魔王様に新刊を ㉕
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

魔王様に新刊を ㉕

2017-10-01 19:19
  • 6

前回は→こちら←から。
最初から読む場合は→こちら←から。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「魔王様」
「でた大臣、来ると思った」
「昨日の夜にルーファとおでかけしたそうで」
「そうです」
「しかもマスカラまで?」
「そうです」
「夜中に?」
「そうです」
「飛んで?」
「そうです」
「と、いう事は、ルーファを抱きかかえて?」
「ええそうです」
「……どうでした?」
「え?なにが?」
「ルーファの身体は。」

そう言われて、
魔王様は大臣が何を言わんとしているかを悟った。

「……前に攫った時よりも軽くなっている気がする。
 あれから随分時間も経って、感覚だから誤差範囲だろうけど。」
「食堂では結構食べていると報告を受けているんですがね。
 入れたものがそのまま素直に吸収されているとも限らないですか。」
「さすがにトイレに邪魔して様子を伺うわけにもな」

心労は溜まるばかり。
慣れない場所に慣れない面子、
そして無意識にのしかかってくる重圧。
誰がルーファの肩に乗せるでもない、
ただルーファ本人が勝手に背負っているだけという節もある。

身体が資本という言葉を疎かにする事無く、
ルーファの部屋の下の天井に、
密かに補助魔法陣を敷く事によって対策は打たれた。

「大臣」
「はい?」
「咎めないんだな」
「今回は前回とは違うでしょう、明らかに。」
「まぁ、そうだね。」

懐かしい。
あの時は同行したササミに怒鳴られもしたっけなぁ。
それに引き換え、今回はササミが声すら出さなかった。
それが、今回の『外出』の意味をそのまま表しているのかも知れない。

「魔王様」
「あら、アマンダ」
「この前ルーファがね、紙を取りに来てさ。」
「お、おう」
「今回が最後になるかも知れません、と言っていた」
「……そっかー」
「でも何とも言えない顔をしていたよ」
「有難う、判った。」

魔王様にそう報告するアマンダも難しそうな顔をしている。
もしかしたらその時のルーファの表情が転写されたのかも知れない。
だとしたら自分としては、完成した本を一冊でも人間に売れるようにしなければ。
魔王様の決意は固かった。

「ナスカレ、あたし不思議な事があるの」

そうルーファが言ったのは、
アマンダから『最後』の紙の束を貰って二日経った夜の事。
食堂でA定食を両手に抱えて机に座り、
フォークで肉片をつつきながら切り出した。

「どーしたの~」
「なんていうかね、……こう……」
「どうした~?」
「……物事の運びが、良すぎない?」
「……んん~?」
「……」
「んんん~?」
「いや…だってさ、あたしが本を輸出しようってなって、
 トントン拍子で事が進んでるでしょ。」
「あ~ね~?」
「あーね?」
「あ~なるほどね~、の、りゃく~。
 最近わたしの中で流行ってんの~。
 そんなことはどうでもいいから~続けて~?」
「…まぁ、それでよ。
 兄勇者さんが来て、なんとか五千冊作って。
 途中で抜けちゃったけど、その時の事は後から聞いたわ。
 皆総出でやってくれたんだよね。本当に感謝するわ。」
「わたしもやったし~」
「ナスカレも勿論ありがと。
 それで…人間側の対応が余りにも円滑過ぎない。」
「あ~」
「何か知ってる?」
「あの~兄勇者さん~?いるじゃ~ん」
「うんうん」
「あの人が相当頑張ってるらしいよ~」
「そうなの?」
「そ~そ~。
 なんでもあちこち神出鬼没で~。
 転送陣とかもつかって移動して~。
 色んな所の偉い人とかに色々喋って~。」
「何説明してるんだろ?」
「くわしい事はわかんないけど~。
 あの人実は相当頭いいんでしょ~?大臣さんが言ってた~。
 大臣さんが言うんだからそーとーだよ~。
 で~、そのとーとー頭の良い人がちょーがんばって~。
 それで今の状態にしてくれたみたい~」
「そうだったんだ……。」
「でもあっちも驚いてるらしいよ~」
「なにが?」
「ルーファのこと~。
 新刊の進行状況~?あっちと出来るだけ合わせるって~。
 でもルーファのげんこー誰も見てないじゃ~ん?
 だから~実はね~アマンダから~渡した紙の量を調べてて~」
「ああ、まあそうなるよね」
「アマンダを悪く思わないであげて~?」
「悪く思うなんて。いつも迅速に協力してくれて感謝してるくらいよ。」
「よかった~。
 それで~その量を魔法通信で報告してたら~。
 兄勇者さんが言ったらしいよ~。
 尋常じゃない速度を維持してるな~って。」
「……兄勇者さんがそう言ったの?」
「らしいよ~。ま~わたしは魔王様からの又聞きだけど~」
「へー……。」
「ま~あれだよ~。
 お互い全然様子が判らない位置にいるからさ~。
 やってる事の仔細なんてわかんないじゃ~ん?
 それだったら対岸のことなんて~、
 淡々と進んでるようにしか見えないって~。」
「そっか……。」

こちらがあちらを知らなければ、
あちらもこちらを知らない。
それがまだ人間と魔族の間の隔たりを表しているのかも知れない。

とにもかくにも、あちらでも四苦八苦している方がいる。
それに対して自分だけ負けるような頑張りだったら、
きっと今日のこの日がやりきれない。
折角聞いた誰かの頑張りを、
まるで呆けて聞き流した馬鹿だと、自分を恨む時がくる。

「ごちそうさまっ」
「お~、はやくな~い?」
「おさきにっ」
「がんばろ~ルーファ~」
「うん、がんばろう」

誰も知らない。
ルーファがどんな顔をしてどんな速度で物語を書いているのか、
この魔王城に住まう誰一人、猫一匹とて、その事を知らない。
全てはあの小さい部屋の中で行われている。
カリカリと筆の音も聞こえぬほどの重厚さで、
扉が冷たく部屋を密閉し、下手をすれば、
それが棺桶の様に見える者が居てもおかしくないと思う程。

「出来ました」

とルーファが魔王様に紙の束を持ってきたのは、
それから更に三日後の事だった。

「え?」
「出来ました、これ、チェックお願いします。」
「もう出来たの?だって、え?」
「はい、出来ました。これが夜の塒、最終巻です。
 ちゃんとハッピーエンドになってます。
 今の私が書ける最高のハッピーエンドにしました。
 これで駄目なら、魔王様に人間を滅ぼしてもらいます。」
「えええええ」
「ふふ、冗談です。
 物事が大きすぎるので本当にどうなるか判りませんけど…。
 でも、私なりに全身全霊、最悪の事態を回避できるように作った次第です。
 だから、一番最初に魔王様が読んで下さい、チェックをかねて。」
「……なんか、」
「はい?」
「久しぶりに、ネリ先生の新刊が読めるんだと思うと、
 わくわくしてきちゃった。」
「あは、嬉しい。」
「ネリ先生。」

と魔王様が開いた右手をルーファに差し出した。

「本当にどうもありがとう」
「あ、ごめんなさい……」
「え?」
「書き過ぎで、今右手に力が全然入らなくて……」

それを聞いた魔王様が紙束を脇に挟み、
両手を伸ばしてルーファの右手をすくった。

「ありがとう、本当にお疲れ様でした。」

掌と、甲と、両側から挟んで来る魔王様の手がなんとも暖かくて、
まるで魔王様の掌は奥の方が幽かに燃えている様だった。
燃やし尽くすのではなく、ただ何かを温めるだけの暖かさ。
その暖かさに挟まれたせいか、
ルーファの右手の腕の筋が、ピクピクと二回痙攣した。

「あ……でもまだチェックして貰ってないから、
 終わったとは」
「そんなの!
 ネリ先生の手がこんなになるまで書いた物語が面白くない訳ない!」
「なんですかそれもうー、宗教みたい」
「何言ってんの、私はネリ・モルトク教信者だよ」
「えええ、私邪神か何かに呪い殺されません?」
「されないされない、大丈夫大丈夫、ははは」
「あははっ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
多分次が最終回です、
私の精神体力的に。
広告
×
何故かニコレポだと26話になってますね
なんででしょう?
23ヶ月前
×
ネリ先、いやけんいちろう先生、がんば!
23ヶ月前
×
>>1
ヤワラ様

実は最初に手が狂って26話と打ち込んでしまったんですよ。
それから慌てて25に打ち直したんですが…ニコレポは反映が遅いようですね。
23ヶ月前
×
>>2
shiro様

ま、魔力札を下さい…!
23ヶ月前
×
けんいちろうさん、新しい原稿よー!

うそですちゃんと休養取って(’・ω・)そしてゆっくり帰ってきてくれるとうれしいです この0と1の世界、疾走しても失踪されるのが一番寂しくて悲しいですから…
23ヶ月前
×
>>5
Tyrol様

原稿はちょっともう…とにかく今回は無事に最後まで書き終える事が出来て良かったと思います
23ヶ月前
コメントを書く
コメントをするには、
ログインして下さい。