魔王様に新刊を ⑰
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

魔王様に新刊を ⑰

2017-09-11 19:57

    前回は→こちら←から。

    最初から読む場合は→こちら←から。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    歴史上、
    カーベイラ平原での魔族と人間の間の大規模な衝突は過去17回に及ぶ。
    この17回のうち魔族側が人間側に競り勝った事は一度として無く、
    ましてやうち5回は魔族側の大敗で幕を閉じている。

    カーベイラ平原は魔族側にとって鬼門である。
    カーベイラで戦をすれば人間側に勝つ事は出来ない。
    戦のジンクスになったカーベイラ平原での戦いは自ずと避けられ、
    近年四十年、カーベイラでの戦いは起きていない。

    人間側が和平を求めてきた際に大臣がカーベイラを要求した理由はここにある。
    不吉なジンクスを持つ土地を押さえておきたかった為に大臣の舌は素早く動いた。

    故に、カーベイラ周辺の町、マスカラで暮らしたルーファは、
    生まれてこれまで戦という物事を肌身に感じた事は無かった。
    今日のこれまでは。

    城門の破れる音は手紙の出だしよりも丁寧だった。
    お前達を殺しに来たぞという意思がとても分かりやすく、
    え、何ですか、と聞き直すほど回りくどいものでもない。

    勇者が来た。

    いらっしゃったのは魔王城。

    扉の開け方は至極乱暴、
    まさかこれで

    「お茶を一杯貰いに来た」

    なんてことは言わないだろう。

    魔王様が居た場所は良い位置だった。
    城門を見下ろせる城の『鎖骨』で、
    壁を蹴り跳ね、そのまま城門に向かってまっしぐら。

    「だれもこの部屋から出ないで!
     魔王様がそう言ったから!出ないでね!」

    部屋に戻ったルーファの行動は魔王様に従った。
    部屋の者は誰一人として外に出てはならない。
    そう、部屋の者は。

    ルーファは部屋の中にそう叫びこむと勢いよく扉を閉じ込み、
    階下へと降りる方向へ駆け出した。

    物書きの性か、
    それとも単なる好奇心か。
    ルーファの足が赴く所は唯一つ、城門である。

    魔王様は余程正確に下りられたのか既に衝突音が聞こえる。
    城壁が崩れているのか、それともただ殴り合っているのか。
    まだ階段を駆け下りているだけのルーファには判らない。

    言葉を持たない思考は抗い難い。
    またの名を衝動という。

    論理的ではないのだ。
    言葉を介さないが故に意志に突進力がある。

    曲がりくねった階段を降り切って、
    ようやく城門へ通じる直線に身を乗せた時には、
    ルーファの身体は肩で息をしていた。

    侵入者は単騎と言う情報に偽りなし。
    包囲網の様に展開した魔力札が魔王様と勇者を取り囲み、
    まるで閉め切られた二人きりの部屋のような結界で両者が殺し合い、
    ルーファが駆け付けた頃には、
    『殺し合い』がただの『殺し』にすっかり移り変わりつつある頃合いだった。

    魔王と言う肩書は伊達ではない。
    ルーファの眼前で勇者の身体が後ろに吹っ飛び、
    それでも稲妻の様に跳ね返る人間は余程『人間離れ』していたが、
    程なくして魔王様の片手に押さえつけられてしまった。

    押さえつけたのは左手。
    振り上げたのは右手。

    拳は握り込めば皮膚の擦れる音がする。

    魔王様の拳はいよいよ相手の命を喰らうのが待ち遠しいか、
    山々がこすれ合っているような音を巻き散らし、
    秒も待たずに振り下ろされる、間違いない。

    ルーファに見えていた魔王様の背中は大きかった。
    大臣さんに怒られてしょんぼり猫背になっている背中と一緒の筈が、
    今結界内で血みどろの戦いをしている背中は不気味な程大きい。
    大きくて黒い。
    屋外で陽の光は誰にも平等に降り注いでる筈が、
    魔王様の背中だけが真っ黒に見えた。

    これから人を殺そうとしているからだろうか。

    「やめて」、ともルーファは言えなかった。
    よもや「殺さないで」とすら叫べない。

    慣れてないのだ。

    脳に入ってくる情報には二種類ある。
    既に慣れているいる情報と、
    全く新しい情報、この二つだ。

    よもやマスカラ育ちのルーファに、
    人が死ぬ場面など、慣れている訳がない。
    どこにいてもそうだが、どこの教育が人の死を教えるだろうか。
    どこの機関が殺し合いなぞを一般の民に教えるだろうか。
    今目の前に繰り広げられている魔王様と勇者の殺し合いは初めて目にするものであり、
    魔王様が拳を振り下ろして鮮血が飛び散る様などは、
    想像を絶する悲惨さであった。

    臭いと光景があっと言う間に脳の中を駆け巡る。
    それまでの楽しかった事、苦しかった事の記憶を跳ねのけ、
    圧倒的な威力と共にルーファの脳内は踏み荒らされた。
    これが戦、これが死。

    一瞬にして大量の新しくも凄惨な情報を流し込まれた脳は、
    その衝撃に一旦休止を余儀なくされた。

    気絶がルーファを襲い、幸か不幸か、
    勇者を血みどろにした魔王様の顔をルーファが拝する事は無かった。

    気絶が何かをこじ開けたのか、
    ルーファが気が付くと辺りは真っ暗闇の空間に飲まれていた。

    見た事も無い闇にぽかんとしていると、
    後ろから肩をポンポンと叩く手が。
    招かれるままに振り返ってみるとそこにはもう一人、自分が立っていた。

    「ねぇ、あの人どうなったかなぁ」
    「どの人」
    「あの魔王様と闘ってた人」
    「……まず無事ではないよね」
    「生きてるかどうかも疑わしいよね」
    「……」
    「心の整理が出来てないんだ。そんな顔してる。
     魔王様が誰かを殺すなんて、て思ってる顔してる。」
    「……あたしが最初に出会ったのは『ペリ』なのよ」
    「でもそのペリは魔王様でしょ。
     ペリは偽名、本当は魔王様。
     あの人は魔王。
     攻めてきたのは勇者。
     殺し合いをするのが道理よ。」
    「でも、今は和平中でしょ?」
    「和平中の裏切りなんて、よくある戦術だと思わない?
     そういう本も沢山読んできたでしょ、あたし。」
    「たしかに読んだけど…。
     でもこの和平はちょっと違うでしょ!
     二年間の和平の条約で、本の輸出だって決まって、
     それに領地だって、本来の管轄に戻したって!」
    「でもほんのちょっとの事で平和にヒビは入るよ。
     例えばあの勇者さんが和平の事情を知らないとしたら。
     それでこのまま火種が大きくなったら。
     平穏は沢山の人達が守るけど、
     不和はごく少数の人数が作るのよ。
     でも違うでしょ。
     そんな事、実はどうだっていいんだって判ってる。
     魔王様があんなに怖かったって事が、
     今一番わたしの心を騒がせている事なんだ!」

    あなたがわたしで、わたしがあなた。
    真っ暗闇の中のルーファが二つ抱き合うように、
    頭と頭がすり抜けたかと思った瞬間、
    石造りの天井が見えた。

    「あ、ルーファ起きた~?」
    「   」
    「あたしが誰か分かる~?」
    「  ナスカレ」
    「じゃあ~あなたはだれ~?」
    「大丈夫よナスカレ、私はルーファ。」
    「あ~よかった~頭は大丈夫みたいね~。
     なんか倒れてるからさ~。ほんとびっくり~。」
    「……今何がどうなってるの?」
    「ん~城門の修理と~。
     あとそろそろ晩御飯かな~」
    「あたしどれくらい寝てた?」
    「けっこ~ねてた~でも三時間くらい?かな~」
    「そう…あの、」
    「ん~?」
    「あの、勇者って言われてた人、どうなったの……」
    「あ~生きてる~」
    「えっ、ほんとう?」
    「生皮剥がされたけど~」
    「えっ なまがわ?」



    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    まだ続きます。
    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。