魔王様に新刊を ⑲
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魔王様に新刊を ⑲

2017-09-14 20:52

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    「魔王様」
    「ん、大臣」
    「勇者本人からも裏が取れました。
     彼は本当に和平の事を知らずに攻め込んできたとの事。」
    「そうか、良かった。」
    「それにしても結構暴れてくれましたね。」
    「いや、正面から来てくれて良かった。」
    「あと魔王様のいらっしゃった位置も」
    「ほんとほんと、偶然バルコニーに居たから即駆け付けられた。
     それにしても久しぶりにあんなに激しく身体動かしたなぁ」
    「相当手強い相手でしたよね。」
    「あの結界張るのに魔力札何枚使った?」
    「600枚くらいですね」
    「湯水の様にとはこの事か。
     あれ作るのに結構苦労したんだよ、知ってる?」
    「千枚作っておいた備えが功を奏しましたね。」
    「話聞いてる?」
    「聞いてます聞いてます。
     ですのでまた消費した分の補充を行いましょうね。」
    「んー?どういう事かなー?」
    「またまた、すっとぼけちゃって。
     そもそも今回はあの魔力札があったから良かったものの、
     あの決闘場さながらの結界を張ってなかったら今頃どうなってたか。
     被害甚大でしたよ。」
    「いやー、でもほら、まだ本の製作が残ってるし」
    「補充人員を充てます。取り敢えずナスカレと、もう一名」
    「ん?二名分?」
    「ルーファも担当から外します」
    「えっ、やっぱり頭の打ち所とか悪かったの?」
    「いえ、体は至極健康、知覚的にも問題はありません。
     しかし問題は精神の方ですね。
     彼女、初めて戦闘を見たらしいですよ、今回」
    「……そもそも、それなんだよな。
     私、ネリ先生に部屋の中にいるようにって言ったのに。
     なんだろ、物珍しさに誘われてきちゃったのかな?」
    「いや、多分違うと思いますよ。」
    「と言うと?」
    「魔王様が勇者を殺すのを止めたかったんじゃないですか。」
    「なにそれ?」
    「確か魔剣ヴォルガーニスにこんな下りがありましたよね。
     修道女が魔剣を触ろうとした時に、魔剣がそれを拒む場面。
     その理由は親しくなった修道女に人殺しの道具に触れて欲しくない、
     という、なんとも平和な理由でしたけど。」
    「ああ、なんだ大臣もちゃんと読んだんだね。」
    「親しくなった魔王様に人殺しをして欲しくなかったんでしょう」
    「……いやいや、そんな事を言っても私魔王だし。」
    「そうなんですよ。
     彼女はそれが判っていなかった。
     だから今まで知らなかった魔王様の魔王足りえる一面に、
     かなり激しい衝撃を受けたのでしょう。
     魔王様、あなたは少し魔王らしからぬ面で彼女に接し過ぎましたね。
     けれどどんな事が起きても貴方は魔王様。
     その事を、今一度ルーファに確認させる必要があるんじゃありませんか。
     今後ためにも。」

    魔王様は耳が痛い。
    ごもっとも、と言うほか無い。

    ルーファを攫いはしたが、
    それ以外では威厳のある場面を見せた事があるか、と自問した時、
    記憶の何処にも引っ掛かる場面が見当たらない。

    だがしかし我は魔王なり。

    「ネリ先生は今どこに?」
    「医務室にまだいる筈です。」
    「判った。」

    場所を聞くのは行くから。
    場所を聞いて行かないのは意味が無い。
    臆する事が無意味にする。
    魔王様の肚のうちに臆する事など無い。
    我は魔王なり。
    こんこん、と戸を二回叩いた。

    「ネリ先生、入るよ。」
    「あ、どうも……」
    「他は誰もいない?」
    「あ、さっきまで大臣さんが……」
    「うん、なるほど」

    椅子を引きずる魔王様。
    魔王様に引きずられる椅子。
    擦られる床、響く音が五月蠅いばかり。

    「どうして見に来たの」
    「いや、見に行った訳じゃあ」
    「じゃあどうしてあの場に来たの」
    「あの……」
    「……」
    「怒ってますよね……」
    「ちょっと怒ってる。正直に言うと。」
    「ごめんなさい」
    「どうして部屋にいなかったの」

    魔王様が怒ってる。
    きっと一番怒らせてはいけない相手を怒らせてしまったんだ。
    罪悪感が喉元に栓をしては謝る言葉の一つも出てこない。
    ルーファが俯いて黙りこくっていると魔王様の口からため息が漏れた。

    「無事で良かった。心配した。」
    「すいません……。」
    「ネリ先生、万が一この先同じような事があっても、
     絶対に今回みたいな事しちゃ駄目だよ。」
    「あの…あたし」
    「うん」
    「魔王様に人を殺して欲しくなくて……」
    「大丈夫、手加減した。」
    「それで、魔王様に止めてって、そう言いたかったんです。」
    「あの場で?」
    「はい……」
    「そっか……怒らないから、もっと話して?」
    「……昔読んだ本を身体が覚えていたのか……。
     決闘する男を婚約者の女性が止めに行くシーンがあるんですよ。
     階段を下りている最中、その事は全然頭に思い浮かばなかったんですけど、
     でもあたし、魔王様に言わなきゃって思って……。
     けど、声の一つも出ませんでした……。
     目を開いて見ているのが精一杯で、
     『やめて』なんて、かすれた声も出ませんでした……。」
    「ネリ先生。ごめん、私、魔王なんだ。」
    「……存じてます。」
    「欲しい物とか大体手に入るけどさ。
     すんごい魔力で結構色んな事も出来るけどさ。
     それでもやっぱり私には義務があるのよ。
     魔族の長だから皆を守る立場にあるし、
     家族である皆を殺そうって奴が来たらミンチにしなきゃいけない。
     他にも領地内の治水工事とか、
     農作物の改善法とか、
     なんか色んな頭が痛くなるような事てんこもりでさ、
     本当、なんでこんなに忙しいんだろとか思う事もあるけど、
     それはやっぱり私が魔王だからなんだよね。
     知ってる?私ってさ、実は偉いの。」
    「……ふふっ、知ってます。」
    「へへ。ふー……。
     ……この魔王城も過去に攻められた事は一度や二度じゃない。
     あの城門だってこれまでの歴史で何度ぶち破られた事か。
     そうなりゃもう斬った張ったの殺し合いするしかない。
     私だっていつまでも玉座にデンと座っている訳にはいかない。
     だって、私自分で言うのもなんだけどメチャ強いからね。
     ちゃんと見た?私の戦いっぷり。」
    「凄く怖かったです。」
    「え、ごめんね。」
    「いえ……。」
    「で、まぁ……んー……。
     私が魔王だってことを、ネリ先生にはちゃんと判って欲しい。
     私は魔族全部を率いる立場にあって、
     私は家族を守る為に先頭に立つ存在だって事を、
     理解して欲しい。
     お願いできるかな。」
    「……すいません、あたしが部屋から出なければ……」
    「あー違うちょっと待ってちょっと待って。
     そういう事言いたいんじゃないの。
     私のね、立場をね?ただ判って欲しいって、そういう事なの。
     別に責めてる訳じゃないの」
    「はい……。」
    「……ネリ先生。
     ネリ先生にね、お願いがある。」
    「……私に出来る事ならば」
    「私の仕事、一つ減らして。」
    「……えっと……?」
    「ネリ先生がね、本の続きを書いて、
     それが人間側にも普及して、
     それを切欠に色々魔族と人間の間で貿易して、
     それこそもうずっと和平状態になったら、
     私はもう城門をぶち破りに来る馬鹿を殺さなくて良くなるし、
     家族が人間に殺されるって心配もしなくて良くなるから。
     お願いネリ先生、力を貸して欲しい。
     色んな仕事に追われる私から、一つ仕事を減らしてくれませんか。」
    「   私なんかに出来ますかね」
    「できる。きっと出来る。
     さっき言ったみたいに慣れない事は出来ないものでしょ。
     戦闘の場に駆け付けて急に『やめて』って言えないだろうけど、
     それでも書く事ならずっとやってきたんじゃない、ネリ先生。
     その力をこの魔王に貸してやって。
     頼りにしてるんだ、ネリ先生の事。」
    「――勿体無い御言葉……。」
    「はは、そんな畏まった言い方しちゃって。」
    「魔王様」
    「ん?」
    「一つお願いが。」
    「なんでしょ。」
    「手、触っても良いですか。」

    魔王様に手は二本ある。
    そのうち片方をルーファに伸ばすと、
    ルーファは魔王様の掌に、自分の掌を合わせた。

    「もう、これからは言われた大事な事、絶対守りますから。」
    「うん、是非そうして。
     特に今回みたいな戦闘時にはね。」
    「はい、誓います。……あたし、本、頑張ります。」
    「頼む。」


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    まだ続きます。

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