思いの外出てくるサユキさんの舌。

「うわー、すげー」

僕の声を聞いてサユキさんは得意になったのか、
頬の筋肉がきゅっと締まってえくぼが見える。

「ん!」

伸びきったのか、舌の先端がピンと細くなった。
あの小さい顎の中にこんなに長い舌が入っていたのかと、
僕は思わず拍手をしてしまう。
ふふん、と言いたげな顔をしているサユキさんが、
まるでハエを捕まえたカエルの様に素早く舌をひっこめた。
ズビュル、というのはミユキさんの舌と唇が擦れる音だった。

「どう?」
「めっちゃ長いですね。口の中どうなってるんですか?」
「別にそこまで大変な事にはなってないよ。
 アタシの場合本当に舌の筋肉が凄く伸びるの。
 だから最高まで伸ばした舌は凄く細い、ほら、見て」

ともう一回ニューっとサユキさんが伸ばした舌を見せてくる。
確かにサユキさんの舌は細い。
ポッキーとまではいかないが、先端はボールペンくらいの細さだ。

「おっと、カピカピになっちゃうよ。」

またシュポンと舌を戻したサユキさんがそう言いながら口の中をモゴモゴさせた。

「……ところで牧村くんよ」
「あ、はい?」
「君、彼女はぁ……いるのかい?」
「え?ああええ、いません」
「ふーん……あのねぇ、良い事教えてあげる。
 呪いにかかるとねぇ、キスがとても気持ち良くなるのさ…。」

そんな耳寄り情報みたいな感じで申されましても。
この人、意地悪じゃないですか。
目の前の中学生が彼女いないって言ってるのに、
キスがどうだのなんて、ハレンチな。
保健の先生、このお姉さんハレンチですよ。

「まー私は物心ついたくらいからこの舌だからぁ~」

サユキさんが舌をこっちに伸ばして先端をチロチロさせる。
まるでカエルと言うよりも、蛇の様じゃないか。

「普通のキスなんて知らないんだけど~」

そしてまるで僕は蛇に睨まれたカエル。

「そうなのぉ、まだなの…」
「……ええ、まぁ。」
「ふふ、ごめん。ちょっとからかっちゃったよ。
 いやー、中学生なんて可愛いからさ。
 そうだ、御詫びにもう一つ大事な事を教えてあげる。」
「な、なんですか。」
「……この呪いはね、舌が長くなる程、キスが気持ちよくなるよ。」

またキスの話かよ。
勘弁してくれよ、こっちはキスもなにも、くそ、この大人。

「…要するに、舌がこの町で二番目に長いサユキさんは、
 とってもキスが……気持ちいいって事ですか。」
「ん?ああ、違うの、そっちじゃないの。」
「そっち?」
「アタシじゃないの。逆側。」


アタシ『達』とキスする相手が、気持ちよくなるのよ。


「……これ、『呪い』に罹った人間以外は他言無用ね。
 それも『掟』の一つだから。」

この先君に彼女が出来てキスをする日がきたらね、もし良ければ私に連絡頂戴。
初めてのキスおめでとうって祝ってあげる。
それで祝い気分のついでに、

「君のお願い、一つ位なら聞いてあげちゃうかも知れないな」
「……と、言いますと?」
「ふふ、それはまた、その時にね。」

人間は欲深い生き物だよ、少年。
連絡手段を交換した僕をサユキさんは最後にそういって見送った。

と、言いますと。だなんて、僕は中学生で、そして男の子。
キスの一つもしたことがないから、年上のお姉さんに、
「じゃあ、今キスさせて下さい」なんて言えないんです。
と、言いますと、なんて、ちょっと探りを入れるような言葉しか知らないよ。
嗚呼、正直にねだってれば、もしかして初めてキス出来たかもしれないのに。
あんな大人のお姉さんと。

そんな事をグルグルと考えながら帰り道を自転車でシャコシャコ帰った。

次の日、昼ご飯を食べようとしたら、
昨日は来なかった顔がやってきた。

「牧村君。」
「あ、堀さん。」
「喋るの初めてだよねー。ベロリンガになったって?」
「うん、そうなんだよ。」
「それで…サユキさんの所に話し、聞きに行ったんだよね。」
「ああ、うん。もう昨日のうちにね。」
「アタシの時もサユキさんだったんだよ。」
「へーそうなの。」
「した?」
「へ?」
「した?」
「舌?」
「ちがう、した?サユキさんと。」

堀さんの口の両側が笑って曲がる、
あの時のサユキさんにそっくりだ、舌を見せてくれる前の、あの笑った口元。

「しなかったの?」
「いや、別になんも……。」
「ふーんそうなの……なんだーもったいなーい」

目の前の堀さん、
堀綾子の唇の間から、
長い筈の舌が少しだけ出てきて、ピロピロと先端が上下に揺れた。
あの時、サユキさんがした仕草と同じだ。

ハレンチ、ハレンチだ。
そう叫んでやりたかったが僕は中学生男子、そんな下品に声は出さない。

堀綾子はもう誰かとキスをした事があるのだろうか。
そして、この町二位のキスと比べて、どうだったのだろうか、
むちゃくちゃ気持ち良かったのだろうか。
この野郎、そんな得意げな顔をしやがって。

この町二位のキスの味は愚か、
そもそものキスの味すらどんなものか知る予定もない、
そんな僕は、


まだ中学二年生。



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雨森様のリクエストの「子供のあざとい賢さ」のオハナシを書こうとし、
見事に大人のサユキ姉さんに抑え込まれる。
どうも、けんいちろうです。
中学二年の牧村君が折角キスが気持ちよくなる舌を手にいれ、
大人のお姉さんを誘ってしまうような流れになるかと思ったんですが、
予想以上にサユキ姉さんがハレンチ過ぎて中学生はただの中学生になりました。
しょうがない、所詮は子供だよ。ゆっくり大人になりましょう。
という訳で雨森様、もう暫くお待ち下さい。申し訳ありません。

けんいちろうでした。


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んーむむむむ
エロいと書こうと思ったがちがう
これはエロチックだ、古い言い方をすれば変態性欲。
29ヶ月前
×
>>1
ヤワラ様

変態と言われた事があります。何度か。
29ヶ月前
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