タイム割引は半額サービス
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タイム割引は半額サービス

2017-02-28 06:47

    窓の外で、
    じっと立っている少年がいた。
    何歳ぐらいなんだろう。

    「ねぇ井上さん。」
    「どうしたん?」
    「あの子何歳ぐらいだろうねぇ。」

    と軽く目線で窓の外の少年を示す。

    「うーん、私らの子供よかは歳よねぇ。」
    「そうよねぇ。」

    はははと小さな笑い声が部屋に響いた後、
    チーフから軽く睨まれる。

    「でも、余程食べたいのねぇ、お寿司。」
    「なんで?」
    「あの子、ずっとあそこに立ってるのよ。」

    今は夕方の六時。
    まだ売り場には多くの私達が用意した寿司が並んでいる。

    「余程悩んでいるのね。」

    私達はそう思いながら仕事を続けた。
    パートの仕事なんて安いものね。
    ちょっとしたお小遣いだわ、やっぱり。

    「あら、そろそろ上がりの時間よ。」
    「井上さん、私今日はもうちょっとなの。」
    「あらそう?じゃあお先ねー。」

    井上さんの後姿を見送った後、
    窓の外を見てみたら、
    あの若い子が立っていた。
    時間をちらりと見たら七時。
    この子、まさか一時間も立ってたのかしら。

    「すいません、ちょっとトイレに。」

    そう言って出てみると、
    少年は480円の十個詰めの寿司パックをじっと見ていた。
    今はまだ七時。
    私はこの少年がタイム割引を待っているのだと直感した。
    でも割引が始まるにはまだ後一時間くらい掛かる。
    この子、あと一時間待つつもりかしら。

    言った手前トイレに行って戻ると、
    やっぱり少年はまだ立っていた。
    みた感じ大学生ね。
    でも、どうするのかしら。

    「あの、お客様。」

    私は思い切って少年に声をかけた。

    「タイム割引は後一時間後ぐらいなんですけど、
     どうします?」

    どうしますというのも変な聞き方だと思った。

    「いや、別に待ってるって訳では無いので。」
    「あら、そうなの?」

    相手が言葉を継ぎたさず、
    一首運沈黙が辺りを支配するも、
    少年が空気を悟って言葉を発した。

    「いや、待ってるって言ったら待ってるんですけど、
     大丈夫です、なんでも無いです。」
    「これ、待ってるの?」

    と少年が見つめているパックを指差す。

    「ええ、はい。」
    「もうちょっと待ってなー。」

    と笑顔で持ち場に戻った。
    結局少年は途中どこかに姿をくらましたりしたが、
    タイム割引が始まる八時まで待っていた。

    タイム割引の値札を貼る城下さんが出て行って、
    やっと私はほっとした。
    まるで我が子の「初めてのお使い」を見ている様だ。
    少年は無事に半額値引きされたパックをもって店を後にしたようだ。

    仕事が終わって道を歩いていると、
    あの少年が道の端に座っていた。

    「あらー、こんばんは。」

    少年は、このおばさん誰?と言った顔をしてきたので、
    今日の事のいきさつを説明した。

    「実は、女の子を待っていたんですよ。」

    少年は意外な事を言った。

    「この連休中遊ぼうって、思い切って誘ったんですけど、
     なかなか予定の時間に来なくて、それでずっと。」

    聞けば少年は四時から待っていたらしい。

    「で、ドタキャンされちゃって。
     それで寿司を見ていたんです。
     僕、寿司を見ると怒りが収まるんですよ。」

    それを聴いた瞬間、笑いを堪えるのに必死だった。

    「そしたらオバサンが、タイム割引あるわよって言って、
     どうせそらならかって行こうと思って。
     女の子には逃げられましたけど、
     寿司は目の前にありましたからね。」

    少年は、そこまで話すと何かすっとしたのか、
    自分のマンションに帰っていった。

    そういえば、若い頃は色々と面白かったわぁ、私も。
    そう思いながらまだ春の匂いが残る風に髪を撫でられながら、
    家族が待つ家に私も帰っていった。


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