魔王様に新刊を ⑱
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魔王様に新刊を ⑱

2017-09-13 19:35
  • 2

前回のあらすじ:
一話目で生き埋めになった事だけが紹介された勇者。
その勇者がまさかの魔王城侵攻。
だがルーファが階段を下りている間にボコボコに。
挙句、生皮を剥がされる。

詳しくは→こちら←から。
最初から読む場合は→こちら←から。


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「なまがわを…えっ?
 なまがわって生皮?これ?」

と自分の腕の皮膚をぐにゅ、っとルーファが摘まんでみせると、
「そ~それ~」とナスカレも自分の腕をぐにゅっと摘まむ。

「ど、どうしてそんな残酷な事を」
「あ~違うの~ちょっとしょうがない事で~。
 あの人間~全身入れ墨だらけで~」
「えっ……」
「そのね~たいこいん?とかいう入れ墨で~。
 それで強くなってたらしくて~。
 今地下牢に一応いるんだけど~。
 暴れられたら~困るから~」
「それで入れ墨剥がす為に生皮を?」
「そ~そ~」

眩暈がしそうだ。
いや、もうしてる。
ルーファが左手で頭をもたげると、
そっとナスカレの手が布団越しにルーファの膝に触った。

「だいじょ~ぶ~?」
「大丈夫大丈夫」
「だいじょうぶじゃないでしょ~。
 ゆっくりしてな~」
「……ちょっと衝撃が強すぎた。」
「どこかぶつけた~?」
「ううん……初めて殺し合いを見た。」
「あ~」
「人を殺す時って、
 ああやって物を壊すみたいに殴りつけるんだね」
「魔王様のこと~?
 でも手加減したって言ってたよ~。
 ほら~和平中だから~。
 いざこざの種は~作りたくなかったんでしょ~。」
「……。」
「それに~相手は殺す気でやって来たんだから~。
 死傷者出なかったのはマジラッキ~。」
「……門番さんとかは?」
「命はとりとめたっぽい~」
「そう……。」
「ルーファ~。」
「ん?」
「魔王様は魔王様だよ~。」

一面しか見えていなかったのだ。
自分の書いた本を好いてくれて、
その為には領地なんてポイとやり取りして、
それで大臣さんにしこたま怒られたっていう、
そんな変だけど、どこか憎めない側面しか見えていなかったのだ。

魔王様なのだ。
強いのだ。
人間を相手に戦ってきたのだ。

人間を殺すのだ。

その面が見えていなかった、知らずに今まで傍に居た。
いや、主に魔王様がルーファに近寄っていたのが真実だが。

「あれ~大臣さん~」

左手を思いきり額に押し付けているといつの間にドアが開いたのか、
もう大臣が体を部屋の中に入れ始めていた。
なんだろう、怒られるのだろうか。
人間の分際であんな所に来るんじゃないとビンタぐらい飛ぶだろうか。
ルーファは大臣に良い思い出が無いものだから、
当然良い印象なんぞは無い。

「ナスカレ、外してもらえないか」
「い~よ~」

ナスカレ、そんな。待って私の春風。
こんな密室に事もあろうに二人きりの相手は大臣さんなんて。
緩和剤としていて欲しいよナスカレ。
ああでもナスカレそんな迷いもなくドアの向こうに。
嗚呼ナスカレ、私の春風が去って行く。

「ルーファさん」
「は、はい……」
「外傷は何処にも無いと聞いてますが大丈夫ですか?」
「大丈夫です、すいません…」
「戦闘に巻き込まれた訳では無いと、
 しかし発見した者は気を失って倒れていたと」
「そうですすいません…初めて殺し合いを見たので…」
「御気分は?」
「結構悪いです……」
「……一つ確認を取りたいのですが」

何を怒られるのだろうか。
どうやって怒られるのだろうか。
ルーファにはある。取るべきでない行動をとったのだという自覚が。

「書けますか?」
「……?」
「書けそうですか?」
「……え、何がですか?」
「本の続きです。」
「……?えー…いやー…、ちょっとまだ頭がぼんやりしてて、え?」
「本の続きが書けそうかどうかと聞いてるんです。
 大体の察しはついています。
 マスカラは人間にとって平穏の地。
 そこで育った貴方が魔族と人間の戦闘を見た事があるとも思えない。
 それで気が付いたら大階段を下りて正面の入り口に倒れていた。
 戦闘の悲惨さに衝撃を受けて気絶したんでしょう。
 そこで確認したいのです、これは非常に重要な事ですよ。
 本の続きを書けますか?」
「ちょっと今は考えられないですね…」
「……」
「……」
「……物語は」
「?はい」
「物語は書き始めるよりも、書き終わる方が数倍難しい。」
「え?」
「少し、私の話をしましょう」

大臣は壁際の椅子を一つ取り腰を掛けた。

「昔、絵本を書いた事があるんです」
「えっ、大臣さんが?」
「ええ。今の魔王様がずっと子供の頃です。
 それこそようやく二本の足で立てるようになった頃。
 先代魔王様が何を思ったのか、私に絵本を作るようにと言ったのです」
「へぇー……」
「意外ですか?」
「どんな本を書いたんですか?」
「葉っぱの話です。」
「はっぱ?」
「一枚の葉が木から落ちてあちこちを冒険する話でした。
 風に乗って色んな所を見て回り、
 様々な物を見たり聞いたりして外の世界を知るのですが、
 青々とした葉っぱは次第に水気を無くして枯れていくのです。
 そして最後はある大樹の根元に落ちて、
 その木の栄養となり、また新しい葉を生やす礎となる…と。」
「へぇ、素敵な絵本……」
「まだ幼い魔王様は何度も私にその絵本を読ませました。
 しかし、ある日こんな事を私に仰ったのです。
 この新しく生えた葉っぱはこの後どうなるの?
 その本を書いてよ、と。」
「子供ながらになかなか好奇心旺盛ですね。」
「子供の頃から手強い相手でした。
 それから私は魔王様に促されるまま続きの絵本を書き始めたのですが、
 途中まで書いて、そこで筆が止まってしまったのです。
 どうしてだと思います?」
「……色々理由は考えつきます」
「私の場合は、前の絵本と同じ終わり方じゃダメだと思ったからでした。
 途中の場面は良いのですよ、前の絵本に無かった場面を色々書いて。
 しかし書いている最中、ふと最後のしめの事を考え、
 一体今回はどんな終わり方にしたら良いのだろうかと考えるうち、
 徐々に筆が鈍っていきました。
 前と同じ終わり方にすればいいと思う自分もいたのですが、
 自分のプライドみたいなものでしょうか、
 絶対に別の終わり方にして魔王様を楽しませようと、
 でもその終わらせ方が思いつかず、
 結局その二冊目の絵本は途中で止まったまま、
 書ききる事は出来ませんでした。」
「……勿体無い。」
「ルーファ、貴女は凄いです」
「えっ!?」
「ん?」
「いや、大臣さんにそんな風に言われると思ってなくて…」
「貴女は凄い、これまでに長い物語を二回も終わらせて、
 しかも今は三作品目を書いている。」
「いや、まぁ……好きで書いてるだけです、本当」
「……書き始める事よりも、書き終わられる事の方が難しい、
 私はその事を絵本作りで知りました。
 今、貴女はまさに作っている最中ですが…。
 魔王様がお話しなさったんですよね?
 今回だけは絶対にハッピーエンドにしてくれと。」
「はい聞いてます。理由もちゃんと理解してます。」
「少しばかり不本意かも知れませんが……。
 どうかその様にお願い致します。
 今回勇者が攻めてきた件も人間側に連絡を飛ばして確認しました、
 彼の生存は未確認の状態で、生き埋めから生還した勇者が勝手に行動したと。
 あとは意識を取り戻した彼本人の口から事実確認を取りますが、
 まぁ万が一違っていてもその方向で事を勧めようと思っています。
 今魔族と人間の間はこれまで無かった変革の可能性に乗り出しています。
 申し訳ない事に、
 それが貴女の書く本にかかっているのですよ。
 とは言っても我々魔族も全勢力をあげて事に取り掛かります。」
「なんか…凄いですね。
 自分の事なのになんか違う世界の事を聞いているみたい」
「紛れも無く、貴女の事ですよ、ルーファ。」

大臣が差し出してきた黒色の手に、
ルーファは自分の手を交わらせた。

ハッピーエンドにしなければ。
ルーファの頭の中にその事だけが過った。


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まだ続きます。
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ナスカレちゃんマジ春風、いやし系(´;ω;`)ウッ…

大臣の話には共感します。ぽんぽん短編を書けるのは憧れです(センセイもです)。書こうとすると、愛着や心情表現が重なって冗長になって間延びして間延びして…。小さい頃に通っていたアトリエ教室で毎年ある時期に絵本を描く授業があって、歳を重ねるごとに文章量が増していき、締め切りのおかげでこれ打ち切りエンドやんになることもありました。
長編で言うなら、ある時は頭の中の全体像になかなか筆が届かずにやきもきし、ある時はちょっと書いたつもりで文章量の多すぎさに要約するか迷い筆
ぱぱならないですね、物書きって。
24ヶ月前
×
>>1
春風の表現の下りですが、
これはかの有名な漫画、「ベルサイユのばら」からの引用です。
詳しくは「ベルサイユのばら 私の春風 ロザリー」で検索を。
それにしても「私の春風が去って行く」って凄い台詞だと思いませんか。
私がベルばらをちゃんと読んだのはつい三年前の事なのですが、
そこに出てきたこの台詞に後頭部をビームガンで撃たれたような衝撃を受けました。
物書きなら死ぬまでに一度同じセリフを言わせてみたい。
ああナスカレ…去って行ってしまう、私の春風。

後半のコメントを返させて頂きます。(たった一行を前半とするとは…)
まずセンセイと呼ばれて恐縮です。
今回「物語は~」とあくまで物書きの視点で書きましたが、
これは別段物語に特化した事ではなく、万事において言える事です。
禁煙でも仕事でもダイエットでも始める事より終える事の方が難しい。
私は主に物語を書く面で苦しんでる訳ですが…。
結局それぞれの事にそれぞれの苦しみがあり、
何事もそれらを掻き分けて進まないとゴール地点にはたどり着けない訳です。
私も過去にやっていた別のブログで何作も未完結のオハナシをそのままにしてました。
今はあの時のようにはなるまいと自戒して書き続けている次第です。

最後になりましたが、
頭の中で想像したビジョンをそのまま筆に落とし込む技術は素晴らしいものだと思いますが、私は筆に出てくる分だけで良いんじゃないかと思っている人種で御座います。頭の中のビジョンって言わば三次元以上のものだと思っているので、それを文字次元だけの事象に落とし込むのは無理だと諦めているので…(その技量がないだけ、ともいう)。
結局言葉をコントロールするのではなく、言葉に任せて筆を走らせるのが一番気持ちが良いと思います。
24ヶ月前
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