魔王様に新刊を ㉓
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魔王様に新刊を ㉓

2017-09-28 19:33
  • 2

前回は→こちら←から。
最初から読む場合は→こちら←から。


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「誰が誰を殺すって?」
「いや、先程申し上げた通り」
「私が?ネリ先生を?」
「そう魔王様が、私を」
「……なんで?」

なんで。
なんで、なんでと問われたら。
今、その意味は二通りある。

なんで、そんな事をしなきゃいけないの。

なんで、そんな事を今言うの。

前者は魔王様自身の不満が含まれているが、
後者はルーファへの心配だけで構成されている。

なんで、そんな事をしなきゃいけないの。

なんで、そんな事を今言うの。

さぁ、どっち。

「なんでそんな…ネリ先生大丈夫?」
「大丈夫、至って大丈夫です。」

魔王様の『なんで』。
それは後者のようだった。
膝を折り、椅子に座るルーファに目線を合わせ、
その膝に手を重ね、
それはまるでそこから意志の伝達を図るかのようだった。
実際に伝達するかは問題ではないのだ、
それをしようとする事が、今は大事なのだ。

そんな中でルーファがこう口を開いた。

「でもまぁ、冷静に考えてみればですよ。
 私生児として生まれ、
 母を亡くし、面倒を見てくれた祖父も失い、
 そんな中で一人細々と暮らしていたら、
 なんと魔族の王様に攫われちゃった女がいるんですって、この世に」
「  え?」
「どう思います?」
「え……ごめん」
「あああごめんなさい、違うんです、そういう事じゃなく…。
 うーん……。」

自分の膝に乗っている魔王様の手に自分の手を被せ、
少し考えている顔をルーファは浮かべた。

「……私生児として生まれ、
 母を亡くし、祖父にも死なれ、
 細々と暮らしている中魔王様に攫われて、」

これは、どんどん責められる兆候だろうか。
魔王様の背中に少し汗が出る。

「それで話を聞いてみれば、
 なんと私の書く物語が好きだって言われて、
 物語の続きを書いて欲しい、だなんて言われて。
 しかもそれまでに私の本と交換に領地を手放したって。
 こんな話、私の知り合いに話しても絶対信じてくれませんよ。」

そういうルーファの口元が笑うではないか。
別に責められている訳では無いのか。
膝と、手。ルーファの身体でサンドイッチされている魔王様の手が、
少し緩んだ。

「それから本の続きで一冊書いてみれば、
 知らぬ間に私とは別の人が私の本を書いてて、
 しかもそれも結構良い出来で。」
「ん、あれネリ先生も読んだの?」
「ええ、一体どこの有名な作家が書いたんでしょうね。」
「でもネリ先生の方が面白かった」
「もう……またそんな…」
「本当だって」
「それで……私の書いた本を魔族から人間に輸出したらどうかと言ったら、
 それが本当になっちゃって、
 しかも異世界から来た兄勇者さん?あの人の協力もあって、
 不思議な位にトントン拍子に事が進むし、
 いきなり五千冊も本を作る事になったし、
 その間、ちょっと乱暴な方の勇者さんが来た事もあったけど……。」
「あったねぇ……。」
「でも中央政府が無料で五千冊を配布して、
 いよいよ次の巻で人間と魔族の関係を良しとするか、
 もしくは悪化させるか……しかも魔族は元々人間って……。
 どうです?こんな人生、もうお伽の物語も真っ青ですよ!」
「ははは、本当だねぇ。」
「笑い事じゃないですよ、
 半分くらいは魔王様が私を攫ってからの事じゃないですか」
「ごめんなさい」
「あはは、はぁ……それで……。
 最終巻を書き上げたネリ・モルトクは、
 魔族から人間側に本を更に売りつけるも、
 そのあまりの内容の酷さに人間達が怒り、
 魔族人間間の関係悪化の責任を取る為、
 世界中の人間が見つめる中、
 魔王様の手で魔女として殺されてしまうのでした……。
 
 もし、
 私の事が伝記になれば、
 締め括りはこんな感じが相応しいでしょうね……。
 
 ですからお願いです、
 どうか最後は魔王様の手で私の人生に幕を。
 ここまで他人の人生を派手な物しといて、
 最後だけ手を抜くとかダメですよ。」
「ネリ先生……」
「これじゃダメですか?
 私、不幸な話を考える事には自信があるんです。」
「……万が一、本当に関係悪化の結果になるなら、こうしよう。
 ネリ先生の本が面白くないと喚く人間共に魔王様が怒り、
 地獄の業火で一人残らず人間共は根絶やしにされました。
 その炎はまるで魔王様の気持ちを表す様に、
 一か月絶える事無く燃え続けました……ちゃんちゃん。」
「ええ……滅ぼしちゃうんですか?」
「だって私魔王だもん」
「その時は是非私も一緒に……」
「いつからそんなに死にたがりになったのネリ先生」
「だって……責任は私にあるのに、
 私だけ生き延びるなんて絶対に許されない……。」
「じゃあ、じゃあさ、」

と魔王様が膝立ちの足を組み替える。

「次の本がバカ売れして、
 それで人間と魔族の仲も良くなる切欠になった場合の話、
 ほら、その場合はどうなるの?」
「……うーん」
「ちょっとww物書きでしょww」
「うーん……」
「そうだなぁ……。
 無事にネリ先生の本が完結して、
 それが人間と魔族の関係を良好にして、
 ちょっと寂しいけど、ネリ先生が人間側に帰る事になりました。
 ……もう、ネリ先生がルーファだって事も知れ渡って、
 結構な有名人にもなってます。
 わぁ、凄い!この人があの本を書いたネリ先生だって!
 そう言う人もちらほらいるくらいです。
 ……さぁ、どうしたい?」
「……あ、」
「ん?」
「……おっちゃんの、鶏と野菜の特製ソース煮込み……」

が食べたいと言いたかったのだろう。
だが言い切る事は出来なかった。
唇が震えたのだ。
涙が積もった。
目蓋に溢れ、
手の甲が、
口を隠した。

おっちゃんの、あの料理が食べたい。
水気に滲む声でルーファがそう言ったのは、本心からであろう。

魔王城の食堂には結構なものが揃っている。
魔族と言えども元は人間、とんでもないゲテモノなど出てこない。
ちゃんとした見た目で、ちゃんとした上手い料理が出てくる。

しかし、そういう訳では無いのだ。
これまで何がルーファの身体を作ってきたのか。
それは紛れもなくかの鳥と野菜の特製ソース煮込みと言える。
彼女は連日例の屋台に通いつめ、
数えるのが億劫な星の数ほど同じ品の注文を重ねた。
彼女の口に入った料理は母親の物も多いが、
それを上回る回数、屋台の料理が口を通っている。

ルーファの母は、ルーファが五歳の時に天に召された。
成人するまでの食べ盛りの身体を支えたのは、
鶏と野菜の特製ソース煮込み。
祖父が存命の時は、二人で屋台に赴いた。

ルーファの舌には、懐かしい味が染み込んでいる。
舌だけではないだろう。
その全身と化した料理が、元の味を覚えている。

味の恋しさは故郷の恋しさか。
今までこういった事で涙を見せた事のなかったルーファを前に、
魔王様としては悟る事がある。

秋は楓。

冬は雪。

春は桜に、

夏は空。

この世を美醜で語るなら、

『立ち向かう者の背』よりも美しい物が、

この世にあるだろうか。

ルーファだ、ルーファの背中だ。
失敗すれば死ぬと自らを覚悟し、
それでも無数に転がる程の物語を書き続け、
最早狂気の沙汰と呼んでも可笑しくは無いこの様相、
それでも打ち寄せる事を止めない不安の中を泳ぎに泳ぎ、
魔王様が覗くその寸前まで止める事のなかったこの筆、
それを持つこの腕、その腕が繋がるこの小さな背の、

この背に勝る美しい物がこの世にあるか。

あるなら教えてくれ、
もしこのネリ・モルトクがいつか死ぬとしても、
この美しさに勝る物の為に魔王はこの世を滅ぼさない事だろう。

しかし今この時を見るなら、
魔王様はネリ・モルトクの背、これ以上に美しい物を知らない。

「ネリ先生……。
 あのね、このまま聞いて。
 ちょっと夜のデート、しませんか」
「……あは、あたし、この台詞聞いた事ある……」

椅子に座るルーファの横にいる魔王様からは、
ルーファの背中は半分も見えないが、
果たして『見える』だけが、美しさか。

「……ちなみにどちらに、おデートを?」
「そりゃ勿論、二人が出会った場所に。」
「……どうせならリクエストしても?」
「勿論、この魔王に出来る事なら、なんなりと。」
「姿も、あの時の方がいいです。」
「お安い御用で。」

夜はさながら厚化粧。
遠くからでは判らないが、近くに寄らば知るだろう。
誰が何処に居るかもよく判らない夜の魔王城の天辺で、
こそこそと動く影、二つ。

「さぁーて、十分位で着くかなぁ。」
「わあ、たかーい」
「ネリ先生しかっりつかまってる?」
「大丈夫です」
「ネリ先生、敬語敬語」
「おっと。大丈夫よ、ペリ」
「よしよし、じゃあしっかり掴まっててね。
 マスカラまで10分で飛ばすとなると普通に息するのも辛いと思うから、
 ちゃんと懐に顔突っ込んどいて。」
「わぁー、あたし死なない?」
「死なない死なない、苦しかったら胸板叩いてね。」
「ははっ、叩き割るかも」
「そいつはやばい、手加減しないとね。
 それじゃあ、行きますか。」
「まだおっちゃん屋台出してるかなぁ。」
「出してますように、っとぉ!」

魔王様の足が魔王城の屋根を蹴る。
あとは風が一塊の影を揺らしに揺らし、
今夜のデートは遅い始まり。

しかし、二人は気が付いていなかった。
魔王城を出た瞬間に、
強制的にもう一名、デートの付き添いが付く事を。


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まだ続きます。
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はっ、これはまさか・・・! あ ら す じ 隊 長!

違ったら明日夜天買ってきます。
あってたら土曜日夜天読み込みます。
23ヶ月前
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>>1
Tyrol様

あらすじ隊長www
なるほど、あれだけあらすじの所で出てきましたもんね……あらすじ隊長……(笑)
答え合わせは是非次回に!
23ヶ月前
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