Tyrolさん のコメント

姿が見えないとはどこかのボカロで見(抜刀音)

「虚身」というとそろそろ季節の「空蝉」や、ゲームのダンジョン「うつしみのどうくつ」を思い出します。察しは付きますが、月夜の中気配だけの客人が歩み寄ってくる様子、観客席で息を呑んでお待ちしております…。
ところでお恥ずかしい話、印象的で数幾多のオハナシを読ませてもらって、「鯖木切り」からの再登場ということでして読み返したいのですが、オハナシを探し当てるのは一苦労です。どこのカテゴリから検索するのがいいでしょうか? リンクなど貼ってもらえれば更にありがたい限りです。どうかよろしくお願いします!
No.1
29ヶ月前
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今はもうこの世に存在しないが、 戦国大名も裸足で逃げ出す恐ろしい刀が存在した。 妖刀作りの刀匠、天津時久が作った刀。 それが鬼殺五工と呼ばれる五振りの妖刀。 鬼をも殺す恐ろしい得物。 そのうちの一本が虚身(ウツロミ)。 刀身を鞘から放てば柄を握る者が虚ろになり、 鼻先を行き交う者すら気付けない。 「ごめん下さいよ」 ある日、 一人の猫背な男が時久のもとを訪ねて来た。 しかし夜も更けて随分と。 いよいよ寝に入ろうかと思っていた時久は、 「もう本日は御用立てできかねる」 と言って扉を開けなかった。 ところがこの客がなかなか図太い輩で、 裏庭から忍び入って時久の寝床の障子をガラリと開けた。 「どうか一つ、お願いが御座います」 「願いを乞う者の態度ではないと思うが。」 「いや、どうか、その点は御容赦を。」 「その上こちらも願いを聞く姿ではないと思わぬか。  見ろ、寝間着だぞ。」 「その点も、どうか平にご容赦を。」 さりとて今更着替える気分も無い。 そのまま布団の上に胡坐をかいて、 「そこの障子、閉めなされ」 と真夜中の客を招き入れた。 「どうやら相当お急ぎのようだが」 真夜中に図太く押しかけてくる様を嗜めるように、 お茶の一つも出る筈が無い闇の中で時久が尋ねた。 「天津時久殿とお見受け致す」 「いかにも、天津時久よ。」 「どうか一つ、拵えて頂きたい刀がありまして」 「小太刀かな、それとも太刀か」 「大きさは問いませぬ、  どうか、体が見えなくなる一振りを拵えて頂きたい。」 「身体が見えなくなる?」 真夜中の客が夜の中で渋い顔を歪めたのが時久も判った。 「実は、あっしは盗人で、  ついこの前にとある場所で盗みを働いた所、  とは言ってもそこは荒れ果てた屋敷なのですが、  そこにはざっくりと金が転がっていたので御座います。」 「ほお」 「しかし、それは最近巷で噂の『猿』の隠し金だったんでさ」 「猿?」 「御存知ないので?  鹿猿(しかざる)というまだ若い頭領が率いる盗人集団でさ。  丁度あっしがね、その金を探し当てて失敬しようとした時、  運の悪い事にやつらがそこに帰ってきちまったんだ。」 「奴らとしては運の良い事だな」 「旦那、皮肉がお上手で。  そこで気を緩めていたもんで俺の顔も見られちまって。  今頃奴ら、俺の事を血眼になって探しているにちがいねぇ。」 「どこかへ逃げれば良いではないか。」 「いや、それが結構な金を持ち逃げ出来てね。  それできっと奴ら怒りがカンカンで御座いますよ。  地獄の果てまで追ってくる予感がするんだ。  どうか、知る人ぞ知る妖刀作りの匠、天津時久殿。  一つあっしの助けになってくれねぇか、  金ならあるんだ、たんまりと。」 夜に来る客はろくでもない奴が多い。 だが来たからには刀を打って進ぜよう。 時久は客からたんまりと血を抜いてやり、 夜も夜だというのに窯に火を入れた。 「丁度明日の今頃取りに来い。」 「ああ、ありがてぇ、ありがてえ」 夜が明け昼になり、 再び夜が来る頃には刀は打ちあがった。 脇差が一本、鞘に納め、 また抜いてみると時久の握る手がふわりふわふわ消えてゆく。 これでよしと思った時久はさすがに疲れて、 そのまま敷きっぱなしの寝床に転がると、 すとんと寝てしまっていた。 果たして朝。 時久が目を覚ますと、鍛えた脇差の影が無い。 どこを探しても、刀が無い。 番で出て来た弟子にどこかで見たかと言っても、 そんなものは影も見ないという答え。 「あの盗人め。  盗人らしく持っていきよったわ。」 それから四日後の事。 随分と表が慌ただしい。 弟子になんの事だと聞いてみると、 何でも番所に置手紙があったらしく、 書かれた荒れ寺に行ってみれば、 「なんでも名うての盗賊達が、全員死んでいたとかで。」 「……猿か?」 「御師匠、御存知で?」 「少しな。」 荒れ寺で死んでいた『猿』の面々は何れも殺されていた。 死因は刃物による殺され傷。 しかし不思議に、その殆どが真っ直ぐズブリと刺されたような刀傷で、 真横に切り抜いたような刀傷は一つも無かったという。 とにもかくにも噂が立つほどの盗賊が死に絶えたとあって、 巷は不気味さを感じながらも幾分安堵した様子であった。 だががそれから三日ぐらいしてか、 今度はまた別の奇妙な噂が立つようになった。 なんでも道を歩いていると、 かちん、かちんと金を鳴らす様な音がする。 その音が道の真ん中を動いて通り過ぎていくのだが、 音だけ聞こえて姿かたちが見えやしない。 「その様から巷では『かちんかちん』が出歩く、  と気味悪がっているそうで。」 「『かちんかちん』か。  はは、随分と可愛い。」 「なんでもそのかちんかちん、足音もするそうで。」 「ほう。」 「それと最近、飯屋で変な喧嘩も起きるそうで。」 「いいではないか、  面白い世の中は暇ではない。」 それから少しした晩の事。 時久が寝床で横になっていると音が聞こえて来た。 かちん、かちんと段々と近づいてくる。 時久にはそれが鯉口を鳴らしている音だと知れた。 「いつぞやの盗人だな。」 障子をピシャンと開け放つと、 月に照らされた足跡が二つ庭の真ん中で砂を押し広げ、 今や遅しと時久を待っているようであった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー →後編へ←
この人生、誰を恨むでもない。

所詮は書かずにおられぬこの身よ。

言葉を作るのではなく、

言葉によって生かされている。



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