石葬
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石葬

2017-06-14 07:12
  • 2

今はもうこの世に存在しないが、
戦国大名も裸足で逃げ出す恐ろしい刀が存在した。
妖刀作りの刀匠、天津時久が作った刀。
それが鬼殺五工と呼ばれる五振りの妖刀。
鬼をも殺す恐ろしい得物。

そのうちの一本が石葬(セキソウ)。
その刃が切った傷から体が石に変わり、
斬られた者は石像と化す。

「お主が妖刀を作る匠か?」

ある日、
一人の御隠居が時久のもとを訪ねて来た。

「いかにも、それがし。」
「一太刀、鍛えて欲しい太刀がある。」
「どのような?」

妖刀を作れと言われてまさか並みの太刀ではあるまいと、
どのような代物が欲しいのか時久が尋ねた。

「斬った相手を石に変える太刀、出来ますかな。」

まぁ、出来ぬ物でもありませんが。
そう言う時久にご隠居は血を差し出し、
残忍な刀を頼むものだと思いながら時久は太刀を鍛えだした。

得物が出来上がり、
裏庭に生える竹を御隠居の前で斬って見せた。
竹は切った所から一尺ほど石に変わり砕けた。

「如何ですかな、このような具合で」
「済まぬが鍛え直してはくれまいか」
「ご不満か。」

石に変わった事に驚く様子はなく、
ただ両の腕を胸の前で組んで難しそうな顔を御隠居がのぞかせる。

「斬った相手を完璧に石に変え、
 尚且つ砕けない代物を願いたい。
 すまぬが事情が変わり、早急に。」

今回の依頼主は珍しく五月蠅い。
確かに時久を訪れる客達はその殆どが妖刀目当て、
妖刀を欲するからにはあれやこれやと偏屈な望みを持ち、
やれもっとここをこうだの、あれをそうだの、
一言二言置いていくのが茶飯事だが、
だがこのご隠居はまた取り分け五月蠅い。

「判り申した。」

一尺も石に変われば大抵の相手は死ぬものの。
このご隠居、どこぞの熊でも退治に行くのか。
ご隠居から更に血を頂き、刀を鍛え直し始めて二日が経った頃。

「太刀はまだ出来ぬのか!?」

血相を変えたご隠居が飛び込んできた。

「少なくとも後十日はかかり申す。
 今火から上げても出来損ないが出来るだけ。」
「十日…!」
「いかにも」
「時久殿……頼んで悪いが、太刀はもう良い。」
「作らなくて良いと?」
「左様。謝礼は積む。すまなかった。」

ご隠居が帰った翌日に弟子が知らせを持ってきた。
ご隠居の娘が亡くなったのだと。
時久は煙をあげに屋敷に赴いた。

「おお、時久殿、よく参られた」

中に入ると娘の器があった。
まだ十四だという。
ご隠居が晩年設けた娘らしい。
とても美しい器だ。

「時久殿。」

ご隠居が鼻をすすりながら口を開く。

「わしは今年で六十四じゃ。
 この長い人生で娘より綺麗な女子は見た事が無かった。」

流れ星が落ちそうに光り輝く夜空の下、ご隠居は語る。

「残したかった…、
 残したかったのですよ、娘の美しさを。
 この美しさを石にして残そうと思っておりました」
「……でしたら、急ぎ戻りて可能な限り、
 今からでも仕上げますが。」
「いや、お心遣い結構。
 時久殿。
 一つお尋ねしても良いか。
 花は、いつが一番美しいと思われるか。
 つぼみか、咲き始めか。
 いやさ、花は一番大きく開いた時がとびきり美しいのよ。
 見て下され、娘を。
 もう、笑ってはくれぬ、わしに笑ってはくれぬのよ。」
「……間に合わずに申し訳ない。」
「いや、こちらこそ。
 すまなんだ、妙な依頼をして。」
「いえ……。」

美しい見目の娘だった。

その後、時久は弟子と窯に向かって刀を鍛えた。
カツンカツンと音が響く中、
汗を垂らしながら弟子が問う。

「……どうしてわざとなさったのですか」
「ん?」
「あのご隠居で御座いますよ。
 早く作れば間に合ったものを。
 どうして、すぐさま鍛えようとはしなかったのですか。」
「ああ、その事か。
 お前、女はどんな時が一番美しいと思う?」
「はい?」
「どこかに座って顔を澄ましている時か。
 それともちらと流し目をしている時か。
 されども、惚れ込んだ女は不思議と、
 笑った顔が一番美しく見えてしまうものよ。」

ご隠居に作り直してくれと言われたその日、
時久は知り合いをやってご隠居の身辺の噂を調べさせた。
滅多な事ではない。妖刀作りとしての勘である。

すると娘の話が浮いてきた。
娘の母親はもうおらず、
ご隠居の元々の妻も死別している。

「笑ってくれと言われて笑っても、
 刀を突き立てられてはどんな娘も苦痛に呻く。
 それが石に変わってしまえば、
 あのご隠居、死んでも死に切れんというもの。」
「はぁ……」
「それに、親の子殺しになぞ手を貸したとあっては、
 閻魔にどんな酷い拷問を受けさせられるか、
 知った事ではないわ。
 この天津時久、まこと、御免被りたい。」

その後に時久はご隠居からの注文を鍛え上げた。
その銘を石葬(セキソウ)。
鍛え上げた石葬で二山先の大猪を突き刺したら、
見事に大岩の如くに変わり果てた。
余りに深く刺し通したもので、
刀の鍔(鍔)だけが表に残っている。

「抜こうとするなら、本人も石に変わろうて。」

そう言って、
時久は石葬を世に放った。



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妖刀物語五日間連続連載第二日目。


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親の愛とは狂気であるところが必ず含まれるんでしょうか……愛情とはそもそも狂気を孕むのかもしれませんねえ
29ヶ月前
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>>1
ヤワラ様

一つ言及するとすればこの御隠居は裕福な人間だという事です。
自分が順風満帆に成功した人生を送って来た場合、
子供に対する所有物にも似た保有感を持つケースがあります。
敢えて「その確率が高い」とは言及致しません。
が、しかしその一例がこの御隠居であることはここで明言しておきます。
29ヶ月前
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