魔王様に新刊を ①
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魔王様に新刊を ①

2017-07-19 07:29
  • 2

「魔王様、こちらが今回人間と闇取引したリストで御座います」
「うむご苦労、大臣」
「今回も取引は問題なく終了、また一月先に次回の取引を」
「ん、いつも通りね、判った判った。……を?」
「どうされました?」
「なんだこれ」
「どれですか?」
「この……難攻不落ガスタン砦攻略指南書、四冊ってなんだ?」
「ああ、それは本で御座います。」
「本?」
「人間が書いた本で御座いますね、
 なんの趣向かは分かりませんが、取引の品に混じってました」
「へぇー」
「興味がおありで?」
「砦の攻略指南書とある。
 人間がどういう戦略傾向にあるのか勉強出来る」
「なるほど、可及的速やかに用意致します」

「おい大臣」
「はい?魔王様」
「この前のアレだけど」
「あれ?」
「あの砦の攻略指南書ってやつ」
「ああ、どうでしたか、何かの勉強になりましたか」
「あれ、なに」
「は?」
「お前、あれ読んだ?」
「いいえ」
「あれさ、」
「はい」
「人間の男が惚れた女を追っかける話なんだけど」
「は?」
「なんか街で見かけた女を追ったらガスタン砦の中に入っていって」
「はぁ」
「どうにかしてその中に忍び入ってもう一度女に会おうとする男の話でさ」
「はぁ?」
「砦の攻略の仕方じゃなくて、
 どうにかして砦の中に入ってその女に会おうとする話でさ」
「なんだ、じゃあ全然人間攻略の参考にはならなかったんですね」
「しかもこれ、四冊で完結じゃなかった」
「そうですか」
「いや、そうですかじゃなくて」
「え?」
「続きは?」
「え?」
「続きは?この四巻の続きが読みたいんだけど」
「……いや、ちょっと判らないですね」
「ちょっと調べて、急ぎで。」
「いや、次の取引は一か月後なんですけど……」
「………。」
「……じゃあ現在何巻まで出てるか調べますね、取りあえず」
「頼む」

また、別の日の事。
本日は魔族の上層部が行う月例会議。

「魔王様のおなーりー」

ワイワイガヤガヤ

「それでは各自、定期報告を魔王様に。」
「北の沼地、異常なしです」
「よろしい」
「エイカム村の周囲、依然として小競り合いの最中、
 いまも人間側が戦闘をしかけてきていて、暫く戦闘継続です」
「よろしい」
「最近、黒ツノ豚の頭数が思わしくありません」
「食用バジリスクの出荷頭数を調整してバランスをとれ」
「東の洞窟の件ですが――」

「――他に報告がある者は?」
「あ、私からも。」
「なんだ大臣」
「難攻不落ガスタン砦の件ですが、」

ガスタン砦?
なんだそりゃ、難攻不落って。
そんな砦あったか?
ザワザワ ガヤガヤ

「今現在六巻まで出ているようです」
「そうか、よろしい」

ろっかん?
なんのことだ?
お前判るか?
いや、なんの暗号だろう。
サワサワ ヤイヤイ

「――おい大臣」
「あ、魔王様、会議お疲れ様でした」
「いいから、あの会議で本の報告しなくていいから」
「そうですか?それは失礼しました」
「で、その残りの二冊の事だが…」
「次の取引で入手出来るように手は回してあります」
「流石大臣!よろしく!」
「恐れ入ります」

魔王がそわそわして日々を過ごす。
こんなにそわそわするのは久しぶりの事だ。

「魔王様、こちらが今月の人間との取引のリストです。」
「待ってました!
 えーとえーと……あっ!これこれ」
「ちゃんと本の続きを仕入れております」
「どこ、今どこにあるんだ?」
「こちらに」
「おっ!ご苦労、ではさっそく」
「だめです」
「えっ」
「今溜まっている呪文合成、片付けたら渡します」
「ちょっなっ、お前!私がどれだけこの日を楽しみにしてたか」
「仕事、先に片付けて下さい。
 さもないとこの本、灰にしちゃいますよ」
「ぐぬぬ」

「おわったー!さー大臣、本をくれ!」
「もう終わったんですか?」
「終わったって、ホレ!」
「凄く早いですね」
「いーから読ませろ!」
「どうぞ」
「おっ、ご苦労ご苦労」
「(ははぁ、これはいいネタが出来たぞ……)」

「………くはぁ」
「いかがでしたか魔王様」
「いや、それが聞いてよ」
「聞きましょう」
「カタリナがさ、実はトーマスの生き別れの姉だったの」
「ん?」
「トーマスが主人公で、カタリナはトーマスが街で惚れた女ね。
 それで二人が血の繋がった間柄っていうのが五巻の最後の方で判るの」
「へぇー、実の姉に恋してたんですか」
「んで砦の中にミカエルって男がいて、そのカタリナを狙ってんの。
 で、カタリナの方もまんざらじゃなかったのね。」
「ほう」
「それでトーマスと色々あって三角関係になるんだけど、
 トーマスとカタリナが血が繋がってるじゃない。
 それでトーマスは身を引くんだけど、
 六巻の途中でミカエルが実は敵方のスパイだと判るのよ」
「へぇ」
「それでミカエルがカタリナに全てをうちあけて連れだそうとして、
 トーマスがそれを逃がしちゃうんだなぁ」
「逃がしちゃうんですか」
「いや、そこのトーマスの心の機微の描写が凄いのよ。
 姉とは言えど惚れた女、それを攫うようなミカエル、
 敵に姉を連れ去られるという見過ごせない状態と、
 惚れた女の胸中を察してしまう男心のせめぎ合い、
 かー、これは読まないと判らないよねー」
「大変満足されたようでよろしゅう御座いました。
 ところで魔王様。」
「ん、なに」
「その本の作者なんですが」
「おう」
「他にも本を出してるみたいで」
「なに?」
「題名が『魔剣ヴォルガーニス』っていう」
「なにそれ なにそれなにそれ」
「読みたいですか?」
「愚問である!」
「(言いたいだけだな)じゃあ、これ」
「なにこれ」
「来月から実用される非常供給用魔力札です」
「あー、なんか言ってたね、そういうの」
「さしあたり全部で千個あります」
「せんこ?」
「これ、取りあえず来月までに魔王様の魔力を全部込めといてください」
「……これ全部?」
「それが終わらないと、魔剣ヴォルガーニス、持ってきませんから」
「ちょ!おまえ!そういうの汚い!ほんっとうに汚い!」
「はいじゃーよろしくおねがいしまーす」

千枚の札を魔王に残して大臣が去ってしまった。
いっその事力づくで奪おうかとも思ったが、
それでは魔王の威厳が危うい。

しぶしぶ一枚一枚魔力を込める魔王の所にまた大臣がやってきた。

「魔王様」
「………なんだよ大臣」
「緊急報告なんですが」
「どうぞ……」
「アミルの山の間に洞窟作ったじゃないですか、昔。拠点用に」
「ん?ああ…作ったね」
「それが先日落盤したらしくて」
「へぇ……被害状況は?」
「それは現在調査中なのですが、
 例の勇者とやらがそれに巻き込まれて生き埋めになったとかで」
「ゆうしゃ?」
「ほら、例の。
 なんか古代の強化呪文に唯一適合した魔人みたいな人間が最近いるって」
「あー思い出した思い出した。
 それが一緒に生き埋めになったの?」
「との事です」
「へー」
「どうします?」
「まだ息のある魔族を探知魔法で救出後、岩を放り込んで完全封鎖」
「畏まりました。ところで魔力札、今何枚できました?」
「669枚」
「魔王様ガンバー」
「お前人事だと思って……」

魔王、無事に千枚完走。

「流石魔王様です、千枚、確かに」
「ちょっと死ぬかと思った……」
「いやー当初の予定では二百枚だったんですけどね、
 魔族も死ぬ気でやれば出来るもんですね」
「なんか言った?」
「こちらが今月の人間との闇取引のリストです」
「ん……お、これ?ねぇ、これの事?
 この魔剣ヴォルガーニス、三冊って!」
「はい、こちらに」
「よっしゃー!」

「くぅ………」
「魔王様どうしました?」
「これも面白かった……」
「それはそれは」
「三巻で終わっちゃうんだけど」
「あら、それは残念」
「そう、三巻しかないのが残念なんだけど」
「本当に残念、続きがあったらよかったのに」
「そう、続きが……ん?なんか含みがないか、お前の言い方」
「いえ、別に。
 どうぞ、感想の続きを」
「いや、とんでもない鍛冶屋がいんの。
 過去に聖剣とか魔剣とか打った鍛冶屋でさ。」
「ほう」
「それで人生最高の剣を打つの。
 その名も魔剣ヴォルガーニス!これが凄くて、
 試し切りでぶっとい大木も水を斬るように一刀両断にすんのね!」
「凄いですね」
「でも欠点が一つあるの、その魔剣。
 実は自我があって、大木を斬ったあと、鞘から一向に出て来なくなるの。
 生き物を殺したくないって言うんだよね。」
「そりゃまた、剣なのに。」
「そう、剣なのに。
 切れ味はこの世のどの剣も及ばない位凄い魔剣なのに、
 生き物を斬りたくないって言っちゃうんだよねー」
「ポンコツじゃないですか」
「まぁまぁ。
 それで困った鍛冶屋が知り合いの修道院に行って、
 そこの修道女に剣を預けるのよ、
 ここなら抜かれる必要も無いだろうって。
 それで修道女も困惑するんだけど、飾っとくだけで良いからって言われて」
「その話、まだ長いですか?」
「なんだよ語らせろよー。
 いやそれでね、最初は部屋の中に飾ってるだけなんだけど、
 喋る剣に興味が出て、ちょっと鞘から抜いてみたりするのよね。
 それで少しづつ剣と修道女が喋るようになって、
 春には花壇の近くで一緒に花を愛でたりするんだけど、
 いやー、この後の展開がなー、くー」
「あ、次の定期報告会での議題なんですけど」
「話逸らすなよ」

そんなある日、思わぬ相手がやってくる。

「魔王様、人間側から特使が来ていますが」
「特使?」
「ほらあれじゃないですか、この前の落盤で勇者が死んだから……」
「ははぁ……まぁ話を聞こうじゃないか。」

「魔王様におかれましてはご機嫌うるわしゅう」
「ん、で、何用で来た、人間達よ」
「実は和平を求めてやって参りました」
「和平?」
「はい、もう我ら人間と魔族、争いを始めて何百年も経ちました。
 いい加減これ以上争いを続けるのは、お互いの発展を妨げるかと……」
「そうかな、戦は思考を激しくする。
 これまでにない物を生み出し、技術も増えた。
 それはそちらも同じ事ではないか?
 聞く所によると、そちらの技術の結晶みたいな戦士がいるそうではないか。
 いや、まぁ何故か最近はその噂を聞かんが……。」
「はは、所詮は噂、噂はいつかは消えるものですから…」
「今、正直我ら魔族が劣勢とは思っていない。
 技術も育ち、勢いがあるとみている。
 そこでお前達が和平を求めると言うのなら、
 それなりの誠意というものが必要だろう。」
「た、例えば……」
「そうだな、カーベイラの平原、パスラ街道。
 この二つの支配権をそのままこっちに譲渡しろ。」
「な、なんと」
「力ずくで奪ってもいいのだがな。
 どうする、血を流して失うか、
 それとも和平を得る代わりに失うか。
 差し出すならば、そうだな、一年、いや、一年半は和平を約束しよう」
「たった一年半…?」
「不満か」
「くっ……二年、いや、二年半、和平を」
「長くても二年だな」
「……判りました、では」
「おっと、まて」
「え?」
「二年に延ばしてやるかわりに、もう一つ、条件を飲め」
「こ、これ以上なにを……」
「ネリ・モルトクに新しい本を書かせろ」
「ちょ 魔王様っ!」
「なんだよ大臣」
「ネリ・モルトク?
 おい、誰だ、知ってるか……?」

ヒソヒソヒソ

「……ああ、物書きなのか。
 魔王様、我ら人間の物語書きの、ネリ・モルトクですね?」
「そうだ、そいつに新しい本を書かせるんだ。
 それで、それを出来上がり次第、こちらに差し出せ。」

ひそひそひそ

「……なに、そうか。
 魔王様、その者であれば既に新しい物語を現在執筆中、
 もうすぐ出来上がってもおかしくないとの事です。」
「なに!本当か!」
「ゴホン……魔王様」
「なんだ…大臣、そう睨むな。
 よし、取りあえず新しい本が出来次第よこせ、すぐだぞ!」



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交渉材料は土地と本って、
ええ~?魔王様ちょっとちょっと。

→②へ続きます←


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続きが気になる〜
魔力札千枚で読ませて…
27ヶ月前
×
>>1
shiro様

ヒェッ……千枚……魔王様ですらヘロヘロになった難業…大丈夫です、お手を御戻し下さい、ちゃんと続きは書きますので!
27ヶ月前
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